Fate/Machina order   作:修司

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蟲達

最初にそれを見た時立華が想像したのは、レフライノールこと魔神柱だった。

あのときは怒りのあまり意識してはいなかったが、その表面は幾人の人型によって形作られていた。老若男女が張り付いたその姿は今思い返しても嫌な思いが浮かぶ。

そして目の前にいる巨大な蟲。

 

ぱっと見甲虫のような見た目のそれは、老若男女どころか化け物や獣もそのまま型に入れて固めたかのような見た目で、ルーンの炎が当たった場所はその下からテラテラと光を反射する内臓をさらしており、様々な目玉で構成された複眼はこちらを無機質にじっと見据えていた。

 

「リツカとかいうの!舌噛むなよ!」

 

「えぐっむっ?!」

 

 

モードレッドが立華の襟元を掴みテントの外に向かって投げ飛ばす。同時に蟲は首を何度か傾ける動作をすると、その口から生々しい触手を飛ばしてきた。

触手が地面のインテリアに触れる。と同時にインテリアと融合し再び蟲の中に取り込まれて行った。

 

「・・・悪いなマスター、反応が遅れちまった」

 

目の前の蟲を前にしながらキャスターが呟く。

自らに油断があったわけじゃない。勿論相手の存在には気づいていたし警戒もしていた。

だがキャスターはその相手を小さい生き物か虫かと勘違いしていたのだ。

 

無理もない。何故ならばーーー

 

 

 

「こやつ・・・・・どう見ても虫としての気配程度しか感じん。普通これだけの化け物だと・・・」

 

「あぁ、そのとおりだ。気持ちわりぃ・・・こうやって目の前にいるのに未だに気配を微弱なもんしか感じねぇ。恐らく本体が虫だからだろうな」

 

 

蟲は骨や爪を寄せ集めた蟷螂の鎌ような前脚を横に振るう。3人を同時に狙っての攻撃であろうそれは激しい音を立てて防がれる。

 

「みんな⁈」

 

「オラァ!!!」

 

そこに中心にいたモードレッドが蹴りの体制のまま躍り出る。複眼の間に直撃した蟲は後ろに向かって飛んで行き暗闇の中に消えていった。

 

「よし、いまだ逃げるぞ!」

 

「兄貴、でもあいつはもう・・・」

 

「馬鹿野郎!恐らく奴は・・・・⁈」

 

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ。

「嘘だろ!?俺がこれまで立ち寄っても何も!」

 

 

「中に入るまで待ってたんだろう!」

 

かつてこの場所では幻想種と英霊達の戦いがあった。その戦いにはお互いにとんでもないほどの被害の末に悪魔の襲撃により英霊側が勝利したという。

 

 

 

クーフーリンはそこにも違和感を抱いていた。

 

そんな途方も無いほどの戦い、ならばーーー死体は一体どこに行った?

 

初めて特異点に来た時ここでは霧が出ている以外何も変化はなかった。戦いがあったと言うここのテントでもそれは同じ。血痕すらなく綺麗なテント、戦の気配すらなかった様子。

たしかに多少の鼻に付く匂いはあったがそれらは食材の腐った匂い。死体から発生したものでは無い。

だからこそクーフーリンはその違和感に苛立ちを覚えた。過剰に反応したのだ。

 

 

 

 

 

 

「そりゃあ化け物どもも少ねぇだろうさ!みんな食われたんだから!」

 

 

 

そしてテントを出ると同時に立華達の背後から、同様の蟲が群れとなって襲いかかって来た。

 

 

 

 

 

 

 

「焼け死にやがれ!」

 

 

モードレッドが横薙ぎに剣を振るうとそこから赤雷かほとばしり蟲を焼き払った。しかし焼き払ったものの中から脱皮の様に同じ蟲が出て来たことでモードレッドは嫌そうな顔をする。

 

「再生した?!」

 

「気持ち悪りぃな!」

 

それだけではない。元々死体と融合してしまったせいなのか焼けるとともにむせかえる様な腐臭が辺りに蔓延する。他の蟲が脱皮についた肉片を貪りその勢いで血が飛び散る。

 

 

それに怯んだモードレッドは蟲の甲羅から生えた怪物の手足に捕まってしまった。好機と思ったであろう蟲達はそのままモードレッドに突進して行く。

 

 

「しゃらくせえ!」

 

 

しかし彼女は蟲ごと腕を振り回すことで張り付いたままの状態を逃れた。

そしてお返しとばかりに今度は近くにいた蟲を兜割の要領でぶった斬る。それにより死んでこそいないが、動きを止めることに成功した。

 

「みんな、そいつらに炎とか雷は余り効かない!一体ずつでお願い!」

 

「ええいめんどくさい!それに此奴らあの柱にそっくりだ!あんまり見たくない!」

 

近くにいる蟲達を払いのけながらネロが叫ぶ。

英霊の力は生前と比べると破格となっている。それは逸話や伝説、伝承によって新たに備わったものだからだ。そしてそんな一撃を食らったものは本来無事では済まない。

 

にもかかわらず蟲達は叫びすらあげない。

 

身体が吹っ飛んでも千切れても、ただ無音で集まってくらおうとする。それが余計に不気味さを際立たせていた。

 

 

らちがあかなくなったネロは空中に飛び上がると蟲達を踏み台にして足元を斬りながら駆けてゆく。 しかし蟲は壁の様に重なり合うことでネロをそのまま押し潰そうとする。

 

「アンサズ!」

 

しかしその壁はクーフーリンのルーンによって散らされた。

 

 

「ったく!やっぱりきかねぇか!」

 

蟲達は互いに炎によって焦げた部分を喰らいあい修復していく。

怒りを抱いたであろう蟲達は複眼を赤く輝かせ立華とクーフーリンの元へと向かっていった。

ルーン文字は爆発となって蟲達を散らして行く。しかしその死体を再び飲み込んで新たな蟲が生まれて行く。

 

立華は焦りを感じていた。

 

ここは街中、大規模な宝具はいたずらに被害を増やしてしまう。だからといってこのまま続けても時間はかかる上、下手したら魔力よりも体力を消費してしまう。今蟲は立華には来ていない。だが時間の問題だった。

 

 

 

 

 

そして何よりもーーー

 

(二人からの反応がない・・・!)

 

「⁈兄貴!」

 

魔力を巡らせていた立華はクーフーリンが押され始めていることに気づいた。彼は今自身の杖で蟲の進行を防いでおり、しかしどんどん押しつぶされていた。

 

するとーーー

 

 

 

「坊主、心配すんな!こっちにはーーー」

ジリ貧だと悟ると同時にクーフーリンは持っていた杖にいくつかのルーンを刻んだ。そして空中に投げて一回転した杖は先端から生きてるかのごとく地面に根を宿した。

 

「何をーーー」

 

そして刻んだ文字が淡い輝きを放った瞬間ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とっておきがあるんでな!」

 

 

 

 

杖が砕け散り中から槍が飛び出した。

 

 

 

「兄貴、それは・・・」

 

 

煙を吹き出しながら伸びたそれに立華は目を見張る。

いや、立華だけではない。モードレッドも、ネロもその輝きに思わず目を向け硬直していた。

その槍は不思議な見た目をしていた。まず長さは先ほどの杖と同じくらいはある。色は銀色に近い鉛色で重厚なイメージを持たせる。しかし持ち手全体にルーンが刻まれており、脈動するかのごとく金色の光を放っている。

そして切っ先には鋭利な刃があり、そこには『Z』という文字を刻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

あれを知っている。あの輝きには見覚えがある。

それはかつて形のある島にて女神とともに眺めた代物。

 

闇を裂き、海を割くであろう光の神の剣に似て非なる物。

 

そう、あれはーーー

 

 

 

 

 

 

「超合金・・・Z?」

 

「お、結構重い・・・が、中々馴染むじゃねえか」

 

 

何度か確かめる様に抜き取った槍を振るった。

すると満足そうな顔を浮かべクーフーリンは蟲に向かってその槍を投げた。

 

次の瞬間

 

え?

 

 

 

 

立華は思わず声を漏らした。

 

見えなかった。

 

投げた瞬間は見えた。そして槍は少し離れた所にある民家に刺さっている。

 

しかし飛んでいる所は全くと言っていいほど見えなかった。

 

それだけではない。

 

先ほどまで溢れんほどにいた蟲の大群、それらが槍の前から消え失せたのだ。

 

 

「兄貴、それって・・・」

 

「ダヴィンチのおっさんからもらってな、ルーンを浸透させるために杖に仕込んでおいたさね」

 

前回の特異点でクーフーリンは力不足を感じていた。いや、もどかしさとでも言うべきか。生前と比べて明らかに力不足な自身の身体、そして愛槍が手元にない状態。それらを解決するためにダヴィンチの元に尋ねた。

すると彼女は微量ながら超合金Zの生産に成功したらしく、それを彼の要望の形に削りあげたのだ。これにより彼は身体強化に全魔力を巡らせる事が出来、本来のスタイルを行える。

 

 

それだけではないーーー

 

 

(この槍・・・・・下手したらゲイボルグに近いか同等の・・・・)

 

霧に沈む広場の中を金色の線が走る。

先ほどまでわからなかったが、蟲は槍が当たるたびに何故か活動を停止しており、殆どは風圧によりバラバラになっているが中にはその身体を溶かしているものもいる。

 

唖然としている中ロマンの声が響く。

 

 

『解析出来た!そいつらはただくっついただけじゃない!群体の様な特性を持つものだ!』

 

「群体?」

 

群体というのは、無性生殖によって増殖した多数の個体がくっついたままで、一つの個体のような状態になっているもののことである。主として動物および藻類に対して使われる。

 

『違和感を感じたんだ。奴らは虫と死体が融合したはずなのにどう考えても虫の体積が少なすぎる。それだけの死体を支配下におくには本来その質量と融合する20分の一くらいは必要なんだ』

 

『それを補うために奴らは複数集まりその形を維持しているんだ。だから身体の一部を攻撃しても、残りがそのままおそってくるぞ!』

 

それを聞いた立華はすぐに切られた死体に目を向ける。

死体は先ほどまで痙攣していただけのはずなのに、今は千切れた身体を合体させようとしていた。

 

「でも兄貴の槍は聞いてる感じだけど?」

『それは何故かはわからない。でも今は彼に頼るしかない!そして多分だけど奴らに有効打をあたえるのは・・・」

 

 

「!超合金Z・・・!ドクター!マシュと清姫の居場所は?!」

 

『二人は今テントの西側に・・・!?動体反応?まずい!彼女達も囲まれてる!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぐぅぅぅ・・・!」

 

「マシュさん・・・!」

 

 

現在二人は多くの蟲に囲まれていた。

元々耐久力のないバーサーカーである清姫には、蟲達の猛攻に耐え続けるのは不可能だ。宝具を使えば再生能力関係なく吹き飛ばすことは出来る。しかしここは街の中心、多くの犠牲が出てしまう。

 

「今は・・・!今は耐える時です!この蟲が再生出来る能力がある以上私たちでは相性が悪いです!」

 

ならば先輩達が援軍に来るまで待つ!

 

しかしそれはいつになるのだろうか。この規模からして、恐らく立華達の所にも蟲は来ているだろう。あの3人がこの群れと戦うとして、一体どのくらい時間がかかるだろうか・・・。

 

 

そんな事をうっすら考えながら、マシュはシールドバッシュで蟲達を後ろに突き飛ばす。

 

しかしまた先ほど以上の蟲が攻めて来て押し込まれる。

二人はその後も耐え続けたが、やがて建物の壁に追い込まれてしまった。

 

 

好機とみたのだろうか、蟲達は二人に向かって生々しい触手を伸ばし出した。恐らく二人の身体を自身の一部とすべくトドメを刺そうとしているのだ。

 

「清姫さん!焔で私ごと・・・!私なら耐久力があるので死ぬ事はありません!」

 

 

「そんな!そんな事」

 

 

 

二人が言い争う暇も与えない。

蟲達はすぐさま己の触手を二人に隙間なく放つ。いくらサーヴァントといえ、マシュは生身。このままでは蟲の一部とされてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし!その時二人の耳に、聞いたことのない声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「そこの二人!地面に伏せな!」

 

 

 

デビル!ビイイイイイイイイイイム!!!!

 

 

 

 


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