ヒオとマナの突然の来訪から翌日、響は昨日のことを弦十郎に報告していた。
未来はエルザとエウルと共に買い物に行っており、リルはいまだに眠っている。
弦十郎『そうか…リルにとっては重すぎる問題だったんだな』
話を聞いた弦十郎はガウと違い、まだ経験が少なく若いリルにとって地球人類を毛嫌いしている古参の怪獣たちの言葉とリル自身がこれまで見てきた地球人類の様々な顔の間に挟まれていることを察して言う。
響「こんな時に、ガウくんがいてくれたらって思っちゃうんです…」
弦十郎『そうだな。ガウの奴がいてくれたら、父親として何かアドバイスをしてくれたのかもしれんな』
先王であり、父親としてなら何かしらアドバイスをかけて、導いてくれるハズだろうと。
弦十郎『だが、いない奴のことを言っても始まらない。今は時間がそう多くはない。コスモスから怪獣軍団が正式に日怪連合を含めた人類と怪獣が結んだ全ての同盟解消を要求する可能性が非常に高くなっていると情報があった。下手をすれば、地球人類は帝国軍と地球怪獣を相手どらなくてはならなくなるやもしれん。その時はすまないが頼む』
先の戦いで反人類派が影響力を高めており、コスモスたちからの情報により、怪獣軍団が人類との同盟を全て解消しようとする流れが強まっていた。
もし人類との同盟が全て解消されれば今まで、同盟という理由で免れていた怪獣による人類軍を巻き込んだ攻撃が可能となり、それを防ぐには響たちが帝国軍に加えて地球怪獣たちも相手取らなければならなくなるのだ。
響「はい、分かりました」
通信を終わらせて、通信機を切る響。
響「ガウくん……」
肝心なときに、いてほしいときに、もう会えないかもしれないガウを思い出しながら響は名前を呟くのだった。
ある暗い空間の中、焚火を前にリルは丸太の上に1人座っていた。
その表情は暗く、俯いていしまっていた。
分からなくなってしまったのだ。
地球人を信じていた地球人が信じられなくなってしまったからだ。
そんなリルの横に1人の人物が座ってきた。
だがリルは頭の中でアンギラスたちの言葉が重く圧し掛かっており、その悩みで気づいていてはいなかった。
?「悩んでいるようだな、リル」
リル「!」
急に喋りだした人物の方を向く。
その人物の声に驚いたよりも、もう聞けないと思っていた懐かしい声に反応したからだ。
その人物はリルの父にして今は亡き初代怪獣王 ゴジラことガウであった。
リル「と、父さん…」
もう会えないと思っていた父が目の前にいることにリルは涙を流していた。
ガウ「リル、時間が無い。お前はお前のやるべきことをするんだ」
リル「出来ないよ…僕には出来ないよ…分かんなくなっちゃたんだもん…人を信じていいのか、分からなくなったんだもん…」
様々な地球人と触れ合ってきたリルだからこそぶつかる壁、響たちのように優しく・誰とでも手に取りあえる手を持っている人間。
米国のように自分たちのことしか頭にない身勝手な人間。
その2つの人間たちのどちらを信じればいいのかリルは分からなくなってしまったのだ。
そんなリルの頭をガウは思いっきり鉄拳を叩き込んだ。
リル「!?」
いきなり殴られたことに驚いてリルは頭を押さえる。
ガウ「お前の他を信じる心はそんなに脆いものなのか!!」
いきなり殴ってからの怒声を上げてガウは言う。
ガウ「一度裏切られたからって、簡単に信じていたものを見失うな!!自分が信じたモノは最後の最後まで信じきれ!!そんな軟弱なことをしていたら、誰もお前を王とは…この初代怪獣王の息子とは思わんぞ!!!!」
先王である前にガウは父親としての一喝を
ガウ「お前が本当に貫き、信じたいものは何か、もう一度考えてみろ」
そうリルに言うとガウは立ち上がってどこかへ歩き始めた。
リル「待って…待って!!」
やっと逢えた父がまたどこかへ行ってしまうと思い、リルも立ち上がって追いかけるが全く追いつけず、どんどん離されていく。
リル「待ってよ、父さーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!」
遠のいていく父の背を見ながらリルの悲痛な叫びが空間に木霊する。
リル「!!」
目を開いて勢いよく起き上がるリル。
リル(今のは…夢…?)
周囲を見て、いつも暮らしている響たちの寮の一室であることを確認し、さっきまでのことが夢なのかと思う。
リル(僕が本当に貫き、信じたいもの…)
ガウの言葉を思い出してリルはその意味を考えるのだった。