ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 大淀さんのバニーガールが見たい。

 いらないところでフラグを立てる主人公。生命的危険地帯へようこそ。

 謎の敵性艦娘の話が、フルーツ盛りでそっちのけ。

 なお、この世界のこの時代では深海大戦の影響で海路が寸断され、南国フルーツは手には入りにくく非常に高価だった、という設定です。


【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑥

 数ある任艦娘の中でも『大淀』は、非常に特殊な立ち位置にある艦娘であると言える。

 

 彼女達の役職は主に、大本営と各海軍施設の『提督』と呼ばれる司令官達の仲介役的な公的な秘書官ではあるが、しかしながら『大淀』は大本営直轄の艦娘ではない。

 

 彼女達『大淀』はそもそもからして政府直轄の組織であり、菅原道夫大将の『日本奪還』より後に政府により発足された『内閣軍視機構』から派遣されている。

 

 『内閣軍視機構』とは、ぶっちゃけて言えば海軍がクーデターとか起こしたり暴走したりしないように政府が監視する為に作り上げた監視機構である。

 

 故に任艦娘である『大淀』には、過剰なほどの権限が与えられている。

 

 ①海軍施設での無条件の捜査、査察権限。

 

 これは如何なる海軍施設においても適用され、大淀が必要であると判断した時より発動される。

 

 また、その際に『大淀』は陸軍憲兵隊に対する出動要請をする事が出来る。

 

 ②特定条件下での『提督』もしくは『司令官』の指揮権の剥奪、及び解任。

 

 これは①によって『提督』『司令官』が有罪であると大淀が判断した場合『大淀』はこれの指揮権剥奪と解任をする事が出来る。

 

 ③非常事態の際、『提督』及び『司令官』が不在の際にその代理としての臨時指揮権。

 

 ④『提督』及び『司令官』に対する査定。

 

 これは給与やボーナスの査定や、功績等による昇級などの査定を行う。

 

 などなど、ある種『大淀』は海軍提督以上の権限を持たされているのである。

 

 とはいえ。

 

 それだけの権限を持つ『大淀』ではあるが、それだけに世の提督達から疎まれる事が多い。

 

 いや、疎まれるだけならまだいい。

 

 フィリピン泊地に派遣された『大淀』達は、今回の事件が起こる数日前、何者かの手によって全員殺害されていた。

 

 そして、このゲシュペンストが作った拠点に現在救助され逗留している大淀が二つの艦隊を率いて調査の為にやってきたわけであるが、調査団の潜入部隊は海上研究施設に突入し壊滅。大淀の後衛艦隊も、三式弾、つまりは戦艦クラスの艦娘による砲撃で壊滅しかけた、というわけである。

 

「……あー、なんとも危険な仕事なんだな、任艦娘?ってのは」

 

 と、玄一郎は大淀に同情的に言いつつ、黙々とココナッツをコールドメタルナイフで割りつつ、中の果汁を鍋の中に溜める。

 

 明日の朝食の仕込み、である。

 

 時刻はもう零時を過ぎ、他の艦娘達が寝静まった頃。玄一郎は艦娘達に追加の食事を与えた後、厨房に二人を呼んで、とりあえず三人で情報交換をしようと持ちかけた。

 

 もうとっくに巻き込まれているのは仕方ないとして玄一郎はもう諦めて最後まで付き合う気になっている。

 

 玄一郎は仕込みしながら二人の話を聞いているが、どうも今回の事態を引き起こしたのは、日本海軍と縞傘製薬とかいう軍需産業系の企業らしい。

 

(……そういや、上空から見たあの研究所のマークって、なんかバイオでハザードな会社のと似てたような)

 

 ものすごく嫌な予感がして、玄一郎は機械の身体故に吐けない溜め息を吐いた。

 

 それでも腕、というかマニュピレーターはちゃっちゃか動く。

 

 ココナッツミルクを小鍋に注ぎ、細切れにしたパイナップルを入れて、軽くレモンを右手で絞ってその果汁を加えて、燠火になって小火になった竈の上に乗せる。

 

 火にかけられたココナッツミルクのなんとも甘い香りが厨房に漂う。

 

 大淀と沖田少佐が、あらっ、とその香りを嗅いで少し目をうっとり、と細める。ココナッツミルクの香りはアロマテラピーではリラックス系の香りとして使われる事もあり、やはり精神的に疲れていたのだろう二人に効果がある……のか?これ。

 

 なんか、沖田少佐がじゅるっ、とよだれを啜ってんだけど。

 

 それを玄一郎は横目というか、側面のカメラアイで見つつ、

 

「レジデント・イヴィル的なグロい敵が出てきたらイヤダナー」

 

 などと呟くも、なんとかせねばこの無人島の艦娘達を彼女達の基地や鎮守府に帰してやることも出来ないし、また、このままずっとこの無人島で生活させるわけにもいかんしなー。などと思っていた。

 

 無人島の食糧は思いの外豊富ではあるが、それも無限にとれるわけでもないからだ。

 

 故に、フィリピン周辺海域に展開している深海棲艦をなんとかせねばならないし、壊滅したとはいえフィリピン泊地を解放せねばならないわけなのだが、どうも今回の事態は訳が分からない事が多すぎる。

 

 非常に不明な点が多すぎるからだ。

 

 また、『内閣軍視機関』というのと『海軍情報部』の二つの機関が同時に同じ案件で動いているのに、どちらも協力せずに別々で動いているというのも非効率的だと思ったのもある。

 

(……なんとなく、俺達がどうせ動かにゃならんのだろうけどな)

 

 話を持ちかけると、二人は特に拒否するような素振りも無く、素直に同意した。

 

  大淀が先ほどの玄一郎の「任艦娘は危険な仕事なんだな」的な言葉に

 

「いえ、ホワイトな提督さん達の所ですと、普通に大本営からの依頼任務や作戦のサポート、資材管理に、職員のお給料の算定とか、事務的なお仕事が主なんですけどね……」

 

 と、大淀は苦笑して答えたが、その後でボソッと

 

「全ての海軍施設がホワイトなら良いのに」

 

 その顔は非常に何というか、苦労が滲み出ており、目も天井を向いているのに遠い目をしていた。

 

「そうねぇ。腐敗を暴いても暴いても、無くならないのよね、ブラックな連中って」

 

 沖田少佐もそう言いつつ遠い目をして天井を見る。

 

 天井には、バッテリー式のライトに群がる小型の蝶がハタハタ、と飛んでいる。

 

「……苦労してんだな、二人とも」

 

 かける言葉も思いつかず、玄一郎は月並みな言葉で誤魔化す。

 

 その間も玄一郎は甘いバナナと、マンゴー、パイナップルを器に飾り立て、二つフルーツの小鉢盛りを作成。そしてその器を二人の前にそれぞれ置いて、火にかけてた小鍋のココナッツミルクを注いだ。

 

「ほい、フルーツのココナッツミルクかけ。明日の朝食に出すつもりなんだが、先に味見を頼む」

 

「……えっと、良いのでしょうか?」

 

「美味しそうですけど……?」

 

 二人はまさか試食させてくれるとは思ってなかったようだが、

 

「試食して感想を聞かせてくれたらありがたい。ココナッツミルクの甘味と酸味のバランスがいまいちつかめない。糖度や酸性値は分析出来るが、味がわからないんだ」

 

「……味覚が無いんだったわね。これだけの物が作れるのに」

 

 沖田少佐はそう言いつつ木のスプーン(玄一郎作)でフルーツを口に運ぶ。

 

「あ、美味し。パイナップルの酸味とココナッツミルクがちょうど良いわね、これ」

 

「本当に美味しいですね。はぁ、高級フルーツをこんなに贅沢に……。良いんでしょうかこんなの食べて」

 

 大淀も一口食べて頬を押さえて、ん~っ、と唸る。

 

「高級官僚もこんなのなかなか食べられないわよ。バナナなんて台湾のがようやく流通し始めたけど高くて食べられないし。沖縄のパイナップルもマンゴーもべらぼうな値段してるからねぇ。ああ、贅沢のキワミ!」

 

 沖田少佐も目を閉じつつ、はぁーっ、と息を吐きもう一口頬張る。

 

 深海大戦が始まってすでに20年。海路は深海棲艦によって分断され、当然輸入物資はなかなか入って来ないようになっていた。

 

 様々な海域は解放されつつあるが輸入品としては主となる穀物が優先され、フルーツなどはめったに入らない。

 

 故にバナナ一本の値段は4000円ほどに高く、パイナップルも日本の沖縄産があるもののその畑も今では田んぼや他の食物の畑となり、その希少性が高まってやはり高くなっていた。他の南国フルーツなども推して知るべし、玄一郎が作ったフルーツのココナッツミルクかけの値段を原価で考えると、もはや一杯数万円、もしも店で食べるならば十万円ほどは取られるだろう代物であった。

 

「ふむ、味は問題無いみたいだな。甘味が足りないならマンゴーかパイナップルを煮てシロップを作らないといけないかなと思ってたんだが。このバランスで記憶しておこう」

 

 玄一郎はフルーツ盛りのココナッツミルクかけのだいたいの成分の分析結果をメモリーに保存した。

 

「でも、フルーツに暖かいソースを掛けるって今まで無い発想よね!こう、ココナッツミルクとパイナップルの果肉の酸味がマッチして……」

 

「そうですねぇ、それにこの香りが……。とっても良いです」

 

「昔、アルバイトしてた時にパフェでこういうのがあったんだ」

 

 温かいソースと冷たいフルーツやアイスの組み合わせは実は甘味の世界でも料理の世界でも割と使われている技法ではあるが、長らく食糧難の時代が続くこの世界ではそれも廃れたもののようだった。

 

 二人はもう、一口、一口、ゆっくりと味わうように、しかしもう夢中になって食べていて、もう話どころでは無いようになってしまっている。

 

 昔、どっかの城で会議中に梅干し出したら会議が進まなくなったって話があったっけか。

 

 もうこうなれば仕方ないだろう。彼女達が食い終わるまで待つしかない。

 

「……仕方ない、話はそれを食い終わってからだな」

 

 そう言いつつ、玄一郎もまた明日の朝食の仕込み作業に入るのだった。

 

 そして、情報交換が終わったのは翌日の6時だった、という。

 

 朝の食事のメニューは、何品か増えていたのは良かったのか悪かったのか、誰にもわからない。

 

  





 フルーツ盛りのホットココナッツミルクソースは非常に美味しい。

 だが、情報交換は進まないぞ!

 次回、大淀さんは(ryまたあおう!

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