転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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弾「俺も気だるげキャラになれば……」

一夏「ねーよ」


今回は短いです。ちょいとばかり、身辺が忙しい物でして。

そんなこんなの本編です。


流木

 真っ赤なロードスターが風を切る。海辺の道路を滑らかに、切り裂くように加速する。

 

 目映い日差しを遮る屋根は下げられて、オープンカーの形で走行する。乗っている男女は揃ってサングラスを掛け、女は帽子が飛ばされないように押さえている。

 

 「少し、減速しようか?」

 

 「いえ、大丈夫ですわ。こうして風を感じているのって好きなんです。だから、このままで……」

 

 男──石井はそうか、と返すとアクセルを踏む。エンジンが唸りを上げて更に加速する。左手でレイバンのサングラスを押し上げる。右手はハンドルを握ったまま。隣ではしゃぐセシリアを横目で流しながら、軽く笑う。

 

 石井は今海沿いの道を予備の車、ロードスターにセシリアを乗せてドライブしている。臨海学校での約束を果たしている最中である。迷惑を掛けた分を何処かに連れていくということで帳消しにするという物だ。

 

 石井は一応何処か希望かあるか訊いた。すると、海辺をドライブするだけでいいと返ってきた。石井としてはもう少し足を伸ばしてもいいと思ったのだが、セシリア本人がそれを強く希望した。車も愛車のGTRよりもオープンカーのロードスターが良いと。反対する理由も無いので、石井は希望通りに然程遠くない海辺の道をロードスターで走ることにした。

 

 「本当にこんな近場で良かったのかい?もうちょっと遠くでも、良かったのに」

 

 「良いんですの。こうして、海辺をオープンカーで走る。憧れてたんですの」

 

 「へぇ。何かの映画で?」

 

 「えぇ、昔見た映画で。タイトルは忘れてしまいましたわ。古い映画でした。内容もろくに覚えてないけれど、あるシーンだけは頭に焼き付いてるんです。カップルが海辺の道をオープンカーに乗ってドライブしてるシーンでした。ベタな、ありがちなシチュエーションですわ。でも、ずっと頭から離れなかったんです。いつか、こうして誰かとオープンカーで海辺をドライブしたいって」

 

 「なら、今君の望みは叶ったという訳だ。おめでとう、と言うべきかな?相手が私というのは、まぁ勘弁してくれ」

 

 「その映画の主人公もあなたのように皮肉屋でしたわ。そういう所もあの映画の再現なんて」

 

 サングラスを少し下げて、くすりと笑う。ばつが悪そうに、困った顔をする石井。それを見て、また笑うセシリア。悪戯が成功したような笑みだった。石井はまったく、と肩を竦めた。末恐ろしいと。 

 

 「君が思うほど、私は皮肉を言ってるつもりは無いんだが?」

 

 「じゃあ、無意識なのでしょうか?随分とシニカルなジョークを言う時もあるとお聞きしましたわ」

 

 誰から、と石井。半ば見当は付いていたのだが。

 

 「大内さんから。よくサボタージュの際に、なかなかブラックなジョークや皮肉ったことを言われると」

 

 「私はまぁ、元は教員には向かない性格さ。そこまで、人が良いわけじゃない。山田先生のように何でもかんでも生徒の為と出来るわけじゃない。だからかな。たまに大内君の所で互いに愚痴を言ったり、馬鹿な話をするんだ。数少ない男の友人だから、たまにそういう物が出てしまうのかもしれないね」

 

 「私はそんなこと無いと思いますけれども?」

 

 「ということは表向きは騙し騙し出来ている訳だ。つい最近、やっと真似事が出来るようになってきた程度でね。初めの内は、中々慣れなかった。大学の時の恩師に色々訊きながら、模索したよ。教職の大変さを思い知った。この数年の結論として、私は相談室で生徒の話に付き合いながらコーヒーを飲むという点は誰にも負ける気はしないということが分かったよ。悩みを解決する訳では無いけれど」

 

 「酷い先生ですこと。皮肉屋で、やくざな、悪い大人。悪影響の塊ですわね」

 

 「あぁ、まったくだ。そういう君も、随分と言うじゃないか」

 

 「やくざな副担任の先生のせいですわ」

 

 「酷い話だ」

 

 えぇ、本当に、とセシリアは笑う。

 

 ちょうど目に止まったカフェに車を停めて、入る。木造、流木を使ったインテリアや内装の雰囲気の良いカフェだった。海辺で海水浴シーズンの割りに、空いていて、石井たち以外に客はいなかった。ボサノバが流れていた。

 

 柔和そうな店主がメニューを持ってきた。訊くと、ここは海水浴場から少しばかり離れた場所にあるためそこまで混むことはないらしい。態々、そういう場所に建てたという。こういう静かに海を見られる場所というのも良いでしょう、と店主。石井も悪くないと思った。海水浴客の喧騒から隔絶された浜辺。この時期には珍しい物だ。

 

 注文したコーヒーと紅茶が運ばれて来る。セシリアはゆっくりとそれを口に運ぶ。仕草が一々優雅だ、等と考えながら石井もコーヒーに口をつける。酸味と苦味が広がる。クセの無い、上品な味だった。何処かで飲んだ気がした。

 

 「キューバの豆ですか?」

 

 「クリスタルマウンテンです。お気に召されましたかな?」

 

 「えぇ、とても美味しい。昔、何処かで飲んだ気がして」

 

 豆を煎る店主との短い会話。何処で飲んだのか、思い出せない。それでも、その豆の香りは石井の頭を、琴線を、沈む物を優しく撫でた。誰かが頭の中で笑った。

 

 「コーヒーお好きなんですの?」

 

 「あぁ、古い付き合いだよ。デスクワークでも、本業でも世話になりっぱなしでね。コーヒーを飲んでいると落ち着くんだ。何でだろうね?」

 

 平静を装って返す。気を抜くと、目から覚えの無い物が溢れ落ちそうになる。

 

 「紅茶はお飲みにならなくて?」

 

 「進んではね。飲めない訳じゃ無いが、どうも苦く感じる」

 

 「コーヒーの方が苦いのでは?」

 

 「かもしれない。でも、私はそう感じるんだ。嫌いという訳では無いけれど、何故かね。よく分からない。そういう君はコーヒーは飲まないのかい?」

 

 「私は紅茶派ですわ。コーヒーは苦くて……」

 

 「いいじゃないか。イギリス人らしくて。でも、まだ子供だな。その内飲めるようになるさ」

 

 子供と言われてセシリアがむくれる。自分はもう立派な淑女だと言う。石井に言わせれば、まだまだ可愛らしいお嬢さんのレベルだが笑って流す。それを見てまたセシリアがむくれる。

 

 「そうやって、子供扱いして……」

 

 「怒らないでくれよ。でも、事実だろう?君はまだ何も見ていない。素敵な出会いをしたか?悲しい別れは?輝かしい物を見たか?まだ、足りない。君の旅はまだ始まったばかりだ。君はまだ少女だ。淑女じゃないさ」

 

 入学してまだ一年も経っていない。彼女が見た物なんて高が知れているだろう。この先、世界がどんな形に変わろうと彼女の旅は続く。この星が燃える程の闘いが起きようと、友が死のうと、人類がその数を大幅に減らそうと、歩みは止まらない。止められない。その中で彼女は多くの物に触れて、見る。以前も言った事だ。その先に彼女も織斑一夏と同じように一つの答えを出すだろう。その頃には彼女は立派な淑女(レディ)だ。マーガレット・サッチャーのように鉄の女と呼ばれるのかもしれない。今と変わらないような可憐な女性になるのかもしれない。しかしどうなろうとも彼女は──セシリア・オルコットは新たな時代を牽引していくだろう。石井はそう思う。彼女には元よりそういった性質の才能がある。出自が貴族なのだから、不思議では無い。

 

 財閥の話は無かった。無粋、というのもあるが大体の動向を石井が察知出来ていたからだ。オルコット財閥は二つの派閥に別れている。前会長の娘であるセシリアを後継者に推す令嬢派、世襲制を廃止して新たな体制を構築しようとする革新派。二つの派閥は前会長が死んだ時から激しく衝突するようになった。令嬢派のトップであるジョナス・ターラントは古くから前会長に仕え、グループの中核企業であるOED社の社長を務めている。セシリアとも親交があり──当時は敵視されていたようだが──実の孫のように可愛がっていたという。現に革新派が彼女を排斥しようとした時はあの手この手で革新派を妨害したらしい。そして、旧クラウス──GAの手を借りて革新派を一掃し、グループ内の不穏分子を排除した。ヨーロッパで起こる筈の企業間抗争からオルコット財閥とイギリスを守る為に積極的なM&AとGAグループへの加盟を決断した紛れもなく優秀な手腕を持った男だ。巨人と言う程に巨大化したGAは現上最大の経済主体となった。オルコット財閥もセシリアも悪いことにはならない。別段、話す事は無かった。

 

 代わりに取り留めの無い話をした。夏休みどうしてたとか、一学期はどうだったとか。石井はセシリアの話を微笑みながら聞いていた。時間はゆっくりと流れ、ボサノバに微かに波音が混じる。白いシャツに陽光が反射する。

 

 いつか、幼い頃にセシリアは求めたことがあった。ベタな映画のワンシーンよりも前。彼女が父親という存在に失望する前、幼い彼女は願った。忙しい父とゆっくりと話をしたい、紅茶を片手に自分の話を訊いてほしい。それは叶わなかった。実情として、彼女の父親はプライドもへったくれも無いような人物であったが、財閥の維持に関しては抜けの無い人物だった。それ故、娘に掛ける時間は少なくなっていった。その娘との時間、娘が求めた物の欠如は彼女の人格形成に於いて歪みを引き起こした。歪みを残したまま父も母も死んでいった。それでも、その願い、願望、憧れは奥底のこびりついたまま残っていた。

 

 顔を上げると、コーヒーを片手に自分の話を聞いてくれている男。時折、相槌を入れてにこやかに笑っている。ベタな映画のワンシーンよりも焦がれた光景。幼い頃の自分が得られなかった物があった。夢に見た幻想が実体を帯びた。セシリアは笑う。可笑しそうに笑う。そして誤魔化す。笑いすぎて滲む涙にそれを隠す。差し出されたハンカチで目元を拭い、心の中で幼い自分に語り掛ける。その頃に届く筈もないけれど言う。

 

 『あなたの願いはいつか叶う。だから、諦めないで、旅をして。そのぽっかり空いた穴を埋めてくれる人がいつか現れるから』

 

 意味の無い、誰に聞かれることも無い独白。

 

 おめでとう。セシリア・オルコット。君の願いはようやく叶った。彼女は旅の中で自身の憧憬と願う物を手にした。それは石井が言う所の尊い、善い物なのだろう。彼女はまた一歩答えに、淑女へと近付いた。

 

 帰り際に、セシリアは石井に自身の最も大切な者の話をした。チェルシー・ブランケット。彼女が幼い頃から傍にいたメイドだ。その名を訊いた石井は良い人なんだね、と言うと伝票を持って会計をしに行った。

 

 

 

 

 

 「チェルシー・ブランケット……。あぁ、アレの。エクシア・ブランケットの姉か……。無駄なことをする物だ。妹は帰ってこないというのに」

 

 その呟きをセシリアが聞く事は無かった。

 

 

 

 

 

 





 次回から夏休み明けです。











 魔術王を名乗ったモノによる計画。

 その失敗により生じた大いなる戦いの前の格別なる四篇の断章。

 それに、また一つ。新たな謎が加わった。

 崩落亜種特異点「最終汚染同化戦域 ヴァーディクトデイ」

 それは遥か未来。女性にしか扱えぬ奇異な兵器を駆る二人の異端()

 人間の可能性(闘い)と全てを焼き尽くす暴力。

 一の騎士と九の天使。

 新たな人類史の転換点と導き出される答え。

 ヒトよ、その可能性(輝き)を示せ。

 断頭台  コジマ粒子  同化現象  評決の日  迫る刻限  閉ざされた記憶

 壊れた人形  決して届かない手  人類種の天敵  同調  溶け落ちる自我  



 傭兵のライダー、学園のセイバーピックアップ召喚開催。







 ていう嘘予告6。今回はFGO風です。相変わらずやりません。

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