インフィニット・レギオン   作:NO!

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入学
入学


 一ヶ月後、春の季節の訪れと共に桜が舞い、新入社員や新入生等が門出を祝い、新たなる生活を送る四月の初旬。此所は日本の本州から僅かに離れた孤島に立てられた学園、IS学園――その学園にあるとある教室の、一年一組の教室。

 この日は入学式であったがその教室は異様な雰囲気に包まれていた。此所はIS学園であるのと同時に女子校であり、女子生徒は愚か、教員達も女性が当たり前であった――否、既に過去形だろう。

 今は革命が起きた意味で男子生徒が一人いた。この学園の象徴であもある白い制服を纏っている。爽やかな顔立ちに黒髪黒眼の青年だった。

 しかし、彼は今、この異様な雰囲気にたじろいでいた。彼は今、クラス全体の同級生でもあり、周りにいる異性に好奇と憎悪が入り交じった視線を向けられていた。

 

「(何でだよ……)」

 

 青年は周りから向けられる視線に耐えられず冷や汗を流していた。本来なら自分は、こんな女の園にいる筈は無かった――自分は別の高校で受験するつもりだったにも拘らず、ある非日常かつ非イベント的な出来事に見舞われた。

 と言うよりもちょっとした好奇心にも拘らず、それが原因でこの場所へと強制入学されたのである。

 

「(何で触ったんだろう……何で起動したんだろう……)」

 

 青年は自分の行動に後悔した。自分はISに触れただけなのに、何時の間にかISを纏っていた。そこから別の人に見られ、連日世界初の男性操縦者としても、身内が有名な者である事が原因でセンセーショナルに語られた。

 出来る事なら触れなければ良かった――もう、後の祭りだろう。刹那、教室の扉が開き、出席簿を持った一人の女性が教室に足を踏み入れ、教卓の前に立つ。

 二十代前半で中学生とも思える童顔に緑のロングカットに翡翠色の瞳、黄色を基準としたドレスに良く似た服装を纏い、茶色いブーツを履いている。

 

「今日から貴女方に勉強を教える山田真耶と申します」

 

 その女性は、真耶はクラスの生徒達に言う。が、反応はない――第一印象を付けようとしたが、これは悪い意味でも無駄になった。

 真耶は泣きそうになるが青年は真耶に対して「どんまいですね……」と気遣う。

 

「そ、それでは自己紹介をお願いします! 教卓の前に立って自己紹介して下さい! まずは、あからなので相川さんから!」

 

 真耶は気を取り直して、出席簿を開くと周りにそう言う。すると、女子生徒の一人が席から立ち上がり、教卓の前に立つと自己紹介した。

 

「私は相川清香と言います! 特技は……」

 

 清香と言う生徒は自己紹介する中、青年は更に冷や汗を流す。出来る事なら今直ぐにでも逃げたい――そう思っていた。刹那、誰かが声を掛けてきた。

 

「織斑君、おりむら十春(とはる)君?」

 

 誰かが彼に、十春に声を掛ける。それを聞いた十春は顔を上げると、そこには真耶がいた。真耶は心配そうに声を掛けていたが彼女は十春に言う。

 

「次は貴方の番ですよ?」

「僕の番?」

 

 十春はそう言うと、周りを見る――周りは自分を見ているが何処か何かを待ってる様にも思えた。次は自分の番――彼女等はそう言っている様にも思えた。

 十春はそれに気付くと「トホホ……」と今更ながらに後悔しながらも席から立ち上がり、教卓前に立つと軽く自己紹介する為に口を開いた。 

 

 

 

 

 

 十春がIS学園で自己紹介をしている頃、此所は世界最大の面積を誇り、南極や北極には劣る物の極寒の国としても有名であるロシア連邦――そのロシアの首都、モスクワ。

 今の時間帯は深夜三時である物の、日本よりも六時間も遅れていた。街は暗闇に包まれ、静寂に包まれている。この時間帯に起きてる者がいるのは珍しくもないが夜更かしは良くないだろう。

 そんなモスクワにあるとある五階建てアパートのとある一室――そこは広くはないが狭くもない。その部屋には二人の住人がいた。

 何方も大人ではない――何方も子供であった。一人は五歳ぐらいの男の子であるが彼はベッドで横向けになりながら寝息を立てていた――寝顔は何処か安心し、彼自身がスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている事を物語っていた。

 一方、

微笑ましそうに見つめている青年がいた――壱夏であった。そして寝息を立てている子供は伍であった。壱夏は伍を微笑ましそうに見ていたが不意に彼の頭を撫でる。

 ――ん……――。伍は微かに何かを言いかけるが起きる気配はない――だがそこが良い、伍を起こす事はしたくない上、彼の安眠を邪魔したくはない。

 壱夏はそう思いつつ伍から離れると、物音を立てずに寝室を出る――その前に伍を見るが微笑むと、静かに扉を閉めた。

 

 彼は伍の寝室から出ると、ある部屋に居た。それは自分の部屋だった。窓はあり、簞笥やベッド、机は元より、難しい書類や本が納められている本棚等が置かれていた。

 壱夏は部屋に入るや否や、ベッドに腰掛けると、窓の外を見る。夜なのか暗いが彼はある事を思い出していた。あの日――自分は死んでいたのかも知れない。

 食べる事も、寝る事も、動く事も出来なかったのかも知れない――そうなれば、親友達や幼馴染み――刹那、壱夏は眉間に皺を寄せると瞑目した。

 あの憎き姉を思い出していた。今日はIS学園の入学式――あそこには姉だけでなく、十春も居る――が、自分はあの学園に入学するつもりは無い――入学すればすればで一悶着は起き、面倒くさい事が起きるだろう。

 それ以前に自分はISを扱う事は出来ないがILを扱う事は出来る。そして、あの学園には彼がいる――彼なら、学園に入学しても文句は無いが恐らく立場を悪くするだろう。

 最悪の場合、ILとISの全面戦争になるが結果は目に見えている。ILの圧倒的勝利とISの弱体化兼女尊男卑社会の崩壊をし、男尊女卑の時代を迎える形で革命が起きるだろう。

 壱夏はそう思いながらもある決意を固めていた。自分はILの方を選ぶ――当然と言えば当然だ。壱夏はそう思いながらもある決意をも固める。

 

「例えあの女を、全世界の女を敵に回してでも俺は修羅になる――否、絶対になってやる……!」

 

 壱夏はそう決意していた。IL操縦者とは言え、避けては通れぬ道、石を投げられ様が親友達と敵対しょうが彼は元の鞘に戻るつもりは無かった。

 彼は女尊男卑が如何に愚かで卑しいのかを否と言う程見て来た。女性は偉く、女性は強い――そう言った負の感情としか言えない言葉を女性達は言い、威張っていた。

 中には非女尊男卑主義者もいるかも知れないが情に駆られれば命を奪われ、その者達は迫害されるだろうし、男尊女卑主義者達に良い様にされてしまう。

 ILはIS同様メリットがあり、デメリットもある――言わば、諸刃の剣だろう。壱夏はそう思っていた刹那、扉の開く音に気付き、彼が起き上がると、扉を開けたのは、未だ眠たそうで船を漕ぎそうにも思える目を擦っている伍が立っていた。

「伍、どうしたんだ?」

「う〜〜ん、眠れない」

「眠れない? さっきまで寝いてただろう?」

「うん……でも、怖い夢を見た……」

 

 伍の言葉に壱夏は「怖い夢?」と言いながら首を傾げると、伍は頷く。

 

「うん……お兄ちゃんが……」

 

 伍は何故か俯く。壱夏が『伍?』と不思議そうに訊ねるが彼は何処か心配していた。すると、伍は顔を上げる――何処か寂しそうで哀しそうにも思えるがかの子供は口を開いた。

 

「お兄ちゃんが皆を裏切って、アイゾーを纏って、アイエルを纏った男の人達に挑んでる夢を見たの……」

 

 伍の言葉に壱夏は瞠目し、全身の毛が粟立つ感覚に襲われる。自分が皆を裏切る? 愛憎を纏い、男達に戦いを挑む?

 それは天地がひっくり返っても有り得ぬ話であり、絶対に信じたくもない話――いくら伍の話とは言え、そんな夢みたいな、否、夢の話は絶対に有り得ない。

 希望や憧れと言った類いではないのと、予知夢ではない――伍から見れば悪夢だろう。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃんは、裏切らない、よね?」

「……」

 

 伍が心配そうに怯えながら壱夏に訊ねる――信じたくない、そう言った感情が見て取れるが壱夏は微笑む。

 

「ああ――裏切らないよ」

「……本当に? ――本当に裏切らないよね?」

 

 伍は壱夏に訊ね続けるが壱夏は優しく微笑みながら頷く。刹那、伍は壱夏の元へと駆け寄り、壱夏に抱き着く。壱夏は伍の行動に戸惑う事無く優しく受け止めると、彼の頭を撫でる。

 

「どうしたんだ伍? どうしてそんな夢を見たんだ?」

「……判んない――でも、そんな夢を見たんだ――壱夏お兄ちゃんが僕達を裏切ってそんな事をしたんだ」

「そうか……でも俺は裏切らないぜ――俺は嫌と言う程、この世の愚かな風潮を見て来たからな」

「僕も……でも今はこうさせて……」

 

 伍はそう言うと身体に力を入れる――彼なりの壱夏がいなくなる事への恐怖と、いなくならないで欲しい願望があった。彼の場合は後者を選ぶだろう。

 しかし、今は壱夏に甘えている――今はこうしたいのかも知れない――。

 

「ねぇお兄ちゃん、一緒に寝ていい?」

 

 伍の言葉に壱夏は微笑んでいたが更に微笑むと、静かにかつゆっくりと、深く頷いた。

 そして二人は、壱夏の部屋で兄弟の様に仲良く寝たのだった。




 次回、悶着

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