ゴリー・ラントワネット「魔法がダメなら、筋肉で殴ればいいじゃない」   作:トマトルテ

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ゴリー・ラントワネット

 有利な個々の変異を保存し、不利な変異を絶滅すること。
 これが自然淘汰である。
                ~チャールズ・ダーウィン~


 進化とは自然淘汰のことであり、そこに人も魔物も違いはない。
 生き残った種の特徴が色濃く残り、生き残れなかったものは歴史から姿を消していく。如何なる世界であろうともその法則は乱れない。それは、ここアニムル王国でも例外ではない。

「さて、本日の会議で諸君らに集まってもらった理由は他でもない。
 魔法抵抗を持つ魔物の出現について話し合うためだ」

 普段であれば煌びやかで豪華絢爛な空気を漂わせる王城。
 しかし、今はその主である王と共に暗い空気を漂わせていた。
 そして、円卓につく貴族達の表情もまた暗いものであった。

「我らは魔法を使い、魔物を駆除してきた。
 だが、魔物達は進化の過程でその魔法に抵抗力を持つものを生み出し始めた」

 この世界では貴族や王族という、選ばれた者達は魔法を使うことが出来る。そして、その力を用い、世界中にはびこる魔物の駆逐を行っていた。もっとも、順序としては魔法が使える者達がその力で使えない者達を守り、特権階級となってそれが今の貴族に繋がったのだが。

 要するに、彼ら貴族達は民を守るために戦う代わりに、税などを納めてもらえるのだ。そのため、彼らの多くは民を見下してはいるが守るという行為に誇りを持ち合わせている。故に、今回の件で集まった貴族たちは誰もが真剣な顔で、王の話を聞いている。

「今はそれほど多くの個体がいるわけではない。
 しかし、10年後、20年後は魔法抵抗持ちはさらに増えているだろう。
 今のうちに対策を立てねば人類は滅ぶ。
 皆の者、どうか知恵を貸してはくれぬか?」

 普段は威厳に満ち溢れた王が出す、弱り切った声。それが事態の深刻さを表していた。それ故に、貴族達は普段はいがみ合っているにもかかわらず、互いに意見の交換を始める。

 いっそのこと、魔物を放置して元に戻るまで待とう。今のうちに魔物を全滅させてしまえ。など、多くの意見が交わされたがどれも現実的ではない。そのため、議論は進まず、怒号が飛び交い始める。

 しかし、そんな中一人の令嬢だけは優雅に紅茶を飲んでいた。
 緊迫した会議場には余りにも似合わない優美な姿。
 本来であれば褒められるそれも、今この場では八つ当たりの対象にしかならない。

「ラントワネット嬢、皆が真剣に話し合っておるのだ。
 貴女も真面目に参加しなされ!」

「あら、ごめんあそばせ。
 ですが、皆様、余りにも難しく考え過ぎですわよ?
 解決方法は案外簡単なものです」

 ふわりとカールのかかった金色の髪を撫で、エメラルドの瞳で他の参加者を見渡す彼女の発言に、その場にいる者達全員が視線を向ける。そして、この場の代表である王が彼女に問いかける。

「では、ラントワネット嬢。そなたの考えを聞かせてはくれまいか?」
「はい、分かりました。物事は単純に考えるべきです。要するに―――」

 彼女はそこでためを作り、ついで一気に吐き出す。



「―――魔法がダメなら、筋肉で殴ればいいじゃない」



『それだッ!!』

 彼女の名前は、ゴリー・ラントワネット。
 アニムル王国、筆頭貴族であると共に、こよなく筋肉を愛する者。
 略称はゴリラであり、ガリレオ・ガリレイの略称であるガリガリと対をなす存在。
 
 これは、そんなゴージャスでリッチな彼女の人生(ライフ)を描いた物語。
 つまりは―――ゴリラな物語である。





 強く気高く美しくあれ。

 それがラントワネット家に伝わる家訓である。
 強いものは美しい。要するに筋肉を鍛えれば美しく強くなれる。
 ゴリーはそんなの家訓を歴代の誰よりも忠実に守ってきた。

 魔法が使えれば筋肉が無くても大丈夫、と慢心する貴族が多い中、彼女だけは常に肉体を鍛え続けていた。腕立て・腹筋・背筋・スクワットを100×5セット。ダッシュを200本。柔軟な筋肉をつけるためにアップとクールダウンでそれぞれ1時間のストレッチ。

 これらを毎日こなすことにより、彼女は剛力(ゴうりき)を持ち、()に適った、素晴()しい肉体、要するにゴリラな肉体を手に入れたのである。

 なお、彼女の名誉のために言っておくが、彼女は太ってなどいない。
 筋肉で腕や太ももが太くなって、腹筋はバキバキに割れているが美少女である。
 100人中100人が、彼女の特技であるリンゴ潰しを見て、顔を青ざめさせながら美少女だと頷く程度には美少女である。

「では、クマさん。ごめんあそばせ」
「うわー、クマの魔物をジャーマンスープレックスで沈めるなんてお嬢様は凄いなぁー」

 そう、自分の倍はあろうというクマの魔物に、造作もなくジャーマンスープレックスを決め、森の中に屍の山を築き上げていても美少女である。新しくお付きに雇われたゴスロリ少女、ウサギ・ラ・ビットが、常識って何だろうという目で見つめてきていても美少女である。

 ドレスをはだけさせているのに、全く色気を感じなくても美少女である。

「ふう、中々の強敵でしたわね、ウサギ」
「え? どう見てもお嬢様の圧倒……」
「まだまだですわよ、ウサギ。無傷で勝ったからといっても、相手は魔物。
 もしも頭に攻撃を入れられていたら、結果は逆だったかもしれませんわ」
「な、なるほど」

 正直、この人なら普通に耐えそうだと思ってしまうウサギ。
 しかし、それを言うと何だか後が怖いので黙っておくことにする。

 因みに彼女がゴリーに雇われた理由は、
 ゴシック・ロリータなラビット、略してゴリラという筋肉に愛された名前だったからである。

「それはそうと、村の農作物に被害を出していたモンスターは今ので終わりかしら?」
「えーっと、報告だとグループベアの群れだけらしいので、間違いはないと思います」
「ですが、まだグループのボスは倒してませんわ」
「あ、そうですね」

 今回、ゴリーが討伐に来たグループベアは、ボス熊を中心に群れを形成する魔物である。ただでさえ、強い熊が徒党を組んでいるのだ。何の力も持たぬ農民達では太刀打ちができない。そのため、中々に厄介な魔物としてこの国では認識されている。

「そうなると、離れていてもこの近くにいると思うのですが」

 ウサギがきょろきょろと辺りを見まわすと同時に、タイミングよく木々がガサガサと動き始める。

「噂をすれば影が差すとはまさにこのことですわね。ウサギ、下がっていなさい」
「はい、お嬢様」

 ウサギを自分の後ろに下げ、ゴリーは木々をへし折りながら現れたボス熊を見上げる。先程まで倒していたクマよりも2回りは大きい体に、目元に入った古傷。そして何より、体を薄っすらと覆う青い膜。

「アンチマジックモンスター…ッ!?」

 ウサギが驚きの声を上げる。A(アンチ)M(マジック)M(モンスター)とは、その名の通り魔法抵抗を持ったモンスターのことだ。長年に渡り、人間の魔法で狩られてきたモンスターの中から生き残った者が、子孫を残すことでこうした特殊な力を持ち始めたのである。最近はこうした魔物が人間に猛威を振るっているのだ。

「あら、AMMですか。ちょうどいいですわ。ウサギ、あなたもいずれ戦うことになるから、よく見ておきなさい。今から対AMMへの戦闘をお見せしますわ」
「わ、わかりました!」

 しかし、ゴリーはどこまでも余裕の表情である。それどころか、自分のお付きになったウサギへの戦闘指導に使う気満々である。そんな態度に気づいたのか、はたまた、仲間の敵を討とうとしているのか、ボス熊の方は怒りの咆哮を上げゴリーに突進してくる。

「まず、AMMの魔法抵抗は相当のものだということを理解しておくように」

 そう言って、ゴリーは軽くファイアボールをボス熊の顔面に飛ばすが、相手は蚊が止まったような反応すら見せない。それ程までに魔法抵抗は強い。故に、魔法しか使えない場合は一方的になぶられる結末にしかならない。

「このように魔法は効きません」
「お、お嬢様! 呑気に説明していると危ないですよー!?」
「ですが、魔法がダメだからといって戦えないわけではありません。例えばこのように」

 悲鳴を上げるウサギとは対照的に、ゴリーは淡々と説明を続ける。そして、当然のことながらそれはボス熊にとっては絶好のチャンスだ。容赦なく突撃し、ゴリーを吹き飛ばそうとする。だが、その巨体は突如として、地面に叩きつけられる。

「鍛え上げた筋肉ならば、普通に触ることが出来ます」
「5メートルはある熊を片手で押さえつける筋肉って何ですか!?」
「ウサギ、よく覚えておきなさい。魔法に限界はあっても、筋肉に限界はないのよ」
「普通は逆ですよね!?」

 涼しい顔で、ボス熊の頭を上から押さえつけ、地べたに這いつくばらせるゴリー。その姿に、ゴリー・ラントワネットの真の力をまだ知らないウサギは白目をむく。

「ウサギ、驚くことではありませんよ。魔物が進化した以上、人間も進化しなければやられてしまいます。魔物は魔法抵抗を、人間は筋肉を進化させただけです」
「いや、筋肉を進化させたのはお嬢様だけじゃ……」
「最近の王族・貴族のトレンドは筋トレですわよ?」
「私の貴族様に対するイメージが壊れるぅ!」
「特に(わたくし)も監修している『月刊:エレガントマッスル』は知らないと恥をかくレベルで売れていますわ」
「この国は一体どこを目指しているんですか!?」

 平民出身であるウサギに政治は分からぬ。
 しかし、今後自分の国が筋肉に支配されていくのだと思うと酷く憂鬱になった。

「それに、これはあなた方にも悪い話ではないのですよ?
 魔法が使えたからこそ私達貴族は特権階級で居られた。
 ですが、筋肉ならば万民に平等、誰でも上に行く権利が与えられます。
 今、この国は筋肉を中心として変わろうとしているのです
 そう、まさに世は―――大筋肉時代に突入しようとしているのです!」

「私は今まで通り貴族様に守ってもらいたいなぁー」

 筋肉を基準とし、筋肉で全てを掴み取る筋肉平等論を熱く語るゴリー。反対にウサギは今まで通りに筋肉のない生活が良いなと思う。いわゆる悟り世代という奴だろうか。

「と、いけませんわ。私としたことがつい無駄なお喋りを。
 では、ウサギ、戦闘指導を再開しますわ」

 うっかり話し過ぎてしまったと、自身を諫め、ボス熊の拘束を解くゴリー。解放されたボス熊は、圧倒的な力の差にどうするべきかと一瞬悩むが、逃げることはできないと本能的に悟り、がむしゃらにその巨大な腕でゴリーを叩き潰しに行く。だが、鍛え上げた筋肉を相手にするにはいささか力不足であった。

「相手の打撃攻撃は拳で払いのけなさい。そうすることで、防御になると共に相手に隙を生み出すことが出来ます」

 軽く裏拳でボス熊の腕をはじき、ゴリーは言葉通りに隙を生み出す。そして、戸惑うことなくボス熊の懐に潜り込み、強烈なアッパーを腹部に叩きこむ。

「全身のバネを活かしたアッパーを腹部に叩きこむことで、相手を宙に浮かせ自由を奪います。いいですか? あくまでも繊細にです」
「どこをどう見ても豪快なんですが、それは」

 ウサギにツッコミを入れられるが、彼女は豪快かつ繊細な戦いを行っている。見た目的には、傲慢(ゴウマン)でリスキーでラフな戦い、ゴリラな戦いに見える。だが、実際のところは、()快に見えても()に適った素晴()しい戦い、つまりはゴリラな戦いであるのだ。

「そして、自由を奪った相手に反撃の機会を与えずに追撃を加えます。
 できれば、遠心力を活かした重いパンチで」
「うわ……ボス熊のお腹がベッコンベッコンに……」

 ボス熊の腹部にさらに拳のラッシュをお見舞いしていくゴリー。これではどちらが悪役か分からないが、ゴリーは美少女なので誰もが彼女が正義だと言ってくれるはずだ。

 そう、これはゴリ押しのラッシュ、略してゴリラッシュである。
 別にパトラッシュがゴリラになったわけではない。

「そして止めは意識がもうろうとした相手の後ろに回り込んで、
 ―――ジャーマンスープレックスッ!!」

「ああ…! 熊の頭が地面にめり込んで凄く気持ちの悪い光景に…ッ」

 止めに得意技のジャーマンスープレックスを叩きこんで決める。
 勿論、スカートの中身は見えない。
 実に計算しつくされた戦い方だと言わざるを得ないだろう。

「さて、今ので戦闘の基本は大体分かりましたね?」
「分かりましたけど、私にはできません」
「そう不安になる必要はありませんわよ。私も幼い頃は、ダンベルでジャグリングをするお父様を見て、自分でもああなれるのかと不安に思っていましたもの」
「因みに今は?」
「バーベルでのジャグリングは私の趣味ですわ」
「やっぱり私にはできませんよぉッ!?」

 余りにも高すぎる壁を見て涙目になるウサギ。しかし、彼女には逃げ道はない。ラントワネット家に仕えた以上は、一定以上の筋肉をつけなければならないのがしきたりだ。何より、これからの時代はより筋肉が必要とされるようになるのだ。平民出身だからと言って鍛えなくてもいいという時代は終わったのだ。

「弱気は最大の敵ですわよ。大丈夫、私を信じなさい。ウサギ、あなたには才能があるの。そう、筋肉に愛されていると言っても過言ではない程の」
「愛なんて要らないですッ!」
「さあ、まずはあの筋肉の星に向かって入っていきますわよ!」
「話を聞いてくださいよぉ!?」

 弟子の育成に燃えるゴリーにせかされ、ウサギは涙ながらに走り出す。
 そんな光景を星々は優しく見守っていく。

 これからも人間は苦難の歴史に晒されていくだろう。
 しかし、その度に人間は乗り越え、進化していくはずだ。


 なぜなら―――人間は筋肉と共にあるのだから。




タイトルを書きたかった。ただそれだけ。






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