エピローグ
冬木市
かつて聖杯戦争の開催地だったこの地は、特異点と化したことにより永遠に続く灼熱地獄となっていた。上空は常に深い曇天で覆われており星空が見える事はない。建物は倒壊し、人間の生み出した文明は等しく崩れさっている。
そんな街の上を、二体の巨大な影がぶつかり合っていた。
片方は黄金の殻のようなもので覆われた牛の生首のようなもの。所々赤黒い血肉が露出しており神聖さと醜さを掛け合わせたかのような、まさしく(怪獣)。
もう片方は鉄の鎧に身を包んだ片腕の巨人。しかしその鎧は所々にヒビが入り、体を動かすたびに火花を散らし異音を発する(ロボット、エネルガー)。
「私たちよりも先に地上に上がっていたみたいですね・・・」
そんな二体を遠くから眺めるマシュ。
彼らは傷ついた立華を肩で抱えなんとか地上に戻ってきていた。
『さっき機体ハンガーが誤作動を起こして地上に上がっていた。おそらくあの機体はそれを目的として叩きつけたんだと思う』
「じゃあ俺たちに気を使ってわざわざ動いたってか?随分と気の周る鉄人形なんだなあれは」
『その通りだとも!』
ふとキャスターとの会話を遮ってダヴィンチちゃんが割り込んで来た。どうやら先ほどの映像を見て興味を刺激されたらしい。
「なんだかダヴィンチちゃん久しぶりだな・・・」
『おーっと立華くん。しばらく通信に出れなかったのは了承したまえ。科学者ゆえのサガというやつさ。それよりもあの機体について君の送ってくれた資料に面白い情報が載っていた!』
そういうと立体映像が起動してその資料が映される。それは少し前に立華が送った「人工知能による魂の物質化」という資料だった。
『どうやらあの機体には擬似的な人格があるらしくてね。君のおじいさんは敵を相手にする為に各機に柔軟な対応を求めたんだそうだ。その回答があれさ』
そう言ってダヴィンチは破壊音のする方を指差す。
『「タイタンシステム」。様々な戦闘パターン、技術、あらゆる人名救助などを搭載し活躍するたびに発展して行く。まさに戦闘専門のプロだね』
「戦闘の・・・・・プロ・・・」
「今の彼の指令はそうだね・・・・。ここの三人を守る、てとこかな?」
立華は二つの影に目を向ける。
現在 鉄のロボット・・・エネルガーは牛首の上にまたがり残った拳を叩きつけ続けており、辺りには凄まじい衝撃音が鳴り響いていた。牛首は叩き込まれる拳に悲鳴を上げ続けるだけで抵抗することもできない。それでもエネルガーは叩く。
叩く。
叩く叩く叩く。
叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く。
しばらくするとエネルガーは叩くのをやめて牛首の額についている紅い結晶のようなものを掴み、その額の肉ごと引きちぎろうと引っ張り出した。
先ほどとは打って変わって牛首は断末魔のような悲鳴をあげその体を左右に揺らす。おそらくその結晶が牛首にとっての魂のようなものなのだろう。肉が元の位置から離れて行くたびに活発な動きが段々弱くなって行く。
そしてついにその結晶が、本体の牛首から離れようとする瞬間ーーーーーー
ゴウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ・・・・
突如異音と共にエネルガーが首を落とした。
当然といえば当然である。エネルガーはもともと地下倉庫に長年メンテナンスもされずに放置されていた兵器である。それが他の機体を無理やり押しのけ戦いだした。そんなことをすればホコリなどを被った回路は焼き切れてしまう。
光を失った片目は自身の足元を見つめている。
そんな状況でも動こうとしているのだろう。エネルガーは小刻みに振動を繰り返し再び核を引きちぎろうとする。しかしそれを見逃す牛首ではない。
『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!』
牛首の瞳が輝き魔力の光が溢れ出す。その光は装甲に覆われていないエネルガーの腹に直撃して機体そのものを天高く舞い上げた。
空中でしばし浮遊したエネルガーはやがて背中からビルに突っ込んでしまう。
それがトドメとなったのだろう。
エネルガーの両眼の光は消え失せその体を瓦礫に横たわらせてしまった。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!
牛首が勝利の雄叫びをあげて力の抜けたエネルガーに迫る。
口元をニヤケさせるかのごとく歪ませて牙に魔力を通す。とどめをさす気なのだろう。ボロボロの身体を引きずり少しずつ近づいていく。やがて目の前まで近づいた牛首は先ほどの攻撃で脆くなったエンジンを見据え振り下ろした。
するとそこに
「させるかってんだ!!!」
牛首の後ろ・・・・首の骨にあたる位置から第三の巨大な影が現れた。牛首はその声に振り向こうとするが、突如として襲って来た浮遊感に邪魔される。
「俺らの恩人を!それ以上やらせねえ!!!!」
声を聞けばもうわかるだろう。我らのスーパーロボット、マジンガーZのパイロット藤丸立華とである。
Zは牛首の背骨を力の限り握りしめ横薙ぎに振る。するとそれに合わせて円を描くようにして牛首は遠くに投げ飛ばされた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎?!!
牛首は何が起こったのかわからない。
再びエネルガーのいる方へ目を向けるとそこには同じ見た目をした巨人が腕を構えて此方を睨みつけている。
そして立華はエネルガーを背中に隠して牛首を睨みつける。
「坊主、こっちは大丈夫だ。今までの分しっかりやんな」
「先輩!こちらもオーケーです!」
「おう!おじいちゃんの形見の屋敷をあんなことにしやがって・・・!ここで片付けてやる!」
エネルガーを守るように立ったマシュ達とマジンガーは敵を威圧するように雄叫びをあげた。
マジーン!ゴオオオオオオオオオオッ!!!!
牛首もその叫びに答えるがごとく雄叫びをあげマジンガーに襲いかかってくる。ついにこの特異点最後の戦いが始まろうとしていた。
立華は気づかなかった。それは彼に背を向けていたから。
そして牛首も気づかなかった。
二つの巨体がぶつかり合う様子を、光のともってない瞳で見つめるエネルガーに。
、・・、、マジン・、、ガー・、。、、
牛首へと突進したマジンガーはそのまま拳を握りしめ振り下ろすように叩きつけた。その攻撃に咄嗟に反応することのできなかった牛首は地面をバウンドしながら苦しみの声を上げる
。
先ほどとは比較にならない力だ。何が起こったのかわからないまま混乱したかのように魔力を辺りに撒き散らす。
「どうしたおい!歯ごたえがないぞ!」
立華はマジンガーのコックピットの中で再び牛首を攻撃しようとレバーを引いた。
牛首も体制を立て直すと高く空中に飛び上がりその大きな顎を広げマジンガーを飲み込もうとする。しかしマジンガーは牛首の下に自分から入って腕を構えた。
「そのまま飲み込もうってか!だが残念!」
マジンガーは落ちてきた牛首の上顎と下顎を両手でキャッチする。
「こちとらパワーだけなら!」
そしてそのまま閉じよあとする口を強引に開け広げた。
「神様にだって負けないぜ!!!」
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!??!!
無理やり広げられた顎の激痛に牛首は声を上げる。
これが全快の状態だったのなら牛首も瞬時に回復できたのかも知れない。しかし長い時間の中で腐り果てた肉はマジンガーの怪力の前にたやすく引き裂かれた。
「やっぱり大したことねえな!さっきまでおいまわしてた時の元気はどうしたよ!!!」
手元から離れのたうちまわる牛首が再びマジンガーを睨みつける。不自然な方向に捻じ曲がった顎を牛首は引きずりながらまた突進して行った。
マジンガーはそれを受け止めようと構える。だが・・・
「!まずい?!!」
直前で牛首は方向を変えてマシュ達の方向に向かって行ったのだ。
「!!?宝具、展かッ!!?」
マシュ達がそれに対して宝具を発動しようとするがそれは無駄なことと瞬時に悟る。なぜなら
「電撃だと!?」
牛首が発動したのは可視化できるほどの威力を誇った雷撃だったからだ。
マシュは宝具を突進のタイミングで発動しようとした。しかし雷の速度でいきなり飛んできた攻撃に対処できずに受けてしまったのだ。
宝具の発動していない盾はただの金属の塊だ。その雷撃はマシュの手元に容赦ない攻撃を加える。
「アアアアアアアアアアアア!!!」
「マシュ?!!この野郎!!!」
牛首を咄嗟に投げ飛ばしたおかげで長い間浴びることはなかった。しかしそのダメージは大きくマシュは体を小刻みに震えさせながら膝をつく。
「マシュ!マシュ!兄貴、マシュは?!」
「悪い!こっちも咄嗟に反応できなかった。命に別状はないがサポートは難しそうだ!!!」
キャスターは杖を振るい生えてきた木の葉をマシュに無理やり噛ませる。鎮痛作用のあるルーンの若葉はマシュの体をすこしだけ癒す。
その間牛首が再びツノに電圧を貯め始めた。
「この!何度もさせるか!!!」
マジンガーはそのツノを掴んだかと思うと思い切り力を入れて遠くに投げようとした。しかしエネルガーの攻撃もあったのだろう。帯電していたツノを根元から抜いてしまったのだ。
制御を離れた電撃はあたりに四散して再び立華達にきばをむこうとする。
「しまっ・・・・!!!」
最悪の結果に立華は顔を青くして次に来る光景を予想する。
地上のキャスターも額に汗を流しその雷を見つめた。
このまま行けば彼らに最悪な未来が待ち受ける。しかしそれを咄嗟になんとかすることは出来ない。破裂した電圧は次第に範囲を広げようとしてーーーーーーーーーー
キーーーーーー・・・・・ン
牛首の瞳を擦りながら飛んできた何かに吸い寄せられて行った。
「な、なんだ??!!」
立華は雷を集めて飛んで行ったものに目を向ける。
それはとても見覚えのありマジンガーにも付いているものだった。
「放熱板・・・エネルガー!!!」
ブーメランの飛んできた方向には何かを投げたかのように佇むエネルガー。
そう、エネルガーが咄嗟に自分の放熱板をちぎりブーメランのように投げたのだ。
電動率でも世界一のジャパニウム。それを製錬した合金Zだ。マシュ達に飛んで行こうとした雷は、その前を通り過ぎた放熱板のブーメランによって全て吸い寄せられてしまったのだ。
「お前・・・」
キャスターとマシュが立ち上がったエネルガーに目を向ける。先ほどまで動けなかったはずの身体を動かしてマシュ達を守るために立ち上がったのだ。
エネルガーは今度こそ力を使い果たしたのかゆっくりと煙を上げ倒れふせた。
「・・・・!よくやった!!」
マジンガーから立華は声を上げると今度こそ牛首を遠くに投げ飛ばした。牛首はそのまま近くの海まで飛んで行く。そこならもう被害は広がらない。
「ルスト!ハリケエエエエエエエエエエエン!!!」
破壊の嵐は海を裂きながら牛首に直撃する。しばらく悶えた様子だったが数秒後にはもう動かなくなった。
そして牛首は段々とその体を散りへと変えて行き、この世から消えて行った。
砂嵐のかかる視界の中目の前の鉄の巨人を見つめる。
自身と似たその姿に何かを感じながら彼は昔のことを思い出していた。
(お前たちは人間ではない。戦う為に作られた兵器でしかない。)
(だが心はある。鉛の体であろうとタンパク質で構成されていようと心があればそれは人になれる)
(いつの日か、ここにわしの孫が来る。その子は世界を救う為にお前たちを時の旅に連れて行くだろう。)
(だから・・・・・心ある人としてその孫を守って欲しい・・・・)
そう言ってある程度の修理を終えた彼は、我々を地下の倉庫に封印した。
我々は待った。一人一人の意識が眠って行く中で、自身の体が軋んで行く中で、ついには自分一人になった中で。
最初はただ入力された命令に従って守っただけだった。
だが目の前に、自分を護ろうと敵に立ち向かったその背中を見て私はついに自覚した。
自らの感情を。
自らの魂を。
自らの心を。
彼とともに立ちたい。あの背中に自身の背中を預けたい。彼とともに戦いたい。
そしてボロボロの魔人は体に鞭を打って手を伸ばす。
神獣を倒した立華はボロボロのエネルガーをマジンガーで抱える。
すると残ったボロボロの腕を伸ばして来た。
「なんだ・・・?」
同時にマジンガーの通信に合成音声のようなものが流れて来た。
それは途絶え途絶えで、聴く人によってはよくわからなかったかもしれない。しかし立華にはその声がなぜかはっきりと理解できた気がした。
ーーーーボ........クラ.........タタカ............キミト....イッシヨニ.................
「・・・ああ、任せろ」
マジンガーがボロボロのエネルガーの腕を掴む。
まるで長年の友人を見つけたかのように。
自分たちを守ってくれた勇者をいたわるように・・・・。
ーendー