Fate/Machina order   作:修司

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調査

 

「・・・聞いて良い?」

 

 

 

 

 

 

 

全ての話を終え、立華達は再び町の調査の為外を出歩いていた。

彼の口から語られた物語は悲惨としか言いようのないものだ。人類の為に戦い続けたにも関わらずその人類自身から裏切られ、最後には自分一人しか残らない。

 

あまりに酷いそれは彼らの口を閉ざすには十分だった。

そんな中、最初に口を開いたのはやはりというか立華であった。

 

 

「そんな目にあったのにどうして戦えるんだ?」

 

「!、おい、坊主それはーーー」

 

 

「いや、いいんだ」

 

思わずキャスターが止めるも構わないとアキラが手を振る。

 

 

「・・・アキラさん、こんな事聞くのはあまりにデリカシーがないというのはわかっている。でも・・・」

 

 

 

 

そこまで言って一呼吸おく。

 

「アキラさん、俺たちもさっき聞いた通り人類史というものを背負って戦っている。この戦いを勝ち抜いた時俺たちの時代は元に戻り本当の明日が来る。でも決して報われる事はない」

 

「きっとここにいるみんなは座に帰ることになりカルデアも解体されると思う。いや、それくらいならまだいい。もしかしたら全員秘匿という的にーーーーー」「それくらいにしろ、どうしたのだ立華よ」

 

 

急に早口に語る立華の語りをネロは止める。いつもと違うその様子に全員が目を丸くした。

 

 

「・・・・・話を聞いた後薄々とは考えていたんだ。この戦いが終わった時俺たちがどうなるんだろうって」

「家族の元に帰ることをずっと考えていた。でもそもそも俺は帰れるのか?ここまで深く関わってしまった人間を、話に聞いた魔術師って人達はただで返すのか?」

 

 

 

「先輩、それは・・・」

 

 

「アキラさんの事を聞いて、な。もちろん俺自身迷ったまま戦場に出るのは邪魔にしかならないというのは学んできた。だからこそ考えないようにしていたというのもあるかもしれないが・・・・・」

 

「見返りを求めるわけじゃない、でも、今更だけどうかんじまったんだ。」

 

 

 

『立華くん・・・』

 

 

 

「もしも、人類が俺たち敵になるかもしれない、という想像が」

 

 

キャスターは何弱気になってやがる、と言おうとしてやめた。

なんの迷いもなく戦う。それは自分達の様に豪傑だからこそできる考え方だ。

一緒に戦い続けたからこそ意識してなかった。彼がただの民でしかないということに。

 

「なぁ、アキラさん。貴方はそれだけの酷い目にあったにも関わらず、なんでまた人の為に戦うんだ?」

 

 

 

 

そう言い終わると立華は下を向く。

 

 

「・・・・・」

 

「そうだな、なぜ、か・・・・・」

 

一呼吸おいたアキラは立華に向き直り考え込む。

なぜ、よくよく考えてみれば一体なぜなのだろう。自分の大切な人達はもういない。みんな、人間によって殺されてしまった。

今でも覚えている。やっと自分の中の答えが出たばかりの時、待っている人達のいる家は地獄とかしていた。

 

そして

 

 

 

鉄槍の先にさらされていたあの子の、あの子だった物を手に取った瞬間。自分の中で何かが崩れる音がした。

 

 

 

なのに何故だろう

 

 

 

 

「すまんな、そこんところ、まだ俺にもわかってない」

 

 

 

 

なぜ俺は、未だに人の為に戦おうとしているのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

「先輩・・・・・」

 

 

「いや、なんかあれだな。ちょっと考え過ぎちまったな。忘れてくれ。やっぱ俺は何も考えず明日に向かうほうがあってんな!」

 

 

 

「そうだよ、そんなこと考え出したらキリがねぇ。今はテメェのやりたいことをやりたい様にやりゃあいいんだ!」

 

首をふって頬を叩いた立華は再び普段通りの笑顔を浮かべた。すると前を歩くモードレッドが振り返らずに手を振りながら応える。

 

 

「・・・・・坊主」

 

「立華、やはりお前は無理を・・・」

 

しかしサーヴァントの顔は晴れない。彼は茶化す様に誤魔化したが聞いていたものには本音の様に聞こえたからだ。

 

「マシュさん、貴方は大丈夫なのですか?」

 

「・・・正直どうとも言うことができません。私自身怖いと言う思いはあります。しかしそれは皆さんが傷ついてしまったら、と言う想像の恐怖です。先輩のあれは何というか・・・その・・・」

 

 

「ひとりぼっちの恐怖」

 

え、とマシュがつぶやく。その一言を言ったのは意外にもネロだった。

「あぁ、わかる。余もわかるとも。愛しているものから拒絶される恐怖、彼奴の場合守ろうとしているものか?どちらにしろ、話を聞く前までは意識してなかったと見えるな」

 

『・・・タイミングというか間が悪かったと言うべきか、すまない。実は時計塔がある今回の特異点の為に軽く魔術師たちの事について説明していたんだ。何かあった時警戒するように』

 

 

「いや、仕方ねぇだろうそれは。確かに魔術師っつーのは楽でもねぇ場合の方が多い。俺自身そうだったしな」

 

そう言ってキャスターは腹をさする。何かを思い出したせいかうんざりとした表情を浮かべていた。

そのように彼らが話し合っている間にも立華とモードレッドと明は先に進んでいく。気づいた彼らは追いつく為に少し駆け足をしてすぐ後ろについて言った。

 

 

 

 

「・・・先輩、私は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拠点に待たせてる奴がいる。少し寄らせてくれ。

 

 

そう言って明は立華達を連れて少し町外れの林に入っていった。そこは霧の町と違って薄暗くこそあれ少しひんやりとした林で、霧もほとんどなく息も気持ちよく吸えるところだった。

そんな林の真ん中、そこには掘っ建て小屋のような建物が一軒佇んでいた。

 

 

「ここが拠点・・・?」

 

「的外れっつーかなんつーかな。みつからねぇわけだぜ。」

 

「景色とほぼ同化してたね。 ・・、あれ、そういえば待たせてる奴って・・・?」

 

明は立華の問いに答えるより早く小屋のドアを開く。

すると次の瞬間

 

 

ドン!

 

 

「にいちゃんおかえり!」

 

黒いローブをまとった何かが明の腹に飛び込んだ。

 

「うおおっ!なんだ敵襲⁈」

 

「立華、落ち着け。こいつが待たせていた奴だよ」

 

そう言うと腹に縋り付いている者を抱えて立華達にも見えるようにする。

「・・・女の子?」

 

「おお!なかなか愛いむすめではないか!顔の傷が少し気になるが」

 

ローブの下から現れたのは銀の髪の目立つ女の子だった。歳は小学生くらいだろうか。明を掴む手には包帯が巻かれ、まだ幼さの残る顔には似つかわしくない大きな接合跡が目立っている。

モニターから観測していたロマンが声を上げる。

 

 

『その子はサーヴァントかい?』

 

「え?この子が?」

 

 

「ああ、ジャック挨拶しな」

 

 

「・・・・・にいちゃん、この人たち・・・誰?」

 

立華達の姿を見た女の子は徐に殺気を放ち威嚇した。それを見たネロやサーヴァント達は警戒し、いつでも武器を取り出せる準備をする。それを見て明は手をかざす。

 

「こいつらは大丈夫。解体しなくていい・・・」

 

「・・・ふーん、にいちゃんが言うのなら」

 

「すまん、こいつはジャック。多分お前たちと同じでサーヴァントだ。」

 

明の背中に回った少女ーーージャックは先ほどまでの殺気を収め此方を観察するように覗く。

 

「それとほら、土産だ。大事に食えよ」

 

「わぁ!ありがとう!丸ごといいの?」

 

背中に背負ったリュックから真新しい林檎を取り出すとジャックはすぐに目線もそらし両手を差し出した。

その有様はサーヴァントというよりは・・・・

 

「なんと言いますか・・・子供そのものと言った感じですね」

 

『しかし彼女は間違いなく英霊のはずだよ。センサーからは小さいけど間違いなく反応があるし・・・』

 

「なんつーか、英霊って本当に個性的なんだな」

 

立華は目線をジャックに合わせるように腰を下ろすと手を差し出した。それに気づいたジャックは林檎を齧ろうとするのを一旦やめて興味有りげに目線を向ける。

 

「俺、藤丸立華。君のお兄ちゃんの友達だよ。」

 

「にいちゃんの・・・友達?」

 

 

「おう!君、名前は?」

 

「私達はジャック。ジャックザリッパー。」

 

「よし!いきなり押しかけて驚かせて悪かったな。これからよろしく」

 

差し出された手に若干躊躇いながらそっと手を重ねる。そして握ったのを確認すると立華もそっと握り返し笑顔を浮かべた。

 

「あなたって・・・なんだか不思議な雰囲気の人ね?まるでお母さんみたいで・・・でもちょっと違ってて・・・。私達が怖くないの?」

 

「(私達?)おう、怖くないぞ。利発そうないい子だな」

 

そう言って銀髪をそっと撫でてやる。ジャックは目をつぶりくすぐったそうにするとすぐに明の後ろに隠れてその横から顔を覗かせた。

 

 

「はは、くすぐったかったかな?」

 

 

「「「「「・・・・・・・・」」」」」

 

「ん?どうしたみんな」

 

握手している最中、周りが静かすぎることに気づいた立華が全員を見渡した。

全員は固まっていた。

 

そう、まるでビデオを一時停止したかのごとく驚きの表情のまま固まっていたのだ。そしてそんな中から一番に声を出したのはマシュだった。

 

「あの、先輩?ちょっと・・・」

 

「?どした?」

 

手招きのままに近づく。固まった表情のマシュは立華が手の届く位置まで来ると同時にその表情を焦りへと変えて摑みかかる。

 

(何やってるんですか何やってるんですか!?いきなり近づいてザックリやられたかもしれないんですよ?!)

 

(ま、マシュ待って、揺らし過ぎ)

 

(幾ら何でも危な過ぎです!つい先ほど殺気ぶつけられたばかりだったじゃないですか⁈)

 

(マスターお怪我は!?どこも痛くありませんか⁈)

 

「・・・立華よ。今のは流石に不用心すぎるぞ」

 

「流石に肝が冷えたぜ。あまりに自然だったから思わず流しちまった・・・。師匠に知られたら修業不足って殺されるな俺」

 

 

「馬鹿野郎!不用心にもほどがあんだろ!危険かどうかもわかんねぇのか!」

 

「わ、悪かったって。でも明さんの仲間だし大丈夫かと・・・」

 

全員から責められタジタジになる。

しかしこれがキッカケなのか先ほどの睨むような目つきとは違い、どこか見極めるような目線に変わったのは今後を考えると結果オーライと言えるだろう。

 

 

 

「と言うかジャックザリッパーって、あの有名な?」

ジャックザリッパーとは1888年にイギリスで連続発生した猟奇殺人事件犯人の呼び名である。世界で最も有名な未解決事件であり、現在でも犯人の正体についてはいくつもの説が唱えられている。

 

『こんな幼い子がジャックザリッパー・・・。なんだろう、僕たちの知る歴史の人物像が崩れていく。』

 

ロマンが通信機越しに悩むように呟く。

「もしかしたら宮本武蔵とかも女の子だったりするかもしれないですね」

 

「流石にそこまではないと思うけど・・・」

 

 

「よし、荷物はまとめたか?」

 

「うん!もういいよにいちゃん」

 

そこまで話し合えて背中に荷物を背負ったジャックと明が立ち上がった。どうやらこちらが話している間に動く準備が出来たらしい。

 

「悪いな、この間引っ越したばかりなのに・・・」

 

「気にしないでにいちゃん。私達元々荷物少ないし」

 

そう言って手に持った林檎を再び齧り出す。それを見たマシュはモニターから地図を展開した。

 

 

「さて、早速調査を開始しようと思いますけど、改めてチェックするポイントを把握しましょう」

 

「まず始めにロンドンと言えば時計塔ですね。魔術師の総本山にしてあらゆる可能性の魔術を秘めた神秘の砦。しかし此処は厳重なセキュリティでもあるためもう少し調査を行ってからの方がいいですね」

 

「次に此処、あの有名なヴィクターフランケンシュタイン・・・Dr.フランケン氏についてですが・・・」

 

「そいつについては無駄だぜ」

 

 

 

そこまで話してモードレッドが遮った。地図から全員が一旦目を離し彼女をみる。

 

「昨日くらいだったかな、たまたま爺さんの屋敷の近くに来た時には倒壊していた」

 

「倒壊?ああ、でも確かにこんなに湿気の強い空間なら軋むのも「いや、そうじゃねぇ」え?」

 

「あの崩れ方はそんな自重で崩れたとかじゃねえ。自重で崩れたのなら建物の下の方が崩れて屋根をある程度綺麗に残す。だが俺が見たときは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこりゃぁ・・・!」

 

それを見たモードレッドは思わず驚愕の表情を浮かべた。

 

ヴィクターフランケンシュタイン。彼はこのロンドンに住む魔術師の一人で異変を解決するに当たり情報交換をする中だった。

今回モードレッドがこの場所に立ち寄ったのは偶然と言うわけではない。街を散策するにあたり彼女は必ずこの場所を通っていた。それは数少ない生き残りである彼を気遣ってのことでもあった。

 

 

モードレッドは此処最近は連日調査を続けていた。というのも此処最近見なかった霧が再び発生した為である。

 

 

 

「おい!おい爺さん!返事しろよ!」

 

つい昨日まで悠然と佇んでいた屋敷は、どうしたことか無残にも崩れ去っていた。

しかしただ崩れたという有様ではない。そう、これはまるでーーー

 

 

「何がどうなってやがる・・・!まるでデカい岩でも降って来たような・・・」

 

モードレッドの表現したように、屋敷はまるで上から潰されたかのように下敷きになっていた。屋根は衝撃によるものなのか粉々になっており辺りに散乱している。庭も芝生のいたるところにめくれ上がった土が散乱し、どこから漏れたのか水溜りをいくつも作っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はその日から拠点には戻ってなくて屋敷近くを散策していた。つまり崩れたり異変が起きたらすぐに気付くはずなんだよ。なのに屋敷はまるで俺のくるすぐ前に崩れたみたいな有様だった。爺さんを探してみたが・・・大量の血痕と爺さんの常に身につけていたネクタイのかけらが残るだけだった・・・」

 

 

 

沈黙が辺りを包む。そんな中最初にキャスターが一つの疑問をあげた。

 

 

 

「・・・・・おい、そんなの俺たちゃ聞いてねぇぞ?」

 

 

「あ?そりゃあそうだろ今話し・・・あ」

 

 

 

「・・・・・散策の計画立てる時、モードレッド聞いてなかった?屋敷に行くって」

 

 

 

「・・・・・わり、直後に現れた父上似の赤の衝撃で忘れてた」

 

 

・・・・・・・

 

 

「大切な情報なんだからすぐ報告しろよ⁈」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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