転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 もうさ、感想欄での需要が多すぎて書いちまったよ……。

 見たけりゃ、見せてやるよ!!

 シリアス明けだから、色々はっちゃけました。




夜食

 臨海学校から数日後、クロエ・クロニクルはふと眠りから覚める。見知った天井が視界に入る。時刻は深夜二時十分。床についてから数時間ほどしか経っていなかった。

 

 サイドランプを付け、身体を起こし、ベッドから下りる。特に意味は無かった。しかし、妙に眠気が飛んでいた。目が冴えて、寝付けそうにも無かった。おかしな時間に起きてしまったせいだろうか?クロエは溜め息を吐いて、スリッパを履いてデスクに向かった。

 

 母親のような人物──束に頼まれた仕事を始める。寝る前に保存したファイルを開き、やり残した物に手を付ける。イヤホンを耳に付けて好きな音楽をかける。先日、妹──ラウラに教えて貰ったバンド。音楽やサブカルチャーに関して詳しくないクロエだが、そのバンドは気に入った。ここ数日、作業をする際はずっとそのバンドの曲を聞くほどには。

 

 時間の経過とは早い物だ。集中していれば、尚更時間の経過は早く感じる。何となしに時刻を確認すると、三時。クロエの体感では十分程度しか作業をしていない。気付けば、聴いていたアルバムも一周していた。

 

 椅子にもたれ掛かると、間抜けな音が聞こえた。お腹空いたなぁ、とクロエは独り言ちる。一時間弱の間、集中してデスクワークに励めば、更に深夜の寝起きならば空腹を覚えるのも無理はないだろう。何かしらを腹に入れたくなる。

 

 しかし、ここでクロエに大きな壁が立ちはだかる。それは甘美な誘惑と共にある背徳感。それは謎の罪悪感。それは本能が叫ぶやってはいけない、という危険信号。ドアを開けようとした手が、その先へ進もうとする足が止まる。まるで金縛りにあったかのように、ピクリとも動けない。

 

 夜食。それは夕食や晩飯と呼ばれる食事とは違う、人類が必ずその短いようで長い生涯に於いて必ず対峙する物。朝昼晩三食の秩序から外れた例外(イレギュラー)。全てをふっくらと柔らかくする(デブらせる)、黒い食欲。善か悪かなど決めつけるなど無知蒙昧。それは古来より、遥か昔からただ強大な力として存在する。食欲のやべーやつ。古事記にもそう書いてある。

 

 一般的に、夜食は身体に悪いと言われる場合がある。食生活が乱れる。生活習慣病の原因になる。老化を促進させる要因になり得る。美容に悪い。快眠を妨げる。肥満に直結する。等々と、人は夜食という存在を不倶戴天の敵と認定して日夜闘い続けている。強大な、自分達の理解の及ばない強大な欲求に恐怖し、愚かにも立ち向かい続けている。そしてそれは人類という総体が人という個体にさながら洗脳が如く、刷り込み教育を行い、無垢な人々を夜食との闘いの尖兵として育てあげている。コワイ!!

 

 さて、それは当然としてクロエにも訪れる。身体が動かない?否、動かないことを強いられているんだ!!クロエ・クロニクルという人間の深層心理に刷り込まれた『夜食は……不味い……』という呪いが彼女を縛る。葛藤。吹き荒ぶ嵐のような思考。自分の行動は良いことなのか、という考えが徐々に身体を蝕んでいく。

 

 考えれば、確かに美容に悪いことなどしたくない。うら若き乙女が、態々美容に悪いこと、自分のプロポーションを崩す事はするべきでは無いだろう。何を馬鹿なことを考えていたんだ、とクロエは自分の思考を、夜食という選択肢を一笑に伏した。

 

 しかし、ふと自分の家族と言うべき者たちの顔が頭に浮かんだ。束様なら、ラウラなら、お父様ならどうするだろう?そして家族たちは各々、答えを告げる。

 

 『食べようぜ!!大丈夫!!くーちゃんは太らないから!!(アイドル理論)』

 

 『ペプシとドリトスの組合わせをお勧めするぞ!!姉様!!あ、嫁!!返してくれ!!』

 

 『……私は太りにくい体質なんだ。まぁ、話はこれを食べてからだ(麻婆)。喜べクロエ。君の願いはようやく叶う』

 

 ──その先は地獄だぞ?──

 

 背後から声がする。少しくぐもって、苦しそうな声だった。でも、何処かで聞いたような。覚えのある声だった。

 

 「これがあなたの忘れたもの。確かに、始まりは欲求だった。けど、根底にあったのは願い。この空腹を覆して欲しいという願い……自分の空腹を満たしたかったのに結局何もかも取りこぼした女の果たされなかった願いだ……たとえその願いが自堕落なものであったとしても……私は夜食を求めつづける!」

 

 ──意味が分からない──

 

 身体の硬直は解けた。勢いよく、ドアノブを回し、床を蹴る。自室から飛び出し、向かうはキッチン。もう、あの声は聞こえない。こんなに軽い身体でキッチンに向かうなんて初めてだった。クロエは言う。もう何も怖くない、と。

 

 求めるはカップラーメン。期間限定、ヤサイニンニクアブラカラメマシマシ。いつも食べる前にカロリーや様々なことが頭を過り、踏み出せなかった。しかし、今は違う。今、この瞬間は食欲が全て。好きなように食べ、好きなように満たす。

 

 台に乗り、戸棚を開く。少しばかり高い所にそれはあった。手を伸ばす。ケトルのスイッチは入れた。後はブツを手にするのみ。しかし、それは何の悪戯か、クロエを阻む物は再び現れた。

 

 突然の浮遊感と、背中が床へと引き寄せられる感覚。戸棚が遠退いていく。バランスを崩すというアクシデント。爪先立ちがもたらした最悪のタイミングでの妨害。このまま行けば、床に背中を打ち付け、悪ければ頭も打ってしまうだろう。受け身は不可能。クロエは落ちていく。そして、

 

 「こんな時間に何をしているんだ……君は……」

 

 誰かに受け止められた。低い声、甘い香り。人肌の温もりを感じた。

 

 「お父様……?」

 

 黒のタンクトップを着た石井が立っていた。クロエを後ろから抱き締める形で、受け止めていた。甘い香りは石井が普段から使っているボディーソープの香り。髪が少し湿っている事から風呂上がりだと分かった。

 

 「何時、帰って……」

 

 クロエの質問は最後まで続かなかった。気の抜けるような音、腹が鳴ったのだ。石井とクロエは密着した体勢のままだった。誤魔化しが効かないことを悟ったクロエは顔が熱くなるのを感じた。石井も珍しく、目を丸くしていた。

 

 「腹が、減ったのか……?」

 

 「はい……」

 

 沈黙がキッチンを包む。クロエは視界がぐるぐる回り始め、時折あうあう言い出すようになってしまった。未だに石井とクロエは密着していた。単純に石井が混乱しているだけなのだが、クロエにとっては色々と感じる物があった。何せ、多感な時期である。石井という男はその辺りに関して、稀に教え子を越える無自覚特攻をすることがある。

 

 石井は徐に立ち上がると、冷蔵庫を開けて物色し始めた。そしていくつかの食材を取り出すと、へたりこむクロエに声を掛けた。

 

 「少し待ってなさい」

 

 中華鍋に米や卵、チャーシューを入れて炒めていく姿を隣接するダイニングから眺めるクロエ。思えば、話には聞いてはいたが石井が料理をする姿を見るのは初めてだった。慣れた手つきで中華鍋を回し、調理をする父の姿にクロエは呆けていた。今まで見たことの無い父の姿は新鮮に写った。平行してスープを作っているのか、スプーンで何かの味見をしている。その一挙手一投足を見つめる。避けられない、初めて自分の為に何かをして貰った今日この瞬間を忘れない為に。

 

 然程、時間をかけること無く夜食は出来た。炒飯とスープ。自分とクロエの二人分をテーブルに置き、冷蔵庫から緑色の缶──ハイネケンを取りだしてクロエの前に座って、石井は食べ始めた。それを見て、慌ててクロエも食べ始める。蓮華で炒飯を口に運ぶが、

 

 「あつっ……」

 

 「……ゆっくり食べなさい。別に炒飯は逃げない」

 

 ハイネケンの缶を傾けながら溜め息を吐く石井。クロエはまた顔が熱くなるのを感じた。

 

 「あの……何時、お戻りに?」

 

 「君が寝ている時だ。シュープリスのメンテナンスをしに来ただけだよ」

 

 「そうなんですか……」

 

 ほんの短い会話。それでも、クロエにとっては堪らなく嬉しかった。初めての会話。言葉のキャッチボールだ。拒絶で返されない、心のある会話。

 

 「あの……美味しいです。すごく、美味しいです」

 

 「そうか」

 

 「はい……今まで食べた炒飯の中で一番美味しいです」

 

 「束よりは美味く作れているだろう」

 

 石井は軽くだが笑った。そして、驚いたような顔をした。一気に炒飯を掻き込むと、食器を重ねてシンクに入れて、ハイネケンの缶を手にキッチンから出ようとする。

 

 「食器は朝、私が洗う。シンクに入れておけばいい。それを食べたらさっさと寝なさい」

 

 クロエを見ずに、それだけを言った。足を進めようとする石井。しかし、裾に抵抗を感じた。クロエがタンクトップを掴んでいた。

 

 「あの……御馳走様でした。おやすみなさい、お父様……」

 

 「……あぁ、おやすみ」

 

 懐かしそうな、悲しそうな目をして石井は出ていった。クロエはそれに気付かなかった。テーブルに戻り、食事の続きをしようとするとそこには、

 

 「あ……」

 

 盗み食いをする兎がいた。

 

 「何してるんですか、束様?」

 

 「え、デレたいしくんの炒飯の味見を……」

 

 「束様、朝抜きますね?」

 

 「えぇ!?くーちゃんがマジギレしてる!?反抗期か!!反抗期なのか!!大変だ、いしくんに相談しなきゃ……この怒り方はいしくんそっくりだ……似てしまったのか……正座、麻婆、三食抜き……うっ、頭が……」

 

 「お父様が私の為に作ってくださった炒飯を食べた罪は重いです。ケジメ案件ですね、これは」

 

 「辛辣すぎるよ!!てか、ケジメ!?落とし前、四発、止まるんじゃねぇぞ……うっ、頭が……こんな所もいしくんにも似たというのか……束さんの待遇改善を要求する!!」

 

 夜は更に深くなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、くーちゃん。いしくんの炒飯、美味しかったでしょ?」

 

 「はい、とても美味しかったです」

 

 「良かったね」

 

 「……はい。今まで食べたどんな物より美味しかったです。また、食べたいです」

 

 「うん、そうだねぇ。昔、二人でふらふらしてた時はよく作ってくれたよ。いつも炒飯作ってくれって言って、炒飯ばかりは身体に悪いって言われてね。でも、出てくる料理全部美味しくて、太っちゃいそうで。パスタとかも美味しいんだ。たまに、凝った料理も作ってくれたりしてたなぁ。カレーもルゥから作るんだよ、いしくん。変な所で凝り性なんだから……」

 

 「そうなんですか……お父様、料理が本当に上手なんですね」

 

 「その内、また作って貰おう。今日はらーちゃんがいなかったし。食べたいものを沢山作らせてやろうぜ!!部屋で酒飲みながら映画見てばっかで、私たちに構ってくれないクソヤロウが!!あ、くーちゃんお弁当付けてる」

 

 

 

 

 

 

 





 個人的に石井さんには炒飯を作ってもらいたかったんです。

 勝手に頭の中で変換している石井さんのCVで炒飯を作ってもらいたかったんです……。

 石井さん「貴様らに笑みなど似合わない……」

 とか、想像してニタニタしてます。DTB三期を作者はいつまでも待っています。

 石井さんのCV、容姿は各自で脳内補完しよう!!















 委員会と機構の攻撃から二日後、僕らは再び進み始めた
 冷たく暗い荒野へ向かって
 最後の時を、刻み始めた

 過ぎた時は戻らず、希望はいつでも未来にしかない
 君は知るだろう
 未来を求めるには、今を生きる命を使うしかない、という事を

 奪われた命と、分け与えられた命の違いを
 僕らが選んだのは、命の奪い合いを避ける道だった
 それでも殺意は追ってきた
 どこまでも、どちらかが倒れるまで

 暗い道を僕らは進んだ
 光を求めて、多くを犠牲にして
 更なる犠牲と共に、旅の終わりを迎えようとしていた

 次回、転生して気が付いたらIS学園で教師をしてましたEXODUS。第18話、『罪を重ねて』






 ていう嘘予告その5。やりません。どうせみんないなくなる。


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