転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

28 / 60

 第一の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、血のまじった雹と火とがあらわれて、地上に降ってきた。そして、地の三分の一が焼け、木の三分の一が焼け、また、すべての青草も焼けてしまった。

                   ヨハネの黙示録第八章七節


anti―no―my♯unum♯tuba

 制圧射撃、という物がある。

 

 敵性勢力に対し、断続的に射撃をすることによって敵の行動を阻害し、味方を援護する戦術である。基本的には短時間、味方の撤退や移動の機会を作り出す為に行われる。所謂、弾幕だ。

 

 この銃弾、人を殺害し得る威力を持った金属の雨霰。当然、当たればただでは済まない。スケールを大きくして考えてみよう。対空機関砲、高射砲の弾幕。CIWS、ファランクスの弾幕。これらを空中にいる目標に向け撃てば、それは黒煙を上げて墜ちるだろう。自明の理だ。

 

 では、一発一発が地面にクレーターを作る程の弾幕はどうだろうか?

 

 「ふざけるな!!」

 

 誰かが怒鳴った。空が爆ぜる。誰かが墜ちた。

 

 『Aaa』

 

福音は唄う。福音を紡ぐ。

 

 第一防衛ラインは戦闘開始から五分と経たずに瓦解していた。百二十八秒。寧ろ、それだけ耐えた事を賞賛すべきだろう。自衛隊からの打鉄、ラファール混成三個小隊は全滅。現在、交戦しているのはラプターと、学園所属の打鉄とラファール合わせて六機。現状は概ね予想通りと、これを仕組んだ連中は思っているだろう。

 

 片翼十八門、合計三十六門の砲口から放たれる弾幕は広域殲滅型の名に恥じぬ物だった。福音がその身をくるりと回すと、翼から光の球が目一杯放たれる。それは着弾せずとも空間で爆発し、凄まじい爆風を叩きつけてくる。それだけでシールドエネルギーが削られ、機体にダメージを入れる。接敵した三秒後には、被弾した機体が撃墜されていた。

 

 打鉄が、ラファールがライフルを撃つ。それを回避し、翼を振るう。爆音と閃光。福音が自分へ攻撃した二機へ肉薄する。拳を握りしめ、装甲を殴り潰そうとする。しかし、閃光が消えると二機はいない。

 

 「うらァッ!!」

 

 衝撃。背後からの一撃が福音を襲う。打鉄の持つ長刀──葵の一閃が背中に入った。その打鉄を裏拳で殴り飛ばす。側面からの衝撃。被弾。ラファールからの射撃。銀の鐘(シルバーベル)起動。周囲へ弾幕を展開。ラファール、打鉄、被弾。打鉄、撃墜。残り五機。

 

 「こっちだよ!!」

 

 爆発。福音に金属片と爆風が降りかかる。グレネードだった。そしてスモーク。視界が塞がれた。しかし、それだけでは福音を止めることは出来ない。この程度の衝撃、この程度の目眩ましは装甲を、シールドを削るには、行動を阻害するには余りに非力。そう福音は思考していた。

 

 バイブレーションのような音、低い振動音のような音。圧倒的な弾幕が展開され、束ねられた四本の砲身が唸りをあげる。クアッド・ファランクス。二十ミリ六砲身ガトリング砲、M61A1を四門束ねた最高の瞬間火力を持つ兵装。それが鉛玉の嵐を叩きつける。福音にとってもその弾幕は無視出来る物ではなかった。

 

 福音の翼が輝く。実弾の弾幕に対し、非実弾──圧縮されたエネルギーを撒き散らす高熱量の弾幕で対抗し、弾丸を溶かそうとする。機体を回転させようとする。破壊の雨が降り注ぐ寸前。ほんの一瞬、一秒に満たない隙。それが致命的な隙になる。

 

 「貰った!!」

 

 機動戦に特化させた機体。機動力を極限まで上げたラファール。右腕には六十九口径パイルバンカーらしき物。しかし、これは通常のパイルバンカーとは違った。元の灰色の鱗殻(グレースケール)は炸薬によって杭を射出する機構を採用していたが、これは本来の灰色の鱗殻(グレースケール)が持つリボルバー機構により連射が可能というメリットをそのままに、杭の先端に大型HEAT弾を取り付けたIS学園整備科開発部自慢の一品。力任せに装甲を突き破るパイルバンカーにHEAT弾を取り付け、さらにそれを六連発出来る代物。それが与えるダメージは驚異的な物だった。

 

 『Aaa!?』

 

 先程のグレネードとは比較にならない爆発と衝撃が福音を襲う。凄まじい熱量が内部のシステムに負荷を掛ける。初撃で体勢を崩した福音に、容赦なく二撃目が襲い掛かる。再びの爆発が機体を吹き飛ばす。体勢を立て直そうとしてもラファールは距離を詰めてくる。しかし、やられっぱなしでは無い。これ以上のダメージは許容量を越える。

 

 距離を詰め、右腕を振り上げるラファール。その右腕を掴み、思い切り真下に、海上へ投げる。三撃目を回避した福音は再び、翼を振るう。全方位へ圧縮エネルギーを射出。そして、自身の直下、投げ飛ばしたラファールへと翼を振るう。より濃密な弾幕を撒く。ラファールは回避行動を試みるが、抵抗空しく被弾し撃墜される。残り四機。

 

 そしてここで福音は疑問を抱える。この表現が正しいか、機械が疑問を抱くのかは置いておくとして、もし福音が言葉を発するならばこう自分の抱える疑問をアウトプットするだろう。

 

 『ラプターは何処だ?』

 

 目下最大の障害であるラプター。この戦闘が始まってから、目立った行動、攻撃をしてこない。何故だ?何を企んでいる?不気味だ。恐ろしい。

 

 その疑問、不審、恐怖に応えるように福音の視界にノイズが走る。砂嵐のように、視界が隠される。次いで、センサー群にも負担が掛かり始める。

 

 「何なんだこれは……!!」

 

 「PICに干渉してくるなんて……味方じゃないの!?」

 

 周囲のラファールと打鉄に不調が出る。センサー群が焼かれ、あろうことかISの機動を支えるPICにすら干渉する程のECM。電子戦、対ECM用プロテクトを施していなかった機体は第二世代元来の電子戦への弱さも合間って制御不能になった。

 

 対IS。単純な戦闘能力だけでなく、そこにいるだけで、第二世代以下の機体を封殺する電子戦装備。第三世代最強、対人特化(マンハント)型なのにオールラウンダーと呼ばれている由縁がこれだ。単純な戦闘──得意とする格闘戦、高機動戦だけでなく、電子戦すらこなす。そしてそれら全てが敵機撃墜へ繋がる。

 

 残り一機。ラプターのみ。

 

 何の仕掛けも無いアサルトライフルから発射される銃弾。それは通常であれば回避出来ない訳がない攻撃。しかし、今この状況では福音に回避という選択肢は無い。

 

 装甲に銃弾が殺到する。福音はそれをただ耐える。ぎこちなさそうに翼を振り、やっと反撃する。

 

 動きにラグが出ていた。ラプターの発したECMにより負荷の掛かった福音の機動は著しく低下していた。先程まで猛威を振るっていた機動力は失せ、それは打鉄やラファールと同程度になっていた。

 

 ラプターが福音に肉薄し、蹴り飛ばす。近接格闘用のナイフによる刺突。拳で殴る。獲物を甚振るようにじわじわと猛禽はその爪で福音を追い詰める。

 

 センサーが焼かれる寸前。内装はボロボロ。有り体に言えば、福音は撃墜寸前だった。損傷率は九割越え。装甲は凹み、右腕部は上がらない。

 

 しかしラプターは福音に止めを刺さない。何とか滞空している様子の、吹けば倒れそうな福音を見下ろしている。

 

 『───』

 

 福音には理解出来なかった。何故、墜とさないのか。見下ろしたまま静止してるのか。思考する。思案する。ラプターが自分を撃墜しない理由を、意味を、意義を、目的を。

 

 『Aaaaaaaa ──』

 

 福音は自ら海中へと墜ちていく。自ら、機能を停止し、落下していった。水柱が立ち、機体が水底へと沈んでいく。ラプターはそれをただ見ていた。

 

 ラプターは機体を翻し、スラスターを吹かす。戦場を離脱した。第一防衛ラインには誰も、何も居なくなった。

 

 『Amen──』

 

 福音は没し、侵攻は防がれた。全てが前線で食い止められた。

 

 『Amen──』

 

 救助のヘリがこちらへ向かっている。じき、福音に墜とされた機体のパイロットの救助が始まるだろう。

 

 『Amen──』

 

 ラプターは三沢へと戻っていった。

 

 『状況d)w4。──rd♯)w2達成──kgj(\”投──sdzx【▪#(──R──T──B──』

 

 全てが予定通りに進んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 「福音の反応をロスト。ラプター、作戦エリアより離脱していきます。ラプターより信号を受信……『RTB』だそうです」

 

 発令所は安堵の空気に包まれていた。福音を第一防衛ラインで撃墜、福音に墜とされた同僚たちの生体反応も全員分感知された。専用機持ち──生徒たちを危険な目に合わせることなく、作戦は終了した。それは彼女たちにとって幸運なことで、良い結果だった。細かい所──最後のラプターのECMで友軍が撃墜された件については文句の一つや二つはあった──を置いても、最上の収まり方と捉えられた。

 

 その中で一人、険しい表情のまま腕を組む千冬。

 

 「どうした?」

 

 マグカップを持った村上が聞いた。

 

 「これで本当に終わりか?」

 

 「どういうこと?」

 

 千冬はついさっきまでのログを見る。最後の三十秒を、睨むように。村上もそれを見て、自身の端末でログを呼び出した。ログによれば、ラプター以外の友軍機が全て墜ちた後、二機はほんの少しの間静止していた。この時点で福音の損傷率は九割を越え、いつ機能停止してもおかしくはなかった。互いに静止した二機はそのまま動かずに、福音が機能を停止し海中に没した。

 

 「これがどうした?」

 

 「こんなにあっさりと終わるとは思えなくてな……あいつが出てきてこんなに単純にコトが収まった試しが無い。それに、」

 

 「何故、紅椿を出したか?でしょ」

 

 「あぁ」

 

 千冬は考える。これはまだ終わりではない、と。この結果を額面通りに受けとるならば、安堵しているオペレーターと同じ心境だろう。しかし、千冬には篠ノ之束と紅椿という拭えない不安がある。何故、束は出てきた?何故、紅椿を篠ノ之箒に渡した?ログに残された最後の三十秒。突然の静止。まるで、自ら沈んだかのような福音。自衛隊、学園側の機体の多くが戦場からいなくなってから攻撃を始めたラプター。不可解。気持ち悪さが広がる。一夏が死ぬという予言。何故、束はそんな事を言った?束がこの結果を予想していなかった?否だ。あいつはこれを間違いなく予想している。その上での予言。これ以上の何かが起こる?

 

 「うぅん、あたしはそれよりもラプターの方が気になるなぁ」

 

 ログを見ていた村上が呟いた。千冬が顔を見ると、村上は続けた。

 

 「気持ち悪さっていうか、人間味の無さ?機動がね、まるで人を乗せて無いような……でも、確実に無人機って言える程の無機質な動きでも無い。すごく不思議な、怖い動きだったよ。あたしはそう思った」

 

 「中途半端?」

 

 「そう。人と機械の中間みたいな……無駄がある動きでもなく、無駄がない動きでもない。ムラっ気かな?出来損ないのAI乗っけてる感じ?」

 

 中途半端な機動。人と機械の中間。畑違いの千冬には上手く理解出来なかったが、言わんとすることは分かった。作戦時の不可解な挙動、見ていて頭を掠める違和感、ズレた感じ。千冬の感じたそれが村上が言う気持ち悪さなのだろう。そう、千冬は解釈する。

 

 パイロットがベストコンディションではなかった、という仮説を立てる。却下だ。それならば村上が言う無駄の多い動き、その無駄が多く現れる。そんな機動をすればすぐに被弾して、撃墜されてしまうだろう。

 

 パイロットが我々に通達されていない指令を受けていて、それを遂行するためにあのような機動を取った。却下だ。いろいろと証明するのが難しい。もし、そういう指令を受けていたとして、ラプターは何をした?最後の静止と序盤に手を出さなかった二点が怪しいがそれだけでは推測出来ない。仮説としては機能する。これに対する有効な抗弁、反対意見、反証が無い。だが、この場合仮説として機能するだけでは駄目だ。

 

 では無人機であるか?却下。無人機であるならもっと容赦が無い。静止などせずに、最短で撃墜する有効打を与えるだろう。

 

 「織斑先生、救助ヘリの準備が整いました。専用機持ちたちはどうしますか?」

 

 「あぁ……専用機持ちたちも救助に参加させろ」

 

 「了解です」

 

 オペレーターに指示を出して途切れた思考を再び回す。何が起こるか。何が隠されているのか。刺さった棘を抜くように慎重に考える。しかし、詰まってしまう。ラプターの違和感も、静止の意味も。考える。こんな時、束ならどう考えるか。そんな思考が頭の片隅に過り、

 

 「まさか……」

 

 繋がる。一つのピースがカチリ、と嵌まり、千冬の脳裏に一つの仮説が浮かび上がる。

 

 もし、ラプターの目的が福音の撃墜でないとしたら?

 

 全てが予定通りに進んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 専用機持ちたちは福音の撃墜が確認されたポイントで救助活動を行っていた。海上を漂うパイロットたちをビーコンの反応を頼りに引き上げ、ヘリへと乗せていく。死者はゼロ。重傷者もゼロ。

 

 「これで全員か」

 

 一夏が言う。もうビーコンの反応は無かった。海上に漂流する物は視認出来ず、発令所からも帰投命令が出ていた。

 

 「こちらユニットB、全救助者のヘリへの収容を確認。帰投する」

 

 ラウラが通信を入れる。了解、と短い返信を聞き、全員に声を掛ける。

 

 「帰投するぞ」

 

 各機がスラスターを吹かし、巡行モードで帰路に着く。

 

 「箒?どうした?」

 

 一人だけその場から動かない箒に一夏が声を掛ける。浮かない顔をしていた。拳を握り締め、海面を見つめている。

 

 「あぁ……いや、何でもないんだ……」

 

 「具合でも悪いのか?大丈夫か?」

 

 まぁ、仕方ない。一夏はそう思った。初めての実戦だ。以前のVTシステムの時とは違い、本当の意味での大々的な実戦。大規模な作戦だ。自分も初めてで、緊張した。箒も緊張していたのだろう。張り詰めた糸が途切れて気が抜けてしまったのかもしれない。自分も多くはないが、箒はこういう鉄火場に慣れていない。

 

 「帰ろうぜ。帰って美味い物でも食おうぜ。気を張ってたら腹減っちったよ……箒?」

 

 手を引いて促しても反応が薄い。心ここにあらずという言葉が相応しい様子だった。何度名前を呼んでも、変わらず、海面を見ている。海面には何も浮いてない。揺れているだけ。

 

 「おい、箒!!何してるんだよ!!」

 

 『嫁、どうした?』

 

 「ラウラ、箒が動かないんだ。様子がおかしい」

 

 『……すぐ戻る。嫁、篠ノ之から離れてろ……』

 

 先行していた四機が一夏のいる方へ戻ってくる。レーダーには凄まじい速度で接近してくる四つの光点。最大速度だった。

 

 「力が……守る……力が……」

 

 「箒?」

 

 小さな言葉。箒の呟きは一夏には聞き取れなかった。

 

 「一夏を守れる力が……取り零さない……信じ抜くだけの……劣等感を殺すだけの……力が」

 

 「何言って……」

 

 五つ目の光点。一夏と重なる光点。直下。IFFに反応無し。

 

 『一夏!!すぐに離脱しろ!!やつら──』

 

 「え?」

 

 姉の切羽詰まった声。白く潰れる視界。暖かい。極光に呑まれる。

 

 「い……ちか……?」

 

 福音、再起動。

 

 白式、撃墜。

 

 全てが予定通りに進んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 束の手を逃れた石井を待っていたのはまた、地獄だった。父のベッドに棲みついた長女と石井さんのぬいぐるみ。放置が生み出した、歪んだ家族愛。愛情と劣情、退廃と倒錯とをコンクリートミキサーにかけてぶちまけたここは、束さん家の旦那の部屋。
次回、『倫理』。来週も、石井と地獄に付き合ってもらう。


 という嘘予告。やりません。


 中々筆が進まないけど頑張って書きます。

 御意見、御感想、評価お待ちしてナス!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。