「マジかよ……知りたかったけど、知りたくもない事を知ってしまったよ……」
一時間後、十春は自分の席に着きながら頭を抱えていた。今の時間帯は軽い休み時間であるが周りにいる女子生徒達は彼、十春を見ていた。
好奇、嫌悪と言った様々な視線を感じるがクラスの中だけとは言ってない――外、通路には別クラスは愚か、上級生もいる。彼女達の視線が痛い――そう言った訳ではない、彼は、十春は別の意味でも悩んでいた。
自分の姉が、この学園の教師である事と、それが自分の受け持つクラスの担任であった事に驚きを隠せなかった。姉は何の仕事をしているかは知らなかった。
ニートと言う訳ではないが姉は何処かの軍の教官をしていたとしか思っていなかった。公務員は向いていないと思っていた。この学園での教師とならば、姉にはうってつけであり、姉は教える立場の方が似合っている。
姉は超人であり、カリスマ性もあり、現役引退はしている物の人気は衰えを見せない――自分はまるでパンドラの箱を開けた様な感覚に教われた。出来る事なら逃げ出したい――そう思ったが待ってるのは解剖と言う名の実験が待っている。
――ちょっと良いか? ――。すると、悩んでいる十春に声を掛ける者がいた。十春は顔を上げ、声がした方を見ると、一人の女子生徒が立っていた。
凛々しい佇まいに、美しくも手入れされている長い黒髪をリボンでポニーテールにし、美しく澄んだ黒い瞳。まるで現代に蘇った大和撫子の様にも思える。
十春は彼女を見て驚きを隠せないが彼女は頬を紅くしていた。
「此所では何だが、屋上で話そう」
女子生徒は十春を誘う。周りは何故かざわざわし始めるが告白話ではない――最も、その行動は誤解の元とも言えるが二人は告白話とかそう言った類いではないのと、久しぶりの再会とも言える出来事と、その話をする為に敢えて、屋上で話をする事を少女自身が決めた事であった。
少女の言葉に十春は頷くと、周りは更に騒がしくなる物の、十春は立ち上がり、少女に従いていく形で屋上へと向かう為に歩き出した。
屋上――この学園の最上階でもあり、風が通る場所。晴れの日には弁当を食べるのも良し――逆に雨の日は気分を悪くし、誰も屋上へと来たがらないだろう。
今日は快晴であり、微風が吹く――屋上には二人の男女がいた。一人は織斑十春――もう一人は十春を屋上へと誘った少女。
少女は十春に背を向けていた物の頬は紅く、恥ずかしい、愛しい――そう言った感情が見て取れるのと、少女が十春に想いを寄せている事が見て取れる事も出来る。
しかし、何時までもクヨクヨしていた――十春に何て声をかけてやれば良いのかが判らないでいた。刹那、十春が声をかける。
「久しぶりだな、箒」
十春は少女、箒に声を掛ける。それを聞いた箒は目を見開く物の後ろを振り返る。十春は微笑んでいたが再び声を掛ける。
「久しぶりだな、箒、小学生以来かな?」
「十、十春……ひ、久しぶりだな!」
少女は、篠ノ之箒は十春に対して嬉しそうに言う――箒なりの勇気を出しての言葉だろう。十春とは六年前に転校と言う形で離れ離れになってしまった。
が、今日と言う日が二人を引き合わせる形で再会させてくれた。十春はちょっとした好奇心により、箒は身内が原因であった。
それも今日までであり、これからの学園生活で何時までも逢える事を意味していた。
「久しぶりだな十春――っ……!?」
刹那、箒は顔を引き攣らせながら哀しそうに俯く。箒は、ある人物を思い出したのであった。それは十春にとって、箒にとっても嫌な思い出であり、後悔しか無い思い出でもあった。
箒は戸惑う中、十春は「箒?」と不思議そうに、心配そうに訊ねると箒は哀しそうに聞き返した。
「十春――その、一夏の事なのだが、大丈夫か?」
――っ!? ――。箒の言葉に十春は瞠目し、直ぐに下唇を噛みながら辛そうに俯く。一夏――それは十春の兄であり、姉の弟でもある人物。
彼は周りから自分と比べられて迫害されていた。それだけでなく、彼は三年前に行方不明――否、死亡した。あの日、彼は誘拐された――否、自分も誘拐されたが自分は姉に助けられた為に助かった。
しかし、兄は助からなかった――近くには誰もいなかった――あるのは男達の亡骸だけであった。兄は何処にもいなかった。いたとしても自分から姿を現す筈――なのに兄は姿を現すどころか、見つからなかった。
兄は失踪した――そう思った――否、そう思えざるを得なかった。それだけでなく、あの日から全てを喪う感覚に襲われた。姉は兄を助けられなかった事で後悔と嘆き悲しみ、僅かに除いた友人達を除き、周りは兄がいなくなった事に清々したと言った。
これには十春は怒りを覚える――周りは自分達の境遇に同情どころか兄を馬鹿にした事に怒りを覚え、兄の事を気にしながらも何も出来なかった自分にも怒りを覚えた。
十春は一夏の事を思い出し後悔する中、箒は辛そうに俯くと身体を震わせる――哀しみではない――怒りであった。
「あの人のせいだ……あの人がISを作らなければ、こんな事にはならなかった……!」
箒の言葉に十春は顔を上げ、「ほ、箒?」と言いながら箒を見る。
「全てあの人のせいだ! ……あの人がISを造ったから一夏は死んだんだ! 私も転校を繰り返したのも、家族が離れ離れになったのも全てあの人のせいだ……!」
「ほ、箒!?」
「あの人のせいで……あの人のせいで皆、皆……!」
刹那、十春は箒の肩を掴み激しく揺らす。
「違うよ箒! あの人は、束さんはISを造ったのは束さんが宇宙へと行きたい思いがあったんだ! だからISを造ったんだ! 僕は束さんの夢は凄いと思ったし、一兄も凄いと言ってたよ!?」
十春の言葉に箒は顔を上げる――箒は泣いていた。が、その表情は怒りと哀しみが混じっている。
「では何故あの人はISを女性にしか扱えない様に造ったのだ!? それにISはスポーツ用と言いながらも兵器を重点としているではないか!? あれで宇宙へと行けると言う様な物と言えるのか!? どうみても間違ったとしか言いようが無い!!」
「それは違う! あれは束さんが悪い訳ではない!! 女性にしか扱えないのは判らないけど、世間がISを兵器として考えたからだ!」
「嘘だ! あれはどう見ても……どう見ても兵器としか言いようが無いではないか……ううっ」
箒は一通り言った後、泣き出す。箒はISが嫌いであった――あれは、ISは自分の姉が造った物であるが世間はISを兵器としか考えていなかった。
束が女性にしか扱えない様にした理由は判らないが箒は家族共々離れ離れになり、一夏や十春とも離れ、転校を繰り返していた。
全ては束のせいであり、憎いとしか言いようが無かった。が、そんな箒の言葉と涙を見て、十春は何も言わずに箒を抱き締める。
自分にはこれしか出来なかった――束の夢は偉大かつ無謀とも言えたが応援していた。しかし、世間はISを、束の夢を如何でも良いと考えていた。
ISを変えたのは、時代を変えたのは束だが束ではない――世間が利益が欲しいが為に変えたのだ。悪いのは利益を欲しいが為に私利私欲に走った者達なのだ。
十春はそれに気付きながらも束を応援していた――しかし、箒は束を憎んでいる。そしてさっき、自分達は小さな悶着を起こした。片方は束の夢を応援し、もう片方は姉の夢を馬鹿げていると思っていた。
だがこれだけは言える――誰も夢を持つ事は悪い訳ではない――しかし、それは誰かを犠牲にしてでも叶える物だろうか?
これだけは十春は判らなかった――十春は箒を宥めていたが不意に兄を思い出す。一夏なら何て言うのだろうか? 否、一夏はいない――これは誰にも判らない問いでもあり、永遠に見つかるかどうかも判らない問いでもあった。
十春は空を仰ぐ――空は青く、白い雲が悠々と泳いでる。そして、チャイムが鳴った――休み時間の終わりを告げ、二時間目の始まりを意味していた……。
次回、宣告