転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 前回までのあらすじ

 ・最初からクライマックス

 ・一夏「石井先生なら出来たぞ?何故、覚醒しない?」

 ・???「これが私の全力全開!!スターライト(以下略)」


 一応、言っておきますが。この姉妹喧嘩編はギャグです。ギャグ回です。(迫真)



 そんなこんなでほんへ。

 ドゾー。


誤想

 

 

 

 

 医務室の隣。月に三度ほど解放される部屋がある。アイボリーの壁紙に暖色系の照明、ふんわりとコーヒーの香りが漂う小さな部屋。使い込まれた木製のテーブルと椅子。内装は何処と無く書斎の趣を感じさせる。

 

 相談室。常駐するカウンセラーとは別に生徒の悩みを聞く逃げ場。控えめに言っても、特殊な環境にあるIS学園では必然的にこのような施設が必要になってくる。些細なことから、人生を左右する物まで、ありとあらゆる悩みがここに集まる。話すだけでも良し、医務室で睡眠薬を処方して貰うことや、深刻な場合はカウンセラーへ引き継ぐこともある。

 

 「ありがとうございました……。話聞いて貰ったら、少し楽になりました……」

 

 「そうか。それは何よりだ。また、何時でも来なさい。別にここでなくてもいい、私のデスクでも構わないから。あぁ、そこの飴を一つ持っていきなさい。甘くて美味しい。落ち着くよ」

 

 「はい……ありがとうございました……」

 

 目元を擦りながら一人の生徒が出ていく。ドアの傍にあるキャンディボックスからミルク味の飴を取っていった。それを見送った相談室の主──石井は背もたれに身を預けてマグカップを口に運んだ。特に意味もなく着た白衣のポケットから煙草をテーブルに出して火を付けようとするが、ライターを職員室に忘れたことに気付いてポケットに押し込んだ。

 

 最後の客が帰った相談室は少しばかり寂しい雰囲気が漂っていた。照明が寒色だったならそれは更に大きな物になっていた。石井が照明を暖色にしたのはこれが理由でもある。

 

 眼鏡を外して、眉間を軽く摘まむ。一日で計二十三人。彼が話を聞いた生徒の数だ。昼食も生徒と一緒に食べた。ワーキングランチでもあるまいし、サンドイッチ片手にパスタを頬張りながら悩みを吐露する生徒の相手をした。最近友人関係が上手くいかなくて食欲が出ない、らしい。何処が、とは言えなかった。本人としては少ない方なのだろう、そうなんだろう、と自己完結させた。

 

 そんなこんなの一日も、もう終わる。窓の外から射し込む斜陽を眺めながら、口の寂しさを紛らわせようと飴を適当に放り込んだ。コーヒーミルク味。カフェオレを飲んでいるのに、間の悪いセレクト。一重に石井の運の悪さのせいか。

 

 誰かがドアをノックした。閉室のテロップが表のドアに流れている筈だ。それともまだ残っていたか。見落としを確認する為ファイルを開きながらどうぞ、とドアの向こうへ言った。

 

 「暇か?」

 

 「ここは人材の墓場でも、陸の孤島でも無いですよ」

 

 客は同僚だった。本日最後の相談者、織斑千冬は入るなりコーヒーメーカーへ向かい、慣れた手付きでブラックを作って石井の前へ座った。ライター持ってませんか、と石井が訊ねると千冬はマッチを出した。それをテーブルの縁で擦り、火を付けた。やっと一服をつける。

 

 「この御時世にマッチですか。中々いないですよ」

 

 「まぁな。そう言うお前こそ良いライター使ってるじゃないか。女か?私も吸うぞ?」

 

 「どうぞ。そんなんじゃないですよ。まぁ貰い物ですがね」

 

 「誰から?」

 

 「山田先生のダーリン」

 

 「大内か……趣味が良いな……」

 

 石井は黒光りするジッポを思い浮かべながら小さく笑う。去年の誕生日に貰った物で、石井のお気に入りでもある。最近は特に手に馴染む。ふと、手先でソフトパックを弄ぶ千冬を見て、気になる事を訊いた。煙草の銘柄だ。見掛けない物だった。オレンジの配色に対極図。そして煙龍、とでかでかと書いてある。

 

 「あぁ、これか。友人が吸ってるのを見てな。台湾だか中国の奴らしいが、もう作られてないから、そいつに少し分けて貰ったんだ。吸えば作られてない理由が分かる。クソ不味い」

 

 「友人?」

 

 「人形師だ。たまに個展を開いたりしている。飲んでる時に知り合ったんだ」

 

 へぇ、と石井。不味いのによく吸うものだ、と思った。ヤニの匂いが部屋を満たす。煙が霧のように絡み付く。

 

 「それで、どうしたんです?営業時間外ですが、話があるなら聞きますよ」

 

 「まぁ、大したことでは無いんだ。少し一夏について訊きたくてな」

 

 石井は眉を潜めた。態々自分に聞くことじゃ無いだろうに、と。

 

 「何でまた私に?」

 

 「ここ最近、一夏と話せてないんだ。それで、最近よく一夏と食事に行くと聞いて」

 

 「食事……ですか……?あぁ……そうですね。行きましたね、そういえば。それで、何を聞きたいんですか?」

 

 「一夏に避けられてるような気がするんだ。何かした覚えは無いんだが、何処かよそよそしいというか、冷めてるというか。何かあったのなら話して欲しいんだが、さっきも言った通り私を避けてるようでな。何か聞いてないか?悩みがあるとか、私が知らず知らずに一夏に何かしてしまったとか」 

 

 ふぅん、と石井。心当たりはあった。

 

 「何となく、心当たりは。でも、私からは何とも言えないです」

 

 「どういうことだ?」

 

 「思春期というか、まぁ反抗期とでも思っておいてください。私も詳しくは分かりませんが、あなたには相談しにくい内容だと思いますから」

 

 「そんなに重い悩みなのか?」

 

 「愛についてですよ」

 

 「は……?愛……?」

 

 クソ不味い煙草が千冬の口から落ちる。誰も見たことの無いような間抜けな顔をしていた。それを石井は面白そうに見つめて、唇を歪めた。

 

 「あいつに彼女でも出来たのか……?」

 

 「そういうことじゃないですよ。まぁ、そういうお年頃ってことで納得してください。一夏君も馬鹿じゃない。一人で考えることに限界を感じれば、誰かに頼りますよ。だからそんなに心配しなくてもいいですよ」

 

 いまいち理解できてない千冬をよそに、石井はカフェオレを啜る。千冬はそれが面白くないのか、石井に突っ掛かる。

 

 「随分と一夏の事を理解してるようだな?」

 

 「あなた程じゃない。たかが半年クラスを受け持ってる程度の男より、姉であるあなたの方がよっぽど彼の事を分かっている筈だ。深い、根幹の部分でね。私は精々表層を浚うぐらいのことしか分からない。さっきの話だって一夏君がたまたま溢したんですよ。私が某かの異変を察知して、聞き出した訳じゃないですから。家族だから話せることと、家族だから話せないことってあると思いますよ」

 

 着信音が石井の白衣から聞こえた。確認すると、噂をすればという奴だった。断りをいれて電話に出る。一言、二言のやり取りの後、ポケットにスマホを閉まった石井は千冬に何の脈絡の無く、言った。

 

 「決闘、見に行きません?」

 

 「ふぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 突然ではあるが、更識簪という少女の印象を簡潔に述べよ、と言われたとする。多くの場合、彼女を知る者たちはこのように答えることが多いだろう。

 

 内気。

 

 大人しい。

 

 物静か。

 

 何れも間違っていない。正解、と言える。全てが彼女の特徴を捉えていて、正しく表している。彼女の学園やクラスでの生活や態度を見れば上記のような答が返ってくるのは当然。必然。

 

 しかし、それはあくまで表層、外面のみを見た場合の話だ。彼女を幼少の頃から知る者はまた違った答を返すだろう。例えば布仏姉妹。生来の友として、従者として彼女と彼女の姉の傍らに居続ける姉妹ならば、こう言う。

 

 圧倒的(気狂い)シスコン。

 

 正義の味方(ヒーロー)フリーク。

 

 愛しすぎて愛が憎悪に刷り変わっちゃった系妹。

 

 少々俗っぽい言い回しだが、更識簪という人間を真に正しく表すならば、これが最適であるだろう。現在はその片鱗すら見えないが、幼い頃は姉にベッタリとくっつき、何処へ行く時も姉の傍を片時も離れず、毎晩姉の布団に潜り込んでいたというお姉ちゃんっ子だった。その行動が無意識に姉のシスコンを比例的に悪化させ、拗らせる要因になっていた。勿論、本人にはその自覚など欠片も無い。前述したように、無意識だからだ。無意識ならば仕方ない。

 

 さて、そんなジキルとハイドよろしく裏表の差が激しい彼女だが。何故、彼女が姉を憎むようになったのか。シスコンと言われるまでに姉を愛していた彼女が姉に牙を剥くようになったのか。それは時を数年前まで遡る。

 

 ある日突然、彼女は姉に言われた。無能のままでいろ、出来損ないは出来損ないなりに這いつくばっていろ、私の足を引っ張るな、と。何でも出来る姉は、正義の味方は本性を現した。幼い彼女に、姉のその仕打ちは何事にも代えがたい痛みを与えた。つい昨夜までは優しかった、頭を優しく撫でて一緒に寝てくれた姉の豹変は彼女の根幹を揺さぶる物だった。

 

 姉とは彼女にとって、憧れの存在だった。ディスプレイの向こう側の正義の味方のような、強さと優しさを兼ね備えた理想の一端。自分の理想と姉を重ね合わせて見ていた。自分とは違う、高みから導いてくれる。自慢の姉だった。そんな姉に捨てられた、簪はそう思った。辛い出来事であった。

 

 そして憎む。何の捻りも、苦悩も無く、憎む事を選んだ。理由は自分を捨てたから。邪魔になったから捨てた、自分は姉にとってその程度の存在でしかなかったんだ。自分はこんなにも好きだったのに、あの人は私を一分たりとも愛してなかった。自分を騙していた。あんまりじゃないか。今までのことは何だったのだろう。ごっこ遊び?妹より家督を選んだのか?いや、何かの間違いかもしれない。あの優しい姉があんなこと言う筈が無い。しかし、それは厳然たる現実である。姉の元へ行ってもぞんざいにあしらわれ、嫌悪を顕にされる。何度も何度も、毎日幾度となく、妹は姉に疎まれる。妹は姉の思惑通りに離れていく。

 

 そうして数年の時を経て更識簪は報復の機会を見出だす。学園最強と宣う姉を引き摺り下ろすという目標を立てた。小細工は一切無し。真正面から妹を切り捨てて得た力と地位を否定してやろう、その結果報復されても構わない。これまで何度も妨害されてきた。情けなくて涙を流したこともある。やめようと思った時もあった。だが、そうすればこの気持ちはどうなる?嗚呼、憎い(愛しい)。どうだ?実の妹を切り捨てて得た名声と地位は?さぞ、気分が良いだろうな。彼女は折れなかった。姉の思惑からほんの少しの綻びが出る。

 

 元来、それほど気性の荒い人物では無い簪は常に自信が無さげだ。緊張すれば震えるし、すぐに泣いてしまうような少女である。しかしここで姉の思惑から出た綻びにより、異常が生じる。執拗な妨害、立ち塞がる困難。これらが簪の精神性に変化を来した。学園の相談室でカウンセラー紛いの事をしている男に冒頭の質問を投げ掛けたとしよう。彼は誰よりも的確に簪の精神性を言い当てるだろう。

 

 織斑一夏と更識楯無、絶対ぶっ飛ばすガール。(後者は愛故に)

 

 姉への愛が二周半して得た実力で勝ち取った代表候補生の座。そして専用機開発を投げ出されて、織斑一夏にかっ拐われたと勘違いし、更には様子を見に来た姉に殺気を飛ばす。親切な整備科のお兄さんと擦れたヘビースモーカーの、副業で教師をやっている麻婆傭兵に手伝って貰って開発した自分だけの機体。傭兵に教えて貰った事実。実家の書庫と姉の記録を辿り、従者姉妹を絞り上げて知った姉の真意。紆余曲折あり、更識簪は真実へと辿り着いた。姉の思惑は完全に瓦解した。その上でもう一度、薮カウンセラーに先程の質問を投げ掛ける。彼は恐らく至極面倒くさそうに答えるだろう。

 

 お姉ちゃん大好き、だから殴り愛しようガール。

 

 少女の変質が先の物だけと考えるならば、それは想定が甘いとしか言い様が無い。その変質は完了した物では無く、進行形の物なのだから。まず、彼女は幼少期に姉に憧れていた。彼女の根底を為す重要な基盤だ。良くも悪くも更識簪という人間のベースは姉で出来ている。愛が憎しみに反転しようと、それは不変の物だ。

 

 そして彼女の人格形成に影響した物がもう一つある。特撮、ロボットアニメだ。姉はこれを女の子らしくない趣味と称していたが、これらは彼女の意識へと大きな影響を及ぼした。正義の味方といった物がその最たる例だろう。彼女の善性に作用している。

 

 この特撮やロボットアニメの中で彼女が好んで見たのは王道のストーリーばかりだった。熱い友情と努力、それが実を結ぶ勧善懲悪。主人公は壁を、憧れを越えていく。そう、憧れを越えていくのだ。

 

 気まずさもある。長年、筋違いな感情をぶつけてきた負い目がある。本来ならばちゃんと謝った方が良いのだろう。しかし、自分を傷付けてまで守ろうとしてくれた姉の事だから、何だかんだと逃げてはぐらかすだろう。どうすれば良いのだろうか?願わくばあの時のように姉と共に笑い合いたい。言葉が拒絶されるならば、どうすれば──

 

 ここで簪が選んだ手段は何時か天災と呼ばれる人物と少女二人が捻くれトンチキ野郎に取った手段と似通っていた。だがそれは、天災たちが取った物よりも幾分か──いや、かなり強引な物だった。

 

 『タイマンして、勝って言うことを聞かせる。ついでに憧れに挑む。勝てば問題ない。私の愛がお姉ちゃんの愛を越えれば大丈夫。何時かは越えなければならない壁だから』

 

 変質は極まり、更識簪はごく局地的に脳筋的な思考になっていた。それ故の殴り愛。正に王道。これを相談室で聞いた彼は思考を放棄してそっとココアを差し出した。彼の脳裏には銀髪の義娘。背中には若干の鳥肌。気に食わない相手とはいえ、決闘を申し込まれる更識楯無に憐憫の情が沸いた。

 

 そして、ある日の放課後。一年一組では文化祭の出し物が決まり、相談室にてブラコンが気になる相手と煙草を吸っている夕方。更識簪は第一アリーナのピットに足を踏み入れる。

 

 「お姉ちゃん、私と闘って」

 

 今にも溢れそうな壮絶な笑みと笑い声を堪えながら、姉へと果たし状を叩き付ける。色々と間違えながら。

 

 

 

 さぁ、今宵の喜劇(コーモメディア)を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 更識簪、脳筋になるってよ。

 肉体言語は万能。百合(物理)。

 ゆるゆりリスペクトで行きたいと思います。(白目)

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