転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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話、進みません。


anti―no―my♯静謐♯悦

 姉が憎かった。何でも出来る姉がどうしようもなく嫌いだった。

 

 こんなにも憎いのに、私を気にかけて、心配してくる姉を心の底から恨めしく思っていた。私がどんなに努力しても出来ないことをさも当然のようにこなして、私に懇切丁寧に教えてくる。最高の嫌がらせだと思っていた。

 

 姉は天才だった。幼い頃から難解な数式を解き、類い稀な身体能力を発揮していた。それこそ、両親が不気味がるぐらいには。異常だった。私たちの理解の外側にいる化け物。姉に抱く感情に恐怖という物が追加された。両親が姉を叱る時には私もそれに加勢した。口汚く姉を糾弾した。姉はそれをただ、受け入れていた。

 

 姉がISを開発した時は人生で一番大きな声を出して罵った。姉のせいで一家離散。姉のせいで転校。姉のせいで一夏と離ればなれ。全て姉が悪い、諸悪の根源、何故この女の妹に生まれたのだろう。おまけに白騎士事件だ。

 

 憎い。殺してしまいたい。昔の自分を、殺してしまいたい。

 

 劣等感に苛まれて、訳もなく姉を憎んでいた自分を消してしまいたい。

 

 姉はいつも家族を、私の事を考えていてくれた。仔細を聞いた。真実を知った。姉が私たちの為に証人保護プログラムの適用を取り止めて自分が軟禁されている研究所で暮らせるように嘆願書を書いて、取り下げられた事を。

 

 許されるとは思わない。拒絶されるかもしれない。それでも謝りたい。今までのこと、愚行を、信じられなかった事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 「今回の作戦、どう思う?」

 

 「どう思うとは?」

 

 「嫌な予感がするんだ、何となく」

 

 ふぅん、とラウラは返す。機体の調整待ちのどうしようも無い時間。昼間遊んだビーチには沢山のコンテナと小銃を抱えた警備科の職員。シャルと世間話をしていた。

 

 「不確定要素っていうか、危なげというか。すごく不安定な環境だよね」

 

 「ラプターと箒?」

 

 「うん。はっきり言って、すごく怖い」

 

 専用機持ち向けのブリーフィングで言われた第四世代機、紅椿に篠ノ之箒が乗るという事。三沢から来るラプター。後詰めにラプターを入れないという不審。軍属である専用機持ちの中でも実際に従軍し、作戦行動した経験のあるラウラと企業のブラックオプスに触れたことのあるシャルはとりわけこれらに反応した。言い知れない予感と、胸騒ぎ。決して無視できるものではない。

 

 「この作戦、父様は何も言わなかったらしい。途中から来た博士が紅椿とパイロットを指名しただけだと聞いた」

 

 「何で、箒なのかな?」

 

 「分からん。何かしらの理由はある筈だが。親族だからという理由だけでは無いだろう」

 

 「うぅん……嫌だなぁ、この空気」

 

 第四世代機。それがまるごとオーバーテクノロジーだか、空想の産物と言える代物だ。各国が第三世代機の開発をしている中、独力で開発されてしまった規格外の機体。カタログスペックだけでも分かるじゃじゃ馬で、兵装を換装せずにあらゆる局面に対応出来る汎用性と単体で超高速戦闘をこなせる速度。国家代表でも十全に扱うことは難しいだろう。それを一学生、代表候補生でもない人間が乗りこなせるのか?戦場で足手まといにならないのか?シャルはずっと、それが引っ掛かっていた。

 

 そもそもの話、シャルは作戦に参加したくなどない。新しい機体はまだ自分に馴染んでいるとは言えず、コアこそ今までのラファールの物を流用しているが、兵装は使ったことの無い物やクセの強い物もある。そんなコンディションで自分の命を掛けられる程シャルは無鉄砲ではない。それはありありと表情に出ていた。

 

 「私、危なくなったら一夏連れて逃げる」

 

 「嫁は納得しなさそうだがな」

 

 「死ぬよりはマシだよ。ラウラも同じことするでしょ?」

 

 まぁな、と返してラウラは缶のプルタブを開ける。ブラックコーヒーだ。シャルは首を傾げた。

 

 「コーヒー飲めないんじゃないの?」

 

 「父様が飲んでるからな。克服しようと思って……」

 

 缶を傾けて、顔をしかめながらもコーヒーを流し込むラウラ。ファザコンかよ、と笑いながらそれをシャルは応援した。頑張る子兎を見て、少しばかり気が紛れた。

 

 浜辺の方を見ると、紅椿が格納されたコンテナがヘリに吊られて運ばれていた。地面に着き、コンテナが開くと、深紅の美しい機体が姿を現した。漠然と、あぁ綺麗だなぁ、という感想がシャルの内に浮かぶ。深い赤は血のようで、しかし気品を感じさせた。武装は二本の刀のみ。

 

 「あれだけで、戦えるの?」

 

 缶コーヒーとの格闘を終えたラウラに聞く。

 

 「近接武装だけというのは、嫁も同じだろう。それに展開装甲というのもある。まぁ、剣道を嗜む箒らしいと言えばらしいがな」

 

 「でもさ、福音の懐に潜り込んで一夏が一撃入れるんだよね?白式と紅椿で交戦距離が被るとミスが起きやすいと思うんだけど」

 

 「指示を出していくしか無いだろう。あまり、箒には突っ込ませないようにな。主役は嫁だ。我々は皆脇役、支援に回ることが役目だ」

 

 紅椿と箒のフィッティングが開始された。整備科の連中が忙しなく動いてるのは見える。遠目で見ても、そのスペック、ディテールにその血をたぎらせ、興奮している様が分かる。技術屋としては堪らない物があるのだろう。シャルはそれが有澤()の社員と重なって見えて、笑った。

 

 「浮かれてるな」

 

 ラウラが言った。抑揚の無い、フラットな声だった。

 

 遠目で見ても紅椿に乗る箒はとても嬉しそうだった。何か願いが叶うような、一歩踏み出したかのような。そんな幸せな夢を見ているような。

 

 「私、死にたくないな」

 

 「さっきからだが、やけに辛辣な物言いだな」

 

 「いや、だって死にたくないし。今が幸せだし、この幸せを逃したくないから」

 

 死ぬなら勝手に一人でやってほしい、とシャルは吐き捨てた。それは心からの言葉で、嫌悪も入り雑じった物だった。彼女にとって、今の生活は何としても守りたい物であって、享受したい物でもある。天恵か贈り物か、突然齎された幸福。断ち切られた呪縛と、暖かな義理の両親。そして隣に座る銀髪の友人と好きな人。やっと彼女は一人の少女として生を歩み始めた。それを奪う結果を彼女は認めない。それが内在的な要素から来る物であっても、同じ釜の飯を食った相手でも、シャル・有澤はその結末を導く要素を許さない。本来ならば、篠ノ之箒をここで出撃出来ないようにしてしまいたい。骨の二本や三本を折って、機体に乗れないようにしてしまいたい。極論だが、それがベストだと感じている。直感、予感、虫の知らせ。言い方は様々あるが、そういった物がシャルに教えてるのだ。やばい、と。良くないことが起きる、と。

 

 「まだまだ、やりたいことあるしね」

 

 「例えば?」

 

 「一夏とデート」

 

 「そういうことを言う奴程早死にするらしいぞ」

 

 「そうなの?」

 

 「副官が言ってた」

 

 ニヤリ、と笑うラウラを見て情報のソースが信用ならないというツッコミを止めた。そんな言葉の一つ二つで自分の生き死にが決まるなんて冗談じゃない。気を付けるよ、と言って再び紅椿の方を向いた。凡そ、戦場の前の会話とはお思えない程和やかな物だった。

 

 「頑張るかぁ」

 

 シャルの呟きを、ラウラはちらりと見て流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 投影ディスプレイの明かりだけが光源となった発令所で千冬に一人の女が声を掛けた。

 

 「恐ろしいねぇ、あんたのお友だちは」

 

 「あぁ、世界で一番怖い。すまない……」

 

 女からコーヒーの入ったマグカップを受け取り、口に運ぶ。御世辞にも美味いとは言えなかった。

 

 「相変わらずお前の淹れるコーヒーは不味い」

 

 じゃあ飲むな、と女は不貞腐れたように頬を膨らませる。似合わないぞ、と千冬が言うと舌打ちをして自分の淹れたコーヒーを一気に飲んだ。

 

 「確かに不味いね。自分で言うのもあれだけど、泥水みたいだ」

 

 「もうここまで来ると才能だよ。誇っていい」

 

 女は肩を竦めて鼻で笑った。 

 

 「紅椿はどうだった?」

 

 千冬は女に聞く。

 

 「化け物だね。あんな物を一人で作られちゃ、世界中の技術屋の顔が立たない。現行の機体なんて一捻りにされちゃうよ」

 

 「機体はな」

 

 「パイロットの方は?」

 

 「どうだかな。最悪を想定しておいて悪いことはない。こんな作戦、死人が出てもおかしくは無いだろう?上も無茶苦茶言いやがる」

 

 へぇ、と女──整備科主任、村上は相槌をうつ。つまりはダメという事だ。実力なのか、メンタルなのか、少なくとも何かしらがパイロットには欠如していて、紅椿に乗るに値しないと千冬は考えている。村上はそう読み取った。確かに上も無茶苦茶を言うが、篠ノ之束も無茶苦茶言いやがる。態々、妹を戦場に送る。それもとんでもないモンスターマシンに乗せろだなんて正気じゃない。本当に恐ろしい。

 

 「フィッティングは済ましたよ。とりあえず、機体の方は大丈夫。そういえば、博士は?」

 

 「さぁな。何処かほっつき歩いているんだろう」

 

 部屋をぐるりと見回す。石井の姿は無く、オペレーターが黙々と仕事をこなしているだけだった。何となく察しがついた。

 

 「ムカつく?」

 

 「それなりに」

 

 村上は少し驚いた。あの織斑千冬が素直に自分の気持ちを認めたのだ。珍しいこともある、と泥水のような自分で淹れたコーヒーを啜る。何だかんだと言って、自分で淹れたコーヒーを村上は気に入っている。その不味さで頭が冴えるという他人からすれば意味の分からない理由ではあるが。

 

 「まぁ、頑張んなよ。まだまだチャンスはあるぜ?横からかっ拐え」

 

 「うるさい」

 

 不機嫌そうにそっぽを向く千冬を見て満足そうに笑う。発令所の空気も少し和やかになる。溜め息を吐いて千冬も不味いコーヒーを飲む。

 

 「あの子、危ないよ」

 

 「浮かれてたか?」

 

 「そりゃ、分かりやすく。死んじゃうかも」

 

 フィッティングの際の箒の表情を村上は見ていた。分かりやすく浮かれていた。篠ノ之束の考えが分からない。凡人にその考えが理解出来るとは思えないが、それでも何故、妹の命を危険に晒す真似をするのか。

 

 「主任、全機調整完了。いつでも行けます」

 

 発令所に大内が入ってきて、出撃準備が完了したことを報せる。空気が変わった。張り詰める。先行した部隊は第一防衛ラインでラプターと自衛隊と合流し、ユニットAを形成。残るは第二防衛ライン、専用機持ちのみだ。

 

 「HQよりユニットB各機。行けるな?」

 

 『B1行けます』

 

 『B2からB6、行けます』

 

 「出撃」

 

 外からスラスターを吹かす音が聞こえた。夜はまだ、始まったばかり。もう脈絡も無く、文脈も滅茶苦茶な会話は出来ない。

 

 一気に六機のISが出撃したせいか、外では強い風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





前回の石井さんと束さんが崖で会話してる時、他の人は何してたかって話です。

無性にシャルロットが書きたくなったんや……

村上さん地味に登場させました。実は結構前に名前だけ出てます。探してみてね!!

ご意見、ご感想、評価お待ちしてナス!!

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