19○○年○月○日
私が世に生まれて75年の月日が過ぎた。この世界には私の生み出した発明が溢れ人々を支えており、日常の生活の中などでもそれらを見るようになった。
温暖化の改善、より低コストで効率的な重機や乗り物、新しい元素の誕生、石油に変わる新たなエネルギー源。
人々が私を天才と称え賞賛する。
これこそが私がこの世に生まれてからずっと望み続けたものだ。
今では美人の嫁に自慢の息子に恵まれ、再来月には孫も生まれるだろう。
二度目の人生。私はついに幸せを掴んだのだと感じている。
○月○日
初孫が生まれた!
しかも双子の兄妹だった。孫馬鹿と自分でも思うがやはりイケメンでべっぴんさんだと感じる。私の皺だらけの指を近づけると二人はそっと指を握り微笑んだ。
思わず頰が緩みまくり看護婦が悲鳴を上げた。
全く失礼な奴である。
あと息子と喧嘩をした。孫の名付け親としての権利を巡り久々に身体を動かしたのだ。
ええい!何が白乃と士郎じゃ!この子達には立華と立花という名前をつけるんじゃ!
○月○日
しばらく放置していた光子加速器の実験を再び開始する。
実に3年ぶりに触ったと思う。
なぜ再びこの試作品を動かそうとしているのかと言うと、ぶっちゃけると孫二人に自慢したいからである!
二人に未来の地球の事を話してやりそれに期待し目を輝かせる。
なんと素晴らしい事だろう!明日にはついに完成するそれを私は見つめる。
きっと素晴らしい未来がわかるのだろう。
明日が楽しみだ。
番外編「十蔵の屋敷 中編」
「あ、先輩見えて来ました!恐らくあの扉が・・・」
立華達は長い廊下を渡り終え新たな扉の前に来ていた。
延々と続いていた先に待ち構えていた扉は今までの機械的な扉と違う木造の物だった。
周りが近未来的なものであるため余計に目立ってしまっている。
「ドクター、ここが一番下?」
『ああ、間違いない。そこから先に続いている様子もないからそこが十蔵博士の部屋なんだろう』
「やっとかよ。いい加減こいつら見んのも飽きて来たってもんだ」
クー・フーリンがエネルガーの足を叩く。
実際そこまでの距離はないのだが山のように置かれたエネルガーを見続けるとそんな感想も浮かぶだろう。
立華は扉に手をかける。
暗闇に木材と金属が擦れる音が響き渡り不気味な反響を生み出している。部屋の中をそっと覗くとそこには机を中心として沢山の資料が散らかっていた。
「うわ、足の踏み場もないな」
「先輩お気をつけて。なんなら手を繋ぎましょうか?」
「いや、大丈夫だよ。この散らかり方には慣れてるし」
立華がそう言うと若干がっかりするマシュ。
しかし実際立華はこの散らかり方に覚えがあった。祖父は何かを作るとき設計図に紙触媒を使用しそれを適当にばら撒く。何故かと聞くとその方が形として残るし何より処分しやすいからだそうだ。
祖父の発明品は世に出すたびに混乱を巻き起こす。そしてそれを狙う奴らなどもいたらしくパソコンなどにデータを入れておくと簡単に持ち去れる。
消したとしても復元される可能性があるのでかさばる形にするとか。
「おじいちゃんの設計図の片付けはよく妹と一緒にやってたよ。部屋に遊びに行くといつも設計図で散らかっててさ」
片付ける者がいなかったその部屋は祖父の地下で過ごした時間を感じさせる。
部屋の隅の設計図なんかは埃を被っており下手に動かすと雪崩れを起こして大変なことになるだろう。
『とりあえず片っ端から送ってくれ。これだけ量があるといちいち調べてられないからこっちで整理する』
「わかった。マシュ、ゲートを開きっぱなしにしてくれ。そこにどんどん投げ入れる形で行こう」
資料をどかし盾を地面に置くとそこから転送陣が展開される。
立華達はそれから手分けして設計図を送って行く。
「小難しいことはやっぱわかんねえな」
「兄貴読むのはいいけど手伝ってくれよ」
そこらへんに落ちていた資料を手にしクー・フーリンがぼやく。
資料の題名は「人工知能による魂の物質化」。細かいところはよくわからなかったが内容は高度な人工の人格を形成することで魂を物質として残すというものだ。
世に流れれば多くの魔術師が首を吊るのだろう資料はそのままゴミ箱に投げ入れるかのごとく転送される。
部屋の端で埃を被っていた事もあり立華も重要なものとは考えなかったのだろう。恐ろしい。
そのほかにも三連発小型散弾銃、ロボット細胞による新生物や質量の収縮によるブラックホール爆弾などの兵器。
食べ物の結合を崩すことによる美味しい老人食や手術の最適解を導ける装置などの医療。
味のするプラスチックやエロ本3Dメガネなどのよくわからないものなど様々な設計図が見つかって行く。
しかしーーーー
「やっぱ日記みたいなもんは見つからないな・・・・」
「置いてあるのはやはり発明関係ばかりですね・・・」
本人の事に関する情報が未だ見つからない。
「なあ、そもそもその爺さん日記なんて書かないんじゃねえか?」
「いや、日記でなくとも本人の事について書いてある物さえあれば・・・」
そう言って立華は本棚に手をつける。
床の設計図と同じく長年放置されてきた資料は、持ち上げられるたびに埃が舞い上がり三人の鼻腔をくすぐった。
棚の資料は二段構えになっており一冊どかすとその後ろにも資料がびっしり詰まっている。
「この棚はロボット関係が多いな。やっぱり専門だからいつでも手に取れる場所に起きたかったのかな・・・」
一冊一冊を丁寧に取り除いく内に立華はなんだか目尻が熱くなっている感じがした。
ここにいると否が応でも実感してしまう。
自らの祖父が死んでしまったということを。
当然である。
立華はまだ17歳の子供。それなのに今までで一番慕っていた祖父があの様な死に方をしたのだ。祖父の部屋によってやはり意識してしまう。
(おじいちゃん・・・・・・・・)
「あ、先輩!見つけましたよ!」
突然マシュが大声をあげて立華を呼んだ。
彼は目をこするとマシュのそばに近づき手元をみる。
「マシュ、どうしたんだ?」
「はい、日記ではありませんが本人の心情を語っていると思われる資料を見つけました」
駆け寄ってきたクー・フーリンも同じくマシュの手元をみる。
そこにあった資料の題名は
「光子加速器実験経過?」
「先輩はマジンガーの置いてあったコンテナを覚えていますか?あそこにはマジンガーを囲む様に円形の装置がありましたよね」
立華は思い出す。
マジンガーの格納されていた場所には確かに円を描く様に設置された装置が置いてあった。それはダヴィンチちゃんに解析してもらっても解明できなかった装置で固定されているため運ぶ事も出来ずに放置していたものだ。
「どうやらあれに対する実験の経過と様子について描かれているようです。最初の数ページこそ破れていますが・・・・」
「なんだ。見つかったのか」
「マシュ、それ貸してみて」
立華はノートを受け取るとその内容に目を通す。そして全員に聞かせる様に音読しはじめた。
「えっと・・・」
○月○日
直ちに研究の成果を形にする事にする。
私が知った未来の姿、それは私自身を絶望させるのに十分なものだった。
人類滅亡。
それは2016年以降の未来はないという事。
私の孫たちの将来が存在しないという事だ。
そんな事は私が許さない。
幸い全ての平行時空において私の考えは同じらしく、未来の私は全てを救う切り札を一緒に保存していた。
私はそれをなんとしてでも形にすると誓った。
○月○日
侵入者を確認した。
いつものごとく研究の解読、濃縮を繰り返していると監視カメラの映像を確認した。
それは町外れの深い森の中に粒子とともに出現し、紅いコートの様な物を羽織った色黒の人型。抑止の守護者と思わしきそれはこちらの施設に向かっていると思われる。カメラはそれにすぐさま破壊されたが廃城に設置してあった別のカメラがその様子を知らせていた。
すぐさま光子力フィールドを展開、防衛体制を整える。
その男は目に見えないフィールドに触れた事でそこからあっけなく崩壊していった。
○月○日
劣化量産品としてエネルガーを開発、やつらの対抗戦力として配置した。
エネルガーには人の搭乗ではなく人工知能を設置、人員の問題を解決する。戦う事で様々な戦闘パターンを全機体が学習し、いずれは戦闘のプロといっても過言ではないものになるだろう。
幸い相手は英霊だ。経験値には十分である。
○月○日
抑止力はやはり私を消そうとしているのだろう。
あれから様々な英霊と思われる存在が私の施設に仕掛けて来た。今は光子力フィールドによって私の存在を守ってはいるがいずれ見つかってしまうだろう。
それまでにこいつを生み出さなければならない。
こいつさえ作り出せればいずれ来るであろう我が孫が見つけるだろう。
その時は、このフィールドを切って・・・・。
○月○日
日に日に激しくなって来る襲撃。
先日は巨大な牛のような生物が施設に向かって突進して来た。それを防ぐために仕方なく光子力バリアーを展開。牛は軌道がそれ勢いよく地面に衝突していった。あとは残っている全てのエネルガー達にふくろだたきにしてやった。
ここまでの焦りを見せるという事は立華が来る日が近いのだろう。
立華の手にこの力が渡ればもう私は思い残す事はない。
人の運命は人の手によって切り開かれるべきなのだ。それを心のない物の怪などに好き勝手されるわけにはいかない。
「・・・・・・・・日記?」
光子加速器の事が書かれていると思われたが中身はどちらかと言うと日記のような内容だった。しかし最初のページが破られているためよくわからない事になっている。
『文から察するにおそらく君のおじいさんは未来で君の何かを見たんじゃないか?』
「なにかって?」
『それが何かはわからない。ただ一つわかるのは・・・』
立華はロマンの言葉を聞きながらページをめくる。
次の瞬間ーーーー
『あまりいい未来ではなかったのかもしれない』
次の瞬間施設に大きな揺れが響き渡った。
「な、なんだ?!!」
立華はクーフーリンに肩を支えられながら叫んだ。
施設は未だ揺れておりやっと見えて来た床を本棚の資料が再び埋め尽くしている。
咄嗟に三人は部屋から出てエネルガーの廊下を走る。
「ドクター!この揺れは一体?!」
『なんだこれ?!!いきなり施設の上に巨大な反応が現れた?!!』
「巨大な反応?なんだそれ?!」
『今映像に映す!・・・・・・』
しばらくの間をおいて立華の前にモニターが映し出される。
それは、巨大な頭だった。
黄金に彩られた頭蓋骨を露出させ、腐りかけの肉を引きずりながら頭だけで施設に向かって来る巨大な牛の頭。
冬木の街を這いずりながらこちらに向かっており、その瞳に怒りを乗せて迫っている。
「オイオイオイオイ!ありゃあ神獣じゃねえか?!」
クーフーリンがその映像に驚愕を浮かべる。
神獣・・・・・・
神に仕える獣。
神と同じく権能を宿し、通るだけでその場所に大きな影響を与える大災害。
そんな存在がいま、立華達の元に向かって来ているのだ。