インフィニット・レギオン   作:NO!

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目的

 肆狼が謎の人型の物体を倒した丁度その頃、ここは全体が黒い空間――そこには大きくもなく、小さくもないテーブルがあり、正面には肘を突きながら指を絡めている男性、三上がイスに座っていた。

 三上は無言で目の前を見ているが周りは黒い空間で包まれており、いるだけでも精神を異常させ、出たいと言う願望が出来るくらいであった。

 しかし、彼、三上は其処に居るのは、ある理由があったからだ。三上は誰かを待っていた――壱夏でもない、肆狼でもない、伍でもない、拓陸でもない、玖牧でもない。

 彼と接触しているめぼしい者達ではない――では、彼は誰を待っているのかと言うと、ある人物であった。刹那、後ろから気配を感じた。が、三上は振り返りもせずに真正面をじっと見ていた。

 同時に足音が聴こえるが彼は振り返りもしなかった。そして、彼は足音が大きくなっていくのと同時に、三上は口を開く。

 ――良く来たな、参流――。三上はそう呟くと参流と言う人物は三上の直ぐ後ろに立ち止まる。三十代に差し掛かる男性で中肉中背――肩まで掛かる黒髪に一部、白髪が混じっている。

 黒く澄んだ瞳であるが左目は髪で覆い隠しており、似合わないと言うよりも付ける方が可笑しいとも言える黒縁の眼鏡を掛け、口元を布で覆い隠す様にしていた。

 黒のスーツを纏っているが彼もまた、立体映像であった。が、三上は彼を参流と口にする。その口調には怒りや呆れが孕んでいるが何処か嬉しそうでった。

 

「……久しぶりだな……三上」

 

 参流はそう言うと、彼の隣にまで歩き、彼を見下ろす。三上は参流を見るが何処か歪んだ笑みを向けている。

 

「相変わらずの静かで遅い口調だな? たまには元気よく喋ったらどうだ?」

「……てめぇ……喧嘩……売ってんのか?」

 

 参流は三上の言葉に静かに怒る。彼の後ろからどす黒いオーラが醸し出される様に感じられるが、彼なりの怒りだろう。しかし、それが壱夏達が彼を嫌う原因ではない――彼等が彼を嫌う原因は別にあった。

 彼は冷酷なイカれた殺人者であり、敵味方関係なく危害を加える為、タチが悪い――理由は一つ、彼は壱夏達を執拗に狙うからであった。理由は、彼や壱夏が持っている、あれであった。

 

「……俺はあれ……奴等の……あれが欲しい……」

「ああ、あれか――だが、あれを持つ事が出来るのは三つまでだ」

 

 三上は何かを思い出した様に不敵に笑う。が、あれとは壱夏達が一人一つずつ持っている物であり、アレがあれば強大な力を手に入れる事が出来る。

 しかし、それを持つ事が出来るのは三つだけであり、それ以上は持てない。持ったとしても効果はない。三上はそれを知りながらもある助言をする。

 

「まあ、お前の場合は壱夏と玖牧か、もしくは肆狼と拓陸のあれを奪えば強大な力を手に入れる事が出来る」

「……まあ……俺もそれを……知ってる」

 

 参流は気付いていた。否、彼は何方かの一組みを殺して奪えば良いと考えていた。あれを手に入れれば強大な力を手に入れる事が出来る――それが出来なかった。

 何故ならそれを殺すのを躊躇い、止めろと言ったのは、三上である。何故なら三上は計画の為には彼等が必要であり、計画の為には一人も欠ける事は出来ないからであった。

 が、それを参流が知っているのは三上が連絡したのと、壱夏が肆狼達に言わないで言っときながらも伍に連絡したのも三上であった。

 あの時、壱夏が三上を見ていたのは不信感を抱きつつも、伍に連絡した三上に怒りを感じ、三上は壱夏の様子に築き、笑っていたからである。

 否、今はそれは良いのか参流はある事に気付き、三上に言う。

 

「……それよりも……何故……俺を呼んだ?」

 

 参流は三上に指摘した――幾ら呼んだとは言え、用件が無いのに呼ぶのは可笑しい。参流はそう思いながらも彼を睨む。

 

「まあ、そんなに睨むなって――勿論、お前を呼んだのは、計画の最終段階に入ったからだ」

「……最終段階? ……と……言うと?」

 

 参流は眉間に皺を寄せなながら訊ねると、三上は深く頷く。

 

「ああ――お前はもう自由だ――好きな事をしても良い」

「……それ……本気で……言ってんのか?」

 

 参流は三上に不信感を抱く。彼が、三上が自分に自由を与えるのは不信感しか沸かない――それどころか周りに嫌われている自分を自由にする事は壱夏達に危害を咥えても良いと言う事だ。

 そして、壱夏達が参流を嫌っているのは、参流のやり方と、参流が自分達に危害を加えている事にも気付いているからだ。その為、壱夏達は参流を非常に警戒しているからであった。

 参流の言葉に三上は不敵に笑う。

 

「ああ――まあ、お前は既に気付いているだろうがな?」

「……と……言うと……それは……自由は無い……と……言う……事か?」

 

 刹那、参流の言葉に三上は歪んだ笑みを浮かべる。

 

「当たり前だ――俺はお前や壱夏達に自由なんて与えるつもりは無いからな!!」

 

 三上は笑いながら彼等を自由にした理由を、その目的を話し始める。彼は壱夏達を――否、彼等に自由と言う名の解放を与えたのは――否、それは嘘であった。

 彼等にはちょっとした駒であり、その為には、あの計画の最終段階は全員参加でもあった。その為にああ言ったのは、あの計画の最終段階は――ある者をおびき寄せ、追い詰める為でもあった。

 おびき寄せるのは、彼等があの者が放った刺客と戦う為である。いくらISがILよりも劣ると聞いたら黙っていなく、力の差を見せる様に自分や直属の部下を襲うだろう。

 逆にまた、刺客を放った所で彼等を倒す事は難しい――彼等は自分の直属の部下でありながらもそれ相応の器量と力を備え、ILを与えたのも刺客と戦かわせる為でもあった。

 その中で伍を狙ったとしても、壱夏の大事な伍を攻撃する事は彼の逆鱗に触れさせ、死んだら完全に此方側の人間になる。

 壱夏と伍は兎も角、肆狼、拓陸、玖牧は既に知られている為、狙われる可能性は高い――理由は拓陸と肆狼は学園に来た為であり、肆狼はヘリコプターを操縦していたからである。

 玖牧は見られてはいない物の、ドイツでラウラを止める為にILを起動してしまった――自業自得とは言え、彼もまた標的と認識されるだろう――理由はILが軍事基地に配布されたILとは違う為である。

 あの者から見れば既に用意された物とは違う事に気付いているだろう――その為、玖牧も狙う筈に違いない。そして、追い詰めるのは、あの者を絶望へと誘う為でもあった。

 ISを超える存在、IL。あの者から見れば最早哀しみに暮れさせるしかない上、壱夏の存在が彼女を追い込むには充分過ぎる程の材料でもあった。

 

 否、壱夏は三上が真っ先に目を付けていた者でもあった――否、彼は一夏と言い換えれば良いだろう。誘拐事件に巻き込まれたのは好都合であり、配下にするのは難しくもなかった。

 反面、一夏に壱夏と名を変えてもらったのも自分の配下にする為であり、スラム街に行ったのも彼に泣き所を作る為と、もう一つ理由があったが壱夏が見つけたのは伍であった。

 伍を拾う様に行ったのも泣き所を作る為、伍を弟の様に接しさせたのも自分や他の者達とは多少の接触を控えさせる為であり、自分に逆らえない様にもしたのである。

 それだけではない――肆狼も、拓陸も、玖牧も其々の泣き所を作って逆らえない様にしていた。肆狼は妻子を奪った母娘に復讐する為に、玖牧は施設の子供を守りたいのと大牧師への恩恵の為に。

 しかし、拓陸は違う――彼は自分が雇った傭兵であり、スラム街に行ったのも彼と同い年の青年であり、疫病神とも言われた彼を捜す為でもあり、それがもう一つの理由でもあった。

 

 彼等は三上が見つけたとは言え、素晴らしき部下達でもあった。その中でも壱夏は元より、二番目に強い参流を三上は気に入っていた。

 

「参流!! お前は俺の一番の気に入りではないが、俺はモルモットでもあるお前を気に入っている!!」

 

 三上は笑いながら参流を指差す。

 

「お前は他の奴等とは違い。欲望に塗れている――人を殺したいと言う欲望がな!! はははっ!!!」

 

 三上は顔を覆い隠しながら上を見上げていた。可笑しい――可笑しいとしか言えなかった。が、三上は計画が上手く行った事に笑いが止まらなかった。

 そんな彼に、参流はじっと見ていたが不意に微かに笑う。自分は自由になれた――そう考えると笑いが止まらなかった。自分は三上に止められていた。

 と言うよりも、壱夏達と接触を控え、会議に出さなかったのもそれであった。元より自分はめんどくさい事には参加しない。

 しかし、嘘とは言え自由になれたとすれば、自分は壱夏達のあれを奪う事が出来る。勿論、殺してでも奪えば良い――理由は、ある者と戦う為でもあったが今は彼は笑う事にした。

 そして、二人の多少の違う笑い声が空間内に木霊した……。




 次回、論破

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