ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 松平准将が逃れられない運命にとらわれたようです。

 全く話が進みまへん。すんまへん。

 なお、ぼかしてますが、ちょっとアレな表現があるかも知れませんが、私は知りません。


【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑮

 

 夕方。

 

 近藤大佐は、あぎょう丸に戻った。

 本国の松平准将に報告するためである。

 

 なにしろ想定外の事態の数々が目白押しとなり、本来の作戦である周辺海域の深海棲艦の討伐とフィリピン泊地の解放の遂行は不可能となってしまった。

 

 それどころか日本海軍における『未確認敵性物体』であるゲシュペンストは出てくるわ、勝手に深海棲艦のボス達と一時停戦を結ぶわ、フィリピン泊地は縞傘製薬の引き起こしたバイオテロで壊滅しているわ、もう任務や作戦など継続するどころの騒ぎでは無いのである。

 

 正しい組織人としては、やはり上司に報告、連絡、相談は必ずするべきであり、独断専行など以ての外であるもやはり報告するのは気が重かった。

 

 しかし、返ってきた松平准将の答えは。

 《素晴らしい!!》

 だった。

 

「は……?!」

 

 近藤は耳を疑った。フィリピン泊地の全ての基地は壊滅、艦娘や深海棲艦に寄生する寄生生物で下手をすると世界滅亡の危機に陥っているわ、破壊神は現れるわ、深海棲艦と一時停戦してしまうわ、で、どこが素晴らしいんじゃ?!と思ったからである。

 

《いや、状況と事態は把握しているよ。非常に困難かつ緊急を要する事態だともね。しかし、君はあの正体不明の未確認物体『アンノウン一号』と海軍軍人としては初めてコンタクトを取り、そしてその協力を取り付けたばかりか、初めて深海棲艦と公式に、一時とはいえ停戦まで漕ぎ着けたわけた。この功績は大々的に評価されるべきなのだよ》

 

 言われてみれば、確かにそうかも知れない。だが、全ては訳の分からんままに話がそのように流れて行っただけとも言える。しかし、敵である深海棲艦と勝手に停戦など本来許される事ではない。

 

 状況的に致し方なかったとは言え、未だ日本海軍の上層部は主戦派や旧・軍主導派などが多数派となっており、深海棲艦と一時とは言え停戦したなどと言えば、最悪の場合、裏切り行為だと認定され処罰されかねない。

 

 だが、近藤の懸念などなんのその、松平准将はさらりととんでもないことを言った。

 

《なに、もう大本営に君の行動を妨げるような上層部のアホ共は居ない。全て軍視局に連れて行かれた。もう彼らは日の目を見ることは二度と無いだろうね》

 

「はぁっ?!軍視局がですか?!一体そちらでは何が起こっているのですか。もしやクーデター?!」

 

《まさか。クーデターではないよ。そちらに滞在中の『淀君様』が軍視局本部に縞傘製薬のバイオテロの情報を送ったそうでね。前々から縞傘財閥は前左派政権下で成長して来た一族だったからね。政府機関にマークはされていたようだが、海上研究施設やフィリピンの第一基地で得られた証拠の数々をゲシュペンスト氏の協力で得ることに成功したそうでね。縞傘財閥から甘い汁のお裾分けをいただいてた連中は軒並み検挙されてね。いやはや、もう上層部にほとんど誰も居ない状態で困ってしまうよ、ははははは》

 

 『淀君様』とは軍視局の大淀、つまり無人島拠点にいる大淀の渾名である。彼女の持つ権限の大きさを差してその渾名というか異名が着いたのである。

 しかしどのようにして通信設備の無いあの無人島拠点で日本と通信を行い、情報を送ったというのか。

 それに、縞傘財閥と癒着していたのは何も海軍のみではない。政府の政治家や官僚達の中にも縞傘財閥は根を張っていたはずなのだ。

 

……と、近藤は考えて、はたと気づく。

 

「まさか大淀はゲシュペンストに何か軍警や憲兵達を動かさざるを得ないような事をやらせたのか?」

 

 ゲシュペンストが大淀にプレゼントしたウェアラブルPCとプリンター。そういえばあの大淀はそれを使ってせっせかせっせかと何やら書類を印刷していた。だが、その厚みは縞傘の研究施設の情報やデータだけでは無いほどに大量だったではないか。

 

《む、何がだね?》

 

「いえ、大淀がどのようにして情報を送ったのか気になりまして」

 

《ふむ、なるほど。私の所にも送付されてきたが、いやはや、あれには驚いた。大本営のレーダーにすら映らない未知の戦闘機が書類の束を詰めた金属の筒を窓からぶち込んできたのだよ。最初は何かのテロかとも思ったが、筒の中身を見れば、『淀君様』の署名入りの、各機関の汚職官僚などのリストと、フィリピン泊地の状況をこと細かく記した報告書、様々な犯罪の証拠が入っているではないかね。いやはや、過激ではあったが、おかげできれいサッパリと様々なものが片付いたよ》

 

 なお、ゲシュペンストがその際に使った機体はF-32シュベールト、つまりスパロボ世界の戦闘機のミニチュアサイズであり、ディヴァイン・クルセイダーズの機体であるリオンシリーズの元となった機体である。とはいっても、近藤も松平准将もそのような事は知らないのだが。

 

「……では、松平先輩は、とっくにこちらの状況を把握されていたのですか?」

 

《うむ?ああ『淀君様』のおかげでね。確認の為にそちらにも無線で通信を試みたが、深海棲艦が集まっている地域では無線機器に異常が発生する。君からの通信が来るまでは繋がらなかった。そういう状況だったので増援の輸送艇『ごうりき丸』と飛行艇『US-2改』をそちらに向かわせている。とりあえずUS-2改が先に着くだろうがまぁ、こうしてすでに通信出来たのだ、鳳翔さんに持たせた命令書も必要無くなってしまった》

 

「……鳳翔さんが?!」

 

 鳳翔はもうこの頃には第一線を退いており、大本営にて居酒屋を営みつつ、後進の育成に当たっていたが、歴戦の彼女が出てくるなど、もはやただ事ではない。

 そもそも、最初の空母にして空母の母と呼ばれるその能力は、艦載機の数こそ少ないが、少数精鋭の機体の妖精さん達の練度に支えられ、その指揮にある。

 

 空母最強の座に今もなおある、通称『お艦』。いや、本人にそう呼んでいるのがバレたならば物凄い説教が来るだろうが、彼女の強さを知る一部の海軍軍人は畏敬の念をもって彼女をそう呼ぶのだ。

 

 その『お艦』が再び戦場へ出ると聞き、近藤はもうそれだけで逃げ出したくなってきた。

 だが、しかし、それだけでは無かった。

 

《うむ。他、大本営第一艦隊、並びに陸軍特殊部隊『特三分隊』通称『第三抜刀陸兵団』が『ごうりき丸』に乗っている》

 

「第三抜刀陸兵団?!あの『鬼の斎藤』の部隊が?!」

 

 第三抜刀陸兵団は、深海棲艦との戦いの中で、唯一現存している白兵戦隊である。その隊長『斎藤一夫』は陸軍最強の兵器である『鳳翔刀』の使い手であり、深海棲艦をたった一振りの刀で倒して生き残って来た、叩き上げの陸軍最強の男と言われている。

 

 陸軍虎の子部隊までも投入されるとは、この状況を松平准将がどれだけ重く考えているのかがわかろうものである。

 

《うむ、これは政府が、いや、中倉翁が動かしたのだろうな。中倉翁は彼の息子である平八郎氏の仇を討とうとする『淀君様』の後援者、やはり『淀君様』の危機を助けたいと思ったのだろう。親心だろうね》

 

 中倉翁、とは故中倉平八郎の父親であり、現在は政界から退いているものの、中立派の重鎮として知られている大物政治家である。中立、と言えどその政治理念は愛国精神に溢れており、一角の人物である。

 

 平八郎氏が愛した大淀を実の娘のように思い、軍視局の立ち上げを裏から支援して来た人物であり、陸軍との太いパイプも持っている。

 

「……親心でそんな物騒な連中に来られては、こちらも対応に困るのですがね」

 

 ともかく、ヤバい連中がこちらに来るのである。近藤もこれはただではすまねぇな、ともう悲観的になりつつあった。

 

《……まぁ、作戦は君に一任するよ。ただ、こちらとしても陸軍に恥ずかしい戦いは見せられないからね。この際、フィリピン泊地を焦土としても、寄生生物を駆逐したまえ。三式弾の使用の許可、フィリピン泊地を文字通り更地にするつもりで一匹残らず殲滅するのだ。どうせもう誰も居ない廃墟なのだからね》

 

「良いんですかねぇ。フィリピン最大の日本海軍拠点ですよ?ルソン基地もまだ復興出来ていないってのに」

 

 ※)なお、ルソン基地はゲシュペンストに壊滅させられてまだ復興出来てません。

 

《私が許可するよ。全ての責任は、私ではなくどうせ縞傘財閥が罪と共におっ被る事になっている。誰の腹も痛まんさ、ははははは》

 

 もう、松平准将はかなりいい加減というか、もうなんでもいいや、という感じで言う。

 

「……先輩、なんか近頃性格変わってません?なんというか、物凄い投げ遣りな気がするんですがね」

 

《……近藤君。世の中にはとんでもなく信じられないような事態が押し寄せるよせてね、これでもかっ!!とのし掛かったら、そりゃあ人間、なるようになーれ!と開き直ってしまうものだよ。いや、そのぐらい今の状況は訳が分からないのだ。というか信じられない現実から、私は逃げ出したいとすら思っているのだよ……いや、疲れているのかも知れないな、私は》

 

「そりゃあ、確かにわからんでも無いですがね……」

 

《いいや、君がそれをわかるにはまだ足りない。そうだね、君に一つ予言をしておこう。そう、この作戦を果たし、日本に凱旋して帰国したすぐ後だ。君には新たな任務が待っている。そう……その任務はこれからの日本にとって、とても重要な任務なのだがね?》

 

「は、はぁ……。これからの日本にとって、ですか?」

 

《そうとも。その任務を果たした後に、おそらく君は理解するだろう。逃げ出したいとすら思ってしまうだろう。そして忠告も一言付け加えておけば、だ》

 

「…………は、はい」

 

《世界は美しく、時に残酷なものを見せる。だが、それを受け入れて生きる事。それが人生だと悟れば、人間、どうとでもなーれっ!!となるものさ……。ふふ、ふはははは、ははは……》

 

 プツッ。

 

 無線は沈黙した。

 

「……いったい、なんだってんだ?というか何が大本営で起こってるんだ?!」

 

 近藤はなにか不気味なものが自分の背後から忍び寄って来るような感覚に襲われ、とっさに後ろを振り向いたが。

 

 そこには通信機の妖精さんしか居らず、その妖精さんも「?」と首を傾げるのみであり、近藤もふぅーっ、と息を吐く。

 

「とにかく、今は……。寄生生物の駆逐を優先すべき、か」

 

 無線室を後にし、近藤は再び無人島拠点へと向かおうとした。

 

 だが、彼は知らない。

 

 松平准将に起こった事態も、そしてこの作戦後に帰国した彼を、いかなる事態が待ち受けているのかも。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うふふふふっ、そこまで、よ?朋也さん」

 

 無線のスイッチは、叢雲のたおやかな指によって切られた。

 

「……叢雲……様」

 

「あらっ、未来の妻に、様は要らないわよ?」

 

 悪戯な目で、叢雲は松平朋也を見つめる。一糸纏わぬ、先程まで朋也と繋がっていたままの姿で、彼女は朋也にすり寄る。

 

「……大事な後輩を思う気持ちはわかるけれど、でも全ては最良解の未来の為、そして彼も彼女達も幸せになれる運命なのよ?悪くない未来を憂う必要は無いわ」

 

「……し、しかし、こんな……!」

 

「ん~、これも最良解からあなたを逃さない為に必要な事なのよ。それに私達、婚約者同士じゃない?自然な成り行きよねぇ?」

 

「うぐっ?!で、ですが責任っ……問題っ?!山本元帥にっ、申し訳……ぐぁっ?!」

 

「あら?ちゃんと取ってね?せ・き・に・ん!初めてだったのだもの。それに『新・艦娘法』は可決。『結魂システム』も完成して、もう私達の愛を妨げるものは何も無い、艦娘と人はなんの問題もなく結ばれる未来が待っているわ。そう、こうして……」

 

「ふぐぁっ?!い、いや……もう、止めてぇぇぇっ」

 

 哀れなり松平准将。

 

 彼の純潔は執務室で叢雲に奪われ、そして……。明日の朝まで苦行とも言うべき、執拗な叢雲の責めに悶え続ける羽目になったとさ。

 

「………………」

 

 返事が無い。ただの屍のようだ。

 

 かゆ。うま。

 

 

 




 叢雲さん「ま、当然な結果よね。なに、不満なのかしら?」 と後に宣ったとかなんとか。

 運命からは逃れられませんが、この叢雲さんはあなたの嫁の叢雲さんではなく、松平准将の嫁の叢雲さんなので目くじら立てないで下さい、お願いします。

 だが、しかし運命は近藤大佐にも忍び寄るのです。ええ。

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