転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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二話続けて飯の話。

色々と今後の展開を考えると、そろそろタイトルにEXODUSって付けようかなとか考えます。嘘です。

ほら胃ズーン展開にしたらただでさえ低い評価と少ないお気に入りが悲惨なことになるからね。


てな感じで本編です。


会食

 皺一つ無い、ブラックスーツ。同色のシャツとグレーのジレと鮮やかなワインレッドのネクタイ。送迎のベンツから降りた石井は運転手に礼を言って、店に入っていく。ギャルソンに案内され、一番奥のVIP用の個室へと足を進める。

 

 学園から車で四十分程度の、ひっそりと佇むフレンチレストラン。大通りから二つほど裏に入った所にある静かな店だ。IS学園から然程離れていない為、関係者に食事や会談に使われることも多い、隠れた名店。シェフはフランスの有名なホテルで料理長をしていたその界隈では高名な、巨匠と呼ばれる人物らしい。その名前は石井の耳にも入っており、廊下を歩く石井の足取りも何処か軽やかで、はしゃぐ気持ちを隠しきれない子供のようでもあった。

 

 個室には既に人がいた。グレーのスーツを着た筋肉質な男と、ネイビーのスーツとジレを着た眼鏡をかけた男。壁にかけてある有名な画家の描いた風景画を見ながら、ワイン片手に談笑していた。

 

 「遅れて申し訳ありません、先生」

 

 「いや、構わない。我らが早く来すぎただけのことだ。気にするな……」

 

 筋肉質な男、有澤隆晶が言った。石井は、はい、と短く返してもう一人の男へと視線を向ける。

 

 「先生、こちらの方は?」

 

 「外務省の矢田だ。一応貴様の先輩でもある」

 

 学部は違うがね、と付け足し、矢田が手を出す。石井が握り返すと、眩しいほど白い歯を覗かせてにこりと笑う。

 

 「矢田博和だ。北米局でボソボソとやってるしがない公務員。先生が言ったと思うが、一応は君と同じ大学の先輩だ。法学部だけどね」

 

 「先輩、とお呼びした方がよろしいですか?」

 

 「いや、堅苦しいのは好きじゃない。好きに呼んでくれよ。俺は後輩と呼ぶが構わないか?」

 

 「えぇ、矢田さん。お好きに」

 

 まぁ座れよ、と矢田。引かれた椅子に座り、グラスに注がれたワインを手に乾杯する。食前だからだろうか、白ワインだった。聞けば石井が店に着く十分ほど前に彼らは店に入ったという。まだ一杯目らしい。普段あまり白ワインを飲まない石井にとっては、それは久しぶりに感じる風味だった。その嗜好を知る有澤はたまには白もいいだろう、と軽く笑いながらグラスを傾けた。それに同意しながら、石井は鼻に抜けていく香りの余韻を楽しんだ。

 

 「それで、何故国の人間がここに?」

 

 本来、この場にいるべきではない側の人間。矢田が何故この場にいるのか、石井は有澤に訊く。ただの食事の場であるならば、大学の先輩後輩として親交を深めることも出来ただろう。しかし、今日は違う。場違い極まりない、招かれざる客というべきか。恩師が耄碌したのか。いずれにせよ、国家という機構の歯車である矢田をここに置く意味もメリットも無い。

 

 「矢田はこちら側の人間だ。そう警戒せずとも良い。私が分別がつかなくなるほど老いたように見えるか?」

 

 「まぁ、簡単に言うとだ。俺はお前、というよりは、企業側の人間だ。俺の親父は先生の所でアーキテクトをやっててな。親は理系なのに、ガキは文系なもんだから、俺は公務員やってるんだよ。国に忠誠誓って働いてる訳じゃないからよ、そこの所はよろしくな。後輩」

 

 なら良いですが、と再びワインを口にする。そんな石井を見て誤解されては敵わないからな、と矢田が笑う。何分デリケートな時期だ、と石井。人の良さそうな快活な──実際良いのだろう──笑顔でそうだな、と返して矢田は空のグラスをテーブルに置いた。

 

 これで今夜の会食のメンバーが全て揃ったと石井は思った。しかし、一つだけ席が空いている。椅子は四つ。もう一人出席者がいるのだろう、と推測する。矢田はにやりと笑って、まだお姫様が来てないと言う。女性である事は分かった。しかし、見当がつかない。すると、ドアが開いて少女が入ってくる。

 

 ほんのりと薄い化粧とイヤリングを付け、矢田のスーツよりも深いネイビーのワンピースを着たシャルが立っていた。白いヒールとバッグはワンピースとの対比で映え、可愛らしい少女を女性へと押し上げていた。

 

 「お父さんごめんなさい。ちょっと、道が混んでいて」

 

 「なに、石井も今来たところだ」

 

 「そうなんだ……石井先生、矢田さんこんばんわ。遅れてすみません」

 

 「やぁ、シャル。それにしても、びっくりだ。あの可愛らしいお嬢さんがこんなに綺麗なレディになるなんてなぁ。王子様もイチコロじゃないか?」

 

 「矢田さん、あれはそんな簡単には落ちませんよ。シャルさん、今日の私は君のお父上の教え子に過ぎない。そんなに堅苦しくなくていい、好きに呼んでくれ」

 

 「ほら、後輩は簡単に落ちたぜ?王子様も勢いでいけるだろう」

 

 「えぇと、じゃあ石井さんで。一夏は、石井さんの言う通りですよ……中々難しいです」

 

 「矢田さん、酔ってます?」

 

 シャルが座ると、ギャルソンがやって来て、料理を注文した。石井と有澤がメインに肉を、矢田とシャルが魚を頼んだ。石井たちは新たなワインを注文したが、シャルは未成年のためペリエを飲んでいた。途中、矢田が飲んでみるかとグラスを出したが有澤に止められる場面があった。親バカかよ、と漏れた石井の呟きをしっかりと拾った有澤が石井に自分が親バカでないということを認めさせる為に説明し始めたが、それはどこから聞いても親バカにしか聞こえなかった。

 

 「シャルをここに呼んだということは本格的に関わらせるつもりで?」

 

 矢田とシャルが話している最中、然り気無く石井は有澤に訊いた。

 

 「形はどうであれ、シャルは我が有澤重工の跡取りだ。何も知らない、というのは不味いだろう。これからはある程度、このような場にも連れてこようと思っている。今日はそのリハーサルのような物だ」

 

 なるほど、と言いメインディッシュの仔牛のロティを口に運ぶ。確かにこれは巨匠と呼ばれるだけはある、と石井は思う。実に美味い。仔牛肉は脂身が少なくヘルシーで淡白な味なので、さっぱりしている。上品な味わいだった。

 

 「あの、石井さん」

 

 メインディッシュを食べ終え、口をナプキンで拭くとシャルが石井に声をかける。随分と真剣な目をしていた為、石井は何事かと構える。矢田と有澤は二人で某かを話している。気を遣っているのかもしれない。

 

 「ありがとうございました。助けてくれて」

 

 「何の話だい?いきなり、どうした?」

 

 「石井さんが私をデュノアから買ったって、聞きました。それで私は有澤に来ることが出来て、今普通に暮らせている。石井さんのおかげです。お父さんに聞いてから、ずっとお礼を言おうと思ってて」

 

 ふむ、とワインを口に含み一拍置く。閉じた目を開き、シャルを見る。

 

 「私は仕事のついでに君を買って、需要のある場所、君のお父上に投げただけだよ。それで私が君に感謝されることは無いさ。君は汚い大人の思惑に振り回されて、ここにいる。君を買うことで、私は学園のEOSの強化改修を発注することが出来た。感謝するのはこちらの方だよ」

 

 「鴨が葱を背負ってきたと?」

 

 「そうだね、その通りだ。まぁ、まさか養子にするとは思わなかったがね」

 

 「そうだとしても、私は今この場にいれて幸せです。過程や思惑がどうであれ、私をあの場所から解放してくれた。未来と幸せをくれた。石井さんがどう思っても、私が今こうしていられるのは、あなたのおかげなんです」

 

 平行線を辿るだろう。そう、石井は思った。強く否定して場を荒立てることも無い。石井としては別段人助けをしたとは思っていなくても、勝手に助かってしまったシャルはそう思っている。変な恩義を感じられるのは好まないが、相手は養子とはいえ恩師の娘。石井は諦めた。

 

 「そうか。なら、勝手にしてくれ。身に覚えは無いが、その感謝を受け取ることにしよう。どうせ、否定しても納得はしてくれなさそうだからね」

 

 「なぁ、男のツンデレは需要無いんだぜ?」

 

 矢田が肩を組んで絡んでくる。煩わしそうにそれを払い、溜め息を吐く。シャルは学園で教師としている時の石井とのギャップに少々驚いた。デザートを食べながら、矢田が石井に絡んで辛辣に返される様を苦笑いしながら見ていた。有澤もたまにそれに茶々を入れたりして、父がじゃれている兄弟にちょっかいを出しているような構図が出来上がっていた。それはシャルにとって目映く、いる筈の無い年の離れた兄を幻視させた。

 

 「さて、では本題に入るとしよう」

 

 デザートを食べ終わると、有澤が口を開いた。各々、ワインを飲んだり、口を拭っていたりするが目は仕事の際にする物へと変わっていた。

 

 「先日、クラウス社から傘下に入らないかと言われた。体制を一新するらしい。同じアメリカの企業でもロッキード、ボーイング。コルト等の企業が続々と買収されている」

 

 「買収ではなく、傘下に?」

 

 「うむ、連中はこの日本という地域に影響力を及ぼしたいらしい。だが、倉持はクラウスとは犬猿の仲だ。故に我ら有澤に来たのだろう。新体制樹立後は日本での活動は保証される」

 

 「アンクルサムは大慌てだ」

 

 矢田が言った。テーブルの上に数枚の書類を出した。アメリカの物らしく、ハクトウワシの国章がでかでかと記されていた。機密等とその下にあったが、紙媒体に起こされてしまっている辺り、セキュリティは案外甘いのかもしれない。

 

 「グローバルアーマメンツ、GAグループですか。どうなさるつもりですか?見たところ、勢力圏はかなり広い。環太平洋地域、少なくとも米州機構加盟地域はすっぽり飲み込まれますよ?」

 

 「受ける。沈み行く船に乗っているつもりはない。それに書かれているだろう。彼の国はGAと正面切って戦争するつもりだ。勝ち目は無いだろうがな」

 

 「それだけじゃないぜ。後輩、お前の教え子の会社。オルコット財閥もクラウスに接触している。クラウスはGAグループになった際のヨーロッパでの足掛かりにしたいんだろうよ。オルコットはヨーロッパ圏でこれから起こるであろう企業間抗争で潰されたくない。あそこのIS部門は余り強くないからな。ブルーティアーズだって、あれは国家主導、軍が造った物だ」

 

 「確か、今オルコット財閥を動かしているのは令嬢派のジョナス・ターラントでしたね。やり手だ。セシリアが実権を握るまでの延命には持ってこいだ。あそこの強味はISや軍需部門じゃない、食料やエネルギー部門だ。GAはそれも欲しがっているのか?」

 

 「だろうな。中東アフリカ局の同僚が話してたんだが、アルテス・サイエンスも似たような動きをしているらしい。GAはこれに備えている。連中の目にはアンクルサムは写ってない。GAの弱味であるエネルギー部門を補強しようとするのも分かる。ヨーロッパはEUが抑えてるが、時間の問題だ。そして極めつけはこれだ」

 

 新たな書類。それはとんでもない物だった。

 

 「AF。アームズフォート計画。物量によるISの撃滅、安定した戦力の供給を目的とした巨大兵器。福音の暴走から急激に進み始めた。既にクラウスは北極で建造を開始したらしい」

 

 「我々にも技術協力の要請が来た。奴等、委員会も機構も焦っている。先日の一件でシングルナンバーコアが全て目覚めた。予想外の事態だ。計画を繰り上げているのだろうな」

 

 「世界中が熱々だ。今にもポップコーンが弾けそうだ。いや、爆竹を突っ込んだような物か?」

 

 ふぅん、と石井。言うほどは驚いていなかった。ある程度は想定していたというのもあるが、元より世界中にあった火種をかき集めただけの話だ。これも委員会や機構の連中の目論見通りだろうが、福音の際に思い通りにさせていた場合はニトログリセリンを突っ込んだようなことになっていただろう。この時点でGAとアメリカで開戦しててもおかしくない。

 

 「この国はどうなんです?」

 

 アームズフォート計画の書類で自分を扇ぐ矢田に訊いた。

 

 「さぁな。ただ、色々焦ってはいるようだ。最近、俺の周りに変な連中が付くようになった。公安じゃない。噂の更識って奴等か?大方、俺が企業側の人間だと嗅ぎ付けたんだろうよ。踏ん縛って、尋問でもするのかねぇ?あれは国体の維持を最優先に動く走狗だからしつこくて嫌だ」

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「先生の所から護衛を借りてる。今の所は問題ないだろうよ。問題なら、お姫様とお前の方が俺は心配だな。連中の頭がいるだろう」

 

 あぁ、と思い出したような声を出す石井。まるで、今まで忘れていたようだ。実際、更識楯無という存在を石井は忘れていた。障害としてはとるに足らない、と認識していた。

 

 「大丈夫ですよ。まぁ、あれは大した事は無いから。当代のよりも、先代の当主を警戒した方がいい。あれは怖いですよ。粘着質だ。矢田さんに付いてるのも先代直属の部下でしょう。私も昔引っ付かれましたから分かります」

 

 死んじまったら線香をあげてくれ、と矢田が笑う。有澤が断るとひでぇや、とワインを一気に飲んだ。

 

 「デュノアはどうなっているんですか?」

 

 シャルが初めて口を開いた。この話になってから黙っていたが、仮にも古巣。気になったのだろう。

 

 「デュノアはアルテス・サイエンスに買収された。GAのオルコット財閥のように、イスラエルや中東を中心に勢力圏を広げるアルテスのヨーロッパへの土台、もしくは防波堤にするつもりだろう」

 

 「いつか、フランスにいけなくなるとか?」

 

 「あり得るな。ヨーロッパではまだ企業は台頭してないが、時間の問題だと言っただろう?近い内に何処かが力をつけ始める。それ次第だ。今はまだ、委員会側の企業しか台頭してないが、ヨーロッパで出てくるのはおそらく機構側の企業だろう。ヨーロッパはドイツを中心に機構のお膝元だからな」

 

 国家と企業の衝突は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 





感想欄で見掛けた五反田食堂のネタ、やろうと思います。

そこら辺を絡ませるのも面白いと思います。たまにはそういうほのぼの日常回もいれないと、ダメな気がする。










 誕生以来変わる事もなし、閃光と硝煙。鉄の匂いとその軋み。

 穢れに満ちた緑の雪。加うるもなし、引くもなし。

 脈々たる自己複製、異端と言わば言うも良し。

 我が行く道は血風の、主は狂った兎ただ一人。

 赤い鸚哥の緑の眼、ぐるり回ってとっとの眼

 すべては、そう、振り出しに戻る!!

 「転生して気付いたらIS学園で教師してました IS戦争編」

 これがISだ!!


 っていう、いつものボトムズパロ予告です。



 あ、これはその内やります。

 御意見、御感想、評価お待ちしてナス!!

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