インフィニット・レギオン   作:NO!

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夜咄
論破


「では、その何かは貴方方を攻撃してきた、と言う事ですね?」

 

 同時刻、ここは東京にある、とある某霊園――其処は今、沢山の人で賑やかになっていた。否、そんな場所で、死者が眠る場所でパーティー気分で遊ぶ者達はいない。

 罰が当たる以前に夜中に肝試し大会をやる人がいる以外、何も無い。逆に其処にいる者達は公務員である――それも、警察官であり、その場に臨場していたのだ。

 数名は付近を捜査しているのか、或いは証拠となる品を見落とさない様に虫眼鏡で隈無く捜している十数名の鑑識官に、僅かばかりの刑事がいた。

 付近外は数名の警官が一般の者を立ち入れない様に黄色いテープを付近に巻き、そして前に立っていた。そんな中、一人の刑事がある者に職質していた。

 その者は言わずとも肆狼である。肆狼は刑事の職質に素直に応じていた。呆れつつも何処か素直であり、刑事の一つ一つの質問には素直に応じ、答えている。

 その少し先には二人の赤髪に琥珀色の青年と少女がいるが彼等も素直に応じていた。そして、警察を呼んだのは肆狼であった。肆狼はあの未確認物体を音韻で倒したが今は解除し、黒のスーツである。

 しかし、警察を呼んだのはその場で逃げる事は出来ないのと、何より彼が許さなかったからである。

 

「それにしても、こんな場所が荒らされるのは、胸糞悪いな……」

 

 肆狼は両手を腰に当てながら不意に墓の周りを見る。墓の幾つかは爆風に巻き込まれ半壊か、最悪、全壊している墓が幾つもあった。これでは罰が当たるのと、死者に失礼かつ哀しませ、墓の持ち主は哀しむだろう。

 しかし、そんな彼を見て、目の前にいる刑事は哀しそうに、肆狼を見ていた。

 

「それはそうですね……でも、自分が一番気になるのは……いえ、何時日本に戻ってきたんですか?」

 

 刹那、肆狼は彼の言葉を静止する様に手のひらを突き出す。

 

「それ以上言うんじゃねえ……俺はもう、そっちの人間じゃねぇからな」

「ですが!? 貴方は俺達今でも捜査一課の警視と思っています……」

 

 刑事は辛そうに肆狼を見ながら身体を震わせる。しかし、彼は肆狼の事を知っていた――そうである――肆狼は前は警察であったからだ。階級は警視であり、花形でもある「捜査一課」のリーダーをも務めていた。

 あの時、三上の自由にすると言う説明と、彼が三上に不信感を抱いていたのも彼が元警察であるが故の直感でもあったからだ。

 が、二年前の、あの事件で彼は社会的抹殺を喰らうかの様に刑事を辞職され、酒浸りの生活を送りそうになったのである。それにここにいる者達は、特に刑事達は捜査一課の者達であり、肆狼の知ってる顔ぶれや新米か見た事も無い顔ぶれも多少はいた。

 目の前に居るのは肆狼が良く知る人物で若い刑事であった。

 

「俺はもう、其方の人間じゃねえ……それに捜査に私情は禁句だ」

「……っ、ですが自分は……それにあの時は……」

「別に気にはしねえ――お前達は本来の仕事を務めな……それにしても良く集まったな――これだけの人数を」

 

 肆狼は周りを見渡す。彼の言う通り、確かに人は少しはいたがどう見ても集めるのは無理に等しい。それもその筈、警察もまた、暴動を抑える為に各地で動いている。

 暴動は無くなった物の、その傷跡は残っている。経済の回復は元より、多くの民間人を救い、守るのも警察官の仕事である。霊園に来たのはありがたいがどう見ても数が多い事に疑問を抱く。

 

「無理もありません――後で各地に行かなければなりませんから――強いて言えば、殺人事件が他にも起きているのと、他の課の協力も無ければならないのですから……」

「……そっか……それよりも彼奴らはどうなるんだ?」

 

 肆狼は不意に後ろを親指で指す。刑事が指の先を追い、指された方を見る。その先には二人の青年と少女がいた。彼等も他の刑事の職質に答えているが刑事は答えた。

 

「恐らく署で話を訊く事になるでしょ。幾ら子供と言えども、参考人ですからね」

「……なあ、あの二人は俺に任せてくれないか?」

 

 肆狼は不意に呟くと刑事は「えっ?」と瞠目した。それでも肆狼は言葉を続ける

 

「あの二人は俺に任せてくれねえか? 勿論、彼奴らを家に送る」

「で、ですが……よ」

「俺が送る――」

 

 刑事が何かを言いかけるが肆狼は刑事を見据える。その瞳には怒りが含んでいる。これには彼も少し身震いしたが気を取り直す。

 

「い、いけません!! そんな事は刑事である私が許しません!! それに第一、彼等は参考人であるのと彼等が狙われた理由が知り」

「だったらお前にあの子達を守れるのか?」

 

 肆狼は刑事の言葉を遮る様に言うと、刑事は瞠目した。が、肆狼は腕を組みながら言葉を述べる。

 

「なあ、向井――俺は、その何かには気付いてるんだ――でもな、その何かは俺を攻撃してきたんだ」

「えっ……それって、如何言う事ですか?」

 

 刑事――向井の言葉に肆狼は首を左右に振る。

 

「俺にも解らねえ……だがな、その何かは俺を狙ってるに違いねえ――刑事の、否、元刑事の感かもしれねえな」

「っ……ですがその感がありながらも何故……いえ、自分達が貴方を辞職に追い込んだ様な物ですか……」

 

 向井は辛そうに下唇を噛み締めながら俯く。彼はあの事件の、二年前の事件を知っていた。あれは、肆狼を辞職に追い込んだ様にも思え、肆狼が警察に対しての不信感を露にした事件でもあった。

 その事件とは、肆狼の妻子、良枝と明日香の死亡轢き逃げ事件でもあった。犯人の目星がついてたのも、証拠があるのと、彼が警視時代の時の取り扱った事件でもあったからだ。

 が、肆狼はやるせない機持ちがこみ上げてくるのを感じると共に不意に眉間に皺を寄せながら、俯いている彼の肩を掴む。

 

「気にすんな……あれは俺が自分から望んだ事だ」

「ですが……貴方は自分達を守る為に……自らを……」

「気にすんな――それよりも、鑑識に言っとけ……あの何かを調べ次第、何処かの研究所に解体に回せ、と――軍事基地とかにも調べさせてもらえ……今のお前達には参考人を調べる時間は無いからな……だろ?」

 

 肆狼はそう言うと、彼から離れ、赤髪の兄妹がいる所まで歩く。が、向井は何も言えなかった。肆狼の命令とも入れる言葉は正論に近い。

 論破された気分だが向井は逆らえなかった、彼が元警官であり、上司だからではない。彼を追い込んだ自分達にも責任があるのと、彼の良枝と明日香を喪った哀しみを知ってるのと、自分達がそれに力になれない事に怒りをも感じていた。

 彼に勝手な行動は止めて欲しい――なのに何故か止める事が出来ない。自分達は正義を貫く為の警察官なのに、元警官である肆狼が今は一般人である彼を止める事が出来ない。

 そうしていると、肆狼は二人に近づくと、二人の近くにいる刑事達に話し始める。此所からではどんな話をしているかは判らないが自分があの二人を送ると言う事だけは判る。

 刑事達は訝しんだが肆狼とは知り合いであるのと彼の元部下であるが彼の力になれなかった事にも後悔していた。話は直ぐに終わらなかったが直ぐに終わる。

 二人も二人で肆狼の言葉に不信感を抱いていたが、肆狼に連れて行かれる様に肆狼が停めているバイクの所まで、肆狼に促され、従いていくように歩いていった。

 

 

 

「良し、お前らを送ってってやるよ」

 

 肆狼は二人をバイクが停めている場所まで連れて行くと、バイクの跨がる部分に手を置きつつ、二人を見る。二人は肆狼を見て不安を隠せない。

 彼が音韻を、ILを扱う者である事を知り、また、彼が何者であるのかも知りたかった。が、肆狼は二人を見て溜め息を吐くと、二人を見る。

 

「お前ら――俺はお前らを別に危ない所に連れて行く訳ではない、それに其方の小娘はサイドカーに乗れば良い」

 

 肆狼はそう言いながらバイクの横に取り付けられているサイドカーを指差す。サイドカーは彼が誰かを乗せる時や、何かを運ぶ時に載せる為に取り付けた物であった。

 たいていは墓参りの時に必要な花束等の必要品を載せる為にも要る物であった。

 

「あ、あのお……さっきはありがとうございました」

 

 すると、二人の内、片方の少女が肆狼に頭を下げる。少女から見れば肆狼は命の恩人だろう。あれは肆狼を狙っていたが彼女から見れば命の恩人としか思えない。

 しかし、肆狼は少女の言葉に溜め息を吐くと髪を掻く。

 

「別に気にしねえよ――あれは俺を狙っていたからな……それに此方もお前らを巻き込んですまねえ」

「あっ、否、俺達は別に良いんです!! 貴方がいなかったら――あっ、いえ! もしもの例えであれはあんたではなく、俺達を狙っていたかも知れないから!!」

 

 今度は青年が肆狼に訳を話すが意味が解らない。そんな青年に少女は顔を上げ、青年を見る――少女は怒っていた。

 

「ちょっとお兄!! 私達を助けてくれた人に失礼だよ!? それに私達が狙われる理由は無いじゃん!?」

「し、仕方ねえだろ!? そ、それにあれは俺達を……」

「あ――っ! 未だ言うの!?」

 

 二人は喧嘩の様にも思える口論を展開し始める。否、兄妹の口喧嘩であった。否、妹らしき少女が青年らしき兄を言い負かしている。

 

「…………はあ」

 

 これには肆狼も頭を抱えたが彼は二人が喧嘩を終えるまで見守る事しか出来なかった。




 次回、料理

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