転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。 作:逆立ちバナナテキーラ添え
よろしくお願いします。
楯無さんが「ここが!!この戦場が、私の魂の場所よ!!」って言いながら石井さんと戦う夢を見ました。
起きたら熱があったよ……。
ボーデヴィッヒはあの後医務室に運ばれ、検査の後一日入院することになった。機体、パイロット共々大きな負荷が掛かった為身体にどんな影響が出るか分からないとのことだ。
機体に負荷がと言ったが、元のレーゲンが既に存在していないのだからそちらに関しては何とも言えない。コアは上手く回収できて、損傷もごく軽微に抑えられた。今はその機能を一時的に停止して内部に残る
今回の件の後始末は無人機の時よりは楽な物だった。表向きは事故として処理する為、前回のように色々と面倒なことが少ないのだ。政治家に話すことも官僚に提出する回答書も、各機関からの突き上げも無い。施設の損害も想定の範囲内だった為、管理科としてもさほど負担にはならないらしい。
全ての始末を終わらせて、私は医務室へと向かった。既に日は落ちて、セシリアの時のように校舎には誰もいなかった。
セシリアと同じように電極を貼り付けられてボーデヴィッヒは眠っていた。まるで憑き物が落ちたような穏やかな顔で眠るボーデヴィッヒを見ながら招かれざる客に声を掛けた。
「珍しいな。君が直接会いに来るなんて」
「まぁねー。たまには直接会いたくなるんだよ。最近は電話もくれないから寂しかったよー?」
「私も一応は教師なんだ。それなりに忙しいし、それなりにやることもあるんだよ」
ベッドを区切るカーテンから、エプロンドレスを着た女が姿を現して私に背後から抱き付いた。私の首筋に顔を埋める童話の世界の住人は、暫くそうしていると弾かれたように私の正面に回った。
「ということで、やぁやぁ久しぶりだねいしくん!!元気にしてたかな?」
「まぁそれなりにね。君こそどうなんだ?君が風邪をひくようにも思えないが」
「さすが!!いしくんは束さんのことをよく分かっているね!!満点をあげよう!!」
いらない、と言ったのだが何処からか出した赤ペンで私の手の甲に花丸を書く飼い主。この女が話を聞かないのはいつものことなので慣れたが、昔は一日に一回は大喧嘩していたこともあった。作りかけの晩飯を全部食われたり、無闇矢鱈と洗濯機の中に洗濯物を突っ込んだり、映画見てる時に肩を叩かれて振り向いたらパイ投げされたり。話を聞かないことと関係無い気もするが、そこは気にしない。
「それで何の用かな?君が態々
「それもそうだね。今日束さんが来たのはね、この子を誘拐する為だよ!!」
「ボーデヴィッヒを?」
単純に驚いた。あの束が何の接点も無い赤の他人に興味を持ったのだ。ボーデヴィッヒをどうするかは知らないが、他人を『こいつ』、『有象無象』、『ゴミクズ』でなく、『この子』と呼んだ。人として、一個の生命として認識したのだ。天変地異の前触れか、はたまた具合が悪いか、気が触れたか。何があったかは分からないが、私の知らない内に真人間になったというのか?その可能性だけは断じて無いのだが。
「モルモットにでもするつもりか?それとも一夏君と箒ちゃんに害を与えたから殺すのか?」
「そんな物騒な理由じゃ無いってば!!まぁ、その辺りの理由も説明していこうか」
そう言うと束は一枚の紙を渡してきた。ボーデヴィッヒのカルテだった。
「薬物反応?」
そこにはボーデヴィッヒの体内から薬物反応が検出されたと記されていた。それはごく微量だったが、それでも代表候補生という立場にいる人間から出てきていい物では無い。それに検出された薬物も問題だった。
「LSD……?」
リゼルグ酸ジエチルアミド、ドイツ語の『Lysergsäurediethylamid』を略してLSDと呼ばれる。半合成の強力な幻覚剤だ。中毒性はさして高く無いが、自白剤や酩酊薬としても使われることがある。
「いしくん、MKウルトラ計画って知ってる?」
「大昔にCIAがやっていた実験だったかな……?確か、ナチスに関わっていた科学者をアメリカに連行したペーパークリップ作戦から派生したとか。マインドコントロールの効果を立証する為の実験だったと聞いているよ」
「そう。LSDをCIAの職員から妊婦まで、手広く投与してやったってやつだよ。化学、生物、様々なアプローチで自白させたり、洗脳したりさせる計画。他にも並行して色んな研究をしてたらしいけど、もう詳しいことは分からないね。結局は打ち切りになったらしいけど」
「で、それと同じようなことがボーデヴィッヒに施されたと?」
「その通り。この子が学園に来る前の数ヶ月間、機構の研究所から出向してきたカウンセラーとの面談が定期的に組まれてたんだよね。十中八九それでいっくんへの憎しみだの、いしくんへの憧れとか、ちーちゃんへの歪んだ気持ちとかを植え付けられたと思うよ。何処かの学者も言ってたよ。『生命体は複雑なコンピュータであり、LSDは再プログラミング物質として役に立つ』って。後は組み込んだVTシステムの方に少し細工をすれば、催眠効果は持続するって具合だね」
「それは分かった。じゃああのVTシステムは何だ?私の知るVTシステムより、大分悪辣な物だったが?」
機能停止したと思ったら再起動したり、気持ち悪い触手を伸ばしたり、機体の骨格を融解させて再構成したりと随分やりたい放題な物だった。動きをトレースするだけでは無かった。凡そ別物と言っていい物だ。
「あれは紛れもなく、VTシステムだよ。ただ、ちょっと特殊なプロトVTってやつなんだけどね」
「どういうことだ?」
「アラスカ条約が締結されるよりも前に製造された十一基のVTシステムだよ。通常のVTシステムより凶悪な性能でね、パイロットを取り込んで生体コア化したり、搭載された機体を作り替えたり、パイロットを使い潰して成果を獲得するギミック満載だよ。いしくんなら分かるよね?あれと直に戦ったんだから。まぁ実験段階で色んな物を詰め込みすぎた感がすごい駄作だけどねー。非効率的だし」
「まぁね。倒せない相手ではないし、パイロットが何人いても足りないね。それでこれらがどう、ボーデヴィッヒを誘拐するのに関係してくるんだい?」
「それはね、この子がくーちゃんの妹だからです!!」
確かにボーデヴィッヒはクロエと同じように
「くーちゃんがね、この子を見て妹ですって言ったんだ。それで聞いてみたらくーちゃんがいしくんに会った研究所に移されるまで、一緒に過ごしてたらしいの。調べてみたら、くーちゃんが生まれたのは第三十一期製造計画。この子も三十一期。振り分けられた製造ナンバーもくーちゃんが十八、この子が十九。正真正銘の姉妹なんだよ!!」
似ているとは思っていたが、そういうことだったのか。しかし、そうなるとボーデヴィッヒを拐ってどうするんだ?まさか殺しはしないだろうが。
「で、誘拐してどうするつもりだい?物騒な理由じゃないって言ったが……」
「端的に言えば、治療とISの復元かな。それとくーちゃんに会わせてあげようと思って」
「そうか。まともな理由で安心したよ」
これでろくでも無い理由だったら、本当に面倒ごとにしかならない。ドイツの代表候補生が天災に殺されたとか、私の出番しかない。とりあえず殺して、その次に殺して、仕上げに殺して。ついでに話し合い。頭に血が昇って戦争仕掛けてきたらこうなる未来以外あり得ない。肉体労働九割の頭の悪い単純作業だ。御免被る。
「十蔵さんには私から言っておくよ。数日は公欠に出来ると思う。機体の復元はどれぐらい掛かる?」
「二日かな?」
「なら、四日程度でいいか。君も余り無理なスケジュールを組まないように。クロエの妹だからと張り切って君が体調を崩したら元も子も無い。寝てないだろう?顔色が悪いよ。少しで良いから寝るべきだ」
「無理って程でも無いから、大丈夫。寝てないのはらーちゃんのこと調べてたからだよ」
そう言って束はボーデヴィッヒの髪を撫でる。なんというか、本当に子供に甘い。特に気を許した相手であれば尚更だ。
「それじゃあもう行くね。ちーちゃん来そうだし」
「あぁ、気を付けて」
「たまにはラボに帰ってきなよ。シュープリスのメンテとかさ、君のご飯食べたいし」
「雑な男料理の何処が良いんだい?まぁ君が言うなら作るよ」
楽しみにしてるよ、と言ってボーデヴィッヒを脇に抱えて窓に足を掛ける束。まるでお宝を盗みに来た怪盗だ。
「あぁ、それと──」
去り際に彼女はこう言った。
「君の飼い主は私だよ?その事を忘れないように」
「政治屋どもが……リベルタリア気取りも今日までね、貴方たちには水底が似合いよ。いけるわね?フラジール」
「はい、そのつもりです」
「こちらホワイトグリント、オペレーターです。貴方達は、IS学園の主権領域を侵犯しています、速やかに退去して下さい。さもなければ、実力で排除します」
「へぇ、クロエ・クロニクルね。天災失陥の元凶が何を偉そうに……ホワイトグリント、大袈裟な伝説も今日で終わりよ、進化の現実ってやつを教えてあげるわ」
って展開を考えてボツにしました。
え?白栗は誰かって?石井さんだよ。
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