転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。 作:逆立ちバナナテキーラ添え
恐怖はつねに人間の中に何か正しくないことが生じた徴侯である。恐怖は、苦痛が肉体に対して果すのと同様に、精神に対しても貴重な警告者の役目を果す。
ヒルティ 「幸福論」
明確な変化があった。
これまでの戦いで贋作は相手に向かって構えるということをしなかった。一夏との戦いに於いても、斬りかかってくる一夏をひたすら突き返し、初手で仕掛けることは無かった。
だが今、目の前で贋作は雪片を正眼に構えている。贋作であろうと、仮にも世界最強の一角の力その物が油断無く、織斑千冬の
「先生……」
自分たちの前に背を向けて立つ男──石井に一夏が声を掛ける。満身創痍、その言葉通りの彼はラウラや箒たちに抱えられ地面に寝かされていた。腕からは血が流れ、目の焦点は合っておらず、今にも意識を手放してしまいそうな様子であった。
『君たちは下がっていなさい。後は私が引き受ける』
加工されたマシンボイスではあったが、石井はそう言った。その言葉と共に、箒たちは一夏を背負いピットへと下がっていった。
一夏たちが退避したことを確認すると石井は贋作へと向き直った。そして、ある疑問を浮かべた。
『何故、未だに動いている……?』
単純な話として、ISはパイロットがいなければ操縦することは出来ない。飛行機然り、自動車然りだ。無人機でない有人機ならば、それは常識の範疇の話だ。だが、目の前にはパイロットを失っても尚再起動を果たし、自分に刃を向けている機体がある。
石井はある程度、今回の元凶の一部と言えるVTシステムについての知識を持っていた。
既に元のレーゲンとしての骨格は無く、装甲の全てが溢れ出た泥で構成されていた。動きをトレースするだけで無く、機体の基本骨格から全てを塗り潰して作り替えたのだ。恐らく、コアは侵食されているだろう。
以上の事から贋作を止める為には少しばかり手荒い方法を選ぶしかない、と石井は確信した。贋作を構成する装甲を全て剥がして、コアだけを露出させたとしよう。そのコアから再び新しく泥が溢れ、装甲を形成しないとは限らない。しかし稼働限界がある筈だ。無人で起動しているという事は、かなりの無理──外部からハッキングして無理矢理に動かしているのだろう。総数約五百のコアから成るコアネットワークに介入しているのだから、長くは持たない。いつ弾き出されるか分からないからだ。更に、コアを侵食しているVTの泥も機能停止させなければならない。
ならば、コアに衝撃を与えて泥を止めれば万事解決という訳だ。外部から軽い損傷を加え、コアの自己防衛機能を作動させてコアの機能を一時的にシャットダウンさせる。さすがにコアを破壊する訳にはいかない故に手加減はするつもりのようだが、どうなるかは分からない。
前提として、現在石井と呼ばれる男は怒りを覚えている。俗に言う、マジギレという物だ。彼自身身勝手極まりない怒りである、と思っているようだがその子細は分からない。助けを求めるラウラの姿が自分を父と呼び慕う子供と重なったか、はたまた未だに距離を置くその子供を助けた日を思い出したかは知らないが、とにかく石井はキレていた。それ故にうっかり破壊してしまうことがあるかもしれない。実際その事態になって頭を抱えるのは学園側とドイツ側で石井からすれば知った事では無いのだが。怒りに飲まれることも無く、感情のまま突き進む訳でも無く、己という弾丸を怒りという銃に装填した。
その睨み合いは終わりを迎えた。
「■■■■■■■■■!!」
恐怖、とも感じられる声色で叫びを上げた贋作は石井に突っ込んでいった。上段に剣を構えながら突き進み、降り下ろすだけの単純な一撃。それだけでも凡百の機体とパイロットなら両断されていただろう。それほどの速度、それほどのキレをその一撃は持っていた。
だが、この状況でそれは悪手であり、短慮であり、浅はかとしか言い様が無い。贋作が相手にしているのは名実共に世界最強の一角のオリジナルである。数多の敵を打ち破り、血と屍で天災の歩む道を切り開いてきた男に贋作程度の一撃が通用する筈も無い。
ブースト音と共に光が舞う。渾身の一振りは何も捉えず、空を斬る。眼前には敵の姿は無く、贋作は周りを見回そうとするが、それは横腹に襲い掛かる衝撃で叶わない。
側面からの銃弾の雨霰に襲われた贋作は後退を余儀無くされる。一発一発が現行のISに使用される実弾よりも重く、通常であればシールドエネルギーを瞬く間にゼロにして絶対防御を貫通しパイロットを殺してしまうだろう。何を置いても敵の殺害を目的とした弾丸は後退した贋作にも容赦なく降り注ぐ。
「■■■……」
苦痛のような声をあげる贋作。銃弾の嵐に耐えて機を伺うと、ふと嵐が止んだのを感じた。顔を上げ、敵を視認しようと思ったその時、背後から凄まじい力と衝撃を感じ、吹き飛ばされた。アリーナの壁に激突し、体勢を立て直そうとすると次は激しい爆発と熱で身体を焼かれる。それは一度では無い。何度も、何度も焼かれる。
上空を見上げると、背部の砲身を展開した敵の姿。赤いカメラアイが贋作を睨み、細まるとまた砲身からグレネードが発射され、再び贋作を焼く。
この短時間に石井がしたことは大した事では無い。初撃を横に回避し、両手に持つライフルと
爆発によって生じた煙の向こうで影が揺らめいた。
「■■■■■■■!!」
身体を焼かれ、銃弾の嵐に貫かれながらも、贋作は自分を見下ろす死神へと抗おうとする。壊れかけのスラスターとブースターに鞭を打ち、死神に一矢報いようと、一太刀を浴びせようと空を駆ける。
しかし無情にもそれは半歩身をずらすだけで避けられてしまう。至近距離からの弾幕を浴び、地面へと落とされる。
そして贋作は絶望を目の当たりにする。
《不明なユニットが接続されました──システムに深刻な障害が発生しています──直ちに使用を停止してください──不明な──》
その様を見ていた者は一様にそれが何なのか理解が出来なかった。全ての武装を
『
本来の規格を無視し、無理矢理接続し使用する一撃必殺の切り札。暴力をそのまま武装にした禁じ手。
『終わらせる……』
炎を噴出し、軌跡を残しながら贋作へと突撃する。六基のチェーンソーは回転し、唸りを上げる。獲物を喰らわせろと叫び散らす。
贋作は最後の力を振り絞る。残ったエネルギーを可能な限り雪片に回し、切り札を出す。穢れに染まった『零落白夜』を手に死に抗う。
互いの距離が縮まり、暴力の化身と全てを切り裂く刃がぶつかり──
「■■■!?」
──偽物の白き夜は暴力に喰い散らかされた。
黒い刀身を喰らい、腕を喰らい、胸を抉る。散々グレネードで焼かれた身体を更に焼き、抉り、削る。装甲は剥がれていき、コアが露出する。
そしてコアにブレードの先端が当たった瞬間、
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」
贋作は発狂し、焼き尽くされ消えていった。
金属の焼ける匂いがする中、断頭台の処刑人だけが炎に包まれ立っていた。
◆◇◆◇
「す……すごい……」
無意識に口から出た言葉は偽らざる本心だった。アリーナの中心で炎を纏いながら佇む男は自分が紛れもなく世界最強の一人であることをこの場にいる者たちに示したのだ。
一夏は途切れそうな意識を繋ぎ止めながら一部始終を見ていた。贋作の醜悪な黒でなく、誇り高く美しい濡羽色。自分と正反対の漆黒が
有無を言わさず、正面から叩き潰す。圧倒的な力、姉と肩を並べるに足る暴威。それは一夏の中に一つの憧れを生んだ。自分もあの領域に辿り着けば姉を守れるのではないか?守られてばかりだった自分も守れるのではないか、という幻想と共に
「やめておけ」
熱に浮かされたような一夏に冷たい声が浴びせられた。
「先生……?」
いつの間にかピットへ戻ってきていた石井が声を掛けたのだ。手には鈍色の立方体を持っていた。
「君が力を求めるならば、こちらには来るべきではない。君の求める力はあの光景には無い」
そう言って石井はピットを後にした。一夏は石井の言葉を理解しようとしてるのか、黙りこくってしまった。ラウラは石井の背中をじっと見つめ、シャルロットは一夏にストレッチャーに乗るように促していた。
「あれが、姉さんの……天災の猟犬……」
箒は自らの姉が従える男の実力に戦慄していた。自分たちが束になってギリギリで勝てた─実際には勝ってなどいなかった─相手を叩き潰した副担任。この学園に来る前は姉の元で私兵をやっていたということは聞いていたが、これほどとは思わなかった。
模した物とは言え、自分と同門の剣術を扱い世界の頂点に登り詰めた幼馴染みの姉を打倒した光景は箒にとって衝撃的だった。自分の姉はあれほどの力をどう使ったのか、何故あの男は姉に従ったのか、何故この学園で教師なんてしているのか。様々な疑問が頭に浮かび消えていく。
そして何よりも、石井という男が恐ろしかった。
ARCHIVE#5
▪ISコア
ISの心臓部であり、ISを起動させる為に必要不可欠なパーツ。
完全なブラックボックスとなっており、現時点での生産は不可能。これを生産しうるのは開発者である篠ノ之束のみで、失踪以前に生産された約500個のみを世界中の国家、企業が有している。
自己進化や
データ通信用のコア・ネットワークで全てのコアは繋がっており、パイロット間での通信やデータのやり取りが可能である。このコア・ネットワークも謎が多く、ただのデータ通信用では無くコアの自我意識と言う存在が情報を共有する為のネットワークではないかという説が提唱されている。
尚、シングルナンバーのコアは特殊な機能があるとも言われている。
お気に入り2000越え、ありがとナス!!
石井さん暴れて精神的に色々植え付ける。
ネクストですら制御出来ないオーバードウェポンって何なんだ……?(哲学)
早くネタに戻りてぇなぁ……
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