転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。 作:逆立ちバナナテキーラ添え
石井さんブチギレ度43パーセント
石井さん精神的苦痛度73パーセント
石井さん自己嫌悪度95パーセント
まだまだこれから(絶望)
ボーデヴィッヒの授業態度が余り良くないがどうしたら良いのか、と山田先生から相談を受けた。私としては有澤先生からの依頼を片付ける準備で忙しく、自分で対処しろと言いたいのだが山田先生には色々とお世話になっているので無下に出来ない。
正直に言ってどうしようも無いだろう。あれは何かに取り憑かれている。どうしようも無く何かに執着している。大体見当は付くが、執着の対象に否定されたらされたで面倒な展開になるのが目に見えている。踏んでも踏まなくても爆発する地雷なんてどうしようも無い。だから
「様子を見ましょう。上手く馴染めてないんじゃないんですかね?そのうちクラスに馴染めば、良くなりますよ」
適当にそれらしいことを言って投げた。私としてもボーデヴィッヒは余り関わりたくない。触らぬ神に祟りなしという奴だ。
そう言うと眩しい笑顔でお礼を言われて若干罪悪感を感じたが、そこは割り切った。
ここ最近はそれなりに暑くなってきた。じめじめしたり、湿気で蒸し暑かったり。シャツの袖を捲り、ネクタイを緩めながら黙々と仕事をこなす。
この過ごしにくい時期に面倒なことばかりだと思ったが、そういう訳でもなかった。三人目の男、シャルル・デュノアは私の予想通りだった。なんという頭の悪い計画か、三文小説を読んでいる気分になる。落ちぶれてそこまで形振り構わなくなったのかと思わず笑う程、アホらしい。あんなクオリティの低い男装で男と言い張るのは無理がある。普通に女子で入学させて落とした方がいい気がするのは私だけだろうか?リスクを侵しすぎだろう。まぁ、その場合は一夏君が好きな子たちから警戒されるから、どちらでも変わりはないのかもしれない。
そんなこんなで着々と準備は進められている。先生と連絡を取ったり、知り合いに仕事を頼んだり、飼い主に少しばかり通販紛いのことをしてもらったりと。進捗は悪くない。必要なピースは集まってきているし、今の所障害と言える物は無い。
時計を見ればもうそろそろ授業が終わる。この後は部活動ないし個人訓練の時間だ。私の仕事はもう無い。屋上でタバコでも吸おう。最近タバコの減りが早い気がするが、気にしてたらやってられないので頭の片隅に追いやる。
屋上には誰もいなかった、ふと見下ろせば、部活に勤しむ生徒や寮へと帰る生徒たちが見える。時たま私に気付いた生徒が手を振ってくるので私も愛想笑いを浮かべて振り返しておく。何となく途中で買ってきた缶コーヒーを開けて、タバコにも火を付ける。
頭に何も思い浮かべずに海を見る。海を見れば自分がどれだけ小さな存在か分かるだの悩みが消えるだの宣っている奴がいるがあれはウソっぱちだ。事実、私はそんな気にならないし、悩みという程の物を持ち合わせてはいないがこの気分の悪さが解消されることも無い。まだ浴びるほど酒を飲んだ方がマシだ。
そんな端から見ればやさぐれた、あるいは退廃的なことを考えながら缶コーヒとタバコに交互にキスをしていると私の愛しいマルボロが横からかっ拐われた。
「お煙草は御体に悪いですわよ?」
「何だ……君か。返してくれないかな?吸い始めたばかりなんだ」
セシリアちゃんだった。西日に照らされ綺麗な金髪が黄金色に輝いている。それに何処か懐かしさや郷愁といった物を感じた気がした。
「ダメです。最近ずっと屋上でお煙草を吸ってらっしゃると伺っております。余り吸いすぎるとあなたのお体に障ります」
「良いじゃないか。別に、私がどれだけタバコを吸っても、肺を患って早死にしようが、君には関係ないだろう。いや、寧ろこうやって少しずつ身体に毒を入れていけばその内確実に死ねるか……無理だな……」
「何かあったのですか……?」
「そう見えるかい?」
「えぇ、とても辛そうなお顔をされてます……」
「ふぅん、私らしく無いねぇ。辛い顔なんて。鏡を見てみたいよ」
全くらしくないと思う。何を思っているのか、私は気付かぬ内に辛いだなどという表情をしていたらしい。
あの子とボーデヴィッヒを重ねて見ているのか?確かにあの子とボーデヴィッヒは似ている。いや、あの子の妹と言ってもいいだろう。だからと言って、ボーデヴィッヒに肩入れする必要は無い。理由が無い。私があの子を救ったのは何かの間違いだったんだ。この私が人助け?職務の内容で無く、心からの人助け?笑わせるな。セシリアちゃんも教師という職務の元にアドバイスしただけなのだ。ここまで慕ってくれる意味が分からないし、彼女のような清廉潔白な少女がこんな薄汚い犬畜生を慕うべきでは無い。些かぬるま湯に浸かりすぎたか、そのことを失念していた。
「あの、らしくないというのは……?」
「いや、こちらの話さ。辛いだのなんだのと言うのは似合わない……いや私には相応しくないと思ってね」
「どういう意味ですの?」
「私はね、本来ここにいるべき人間ではないのだよ。薄汚い血と泥にまみれた獣だ。それが何の間違いか、まぁ仕事上の理由でここで教師なんぞをしている。醜悪な殺人者が、だ。そんな奴が君や一夏君たちに偉そうに物を言っている。いやはや、本当におぞましい。教師であることを良いことに本来言う資格を持たない言葉を吐き、君たちを騙している。何が人生の先輩としてアドバイスを贈らせてもらうだ……、馬鹿馬鹿しい。私には君にこうして話しかけて貰う価値も無いんだよ……」
私のせいでこの少女が歪んでしまったらどうしよう。この可憐な少女が私のような醜悪な存在に毒されてしまったらどうしよう。堪らなく不安になる。楽園の蛇の如く、私はこの少女をたぶらかす存在だ。この子を楽園から追放させてしまうかもしれない。
「ばか……」
泣いていた。珠のような涙を流して、目を赤くして声を殺しながら泣いていた。ぽろぽろと流れ落ちる涙は彼女の頬を伝い、地面へ染みを作っていく。
「ばかっ……!!」
そう言ってセシリアちゃんは屋上から出ていった。その背中を見送った後、新しくタバコに火を付けた。
あぁ、本当に度し難い。私は人間として失格だ。本当に恥の多い生涯を現在進行形で送っている。こんな私は早く戦場で理不尽に死んでしまえばいいのだ。それが出来ないから困っているのけれど。
◆◇◆◇
夕暮れ時、多くの生徒が各々の部屋へと帰宅したり、思い思いの時間を過ごす中学園の一角に二つの人影があった。
「教官!!何故ですか!?」
銀髪の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒが叫ぶ。目の前で腕を組む女にすがるように、懇願する。
「お願いします!!ドイツにお戻り下さい!!こんなアマチュアしかいない場所はあなたに相応しくない!!あなたには相応しい場所がある!!」
「いい加減にしろ……何度言われようが、私はドイツには戻らん」
「だから何故ですか!?」
その応酬。織斑千冬とラウラ・ボーデヴィッヒのやり取りの殆どがそれで構成されていた。
ラウラは千冬にドイツに戻ってもう一度教官をやって貰いたい。だが千冬はそれを受ける気は無い。交わることの無い二人の考えは平行線を辿り、交わることは無い。そして千冬が突き放すような一言を言った。
「黙れ、小娘」
その一言は百戦錬磨の猛者さえも震え上がらせる迫力を持っていた。凡百の一般人など泡を吹いて気を失ってしまうだろう。しかしラウラにとってはまた別の意味を持つ。千冬の元で一年間訓練を受けたラウラにとってそれは上官の命令であり、上官の命令は絶対である。且つ、彼女の恐怖を身を持って知るラウラをどん底に落とすには十分であった。
「たかが十五年やそこら生きたくらいでもう選ばれた人間気取りか、ボーデヴィッヒ?随分と偉くなったじゃないか。お前に私の道を決める権利などない。何様のつもりで口を開いている?」
普段の彼女ならばここで何も返せずに引き下がらざるを得なかっただろう。刷り込まれた恐怖に抗えずに黙りこくってしまった筈だ。だが、彼女は口を開いた。
「何故……何故、あなたも、あの男もこんなぬるま湯に浸かっているんだ……あなたの道を決める……?何様?私に力を与えたのも、恐怖を教えたのも、憧れを持たせたのもあなたとあの男だろう……好き勝手したら後はどうでも良いのか。責任を取ろうともしないのか……」
「ボーデヴィッヒ、貴様……」
「今のあなたと話すことは無い……失礼する」
そう言って千冬に背を向けるラウラ。その姿を黙って見送る千冬。そしてそのやり取りを偶然見ていた織斑一夏。
この後、盗み見ていたことがバレた一夏は千冬に頭を叩かれ絞られながら寮へと戻っていった。
だが、彼らは知らない。ラウラのレッグバンドが鈍く光を放っていたことを。あの場にもう一人、やり取りを聞いていた者がいたことを。飲みかけの缶コーヒーを持ったその者の顔から表情の一切が抜け落ちていたことを。
ARCHIVE#3
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クローニングによる才能の発現、有用な人材の開発を目的としたプロジェクトにより産み出された人造人間。
クローニングの不安定さから当たり外れの大きく、個体差が大きく出やすいが一定の成果を納めているとの報告が上がっている。
これらの研究はアラスカ条約機構に属する国家や出資する企業で多く行われ、第二次大戦中、優生学的な政策を行ったドイツは究極の個体を作ることを目指し多大な時間と金と労力を注ぎ込んだ。
近年ではこの
ACVDリスペクト。
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