転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。 作:逆立ちバナナテキーラ添え
楯無さんタイミング悪すぎ問題
乾いた音が教室に響き渡る。
頬を叩いた方は侮蔑と嫌悪の視線を向け、叩かれた方は呆然として赤く腫れる頬を擦っている。まるで正反対の反応をしつつも互いの視線は互いを捉え、目を逸らすことはない。
周囲の人間は何が起きたのか、目の前で行われた行為が何であるのか理解が追い付いて無いのか、それとも理解した上で処理が追い付かないのか。目を丸くして声を詰まらせている。
それを教室の後ろで見ていた。壁に寄り掛かってぼうっと眺めていた。
どんな顔をしているのだろう。私はこの光景を、一夏君の頬を叩いた銀髪の少女をどんな表情で見ていたのだろうか?侮蔑か、軽蔑か、嫌悪か、憐れみか。それとも炉端の石を見る程度の物か。どんな物であれ大した意味は持たないのだろう。
気分は数日前から最悪だ。今日も今日とてベッドの上で出勤を躊躇い、拒絶反応を理性で殺してこの教室にいる。態々醜い物を見るためにここにいる。
一夏君を許さないと宣言する少女。今更その行為を咎める篠ノ之箒。静観する織斑先生。居心地が悪そうなもう一人の転校生。それぞれがやっと各々の反応を示す。
あぁ、気分が悪い。君を見ていると虫酸が走るよ。どうして君はそこにいるんだい?どうして君はそんな顔をしているんだい?勘違いも甚だしい、傲慢極まり、本質をどうしても見誤っている。見るに耐えない。
自分でもこの憤りや苛立ちが不合理極まる身勝手な物であると理解している。だが、どうしてあぁなる迄放っておいた?誰があんなモノを植え付けた?誰が彼女をあんな風にさせた?
『ラウラ・ボーデヴィッヒだ』
その一言で分かった。この子は早死にする、と。長く血生臭い世界に浸かってるせいか妙なことばかり身に付いてしまった。その弊害とでも言うべきか、人の生き死にには敏感になった。造られ、弄られ、貶められ、苦しみ、最後に野垂れ死ぬ。この子はそういう人生を歩むだろう。それを良しとするのだろう。
好きに生き、理不尽に死ぬ。
私はそう生きるクソッタレだ、と飼い主に言ったことがある。その通りであり、私の他にもそういう奴はごまんといる。自分で決めたこと、自分の道だ。誰にとやかく言われる必要はない。それが私の矜持だ。戦いを忌避しながら戦いを求める愚かな猟犬の持つちっぽけな意地。
だが、この子は──このガキは違う。まだ何も見ちゃいない。まだ何も分かっちゃいない。私の半分も生きていない癖に終わり迄の道を見つけた振りをしている大人の真似をするクソガキだ。
あの子にさえ救いの道が残されている。それなのに、この子に救いの道が示されないのはどういうことなのだろう。同じように造られて、弄られたのに。
SHRが終わる。あの子の前からさっさといなくなろう。私の精神衛生を健やかに保つために。
そういう時に限って面倒な奴に絡まれる。私の気を逆撫でし、最低の気分を溝の中に漬け込むような奴が来た。
「ちょっと良いですか?石井先生」
「何だい?更識さん」
「むぅ~楯無って呼んで下さいよ~」
「君とそこまで親密になるつもりは無いよ。それでどうしたんだい?私がタバコを吸ってる時に来たんだ。下らないことじゃないことを願うよ」
そう言うと更識は『本題突入』と書かれた扇子を広げた。
「先日の襲撃の際の指示、あれはどういうことですか?」
予想通りだった。よりにもよってこのタイミングでその話をしに来る更識がこれ以上無いくらい忌々しい。気分は最悪、タバコは不味い、話も詰まらない。どうしようもない、踏んだり蹴ったりだ。
「どういうことも何も、そのままの意味だけど?」
「私があの状況で織斑君たちを助けに入ることが邪魔だったと?」
「その通りだと言っているだろう。生徒会長というのは理解力に乏しい役職なのかい?学園最強の名が泣くよ?」
更識の瞳が剣呑な物になった。それもそうだろう。煽ったのだ。誰だって少なからず苛立ちや不快感を覚えるだろう。それぐらい味わって貰わないと、私の現状と余りにも釣り合いが取れない。
「あなたは何を企んでいるの……?」
「ふむ……企むね。織斑先生も同じことを言っていたが、あの人は私を信じた。君は私を半ば敵視している。同じ言葉を発した者でもハッキリと分かれるんだね」
「はぐらかさないでくれるかしら?」
私の周りに水が集まっていく。それは蛇のようにとぐろを巻き、私に近付いて来る。全く物騒なことだ。彼女の美徳である正義感、生徒を守らなくてはいけないという使命感、実に結構だ。好きにするといい。だからこそ邪魔なんだ。首輪を付けられているのに、それに気付かないで飼い主の意に逆らおうとする。滑稽極まる。それに彼女では首輪を噛み千切ることは決して出来ない。
「企むも何もねぇ……私は私のやるべきことを為しただけだよ。はぐらかすだなんて、何処をどうはぐらかせば良いんだ?ゲートの破壊許可を出した所か、オルコットさんに狙撃支援させたことか、篠ノ之さんが戦場に突っ込んでいって庇ったことか。さぁ、どれをはぐらかせば良い?」
「何故、あの時私をあの場から遠ざけようとしたの?」
「だから言ってるじゃないか。足らない頭じゃ理解出来ないのか?君は邪魔だったんだよ。あの場に噛んでいる全ての勢力、個人が丸く収まるのにね」
「どういう事かしら?」
「その先は自分で考えなさい。人に聞いてばかりだからそんなにも残念な頭なんじゃないか?仮にも防諜組織の長なら少しは自分でも頭を使えよ」
そう言って立ち去ろうとする。もう話すことも無いし、これ以上話していると本当に精神衛生に影響を及ぼしかねない。一旦寮の自室にでも帰るべきか。いっそのこと今日は早退でもしようか。
「待って、まだ話は!!」
それなりに我慢はしたつもりだった。余り職場で問題は起こしたくなかった。それでも、限界という物はある。
「え……?」
更識の間抜けな声が聞こえた。周囲を取り囲んでいた水は跡形も無く消え去り、私の手には見覚えの無いアクセサリー。
「だからお前はアマチュアなんだよ。帰って寝てろ」
やったことは単純明快、猿でも分かる程簡単な話だ。
更識に待機状態の彼女のISを投げて、私は今度こそその場を去った。
◆◇◆◇
私には追い求めている物が二つある。
一つは教官──織斑千冬だ。部隊で落ちこぼれだった私を一年間鍛えてくれた恩人だ。そのお陰で私は今ここにいる。もしあの時、教官に会ってなかったら私はどうなっていたのだろう。そのまま落ちこぼれていたら私は何処にいたのだろう。処分されていたかもしれない、部隊でサンドバッグになっていたかもしれない。いずれにせよ、ろくなことにはなっていなかっただろう。
その恩人を追い求めて日本までやって来た。もう一度ドイツに戻って貰う為に、あの人に相応しい場所に戻って貰う為に。
そして二つ目。それを初めて見た時、言い様の無い恐怖と震え、そして高揚感に包まれた。
私がシュヴァルツェ・ハーゼの隊長になって間もない頃だった。国内の反政府組織がテロを計画していると情報が入った。通常、警察の対テロ部隊が鎮圧に掛かるが、相手が重装備の為に私たちにお鉢が回ってきたのだ。
しかしそれは無駄足に終わった。作戦区域に到着してみれば炎に包まれ、臓物が撒き散らされた地獄が広がっていた。その光景に耐えられずに吐いてしまう隊員もいた。そうしていると悲鳴と銃声が聞こえた。その方へと進み、音源となった者を見た時、私は身体が固まってしまった。
絶対的な力。死、そのもの。全てを黒く焼き尽くす圧倒的な暴力。それがいたのだ。足元には以前強奪された筈のISとその操縦者だったモノ。もう原型など何処にも無く、それに含まれる遺伝情報しか故人を示す物は無いだろう。
魅せられた。その漆黒のISに取り憑かれてしまった。そのISは私を一瞥すると緑色の光を残しながら飛び去ってしまった。その何処までも黒い姿はさながら鴉のようだった。
帰投した私は鴉の正体を知ることになる。天災の猟犬、と呼ばれる漆黒の
なんという事だろうか!!こんな、こんな物が、人間がいていいのか!?単機で国家と戦争出来るだなんて馬鹿げてる!!いくらISが小国を相手取ることが出来ると言われているとはいえ、先進国にたった一機で物量をひっくり返して勝利出来るだなんて!!
憧れを抱いた。あれほどの力があれば私が私であれる。私がここにいる理由を示せる。生きている意味を見つけられる。自由に生きられる。
教室の後ろに佇む男。自らを石井と名乗った猟犬。世界最悪の暴力装置が男であることに多少驚きはしたが、そんなことはどうだっていい。私はあの男に認めさせる。私の価値を、強さを。その為にあの日からひたすらに力を求めてきた。意味を示す。
その為に先ずは織斑一夏をどうにかしなくてはならない。
私と教官の為に潰れてくれ。織斑一夏。
ARCHIVE#2
・この世界の勢力
この世界には二つの大きな勢力がある。一つはIS委員会。もう一つはアラスカ条約機構。
IS委員会は世界に於けるIS、ISコアの管理を目的とした組織である。多数の国家が加盟しており、最高意思決定機関は議会と呼ばれている。しかし実態は委員会に出資している企業の連合体であり、超大国を越える絶大な権力と経済力を持つ。
アラスカ条約機構はISの平和利用を定めたアラスカ条約に基づいて創設された機関である。目的はISの平和的利用方法の模索と研究開発とされているが、詳細は不明。こちらも委員会と同じく多数の国家が加盟しているが同じように企業の連合体である。非人道的な実験を多くしていることはその界隈では有名な話である。
この二つの勢力は対立しており、ISを用いた物も含めて世界中で小競り合いが紛争や代理戦争という形で行われている。
AC4のオーメル陣営とレイレナード陣営フィーチャーです。
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