IS―審判の時― 作:Vシネ面白かった丸
だが私は謝らない。このサイトで投稿を続ける限り、読者諸君が私の小説を読んでくれると信じているからだ。
それは、クラス代表決定戦が終わった後のことだ。クラスの皆が檀を避けていく中、俺もその中の一人として考え事をしていた。檀がどうやって勝ったのか、何故檀はクラス代表を辞退したのか。そういうことを考えてなかったとなれば嘘になるけど、もっと別のことを考えていた。
オルコットさんはどこに行ってしまったのだろうか。
今大きく頭の中を占めているのはそんな疑問だった。そりゃあ、オルコットさんのことを全面的に悪く思ってないと言えば嘘になるけど、少なくとも俺たちは啖呵を切りあった、あの瞬間だけであっても俺たちは確かにライバルになってたんだ。ライバルのことが気にならないわけがない。
檀の試合に負けた後、オルコットさんは忽然と姿を消してしまった。気がつけば学園から名前が無くなっていて、本当にどこに行ってしまったのか、それこそ大人でなければわからない状態。せめて一目でも会えれば、一言伝えたいことがあったのに、それももう叶わないのかもしれない。
実家のイギリスに帰ったんじゃないか、なんて噂も流れたけどなんの言葉もなく突然消えてしまうことなんてオルコットさんに限ってあり得ないんじゃないか、と思った。クラスメイトは大口叩いたのが恥ずかしくなって帰ったんじゃないかとも言ってたけど、それなら益々一言もないのが気になってしまう。けどもし実家に帰ってしまったのなら、一体いくらぐらい貯めればイギリスに行けるだろうか、そんなことを考えていたら気がつけば夜になっていてもう風呂から上がった後だった。
せめて誰か一人でもメールアドレスを知っていればなぁ、と思ったところでノックが響いた。はっとして返事の後に扉を開くと、知らない女性がメイドの格好をしてしゃんとした姿で立っていた。
「えっと、誰ですか?」
「貴方様宛にお手紙です、織斑一夏様」
差し出された手紙を反射的に受け取って、気づいた。宛先に書かれてるのは英語の筆記体で、俺には到底読めるようなものじゃなかった。なんとなくIが一番最初に来ているから、恐らく彼女の言う通り俺宛で間違いない。差出人の名前も同じく筆記体で書かれていて、十全に理解は出来なかったが読めた。
セシリア・オルコット。そう丁寧な字で記されていた。
「これをどこで……ッ。えっ」
跳ね上げるように顔を前を向けると、そこに先程までいたメイドさんの姿はなく、その場に残されたのはただ驚く俺と手紙だけ。耳を澄ませても聞こえるのは笑いあう女子の声だけで、足音なんて一つもしない。ISを使うわけにもいかないし、現状で彼女を追うのは不可能だった。
ドアを閉め、机に向かい、赤い蝋のようなもので閉じられたそれを破いて、開いた。
『織斑一夏さんへ。
まずは面と向かい言葉を交わさずこのような形で気持ちを伝えること、そして先日での数々の暴言、お許しください。
私は今、イギリスへと送還の途中の車の中でこの手紙を綴っています。何故、そんなことになってしまったのか。貴方には伝える必要があると思いましたが、携帯端末すら取り上げられてしまい、現状こういう形でしか伝達手段がありませんでした。
どうして伝える必要があったのか。それは檀正宗を止められるのは織斑一夏さん、貴方以外に存在しないからです。
あの後、檀正宗の一撃に倒れた後。あまりにも一瞬過ぎる幕引きに私は敗けを認められませんでしたが、次の貴方との試合もあったのですぐにでも貴方を倒そうと準備に入りました。啖呵を切ったからには、例え直前で無様を晒したとしても引き下がる訳にはいかなかったのです。どれだけ愚かであっても、自分の言葉には自分で決着をつけるつもりで。しかし貴方も知っての通り、それは叶いませんでした。
ゲンム・コーポレーションを名乗る存在が私からブルー・ティアーズを取り上げ、すぐに拘束し連行していったからです。その後彼らは何も語るようなことはありませんでしたが、リーダーらしき人物は私を見て一言、「貴方にもう商品価値はない」とだけ残して後は社員らしき方たちに任せて去ってしまいました。
気がつけば、ブルー・ティアーズはISコアの動作不良による起動不可能状態にされ、その責任は全て私に着せられていました。濡れ衣だと何度も抗議しましたが、私の祖国であるイギリスまでゲンム・コーポレーション側についていて、全て切り捨てられてしまいました。結果私宛に莫大な賠償金が請求され、それらはほぼ全て借金となってしまいました。
努力して守ってきたオルコット家の財産も、賠償金の前では焼け石に水、これから私がどうなってしまうのか、それは私にもわかりません。
あまりに理不尽な仕打ち。しかし不思議なことが幾つもあることに、貴方はお気づきでしょうか。
まず、IS学園に属している生徒に対しては、基本的には如何なる国家も手出しをすることはできません。国家にすら無理なことを、ただの一企業がどうして出来てしまうのか。
また、どうしてただの企業がISコアを起動不可能状態にすることができるのか。授業でも言っていた通り、ISにはまだ不明な点が多く存在しています。特にISをIS足らしめる中心部のコアは、篠ノ之博士以外には理解しえないブラックボックスと化していて、これがISを量産できない大きな理由となっています。それを動作不良するように弄るなんてこと。出来るはずがありません。それこそ、篠ノ之博士でもない限り……。
そして一番の謎は、檀正宗のISです。誓って言いますが、私は彼から一度も眼を離していません。ISのハイパーセンサーだって、むしろ絶好調だったくらいです。ですが気がつけば、私は強烈な打撃を受け、壁にその身を叩きつけられていました。
ゲンム・コーポレーションという企業、そして檀正宗という存在。思えば彼のような人間がIS学園に来たことすら不思議でなりません、まるでIS学園で何かを企んでいるかのよう、そんなことすら考えてしまうほどに。
ただの人間、特に国家代表候補生程度では彼に太刀打ちすることすらできません。ですが織斑一夏さん、ブリュンヒルデの弟である貴方ならば、彼を打ち負かすことも、ゲンム・コーポレーションを阻止することが出来るかもしれません。
こんなことを貴方にお願いするのは、短い付き合いではありましたが良くしてくれた先生やルームメイトを守るため、そして一瞬ではありましたが貴方に立ちはだかったライバルであったから、貴方にどうにかしてほしいのです。
私の夢の舞台であったIS学園のことを、よろしくお願いします。
追伸
私がいた部屋に、天蓋付きのベッドがあります。あれはただのベッドではなく、ブルー・ティアーズの稼働データがリアルタイムで送信されるデータバンクでもあって、寝る直前に見返すことが出来るようになっています。今となってはただのベッドですが、もしかしたら檀正宗の攻略の糸口になるかもしれません。どうか、ご活用ください。』
手紙が少しくしゃりと歪んだ。そこで自分が無意識に力を込めていることに気づいて、手紙を離し、机に拳を叩きつけた。
「檀、正宗――――!」
思えば、オルコットさんはあんな啖呵を切った後でも話しかけるクラスメイトが後を絶たなかった。人徳とか、性根とか色々と理由はあったんだろうけど、何よりもその姿勢、努力を怠らずただ自らを高める。そんな姿勢に皆引かれたのかもしれない。それに俺が知らなかっただけで、檀ですら彼女のことは知っていた。
今なら分かる、彼女は本当にすごい人だったんだ。圧に屈することなく、ただ前を進み、己の努力の結果を掴み取った。まるでサクセスストーリーに出てくる主人公のような彼女に、今更ながら尊敬の念を抱いた。
きっと多くの努力をして結果を勝ち取ったのは、オルコットさんだけじゃない。この学園にいる皆がそれぞれ血の滲むような努力をして、それでも届かなかった人もいれば、掴み取った人もいる。IS学園にいる俺以外の人間が、誰もが尊ぶような経験を経てそこに立っている。
それを、檀正宗は自分に対しては価値がないからという身勝手な理由だけで何でもないような顔で踏みにじっていく。
どうしようもなく、許せなくなった。
「俺は、やるぞ。オルコットさん」
聞いたところ、IS学園には行事の一つとして学年別トーナメント戦なるものが開かれるらしい。檀正宗と決着をつける最も大きなチャンスはここにある。
檀正宗、お前が何を企んでいるかなんて俺には分からない。でもこれ以上させやしない、暴君のような振る舞いを、権力で努力を嘲笑うような真似を。
「皆を、守ってみせる」
籠手として眠る白式が、同意するかのように小さく煌めいた。
◆◆◆
「ブルー・ティアーズのデータは役に立ちそう?」
全ての企業の最先端を行くような技術室で、二人のうち一人がもう一人へと呟いた。もう一人は静かに首を振り、口を開いた。
「全然。あのクソゲーはブルー・ティアーズの力を五割も引き出せてなかった。だから取れるデータも無駄だらけ、どうしてこんなのもので代表候補生を名乗れたか、不思議なくらい」
歯に衣着せぬ言い草に、一人は苦笑を漏らしたが決して否定はしなかった。ブルー・ティアーズに限らず、BIT兵器を搭載しているISにはあるテクニックがデータとして搭載されているが、セシリア・オルコットはそれを使うどころか手が届くこともなく手放すことになってしまった。これに一人は大いに不満そうな表情を浮かべる。
「たどり着く条件、環境、そしてISまで用意してあげたのに、こんな結果じゃあしょうがないか」
「結構大変だったって別働隊も言っていた。搭乗機にウィルスを仕込んで、情報規制をして、周りの人間に吹き込んで、人員まで派遣したのに。これじゃあ彼らが浮かばれない」
「まーくんも期待してたのに、かわいそうだよね~。別動隊にはちゃんとした手当てが行くから問題はないだろうけど、これじゃあまーくんが浮かばれないよ~」
一人はケラケラと笑っていたが、もう一人はムッツリとした顔でデータの編集を行っていた。表情からは読み取ることはできないが、真逆のようにも見える両者にも一つの共通点があった。
内心は、腸が煮えくり返るほどに怒っているという点だ。
「……あー、賠償金もっと高めておくんだったかなぁ。いや、むしろ周りの情報操作もして迫害でもさせるべきだったか?」
「そこまで露骨だと確信される。ただでさえ嗅ぎ付けれるように示したのに、これ以上ヒントを与える必要はない」
「そうだけどさぁ」
「それに」
一人がキーボードを一度叩く。すると画面はデータの束から一つの映像に移り替わり、一人の金髪の少女が複数の男性に狩り場のように囲まれている状況が映し出された。
「うちのCIOは、もっと上手くやってるみたい」
「うーわー……えげつないことするなぁ、こんなのトラウマどころか……まっ、いっか」
うんうんと頷くと、本当に興味をなくしたのか一人は機械的それをピコピコと揺らして背を向けて歩き出した。
「あれの準備は?」
「ばっちぐー! もう後は
「わかった。後でそっちに向かうから、資料の準備もしておいて」
「おっけー。じゃあまた後でね、CTO」
黒の白衣をはためかせて退出したのを見届けると、一人は再びデータの束に向き合って、編集の作業に没頭していった。
「――――ここは、どこだ?」
自らの名に決着をつけたあの夜、確かにこの身で伝説の終わりを感じたはずだ。なら何故、自分はここに立っているのか。
いや例え理由があろうと関係ない、ここに己が立っているのならばやることは一つだ。
――欲望の赴くままに、華麗に美しく、価値ある財宝を戴いていくのみ。
「大人しくお縄につけ」
「サポーターはご入り用ですか?」
「どうしてそうやってまた地味な嫌がらせするんですか!?」
「あーもうまたやられたァっ!!」
「なんなんだてめぇは、物をどう扱おうが俺の勝手だろうが」
「ただで見逃すほどロキ・ファミリアの名は安くない」
「ならば怪盗らしく、戴いていく」
《Lupin!》
「怪盗アルティメットルパン、ここに参上」
『ダンジョンで究極の怪盗を目指すのは間違っているだろうか』
プロットで満足!!!