インフィニット・レギオン   作:NO!

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宣告

 十春と箒が屋上で再会と小さな悶着を起こしている頃、ここは、とある国にあるバー。そこは哀愁漂うBGMが流れ、店内も照明が少ないのか薄暗い印象がある店だった。

 客は居ない訳ではない物の、三人しか居なかった。三人はカウンターの所にいる物の、一人は店のマスターであり、二人は客であった。

 その二人の客とは、肆狼と玖牧であった――二人はバーで呑み交わしているが二人はそういった行動を起こしながらもしていない。肆狼は、円形のアイスロックが入っていながら酒の注がれたガラスのコップを手にしている。

 酒は温い訳ではないが二人の間には会話は無い――否、無いと言うよりもそう言った雰囲気ではなく、そう言った和みを見せなかった。

 肆狼は哀しそうであるが何処か怒りが孕んでおり、玖牧は哀しみその物を表しながらも俯いている。そんな二人をマスターは不思議そうに心配そうに見ていた。

 出来る事なら話題を出したいがマスターはそう言った事は出来ないでいる――無い訳ではないが見守る事しか出来なかった。二人の間には何が遭ったのかは判らないが二人の問題は二人で片付けるしかない――そう悟ると共に見守る方を選んだのだった。

 ――なあ、牧師さんよ? ――。肆狼が微かに口を開いた。肆狼の言葉にマスターはぴくっと反応し、玖牧は反応を見せた物の肆狼を見る事はせずに聞き返す。

 

「……何でしょうか?」

「……アンタはどう思うんだ?」

「どう思うって?」

「彼奴ら――壱夏達の事だよ」

 

 肆狼の言葉に玖牧は辛そうに下唇を噛む。肆狼の言いたい事は判った――が、何処か躊躇さえも感じる。二人はさっきから言わなかったのは、二人は彼等を、壱夏達を、三上が教えし、実行するよう言った計画に参加させる事にだった。

 別に参加させたくない訳ではなかった――なのに何故か二人は躊躇していた。彼等は未だ子供だ、青春を謳歌する年頃であり、色々な経験が必要な子供だ。

 二人は大人として、人生の先輩として心配していた。彼等の保護者になったつもりは無い――なのに不安が拭いきれない。胸騒ぎしかしない。

 二人がバーにいるのは他愛の無い会話をしに来た訳ではない――二人は大人として、子供である壱夏達に計画に参加させるのはどうかと、二人が互いに約束する形で、話をする形でバーに来たのであった。

 二人はそう思いながらも、肆狼は言葉を続ける。

 

「彼奴らは未だ子供だ――少年兵と言う柄でもねえし、彼奴らには彼奴らなりの考えもあるだろうしな」

「……そうですね……ですが私は反対です――いくら彼等の意見も尊重しなければいけないとは言え、彼等にはやる事がまだまだりますよ!」

 

 玖牧は静がに怒る。牧師としてではなく、子供を心配する者としての意見でもあった。

 

「そうは言っても、彼奴らが決める事だ――牧師のアンタが如何言おうが、変わる事は無いぜ?」

 

 肆狼の言葉に玖牧は顔を上げ、肆狼を見る。

 

「ですが! ……それは神が許す筈も無く、あるまじき行為です! 神が許す筈もありません! 私は神に仕える身ですが背く行為にも等しいのですよ!?」

 

 玖牧は怒る。が、肆狼は玖牧を哀れむように見るが彼は手に持ってるガラスのコップに注がれている酒を呑む。彼は何かを言いたいのを呑み込む形で酒を呑んだ。

 玖牧の言い分には同情するが決めるのは自分ではない事も気付いていた。肆狼は酒を呑んだ後、玖牧を見る。彼は憤怒とは言えないが確かに怒っていた。

 壱夏、伍、拓陸――三人の子供達には、あの計画は自殺行為かつ厳しい――出来る事なら大人である自分達だけで実行すると考えていた――悪魔に魂を売るにも等しい行為だが玖牧はそう考えていた。

 

「私は壱夏君達を、未来ある子供達を戦場には、死地には赴かせたくありません……!」

 

 玖牧は辛そうに俯くと、肩を震わせる。自分は牧師であり、子供達を導き、悪い事をしない様に言い聞かせる――牧師であるが故の定めであり、神に仕える身としての定めでもあった。

 だが時には悪魔にも魂を売る事もあるが間違っていながらもそれを厭わない――玖牧は牧師としても、IL操縦者としても自分の定めには従い、使命を全うする意味でも彼は自分にそう言い聞かせていた。

 そんな玖牧に肆狼は何も言わず、彼の方に手を置く。彼なりの気遣いでもあるが玖牧に助言する。

 

「仕方ねぇよ――俺達は既にもう、戻れぬ道へと進むしかねえ――それに俺達が動かない限り、この世界に未来はねぇ」

「……それはそうですけど――ですが可笑しいですよ――何故ILは男性にしか扱えないのですか? 普通だったら女性も扱える様に――っ……! すれば良い筈なのに……」

「それは判んねえよ……だけど異常と思わねえか? コアの数がよ……」

「ええ――六千……ILのコアの数が六千と言うのは異常です……! ISと全面戦争になっても、結果は目に見えますし、何より一方的な鎮圧戦である上、多数の死傷者を出しますよ!?」

 

 玖牧は辛そうに吐き出す形で言葉を述べる。ILのコアが異常であった――それも六千もあり、ISの四百六十個くらいしかないコアを遥かに凌駕する意味でも多い。

 三上は何故そんなに造ったのかを二人は疑問に思うと共に、肆狼は酒を呑む――彼は酒を呑み干した。彼も何かを言いたいのを堪えていた。

 

「それよりも牧師さんよ……アンタに宣告したい事がある」

 

 肆狼の言葉に玖牧は顔を上げ、肆狼を見る。彼は玖牧を見ていないが表情は険しく、何処か暗い影が見える。

 

「牧師さんよ――俺はもう、女尊男卑の時代のまま死にたくねえんだよ――それに俺は神を信じねえ――信じられるのは自分だけであるのと、お前達だけだよ」

「肆狼さん?」

 

 肆狼の言葉に玖牧は首を傾げるが、彼は空になり、アイスロックしか入ってないガラスのコップを見つめていた。

 

「牧師さんよ――俺はILが世界に必要だと思うんだ――ILさえあれば女尊男卑に革命を起こし、男共は救われると思うんだ」

「ですがそれでは男尊女卑と言う愚かな風潮を生み、暴動が起きる危険もあります……それでは何も変わらないし、暴力で解決するしかない様にも思えます」

「だからこそだよ……」

 

 肆狼はガラスのコップをマスターに差し出す。マスターは無言で哀しそうに微笑みながら受け取ると、酒を注ぎ始める。その間に肆狼は玖牧に言う。

 

「牧師さんよ――これは革命だ――女尊男卑により傷付いた男共の復讐だ、反乱だ――そう捉えざるを得ない――それに女共にはいい薬だ――こうでもしない限り、何年も続く呪いの掟だ――何れ世界は破滅を迎えるだろうしな」

 

 肆狼は辛そうに俯く――彼は身体を震わせていたが怒りをも覚えていた。誰かがやらない限り、この世界を変えない限り、何れ破滅する、崩壊する――そう感じていた。

 刹那、肆狼の前にあるテーブルの上に、酒が注がれたガラスのコップが置かれる。マスターが置いたが肆狼は手にはとらなかった。彼は身体を震わせ続ける中、再び口を開く。

 

「俺はもう、戻るつもりは無い――俺は男共を救う為にILを使って、女尊男卑に染まった女共に一泡吹かせたい。例え己を破滅を追い込む形になろうと、俺は自分の信念を貫き通す!」

 

 肆狼は静がに怒りながら語る。彼なりの玖牧への宣告であった――仲間でもあり、酒を呑み交わす事が出来る大人の仲間としても、彼を信頼していた。

 宣告とは言えないが彼なりの信念がある様にも思えた。

 そんな彼の信念に玖牧は何も言えなかった。彼は肆狼の信念に押された訳ではない――彼の同性を思う気持ちに何処か感銘し、何処か不安をも感じた。

 彼は何故女尊男卑を怨んでいるのかは判らない――だが今は、肆狼の気持ちを理解しつつ、内心、祈る。

 ――彼に、幸ある未来を――と。玖牧は副業としても本業に近い牧師としての願いが籠められていた。仲間である以前に、牧師としての自分がいる。

 慈悲や慈愛と言った類いはある物の、彼は健全に牧師としての祈りと願いを込める意味での呟きでもあった。

 

「……肆狼さん、あなたの気持ちは自分も判りますが本題を忘れていませんか?」

「本題……ああ、壱夏達の事か?」

 

 肆狼は顔を上げ、哀しそうに笑うが玖牧は哀しそうに俯くと、自分の物であろうガラスのコップを見つめる。酒は注がれている物のアイスロックが少し小さくなっていた。

 彼はずっと手をつけていなかったが彼はそれを手にすると、口に含む。口内に酒が流れる物の少し水っぽっかった。が、彼も何かを宣告したかったが彼は呑み込む形で忘れようとしていた。

 これも彼の、壱夏達を思い、自分達は一夏に黙って話をしている事への許しを乞う意味でも、懺悔とも言える行動であり、忘れたいと言う我が儘もあった。

 そして、彼は酒を呑み干すと、マスターに「おかわりを下さい」と言いながらガラスのコップを差し出した。




 次回、宣言。

 さて、此所からは、このタイトルの意味を教えます。
 インフィニット・レギオン――通称、無限の軍団と意味しています。が、レギオンとしたのは、レギオンはローマ軍団を意味する形で使い、コアが六千なのは、ローマ軍団が最大で五、六千人の軍団を従えた意味としても、その数を使いました。

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