ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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久々の扶桑さん。

お猿さん無し。

重婚って、大変なんだよ。きっと。


重婚多重奏曲~扶桑さんのふーふーふー。

 念のために2日間の休みを秘書室長であり第一夫人であるところの扶桑に言い渡され、否応なく看病というか介護というか、まぁ、看護を受ける羽目になった玄一郎である。

 

 その間の提督はゲシュペンストが行う事になるのだが、玄一郎とゲシュペンストはリンクしており、通信による連携が取れるだけでなく、異世界同位体な事もあってだいたいの考え方などほとんど同じで特に問題は無い。

 

 特に問題は無いが、流石にゲシュペンストに負担をかけ過ぎてはいないか?と玄一郎は思うも、本人が〔この数年間、自分不在の間にお前が文字通り不眠不休で活動してきたのだ。こんな時ぐらいは頼れ〕との有り難い言葉を返して来たのでそれに甘える事にしたのだった。

 

 今、この病室には玄一郎と扶桑の二人きりで、今、扶桑が作ったお粥を食べさせてもらっている最中である。

 

 なんというか、扶桑と二人きりというのは随分と久しぶりな気がした。流石に前回のように口移しで、というのはないのだがやはり扶桑と一緒にいるというのは非常になにか嬉しい。

 

 否応なくというか応しかない。是非もなく、というか是のみ。最高に最大で応と是、拒否などありえない。むしろお願いブリーズ!!という感じで玄一郎は、にまにまにやにやうふふのふー、と喜色満面であり、むしろ気色悪っ?!とはたから見たら思うようなにやけ顔であった。

 

「ふーっふーっ、はい、あーん?」

 

 ハートマークが語尾に付くようなほどに愛情たっぷりな感じで扶桑は嬉しそうに、土鍋で炊いたお粥

をレンゲ掬い、ふーっ、ふーっ、と吹いて冷ましてから玄一郎に差し出す。

 

「あーん、パクッ。ん~っ、おいちぃ!」

 

「うふふふふっ、良かったです」

 

 三十代の男が、おいちぃ!である。三十路の男が甘え声で。だが扶桑も扶桑で非常に幸せそうにニコニコ顔である。

 

 ナニコノバカップル。

 

 とはいえ、実際に扶桑の作った粥は美味い。米から土鍋でコトコトと炊いた粥に相違あるまい。しかもうっすらと出汁の味がして、さらに玉子を乱してある。

 

 梅干しが真ん中に有り、その酸味も非常に懐かしく、ああ日本の正しい病人食だなぁ、と思う。今回はシジミのお汁付き、身体に優しく栄養滋味とそして愛情たっぷりである。

 

「ああ、ずっと病人でいたい。つか、二人きりでいたいなぁ」

 

 しみじみ実感のこもった声で玄一郎は涙をにじませつつ言った。

 

 玄一郎も他の艦娘達を蔑ろにするつもりは無い。艦娘達は美人揃いであり、その性格も様々であるが惚れられて嫌と思う男などいない(ただし特殊なケースは除く)。

 

 深海棲艦だって、これが意志疎通も不可能な強い怨念で黄泉返ったゾンビの如き姿をしているタイプの極端な者ならいざ知らず、普通に対話出来る者達はやはり皆、美人である。そちらも迫られて悪い気はやはりしない。確かに怖さは感じるかもしれないが。

 

 それに玄一郎はジュウコン提督となったわけだが、それもやむを得ずとはいえ、他の艦娘にも確かに愛情は感じている。しかし、玄一郎はこの世界に来てからずっと扶桑姉妹を想って来たのだ。その歳月は他に換えられない。それはどうしようも無い事ではあった。

 

 愛情の重さと言うと誤解を生むかも知れない。だが、この世界に顕現した玄一郎が初めて見た艦娘が扶桑なのだ。ある意味、ボーイ・ミーツ・ガール、いや、むしろやっとしっかり目が見えるようになった鳥の雛が初めて見た者を母親と認識するように刷り込まれてしまったような感じに似ているかも知れない。

 

 粥を食べさせてもらっている様を見るに、親鳥に餌をもらうヒヨコの如し。

 

 ふーっふーっ、ぱくっ、ふーっふーっ、ぱくっ。

 

 扶桑に粥をふーふーしてもらっては食べ、ふーふーしてもらっては食べ、その繰り返し。

 

「扶桑にふーふーしてもらったら、美味いお粥がもっと美味くなるなぁ」

 

「うふふふっ、もっと召し上がれ?」

 

 もはや雛の餌付けのようだ。

 

「おいしいおいしい!ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー」

 

……いや、そのものになっている。つか、ぴーぴー鳴くな、主人公ェ。そんなに最近扶桑に構ってもらえなくて寂しかったんかい、こいつは。

 

 結局全て平らげてしまった。まぁ、怪我人でも病人でもなく胃腸に問題は無いのである。普通に飯は食える。

 

 一心地付き、満足して息を吐くと玄一郎はしみじみと扶桑を見た。

 

「ホントなら扶桑と山城と休暇とってさ、新婚旅行で日本帰って、熱海の旅館にでも泊まってのんびりってのが理想だったんだけどなぁ。ゲシュペンストのおかげで生身の肉体が出来たけどさ、まさかこんな事になるとは思わなかった。……重婚なんてなぁ」 

 

「……仕方無いです。泊地のほぼみんながケッコン希望なんて私も思ってませんでした。……同盟深海棲艦の方々もかなり乗り気になってるようですし、みんなを放っておいたなら、泊地壊滅もありうる問題とあっては……」

 

「……え゛?同盟五大艦にも希望者いるの?!」

 

 玄一郎は顔を少し青ざめさせつつ言った。三途の川でジジィが言っていたのはマジだったのか、とか思う。というかボスクラスの存在を相手にせねばならんのか?とか恐ろしい。弱って残弾残り僅かな今、襲われてはたまらない。

 

 というか、明日から施行される『ケッコンカッコカリ願書受付』の数を考えるだけで非常に頭が痛くなるのに、深海棲艦達もかい、などと思う。それに扶桑と山城の事を考えると非常に申し訳無い気持ちでいっぱいになる。

 

「はい。特に……港湾棲姫さんと空母水鬼さんはかなり。理性的な方々で良かったですが。それに、それ以外の方々も、ですね」

 

 少し辛そうに溜め息混じりに扶桑は言った。

 

 それ以外、と言えばすなわち、転移者組である。レモンは無いだろうが、ジジィが言っていた事が本当ならば、アインスト・カグヤはおそらく希望してくるのではないか、とか思う。だが、扶桑は『方々』と言った。

 

 まだ、複数いるという事だが玄一郎はそれを扶桑から聞こうとは思わなかった。いや、言わせたくなかった。

 

 なんにせよ明日になれば願書受付が始まるのだ。そうなればわかることであり、扶桑にストレスをかけたくなかったのだ。

 

「……俺は扶桑と山城とケッコンカッコカリしたらみんな諦めるんじゃないかと思ってた。つか法律で重婚を認めてるってのおかしくないかこの世界」

 

「それを言ったら私と山城だけでも重婚ですけどね?」

 

「……そうだった」

 

 重婚出来るにしてもせめて人数制限ぐらいはして欲しかった。現在、重婚でギネスブックに乗っているのは、舞鶴鎮守府の近藤大将で、その妻の数は64名。だが、重婚に関する法律で人数の制限に関する項目は無い。

 

 その理由は何も艦娘関連法によるものだけではない。現在の日本の人口と男女比率、これによる。 

 

 深海大戦初期、日本人の人口は激減した。これは確かに深海棲艦による被害もあったが、それ以上に餓死者の数が非常に多かった事もその原因であった。

 

 また、深海棲艦に対して有効な攻撃手段も無く、それでも当時の日本政府は防衛の為に徴兵まで行い、そのため若い男性の数はみるみるうちに減り、その為に男女比率は最悪、1対20にまで膨れ上がっていた時期もあったのである。

 

 現在、確かに日本近海での戦闘は極端に減り、そして国内は安定してきており、日本人の人口は増加してきているものの未だ総人口1億に満たず、男女比は1対10とまだまだその差は大きい。

 

 故に日本政府は重婚を推奨し、また重婚家庭に対する生活の各種の支援と援助を行うことで人口増加を促しているわけなのである。

 

 ガックリ、と頭を垂れる玄一郎。

 

 その様子にクスクスと扶桑は笑った。

 

「まぁ、今ではパラオ泊地のみんなが揃わないと私達も幸せじゃない、そう思うようにしてます。ある意味みんな姉妹のようなものですし」

 

 扶桑はそう言うが、だが人間は心の生き物である。やはりそれでも無理はでるかも知れない。と、いうか。

 

「……たまには、嫉妬とか焼き餅焼いてくれると俺としては安心するんだけどね?」

 

 玄一郎としては我慢強いがストレスを溜め込みやすい第一夫人を気遣った。いや、というか自分としても焼き餅の一つも焼いてくれなくなったら、自分の事をどうでもよくなったんじゃないか?とか不安になる、というのが正しい。

 

「……我慢出来なくなったら、二人きりの時に」

 

「ああ。俺にだけ、な?」

 

「はい。玄一郎さんも、あなたも辛くなったら言って下さいね?思い切り甘やかせてあげますから」

 

「もうとっくに甘えてる。はぁ、なんか幸せだ」

 

 いつだって扶桑がいればこの男は幸せなんである。初めて扶桑の姿を見たときから、なんというか、ものすごく扶桑が好きになって、んで扶桑を見てるとほんわか幸せになる。玄一郎にとって扶桑はそういう存在だった。もちろん山城もいればもっと幸せになれる。

 

 なんだかんだで扶桑と山城はセットのようなもんで、二人揃って無いなど玄一郎の中ではありえない。

 

「……第一夫人なんだから、もっとわがまま言ってもいいと思うんだけどね?」

 

「いえ、第一夫人だから、みんなをまとめねばなりません。不公平は不和の元です」

 

 自分勝手に我を通すわけにはいかないと扶桑は頑なだった。

 

「……はぁ、そういうもんかねぇ」

 

 玄一郎は頭をポリポリ掻きながら、まぁわからんでもないけど、と呟く。扶桑曰わく、夫の愛情は妻達全員に平等に与えねばならないが、妻達もやはり平等になるように心配りをし、それに努めねばならないとの事だ。

 

「ところで山城は?」

 

「あの子はRJで多分、いろいろ情報を交換してると思いますよ?なんだかんだ言っても玄一郎さんがあの子も大好きですもの。会ったら誉めて上げて下さいね?」

 

「……俺の為に、か。はぁ、苦労かけるなぁ。つかホント、マジで三人で都合つけて、日帰りでも良いからどっか行こうぜ。ゲシュペンストの機体にいた頃には感じなかった疲労が、生身だとこうも辛いとは思わなかった。リフレッシュ休暇、欲しい……」

 

「うふふふふっ、それも良いですね。とはいえまだまだ、後の話になりそうですけれど」

 

「……それを楽しみにして、頑張るよ。ホント、いつもすまない。扶桑に俺、甘えてばっかだ」

 

「大丈夫ですよ。私、こう見えて甘やかすの大好きなんですから」

 

 扶桑はそういって、空になった器をトレイに下げて、

 

「では私はこれで。……これ以上居ますと、玄一郎さんの体力をさらに削ってしまう事をおねだりしそうになりますから」

 

 と席を立った。

 

「……あー、それは俺も我慢出来なくなるなぁ、確実に」

 

 ホッとするやら残念やら。お猿さんウッキーはお預けである。多分、キスの一つでもしたりされたりしたら玄一郎も、回復していない残弾数ゼロにも関わらず我慢出来る自信はまったく無かった。

 

「うふふっ」

 

 と意味深に扶桑はやけに艶っぽく笑い、玄一郎の頭に手をやって、ナデナデ、ナデナデ、と子供の頭を撫でるように宥めた。

 

「嬉しいですけれど、お預けです。また私の順番の時に。はやく良くなって下さいね?」

 

 そう言って少し名残惜しそうだったが、なでる手をすっと引っ込めて、微笑みながら部屋を出て行った。

 

 扶桑が出て行ったあとで、ううっ、と玄一郎は布団に突っ伏した。体力が尽きた悲しさよ。愛妻と愛を交わせぬ、このなんつーか寂しさと悲しさと心ぼそさと情けなさよ。

 

 ぐぬぬぬぬぬぬっ!

 

「レベルアップせねばっ!!」

 

 とにかく、そっち方面のレベルアップを誓う玄一郎であった。まぁ、夜戦レベル(意味深な方)はおそらくわりかし上がり易い環境ではあると思うが、敵を見誤れば命が危険でもある。

 

 気分はRPGの最初の街付近をうろつく勇者、ようやく序盤の敵とかは大丈夫になったものの、少し遠出をすればすぐにやられるような感じである。

 

 ムサシとのエンカウントは、あれは言わばイベント戦であり、ムサシはかなり手加減をしてくれていたようなものだろう。おそらく。多分。

 

 今は体力回復に専念しよう。だが、必ずやレベルアップ。ラスボスは誰かはわからんけどな。

 




扶桑ねぇさまに、ふーふーあーん、なんてすんげぇ羨ましい。

なんだかんだ言っても主人公が一番大好きなのは扶桑ねぇさまなのよね。

次回、大淀退職!?(嘘かな?ホントかな?)でまたあおう!

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