転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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石井さん、カソック似合いそう。(小並感)

文化祭は軽く流しちゃいましょうねぇ^~とか企む作者。

だから、お気に入りが減るんだよ!!

そんなこんなな石井さんのデスクワークライフ満載のほんへ。

どうぞ。


面談

 ごめんなさい。あなたに蓋をしてしまって。

 

 ごめんなさい。あなたを蝕んでしまって。

 

 ごめんなさい。あなたを駆り立ててしまって。

 

 ごめんなさい。あなたを歪めてしまって。

 

 ごめんなさい。あなたを癒せなくて。

 

 私には何も出来ない。あなたに触れることすら出来ない。

 

 だから、せめて。あなたの結末に寄り添いたい。あなたが行き着く先。終着と新生の瞬間まで共にいる。苦しむあなたの一番近くで、共に答えを。

 

 そのくらいしか出来ない私を恨んでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 デスクには食べ終えたカップ麺の容器とエナジードリンクの缶。紅洲宴歳館・泰山特製激辛愉悦麻婆ラーメン。お店の愉悦を何時でも何処でもお気軽に、とラベルに写る目の死んだ筋肉質な男が嘯く。麺と麻婆の比率は二対八。あってないような麺と大量の麻婆を自前の蓮華と箸で事も無げに食べる石井という男の姿に同僚は戦慄を隠し得ない。

 

 曰く、整備科の大内は物は試しと試食して七日間ベッドの上で点滴を打ち続けていた。

 

 曰く、石井が食べているのを見た激辛党の教員がそれを購入し、自宅で痙攣している所を発見された。

 

 曰く、発売元である泰山本店にチャレンジした生徒数名が色々と破綻して帰ってきた。

 

 学園内に於いて泰山、麻婆というワードは禁句である。食堂にも麻婆豆腐はある。それでも生徒にとっては辛いと感じる者もいるのだが、石井は稀に自ら厨房に立ち中華鍋を振るい麻婆を作る。そして一人で食べる。誰も近寄ろうとはしない。近寄ると食うか、と尋ねられるからだ。その際の石井は有無を言わさない雰囲気、緩やかに上がる口角、灰暗い目、と断り辛い圧を出してくる。たまにボソリと呟く。ワイン欲しい、と。

 

 「あの、石井先生……」

 

 そんな石井に挑戦者が現れた。食後と言えど、余韻に浸る石井に話し掛けて麻婆談義をされては敵わない為、ほとんどの者は麻婆を食べた後の石井には近寄らない。当の石井は食後はただぼうっとしているか、直ぐに仕事を始めるかの二択なので杞憂なのだが。現在は後者で、仕事中毒者(ワーカホリック)のようにディスプレイとウェアラブル型の端末を操作している。

 

 「石井先生……」

 

 「あぁ、何ですか……?」

 

 石井はディスプレイから目を離さずに返す。それなりに忙しいのだ。夏休みが明けてから暫く経つが、夏休み中に飛び回っていたツケがここで回ってきた。報告書やら、通常業務やら、採点作業やらが石井の喉元に牙を突き立てる。それに加えて授業もある。何の恨みでこんな社畜の真似事をしているのだろう。石井はエナジードリンクでカフェインを補給しながら、愚痴を吐く。

 

 「あ、整備科への定期メンテナンス工程変更の概略は明日出来ますので。期限には間に合いますよ」

 

 「いや、そうじゃなくて……」

 

 「あぁ。EOSの納入に関しては滞りなく順調に進んでるので、学園長には後程中間報告をしに行くと伝えておいてください」

 

 「あのぉ……私は……」

 

 「じゃあ、採点のことですか?あれならもう終わりましたよ。ファイルは織斑先生に渡したんですけど、何か不備でも?」

 

 「私、教師じゃないです」

 

 顔を上げると、気弱そうな眼鏡を掛けた垂れ目の少女。一年四組、更識簪がいた。何処と無く落ち着かない様子で、若干挙動不審とも言える態度。態々、昼休みに職員室のデスクにまで来るとはただ事では無いだろう。等という思考は石井の頭には無く、浮かぶのは生徒会長。面倒なことになった。そう思い、溜め息を吐いた。

 

 「えぇと、更識簪さんだったよね。何か用かな?」

 

 極めて平静を装い、人当たりの良い顔と声を作る。職員室でなければ、回りくどいことをせずに暇ではないと切り捨てる所だが、いかんせん人目がある。無下な対応は出来ない。椅子を回して簪と向き合う。

 

 「あの、今少しお時間いただけますか……?」

 

 「何か私に話があるのかな?」

 

 「はい。大丈夫ですか?」

 

 仕事の進捗は悪くない。量はあるが切羽詰まっているという程でも無い。ここ数日間の尽力のおかげか、ほんの少しの余裕はあった。しかし、更識簪とは話したくない。今後の展開にある程度の予想が付いてしまう。個人的に面倒な女トップスリーに入る姉が噛み付いてくるのは明白。かと言って、目の前でプルプル震える少女を突き放して泣かせでもしたら理由はどうであれ、色々とまずいことになる。雁字搦めだった。

 

 「場所を移そうか」

 

 ラップトップと数枚の書類を手に石井は席を立った。眼鏡型のウェアラブル端末は掛けたまま。廊下を、擦れ違う生徒たちに挨拶をしながら歩いていく。途中、セシリアと擦れ違った際に意味深な笑顔をされたが石井はそれに気付かない。頭の中は愚痴とストレスで一杯だった。

 

 進路相談用の面談室の一つの扉を開ける。消臭剤の甘ったるい香りと部屋の臭いが混ざって充満していた。換気扇を回して、窓を全開にする。馬鹿のように暑い風と陽光が陰鬱とした面談室の淀んだ空気を浄化していく。座ってくれ、と促すと簪は手前の椅子を引いて座った。テーブルに荷物を置くと石井はコーヒーメーカーへと向かった。

 

 「コーヒー。紅茶。ココア。コーヒーはブラックで、全部ホットだ。どれが良い?」

 

 「ココアで、お願いします」

 

 辿々しく答える簪。手際よく淹れられるコーヒーとココア。ココアを簪に渡して、窓と換気扇を閉めて、エアコンをかける。

 

 「この御時世に紙媒体とは……世界は変な所でローカルだよ。ちぐはぐだ」

 

 そう呟きながら、ラップトップを起動させ、書類に目をやる。胸ポケットから黒光りするボールペンを机に置いて、眼鏡型の端末を操作する。

 

 「それで?君は何の用があって私の所に来たんだ?まさか、進路相談という訳では無いだろう。それならば、自分の担任に言えば良いのだからな」

 

 「それは、」

 

 「あぁ、言いづらいのなら先に言っておくが。ここでの会話は()()()聞かれていない。だから安心して、何でも話すといい。その端末はここでは使えないから、気をつけて」

 

 簪の自身の眼鏡型のウェアラブル端末を確認すると、確かに起動出来なくなっていた。しかし、石井はいつも通りにラップトップも端末も使えている。

 

 「私のは特別製だ。少しばかり、盗み聞きをする連中の耳を塞いだだけさ。気にするな」

 

 簪の疑問を解消し、先を促す。一口コーヒーを啜って不味い、と言った。

 

 「私の専用機開発に手を貸してほしいんです」

 

 「断る」

 

 「それは、私の姉が原因ですか?」

 

 「それもある」

 

 やっぱり、と俯き拳を握る簪。自分の前にはいつも姉が立ち塞がる。自分を用無しと決め付け、高みから嗤う。悦に入っているのか?整備科のガレージに来ては私の無能さ、才能の無さを嗤っているのだろう。知っているとも。弱いままでいろ。無能のままでいろ。そう言って届かない場所に立って、私の努力を嗤って、従者の妹を監視に付けてその様を聞いて愉しんでいる。血が繋がっている姉?やめてくれ、そんな冗談はよしてくれ。私が慕って、憧れた姉は虚構にしか過ぎなかった。現実は今もこうして、更識簪の道を塞いで邪魔をする。情けない程に目頭が熱くなる。悔しすぎる。

 

 「あぁ、君何か勘違いしてないかい?」

 

 気の抜けた石井の声が耳に入る。少しだけ、顔を上げる。溜め息を吐きながら石井はハンカチを手渡す。

 

 「確かに私が君を手伝わない理由の一つに君の姉はある。私とあれでは反りが合わないし、私はあのアマチュアを好ましいと思ってない。それに君と話したりすると、後々私に詰め寄ってくる。何とかしてほしいよ」

 

 石井は肩を竦める。簪は喉元まで出かかった謝罪の言葉を飲み込む。

 

 「君と姉の間に何があったのかは分からない。私には関係ない。だが、君の姉だけが私が君の申し出を断る理由では無い。それに、君が姉にコンプレックスを抱く必要は無いと思うが?それ以前に、君は勘違いというか履き違えている」

 

 「どういうことですか?」

 

 「あぁ、まず君が一夏君を恨むことが筋違いだよ」

 

 簪の視線が鋭くなる。石井は不味いコーヒーを啜りながら、気にせず続ける。

 

 「君の専用機が開発中止になったのは一夏君の専用機を造る為じゃない。それよりも前に、倉持は第三世代機の独力での開発に躓いていた。君の機体を開発している時だね。そこに一夏君がISを起動させてしまった。倉持はとりあえず、それに飛び付いた。君の機体開発を差し置いて。そして、それが結果的に第三世代機開発失敗を誤魔化すいいカモフラージュになったという訳だ」

 

 「じゃあ、織斑一夏の機体は……」

 

 「倉持は機体を用意しただけだ。開発は私の飼い主だよ。それで、君が一夏君を恨むのは私としては些かおかしな話だと思うがね」

 

 簪はココアが入ったカップを握り締める。

 

 「二つ目だが、私は更識という家、組織が嫌いなんだよ。君の実家にはしつこく付き纏われてね。車がお釈迦になったこともあったよ。気晴らしにドライブしていたら、MP5を持った君のお父上の部下に襲われたんだ。日本人らしからぬ血の気の多さに驚いたのを覚えている」

 

 「その、部下の人たちは……?」

 

 「聞きたいかい?」

 

 数瞬、簪は思案して頷いた。

 

 「車に積んでいたMP7で頭に穴を開けて、海に重りを付けて捨てたよ。君にとっては腹立たしいかもしれないが、休日に殺されかけた私のことも考慮してくれ。防弾加工していたが、車もボロボロになった。飼い主に苦笑いされたよ」

 

 「そうですか……」

 

 それだけ言うと、再び簪は俯いた。ボールペンを弄りながら、石井は訊いた。

 

 「それだけかい?もう少し、声を荒立てると思ったのだが?」

 

 「いえ、そういう家だと分かっているので……。それは仕方ないというか」

 

 へぇ、とカップ越しに簪を上目で見る。石井の中で簪の評価が一つ上がった。

 

 「そういう訳で、私は更識という集団は嫌いだが、更識簪という個人に対して悪感情を抱いている訳では無いよ。寧ろ、君のことは評価するべきだと思っているよ。大内君が手を貸しているという点で、君の人格に問題があるとは思ってない」

 

 意外かな、と石井は尋ねる。そういう顔をしていると言う。

 

 「君の機体を組み立てる手腕は十分に評価に値する物だと思う。その歳であれほど出来る奴は中々いない。その点に於いて、君は姉にも勝っている。誇れるだけの技量を持っているよ」

 

 「本当ですか?」

 

 「あぁ、大内君もそう言っていた。まだパイロットコースと整備コースに分かれない一年生で、その腕は貴重だ。保証しよう」

 

 姉に勝る点があった。それを聞いたとき、とうとう簪の目から涙が溢れた。自分の努力が報われた瞬間だった。自分を無能と決め付けた姉に勝った。あの女は無能に負けたのだ。織斑一夏に最もらしく訓練をつけるあの女は自分がその面の下で貶した相手に負けている。そう考えると、とても気持ちが良かった。

 

 「まぁ、しかし。君の姉が君を疎んじている、という訳でもないと思うが」

 

 あり得ない。更識簪はその推測を嗤う。そんな都合の良いことは無い。あの女は血の繋がった妹を踏み台にし、家督を継ぎ、成果に目が眩んだ塵だ。そうして、あり得ないと決め付ける。

 

 「君がどう思おうと構わないが、あれは重度のシスコンだ。君のことになると周りが見えなくなる。詳しいことを知りたければ、自分で調べるといい。君たち姉妹の仲なんて、どうでもいい。君たちが殺し合おうが、憎み合おうが、私個人としては至極どうでもいい。教師としては悲しいと思うが、まぁそれだけだ。いいんじゃないか?姉を憎んでも。それはそれでアリなんだろう。唯一、言えることは君の姉はどうしようもなく致命的なミスを犯して、それなりに取り返しがつかなくなりそうになっている、ということだけだ」

 

 あぁ、それと、と繋げて話す。

 

 「君の機体開発に私が入る余地は無いだろう。以前、大内君にアドバイスのような物はしたが、それでは足りないと?それとも外注するのかい?」

 

 「いえ、外注はしません。石井先生に途中途中でアドバイスを頂ければと思って」

 

 「それって意味無いだろう?大内君もいるのに、私が行って茶々を入れることは無い気がするんだけれど」

 

 「意味ならあります。実戦を何度も経験してきた石井先生の意見を細部まで反映させたいんです」

 

 「実戦向けにするのかい?」

 

 はい、と頷く簪。大きく溜め息を吐いて、石井は不味いコーヒーを一気に飲んだ。

 

 「キリが良い所で大内君を通して連絡しなさい。私が見るのは内装系。兵装に関しては前言った物で。専門外だが、それぐらいは出来るだろう。その代わり、姉を何とかしてくれ。恨み言でもぶつければ良いだろう。それで反応が見れる筈だ」

 

 そう言って石井は荷物を纏めて面談室を出る準備をする。ボールペンのキャップを叩いて、ジャミングを切った。

 

 これからのことを考え、石井は頭に鈍い痛みを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





何処にでもいる外道神父。(誰とは言ってない)

 この世界に於ける蒙古タンメン的な立ち位置です。

 石井さんは常連です。


 今回も嘘予告は無し。以上!!終わり!!閉廷!!皆解散!!


 御意見、御感想、評価お待ちしてナス!!

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