インフィニット・レギオン   作:NO!

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再会

 三上の狂気的な笑い声が続いた翌日、此所はIS学園の一年一組の教室。室内には、この教室の者達であろう女子高生達がいるが何処かお通夜の様に暗い――この時期は、この頃の女子高生は思春期であり、青春を謳歌しても珍しくない。

 なのにそれは、その現状は見ているだけでも此方が暗い気分になり、明るい話題を出したいのにそう言った話題は誰一人出そうとはしなかった。

 そうだろう――何故ならその者達は今、不安に押しつぶされそうになっていた。理由はIL――突如として現れ、それは男性にしか扱えない。

 そこまでは未だ良いだろう――何故ならそれはISを凌駕し、ISの立場を悪くしている――彼女等が暗くなっているのはその所為であるがIS学園の存亡にも関わっているからであろう。

 それを考えると自分達はどうなるのか? そう言った不安が彼女等の心に暗い影を落としている。教室内は不安と恐怖で暗い雰囲気に醸し出されていた。

 そんな中、教室の扉が開き、二人の生徒が教室へと足を踏み入れる。この学園の唯一の男性操縦者、織斑十春とその幼馴染みの少女、篠ノ之箒であった。

 ――っ……――。十春と箒は教室に入るや否や、教室内の異様な雰囲気に微かに震える。自分達のクラスが暗い事に気付いた。此所だけではない、他のクラスもお通夜の様に暗くなっているが其々、どうなっているのかは知らない。

 判るのは自分が所属しているクラスくらいであるが十春と箒に気付いた者がいた。青のショートカットに両側にヘアピンを着け、黒い瞳が特徴的な少女、鷹月静寐であった。

 

「あっ、織斑君に篠ノ之さん、おはよう」

 

 静寐は二人に挨拶する――彼女の声は元気そうには見えなく、表情も何処かくらい。それでも彼女なりの精一杯の言葉だろうが周りもトハや箒に気付き、次々に挨拶する。

 二人も軽く挨拶し返すが彼等は周りとは違い、少し気遣う様に挨拶していた。しかし、それは一時の気遣いにしか過ぎないが効果もあまりない。

 

「それよりも皆……ううん、少し元気出して」

 

 十春は彼女達を元気づける。出来る事なら、少しでもクラスに明るい空気が流れて欲しい――そう願っていた。出来ないと解ってても、尚更の事であった。

 彼の言葉に周りは少し哀しそうに笑うが、十春は下唇を噛むと辛そうに俯く。逆効果と思ったのだろう。そんな彼に箒は「十春……」と言いながら心配そうに肩に手を置く。

 彼はクラスを思っての事であったのだろうがどうすれば良いのかも解らなかったのだろう。否、女性の心は解らなかったのかも知れない。

 彼女達はIS学園の存亡を気にしているが為に、自分達はどんな目に遭うのかで怯えていたからだ。が、彼女達は少しばかり彼の言葉に元気付けられていた。

 彼は自分達を気遣っている事に気付いたがそれが功を奏したのか、一人の女子生徒が両腕を軽く上げる――否、両腕を隠せるくらいの制服の裾をヒラヒラさせている。

 その女子生徒は裾をヒラヒラさせながら「そうだよね〜〜オリム――の言う通りだよね〜〜」と言う。背中まで掛かる茶髪に両側の一部の髪を何処かの国民的マスコットキャラを模したピンを付けている。

 彼女の名は布仏本音――このクラスの生徒であるが何処かのほほんとしている。が、本音の言葉に十春は首を傾げる。

 

「オリムー? それって何なの?」

「オリムーはオリムーだよ? 渾名だよ? 」

「渾名って……まあいいけど、布仏さん」

「本音で良いよ? 私もオリムーで呼んでいるから、駄目、か、な?」

 

 本音は少し瞳を潤ませながら懇願してきた。否、彼女なりのお願いでもあるが十春は彼女を見て微笑むと、不意に彼女の頭を撫でる。本音もこれには不意を突かれたが「エヘヘ〜」と何処か頬が緩む。 

 

「あっ、そうだオリムー、クラス代表対抗戦、頑張ってね〜〜」

 

 本音は何かを思い出したのか十春に言う。

 

「クラス代表対抗戦?」

 

 十春はそう言いながら首を傾げるが本音はそれを言い始める。

 

「そうだよ〜〜実はクラス代表対抗戦で一位になった所には凄い賞品があるんだよ〜〜」

「凄い賞品?」

「そうだよ〜〜その賞品はね〜〜半年間の無料フリーパスなんだよ〜〜それも、スィーツの奴なんだよ〜〜」

 

 本音は涎を垂らしながら何処か妄想する。半年間の無料フリーパス――それもスィーツの奴――それは食べ放題である事を意味していた。

 本音が涎を垂らしているのも、スィーツが食べ放題であるのと、それが夢のような事が現実で実現するとなれば最早、何としてでも、十春に勝って欲しいのだろう。

 すると、周りも何かを思ったのか周りも何処か嬉しそうに笑い始める。

 

「そうだったわね! スィーツの事忘れていたわ!」

「嫌な事を忘れたいからね!」

「そうそう。織斑君に賭かっているからね!!」

 

 周りも本音の言葉に横槍か乗り気の様にも思える言葉に賛同し始める。恐らくスィーツの食べ放題は夢のまた夢であろうが食べたいのだろう。

 沢山の種類があるとするならば全て食べたいのだろうし、現実の物となれば尚更だ。しかし、さっきの暗い雰囲気が嘘の様に和みの空気が流れ始める。

 本音の人徳か、或いは、スィーツを食べて忘れたいのだろうか? それは彼女達にしか判らないが後者が正しいのだろう。甘い物を食べれば疲労は回復すると言うがそれは科学的なのかも判らない。

 何かを食べて忘れたいと言うのもあるがそれは有り得る話だ。彼女達の場合、ILの存在を忘れたいのだろうが無理に等しい――逆にまた、勝たなければいけないと言う、十春に思い十字架を背負わせている。

 

「あ、う、うん……でも他のクラスに専用機持ちもいるかも知れないし、少し大変だよ……」

「大丈夫よ織斑君、専用機持ちって言っても、専用機持ちは、このクラスと四組の人しか持っていないから!」

 

 ある生徒が織斑に言う。紫のショートヘアに紅い瞳の少女、相川清香だ。清香は十春にそう言うが彼女から見れば勝てる自信がるようにも思える。

 が、実際に戦うのは彼、十春だ。十春は清香の言葉に苦笑いするが、周りも既に勝ったも同然と思っている。否、四組にも専用機持ちがいるがクラス代表かも判らない。

 

(そう言えば、四組の専用機持ちって誰なんだろう?)

 

 十春は不意に四組の専用機持ちを思い出す。それは単に逢いたい衝動に駆られた訳ではない。彼は専用機持ちである事に警戒心を生む。学園にはISはあるものの、専用機持ちは限られており、持つ方が珍しい。

 警戒しているのはあるが別にお茶に誘う訳ではない――戦うであろう相手の戦い方を知る為でもあった。すると、後ろから声がした。

 ――そんな情報、古いよ? ――。十春と箒は後ろから声がし、振り返ると、一人の女子高生がいた。

 小柄であるが活発そうな女子高生――茶色い髪を黄色いリボンでツインテールにし、翡翠色の瞳に八重歯が特徴的な少女で、制服も肩が露出しているが軽装的な制服だ。

 しかし、十春は彼女を見て親近感が沸いてくる――否、彼女とは少しばかり別れた――否、彼女とは幼馴染みであったからだ。

 

「お、お前、鈴か!?」

 

 十春は少女を驚きながら訊ねる。そんな十春に少女は「エヘヘ」と嬉しそうだった。その証拠に彼女の頬は少し紅くなっていた。が、少女から見れば想い人との再会を望んでいたからであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、此所は日本の首都、東京にある空港。今の時間帯は深夜であるが空港内は微かに汚れていた。少し前まで暴動が有ったが一昨日の話だ。今は出来る限り、回復に向けて動いていた。

 が、動ける飛行機は限られている物の、出来る限りの最善だろう。誰が決めたかは判らないが食う為のお金が欲しいのだろう。

 人は疎らだが帰国する者が大抵そうだろう。観光目的に来た訳ではないだろう――そんな中、一人の青年が空港に待機していた。

 黒いジャケットに黒いズボン、黒い鍔付き帽子を被っていたが、彼は待つ意味でイスに座っていた。

 が、彼は飛行機の時間とその着くまでの時間が書かれているモニターを観ている。そして、彼が観ているのはロシアのモスクワ――そう、彼が観ているのはモスクワであるが、帰国しようとしていた。

 そして、その目的はある者に再会する為であった。

 

「もうすぐ帰るぞ――待っててくれ……伍」

 

 その青年はある者の名を呟く。早く逢いたい――保護者であり、彼を疎かにしている自分に怒っていた。そう――彼は壱夏、一条壱夏であった。

 彼は三上との会議を終わらせた後、空港に来ていた。彼はロシアに置いてきた伍に再会するべく、ロシア行きの飛行機を待っていた。出来る事ならハイジャックしてでも今直ぐ行きたかったが、彼を思い、耐えていた。

 

「伍、お兄ちゃんはもうすぐ帰る――待っててくれ……伍……!」

 




 次回、理由。次の話は肆狼の話ですが肆狼が何故、女尊男卑を嫌っているのかが明かされます。

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