インフィニット・レギオン   作:NO!

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切願

 玖牧がラウラを抱き抱えながらある場所へと向かっている頃、此所はロシアの首都、モスクワ――昼前に差し掛かるにも関わらず、今も尚、男達は暴動を起こし続けていた。

 破壊と略奪を繰り返し、我を忘れて行動を起こし続けていた。崩壊した――そう思えざるを得なかった。

 ――クソが……――。そんな彼等をアパートの窓から見ていた壱夏は無言で呟く。彼の近くには伍が彼の腹に顔を埋めながら震えており、壱夏は彼を優しく抱き締めながら彼の頭を撫でていた。

 彼なりの気遣いと、自分が近くにいる事を教える為の安心感を与えている行動とも捉える事が出来る。が、一時的な行動としかならない為、無駄に等しい。

 彼は伍の頭を撫でながらある事を考えていた。

 

「(どうする……このままでは此所も何時攻められるのも時間の問題だ――最悪の場合、今直ぐにでも此所を離れなければ、俺達は何かされる)」

 

 壱夏は心の中でそう考えていた。彼の言う通り、此所もいつか攻められる。彼等が外ばかり暴れる筈も無い――建物内に侵入してまででも暴れる事を危惧していた。建物内には女性は愚か、暴動には参加していない男達も居る。

 彼等が何をされるかは判らないが最悪の場合、最悪な未来が予想されるだろう。壱夏はそれに気付くと、伍が「お兄ちゃん……」と言いながら頭を上げる。

 伍の言葉に壱夏は考えるのを一旦止めると、彼を見るや否や、彼から少し離れ、彼と位置を合わせる様に屈む。

 

「伍……今直ぐにでも此処を離れるぞ」

「えっ……でも、準備もなしに此処を離れるのは……」

 

 伍は彼の言葉に戸惑うが、壱夏は微笑むと彼の頭を撫でる。

 

「大丈夫だ――俺が、お兄ちゃんが一緒にいてやる――それに約束する。お前は俺が何としてでも守ってやる」

 

 壱夏の言葉に伍は瞠目した。彼は此処を離れるつもりだった。否、彼は此所を、帰る場所を離れる事に抵抗感は無いがある思いが芽生え始める。

 義理とも言える兄の優しくも決意する様な言葉――が、壱夏の言葉に伍は反論と言うよりも、ある事を言いだす。

 

「ねぇ、お兄ちゃん――」

 

 伍の言葉に壱夏は「何だ?」と答えるとあつむは辛そうに俯く。

 

「どうした伍? まさか怖いのか? 大丈夫だ、お兄ちゃんが……」

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

 伍が壱夏の言葉を遮ると、壱夏は「どうした?」と言いながら首を傾げる。刹那、伍は顔を上げ、壱夏を見る――とても哀しそうで何処か決意を含んでいるような表情をしていた。

 

「ねぇお兄ちゃん――此所は危ないかもしれないけど、僕の――ううん、僕の遊戯にある偵察機で街の中を調べながら逃げようよ……」

 

 伍の言葉に壱夏は驚きながら「伍?」と呟いた。が、伍は言葉を続ける。伍は、この付近は危ないのと、この付近は今だ暴徒がいるだろう。彼らと逢わずに逃げ切れるのは難しい、と。

 ならば、自分が専用機として使っている遊戯に備えられている零戦を使って、街の様子を偵察すれば何とか逢わずに逃げ切られるだろう、と。

 

「僕の零戦なら街の様子を知る事が出来るし……それにお兄ちゃん一人で、僕を守りながら逃げるのは、きついんだ、よね?」

「あ、伍何を!?」

 

 伍の言葉に壱夏は少し戸惑いながらも少し怒りを隠せない。――聞いてお兄ちゃん! ――。伍が悔しそうに遮ると、壱夏は一瞬だけ驚くが伍は辛そうに言葉を続ける。

 

「お兄ちゃん――これ以上、自分ばかり傷付けないで――僕がいるとお兄ちゃんが傷付く――それに僕はお兄ちゃんにばかり守られたく、ない……お兄ちゃんは――ううん、僕にも一人で出来る事はある……よ……! 僕だって……僕だって」

 

 刹那、伍は強く目を閉じると目にうっすらと涙を浮かべると、直ぐに涙を浮かべながら彼に言う。

 

「僕だってお兄ちゃんの力になりたい……! 僕だってお兄ちゃんの仲間で、お兄ちゃんや玖牧さん達みたいに戦えるよ! お兄ちゃんは僕を頼ってよ!」

 

 伍は涙をポロポロと零しながら壱夏に言い切る。それを聞いた壱夏は瞠目するが彼はある思いが走る様に彼の心を揺さ振る。

 伍が自分へと向ける思いは彼が自分への気遣いと、彼なりの成長した事を教えている様な発言でもあった。しかし、その言葉に彼の、伍の切なる願いが籠められていた。

 出来る事なら自分も役に立ちたい、彼が自分の重荷になるくらいなら自分も戦う、と。伍なりの決意が見て取れるが壱夏は彼を見て何も言えなかった――同時に、ある嬉しさがこみ上げてくるのも感じた。

 彼は幼くも成長している――戦い方は自分が教えたが彼は幼くも著しくも成長している。遊戯を子供らしく最大限に発揮する形で上手く扱えている。

 もうそろそろ、彼も一人で戦う時が来るのかも知れないが今は未だ早いと思っていた。彼が子供であるが故に……が、今はそんな事言ってる場合ではない。

 壱夏は泣きながらも怒っているよりも何処か可愛らしい伍を見て何も言えなくなるが、不意に微笑むと、彼の頭を撫でる。

 

「伍……判った、頼む」

 

 刹那、御は目を見開くと嬉しそうに笑うと「うん!」と言いながら頷く。壱夏はフッと笑うと直ぐに表情を険しくすると、伍から離れると腕を組む。

 

「伍――遊戯を展開しなさい」

 

 彼は少し厳しい口調で彼に言う――練習する時であり、彼が伍に戦い方を学ばせる時の口調でもあった。壱夏の言葉に伍は何かを決意する様に頷くと、ポケットからある物を取り出す。

 何処かの、否、ヒーローらしき物のフィギュアが突いているキーホルダーだった。彼はそれを包む様に握りしめると、呟いた。

 ――遊戯! ――。刹那、キーホルダーが白い光を発する。光は伍の手であるが、彼の周りから白い光が発せられる。刹那、彼は機体を纏っていた。

 何処かのロボットを沸騰させる様な機体で白を基準としている。右腰には水鉄砲、左側には剣玉を携えている。後ろにはウィングスラスターらしき物が四基もあり、顔にはヒーロー物を沸騰させるようなマスクを被っている。

 そう――それが伍の専用機、遊戯。剣玉や水鉄砲、メンコやコマ等の遊び道具を主力武器にし、機動力に特化したILである。因みに彼には伍と言うのは本名ではない。

 彼が伍と言う名前を与えられたのは、伍は忌み数の五を使い、旧字であるのは伍は意味が幾つもある物の中で軍隊や隊列をも意味する意味で使われているのと、遊戯であるのは遊びに特化させたのと、彼がまだ子供であるが故に与えたILである。

 彼は、伍は遊戯を纏っているが、右腕を高らかに上げながら叫ぶ――その間に壱夏は何故か窓を開けていた。――零戦! ――。刹那、彼の近くに赤、青、黄色、緑、桃色の色が特徴的な五機の零戦が展開される。

 零戦は窓から出て行く様に飛び去って行くが、それが彼、伍が纏う機体、遊戯のもう一つの最大とも言える特徴であった。零戦は彼をサポートする形で装備されており、空中では零戦、地上では戦車、海上戦では駆逐艦や潜水艦等の色んな場所での対策をする為の兵器も備えられていた。

 彼が伍を与えられたのは、伍は軍隊や軍列を意味する形で持っていたのは、彼が子供であるのと、伍は仲間をも意味する形で、三上に軍隊を与えられたからであった。

 無論、それらは全て玩具で出来た兵器であるが何れも実弾が込められている。伍は零戦を外に出すと、彼の頭に被られているマスクが独りでに開くと、彼の素顔が晒される。

 彼は汗を流してはいないが壱夏を見る。壱夏は表情を険しくしていたが伍は不意に何かを待っている様に口を閉じていた。

 

「伍……フッ、良くやった」

 

 壱夏は表情を崩す形で微笑むと、彼の頭を撫でる。何度目になるかは判らないが彼の行動に伍は徐々に嬉しそうに笑う。

 ――うん! ――。彼は子供らしく頷くと、彼も、壱夏も釣られる様に笑うが、彼は不意に窓の外を見ると、再び表情を険しくする。街の至る所には煙が出ており、微かだが怒声の様な声が耳に響く。

 が、一刻も早く此所を離れなければ――此所よりも安全な場所を見つけなければならない。今の自分に出来る――否、今の自分達に出来る事は此所を離れ、脱出する事であろう。

 壱夏はそう思いながら伍を見ると、伍は少し何かを決意した様に険しくしているが壱夏も表情を険しくすると彼に言う。

 ――伍、此処を離れるぞ――と。すると壱夏の言葉に納得したのか伍は頷いた。そして二人は此処を離れる為に行動を開始した。

 




 次回、偶然。壱夏と伍、少女との再会

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