転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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やあ (´・ω・`)
ようこそ、転生して(以下略)へ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、また飯の話なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
しかも、今回は感想欄で見たネタを書いただけなんだ。

でも、この小説を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
ときめきみたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この小説を書いたんだ。

じゃあ、本編に行こうか。




え……?


休日飯

 世間一般的に夏休みとは七月下旬から、八月下旬までの約一ヶ月ほどの期間を指すだろう。

 

 その一ヶ月間の長そうで、あっという間な時間で学生たちは一夏(ひとなつ)の思い出を作り、社会人は仕事をしながら貰った短い休暇を過ごす。ある者は旅行へ。ある者は海へ。ある者は実家へ帰省したり、家でゴロゴロして一歩も外に出ない者もいるだろう。はたまた、休暇を入れずに仕事をする従順な社会の歯車と成り果てた者もいるかもしれないが、皆すべからく夏休みという期間は等しくやってくる。

 

 それは石井と呼ばれる男も同じだ。いくら彼がIS学園の教師という休暇と程遠い職場に勤務していても夏休みが訪れるが、彼が真に休暇を迎えたのは八月も半ばに差し掛かろうとしている頃だった。

 

 臨海学校から一ヶ月余り、石井は学園にいなかった。彼本来の仕事である、猟犬として西へ東へと飛び回っていたからだ。終業式にも出ていない。それほどに世界は目まぐるしく動き、胎動していた。

 

 初の企業間での戦闘行為の発生、アルテス・サイエンスとGAグループのEOS部隊のメキシコでの衝突。オルコット財閥と有澤重工の正式なGAグループ加入。ロシア系企業、シトニコフの中央アジア進出に際するアルテスと華橋を地盤とするバジュレイの三つ巴の衝突が水面下で起こった。そして篠ノ之箒への専用機貸与の決定。企業の動き──取り分け、有澤の第三世代機開発──を牽制する為か、政府が倉持技研と防衛装備庁が共同開発した機体のテストパイロットに任命した。汎用性の高いマルチロール機らしい。

 

 このように表には出ないものの、極短い間で激流のような速さで情勢が変化している。時には屍の山を築き、時にはシャンパンを片手に老醜相手に腹の探り合いを。態々、国外で便宜上の上司である轡木十蔵と接触し、会談する。協力関係にある矢田の身辺の掃除。個人でこの他にも仕事をこなして、石井はやっと教員寮の自室に帰ってきたのだ。

 

 そんな石井は今、愛車であるGTRのハンドルを握っている。黒い車体を銜えタバコで転がしながら、市街地を走っていた。

 

 それは朝の出来事だった。昨晩、帰宅した石井は泥のように、それこそ死んだように眠った。そして目覚めて冷蔵庫の中を覗くと見事に何も無かったのだ。そればかりか、炊飯器も壊れていた。別段、石井としては米を炊けない事は然程の問題ではない。米を食いたくなれば学園の食堂にでも行けば良いだけの話だ。何処ぞで弁当を買っても良い。しかし、それをすると自称次女──父の炒飯を食べ損ね、姉に自慢され現在プチ反抗期中──が自室にカチ込んで来るのだ。食材やらフライパンやらを背負って姉直伝の料理を作り、帰り際にタバコを捨てて代わりにココアシガレットを置いていく。つまり、外食や買い食いばかりしてるとタバコを捨てられる、生活環境の査察が入る、それが飼い主の耳に入りブーメラン甚だしい説教をされる。こうして、石井は渋々外出することにした。熱中症警報が出る炎天下の日に。

 

 レゾナンスへ車を出し、朝食に目に入ったカフェでサンドイッチとコーヒーを腹に入れて家電量販店へ向かう。途中、たまに行く輸入食品店でレトルトのグリーンカレーを買って、その後炊飯器を買った。店員にやたらと勧められた土釜がどうだのとかいう物でなく、余りスペースを取らないような物。独り暮らしサイズ、とこの御時世に珍しい手書きのポップが張られた物を買った。車から部屋に運ぶ際に重いと面倒だから、という何処か気の抜けた理由だった。店員の宣伝をろくに聞きもしないで購入を決定するという暴挙。だってうるせぇんだもん。眠い。この男は早く帰りたいらしい。

 

 そして買い物を終えた石井はレゾナンスから車を出し、市街地を走る。後は帰るのみ。しかし、ここで問題が発生する。腹が減ったのだ。先程食べたばかりなのに、間を置かずして空腹感に苛まれた。

 

 石井は帰宅したのは昨晩。帰宅したと同時にベッドへ倒れこんだ。夕食を食べてない。そして昼食も抜いていた。空っぽの胃の中に入れたのはサンドイッチ一個とコーヒーのみ。考えれば当然と言えるだろう。消費しているエネルギーに対して、燃料が足りてない。

 

 どうしたものか、と石井は考える。何処かで食べていきたいが、レゾナンスから離れるとどうも土地勘が無くなる。レゾナンスと学園の間の市街地は余り詳しくない。腹を満たせて、それなりの味ならば何処でも良いが、どの辺りにどんな店があるのか。石井は路肩に車を寄せて、スマホで検索し始めた。

 

 検索の結果、大手のファミレスやチェーン店は五分ほど直進すれば見えてくるらしい。だが、目の前の交差点を左折してから路地に入ると個人経営の食堂もある。どちらも距離に大差は無い。暫く考え、タバコを灰皿に押し付けた石井はハンドルを左に切る。路地に入り、住宅街に程近い道を走る。

 

 五反田食堂。こじんまりとした、昔ながらの大衆食堂という雰囲気を匂わせる外観だった。住宅街に近い為、余り広くない駐車場に車を停めて、引き戸を開く。

 

 「いらっしゃいませ!!」

 

 赤髪にバンダナを巻いた少年の快活な声に出迎えられた。その後ろで同じく赤髪バンダナの少女がテーブルを拭いている。随分とパンキッシュな店に来てしまった、と石井は内心焦った。チャラい。圧倒的チャラさと若者感。言うほど石井が老け込んでいる訳では無いが、疲労と大衆食堂の中に突然現れたバンドマン要素に驚き割りと対応出来てなかったりする。

 

 厨房の方では鋭い目付きの老人が此方を睨み付けている。

 

 「おい、兄ちゃん。ここは初めてか?」

 

 「えぇ、そうですが……」

 

 もしや一見様お断り、という奴だろうか?石井は席を立つ準備をした。

 

 「じゃあ、あれだ。うちのオススメを食え。野菜炒めだ。いいか?」

 

 「え……あぁ、じゃあそれで」

 

 どうやら、一見でも問題は無いらしい。勝手に話が進み、注文が済んでしまったが、店主らしき人物が勧める物だ。悪い物では無いだろう。石井は少女が持ってきたお冷やを口にしながらぼんやりと考えていた。壁に付けられたテレビではニュースが流れていた。キャスターが何処の国の首相と何処の国の大統領が会談しただのなんだのと抑揚の無い声で読み上げている。その裏に何があるかを知らぬまま、幸せに文章として、テキストとしてファクトもリアリティも削られた残滓を耳障りの悪くない音声に変換しているだけ。石井は何処を見ているかも分からない目でディスプレイに目を向けていた。頬杖をついたまま、ピクリとも動かなかった。

 

 「あの……大丈夫ですか?」

 

 少年の声で意識を元に戻す。声の先を見ると心配そうに顔を覗く少年と少女。具合でも悪いのか、と。

 

 「いや、大丈夫だよ。実は昨日の晩に帰国したばかりなんだ。それで少しぼうっとしてしまった。すまないね」

 

 「そうなんですか。疲れてるようで、動かなかったから心配になって。差し出がましかったですね。すみません」

 

 「いやいや。謝ることなんてない。そういう気遣いが出来る所は君という人間の美徳だろう。初対面の男に言われても、気持ち悪いだろうがね」

 

 軽く口を緩ませ、そう言った。少年は首の後ろを擦りながらむず痒そうにしている。誰かに誉められると気恥ずかしくなってしまうのだろうか?思春期にはありがちだ。

 

 「いやいや、お兄に美徳とかあり得ない。お兄、いつも的外れだし」

 

 「なにおう!?」

 

 少女が少年に突っかかる。兄妹なのだろう。売り言葉に買い言葉。その兄妹のやりとりが何処となく懐かしく感じる。頭の中、大脳皮質の裏の何かに引っ掛かるような感覚。決定的には違うが、それでいて根本の部分でどうしようもなく繋がっている感覚。自然とその微笑ましい喧嘩に笑みが溢れる。

 

 「あっ……すいません」

 

 少女が石井の視線に気付き、頭を下げてくる。

 

 「別にいいよ。兄妹間の仲が良いことは、素晴らしいことだよ。私は気にしてないから、続けてくれても構わない」

 

 「別にお兄とは……!!うざいだけですし」

 

 「らしいが?兄としては、どうだい?」

 

 「俺もこいつのことなんか、好きじゃないっすよ。いつもいつも喧嘩吹っ掛けてくるし」

 

 大変だねぇ、と溢しながらお冷やを再び口にする。少年──五反田弾はそんな気だるげな石井を見て少しばかり疑問が浮かんだ。

 

 「何のお仕事されてるんですか?海外行ってたみたいですけど」

 

 「教師だよ。ちょっと出張でね、海外の提携校で交換留学の話をしてきたんだ。行きたくは無かったんだが、運悪く私が行くハメになってしまったんだよ。昔から、運が悪くてね」

 

 「先生なんですか」

 

 「意外そうだね。まぁ、よく言われる。自分でも向いてないと思うけど、いつの間にかこの職をやっていた」

 

 皮肉気に笑う石井。

 

 弾が石井の横顔を見て、相当疲労が溜まってるのかもしれないと思っていると、テーブルに山盛りに盛り付けがされた皿が置かれた。

 

 「豪華野菜炒め、一人前。ライスとスープはサービスで増量しておいた」

 

 馬鹿のように盛られた野菜炒め。さながらモンブランかマッキンリーか。肉が見当たらない。いや、肉は十分にある。しかし肉に対する野菜の比重が余りに多い。キャベツともやしが親の仇のように肉を覆い隠している。それと同じように米も大盛りにされている。まるで漫画に出てくるような盛り方だ。石井の顔は引き攣っていた。乾いた、苦笑いも漏れる。

 

 味は満足行く物だった。気取った味では無い、シンプル且つ大胆な味付けだ。白米との相性は最高と言えるだろう。塩コショウだけ。おそらく、それがここまでシンプルながらも箸と米が進む要員なのだろう。石井は黙々と米と野菜を掻き込む。

 

 「良い食べっぷりじゃねぇか」

 

 にへらと笑う。飲み込んでからどうも、と返す。そしてスープを飲む。鶏ガラか?

 

 量的に厳しいと思っていたが、気付くと五分やそこらで石井は野菜炒めの山を崩してしまっていた。米も一粒も残っていない。我ながらよく食べられたものだ、と小さく驚く。腹は十二分に膨れた。これで需要と供給の天秤が取れるだろう。消費するための燃料は万端だ。

 

 「ごちそうさまでした。美味しかったです。お代は?」

 

 「670円だ。また食べにこい。サービスしてやるよ」

 

 安すぎだろう。あのボリュームを、その価格で出し続けるのは無理がある。採算が合わなくなってしまうのでは無いだろうか?

 

 「今日は割引価格だから、次からはちゃんと代を貰うぞ。そんな顔色されてりゃ、気分が悪ぃからな。ちゃんと食ってるのか?」

 

 「そんなに顔色悪かったですか?」

 

 「あぁ、青かったぞ」

 

 なるほど、予想以上に疲れが溜まっていたらしい。どうやら、お節介を焼いてくれたようだ。大衆食堂とはよく言った物だ。人の暖かみを未だに残す場所がどれ程あるのだろう。そういえば、この店に入ってからよく笑った気がする。石井はまた笑った。彼にしては珍しく、目元も笑う。

 

 千円札を渡し、釣りを貰う。ごちそうさま、と言って暖簾を潜ろうとすると誰かにぶつかった。

 

 「あっ、すみません!!」

 

 「あぁ、いや。こちらこそ……一夏君?」

 

 「えっ!?先生、何でここに?」

 

 「ご飯を食べてたんだよ。いや、それ以外にないでしょ」

 

 教え子一行と遭遇した。一夏、鈴、シャルの三人だった。何やら女難の香りが漂い初め、後ろを振り返るとパンキッシュ少女──五反田蘭がいつの間にか着替え、化粧も済ませて直立不動で待機していた。石井は察してしまった。弾は溜め息を吐きながら訊いた。

 

 「一夏。先生って、この人と知り合いか?」

 

 「知り合いも何も、俺たちの先生だよ。ほら、一人目の男性操縦者」

 

 パンキッシュ兄妹は自律型女難地雷のカミングアウトに絶叫で返す。弾はマッキーと色紙を何処からか持ってきてサインをねだり、蘭はIS学園を志望していると力説する。石井は適当にスマイルマークと筆記体で石井と色紙に書いて弾に渡した。暴走寸前の蘭を一夏に丸投げして再びカウンターへ向かい、五千円札を渡す。

 

 「これ、あの子たちの食事代です。お釣りが出たら、あの子たちに渡してください」

 

 「いいのか?」

 

 「仮にも教え子ですし、あの子たちも学園で頑張ってますから。たまにはご褒美をあげないと」

 

 それじゃあ、と店を出て石井は車を出す。GTRのエンジン音は遠く離れていった。

 

 

 

 

 

 






黒塗りのGTR……あっ……(察し)

後一話ぐらいで石井さんの夏休みは終わりになる感じですね。

いやぁ、感想欄で見て電波を受信して書いてしまった作者の乱心の賜物。

え?いつも乱心してる?そっかぁ……(諸行無常)

たまには日常もいいね!!早くぶっ壊したい!!

今回は嘘予告無し!!解散!!閉廷!!



今回のアイディアを下さったaryarya様、ありがとうございます!!


御意見、御感想、評価お待ちしてナス!!

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