「おいおい牧師さんよ、もっと呑めよ? 身体がお酒を欲しがってんじゃないのか!?」
「い、いえ、私は神に仕える身、お酒は自らを滅ぼします!」
「おいおい、牧師はお酒が御法度か〜〜?」
「ふっぱ〜〜っ、おかわり!」
「こら伍、あまり呑むと今晩おねしょするぞ?」
「……フッ」
あれから数分度、カウンター席には二人の青年と一人の子供、二人の男達がワイワイと騒いでいた。
肆狼は酒が注がれているガラスのコップを片手に手を、伍とは向かい側であり隣にいる玖牧の肩に手を回しながら引き寄せつつ酒を勧め、それを聞いた玖牧は少し困惑している。
一方、壱夏、伍、拓陸は酒は飲めない物のオレンジジュースを呑んでおり、伍は空になったコップをマスターに差し出しながらお願いし、それを壱夏は程々にするよう注意し、伍とは向かい側であり、壱夏の隣にいる拓陸は無言で微笑する。
大人は大人と話をし、子供達は子供達だけでお喋りしていた。その光景は同窓会みたく思えるが彼等(壱夏と伍を除き)は久しぶりに再会した為に、時間を埋める様に楽しそうであった。
自分達はILを扱うのと同時に仲間であるのと同時に、離れて暮らしていた。あの方の命令であり、集団で動くのは危険と判断されたからである。
「それにしても、皆さん仲良しですな? それに久しぶりに見る面々ですね」
「だろマスター? 久しぶりだから無礼講だぜ?」
カウンターの向かい側にいるマスターが微笑ましそうに訊ねると、肆狼は嬉しそうに応えた。
「痛いです痛いです肆狼さん! 首が苦しいです! っていうか、放して下さい!」
「おいおい牧師さんよ〜〜相手してくれよお互い大人なんだからよ〜〜」
肆狼と玖牧は漫才みたいなやり取りをしていた。そんな二人に伍は「面白い〜〜」と笑顔で応え、壱夏は何も言わず伍の頭を撫でながら微笑み、拓陸は無言だったが軽く瞑目すると、眼鏡の縁を掴みながら軽く動かす。
刹那、鐘の鳴る音が聴こえた――誰かが来店して来た事を意味している。彼等は扉の方を見る――彼等は驚きと戦慄した。
来店して来たのは大柄の三十代前半の男――強固な顔立ちに黒髪黒眼――赤いシャツに黒のスーツに黒のズボン――見た目は怖そうである物の何処か落ち着いている雰囲気を醸し出している。
男が来店した時、彼等の和みありの穏やかな空間が一瞬で氷の様に冷たくなり、暗い雰囲気に襲われる。肆狼はお酒を呑んでいたにも拘らず冷める感覚に襲われ、玖牧も肆狼同様、冷める感覚に襲われる。
伍に至っては震えていた――お手洗いに行きたい訳ではなく、怖がっていた――そんな彼を、壱夏はイスから立ち上がり、伍を背中に隠す様に行動し、伍は壱夏の背中に縋り付きながら震える。
拓陸は無言だったが冷や汗を流している――。男は扉を閉め彼等の方へと歩く。が、壱夏だけは違った――彼はその男を見て呟く。
「お久しぶりです――三上さん」
「……うむ、久しぶりだな壱夏」
男は不意に不敵に笑うと、言葉を続ける。
「拓陸、玖牧、伍、肆狼――む?」
男はある事に気付き、彼らに訊ねる。――奴は、
――!? ――。刹那、五人の間に衝撃と悪寒が走る。彼等は男の言葉に一瞬だけ顔を引き攣らす。
怒り、憎しみ、拘りたくない――そう言った負としかない感情が入り交じっている様にも思えるが彼等にしか判らない。
判るとすれば、彼等が参流と拘りたくないと言う事だけは一目瞭然だった。肆狼は苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべながら酒が注がれてるガラスのコップを持っている手に力を入れ、玖牧は辛そうに男から目を逸らし、拓陸は眉間に皺を寄せながら手に持ってるコップに注がれているジュースを呑み干そうと思ったが既に飲み干していた。
伍は何処か泣きそうであった。そして――彼は、壱夏は何も言わず他の四人とは違い、冷静に男に訊ねる。
「奴は来ません――恐らく、重要な話よりも……」
壱夏は不意に小声で呟く――所詮はイカれた殺人鬼ですから――と。小声だが男は壱夏の言葉を知ると、不意に不敵に笑うと、腕を組む。
「まあいい、それよりもお前達を呼んだのは他でもない――これからお前達に一仕事与える」
男の言葉に伍を除いた四人は目つきを鋭くする。仕事の依頼――それは四人にとって避けては通れない道であり、これから男が話し始める内容に耳を傾けようとした。
しかし、それを遮った者がいた――壱夏である。
――待って下さい三上さん――。壱夏は三上に訊ねると、三上は「うん?」と首を傾げる。周りも壱夏を見るが壱夏は無言で三上を見た後、伍に対してこう言う。
――伍、離れてくれ――と。それを聞いた伍は壱夏の言葉に「う、うん」と震えた口調で応えて壱夏から離れると、壱夏は振り返ると、すこし前屈みすると伍を見ながら微笑む。
「伍、お兄ちゃん達はこれからお仕事の話をするからお散歩して来なさい」
「えっ? ――お兄ちゃん?」
壱夏の言葉に伍は驚く物の壱夏は言葉を続ける。
「伍――お前はお外でお散歩して来なさい――勿論、この辺りにいなさい――もしもだったら、お家に帰って、一人で留守番出来るか?」
壱夏は伍に対し、優しく言い聞かせる。壱夏は伍を拘らせたくはなかった――幾ら彼がIL操縦者とは言え、未だ子供――この件には拘らせたくないのと、死ぬ危険もある仕事を彼に押し付けるのは虐待その物であった。
もう一つ、彼なりの優しさでもあった。――お兄ちゃん……――。そんな壱夏に伍は潤んだ目で彼を見据える。
伍は壱夏の自分への気遣う優しさに気付いた――さっきの口調はとても優しく、何処か哀しい。自分には拘らせたくない思いがあり、壱夏が自分を大事にしている事にも気付いた。
既に大事にされているがそれ以上に彼の言葉には温かさを感じる。伍は何も言えず戸惑うが壱夏は伍の頭を撫でる。
「帰ったらお前の好きな物を作ってやる――ハンバーグが良いか?」
「……うん、ハンバーグが良い」
伍の言葉に壱夏は微笑むと、軽く頷いた。
「そうか……だったら話は早い――伍、直ぐに帰りなさい――会計は済ませるし、後」
壱夏は手をスボンのポケットに入れると、ある物を取り出し、それを伍に差し出す。
「家の鍵だ――これで帰るか、辺りを散歩して来るか何方かを選びなさい」
「……うん、僕帰る――お兄ちゃんの帰りを待ってるから、一人でお留守番するから」
「……そうか、気をつけてお帰り」
壱夏の言葉に伍は頷くと鍵を受け取り、リュックサックを装着する。そんな伍と壱夏のやり取りを見た肆狼は「偉いぞ伍」と褒め、玖牧は「この迷える子等に幸ある未来を……」と願い、拓陸は無言で見ていたが「フン」とそっぽを向き、マスターは微笑ましそうに見つめ、三上は「フン」と鼻で笑っていた。
伍はリュックサックを背負ったままバーを出ようと扉の方へと駆け寄る。が、扉の前に止まると、振り返る――壱夏に対して笑顔を見せる。
「僕家で留守番しているね! それと約束だからね、今日はハンバーグだって事を忘れないでね!」
伍は笑顔を浮かべながら壱夏に言う。偽りの無く、彼自身の壱夏への気遣いを意味し、それを顔で表していた。そんな伍に壱夏は微笑みながら頷くと、伍はバーを出て行った。
カランカラン……――鐘のなる音が聴こえたが伍が出て行った事を意味していた。
壱夏は微笑んでいたが直ぐに表情を険しくすると、三上を見る。三上は壱夏を見て不敵に笑う。
「さて……そろそろ本題に入らせてもらうぞ」
刹那、三上の言葉に肆狼、玖牧、拓陸も表情を険しくする。壱夏は元より表情を険しくしていたが彼等は三上が何かを言いたいのかは気付いていた。
しかし、命令を下すのは三上である――その為、彼等は彼の命令を待つ以外、他は無かった。証拠に誰一人、飲み物を手に取ろうとする者は居ない――肆狼と玖牧はガラスコップを持っている物のカウンターの上に置く。
「これから本題に、ある計画の始動に入る――『懺悔』の玖牧、『
三上は壱夏を見る――その瞳には期待が孕んでいるが三上は言った。
「『愛憎』の壱夏――これからお前達に計画の始動と共に作戦を立ててもらう」
三上の言葉に壱夏、肆狼、玖牧、拓陸の四人は一瞬だけ顔を引き攣らす。そして、三上は、あの計画を指導する形で彼等にある作戦を伝える為に言葉を述べた。
そして、三上の言葉にマスターを除いた四人は静かにかつ、真剣に耳を傾けていた。
次回、入学