祖父伝来、ジゴロ遺伝子が今目覚める。
三代に渡って受け継がれて来た『女性専門・口車の運転手』の称号が今、解き放たれる!!(嘘)。
カグヤさんマジ、デストロイプリンセス。
玄一郎の目覚めたところは、知っている天井のはずだが、今は何故か横から出てきたアインスト・カグヤの魔乳によって天井は見えず、さらに玄一郎はその胸に手を伸ばし、掴み取ってもーみもみ。
デカい。牛乳とかいろいろと言われたオリジナルの楠舞神夜の乳を超える乳をアインスト・カグヤは持っていた。
オリジナルを超えた乳の原因は、かつてアインストにその身を創造された時に、彼女は四人いたからであり、滅ぼされて彼女達アインスト・カグヤ四人の魂は同一だった為、融合し、こちらの世界で顕現化した時にその特徴であった乳尻ふとももが大きくなったという事であった。
四人分の魔乳。四人分の尻。四人分のふともも。
まぁ、実際にはそんなにデカくは無く一回りほどなのだがそれでも圧倒的に大きい。
また、玄一郎にもわかるほどに、その霊力はかなりのものであるがけして威圧感も何も無く、ほんわかとした落ち着いたもので、どう考えても彼女が三途の川で祖父が言ったような危険な存在のようには玄一郎には思えなかった。
「あの~その、そろそろ揉むのを……止めていただけませんか?」
さすがに優しい性格の彼女とはいえ、やはり乳を揉まれ続けるのは嫌なようである。
先ほどまでは、あん、とか、いやん、とか言っていたが。
「……はっ!いかん、なんか感触が良くて無意識のうちに揉んでいた!?すまん!!」
慌てて玄一郎は手を乳から放し、誤った。彼女は松平元帥からの依頼でパラオで保護する事になった、言わばVIPなのである。そのVIPになんつう事を?!
「いえ、その……。お身体に障りますし、こういう事はやはりキチンと交際して結婚してから、と思います」
あれ?怒らないの?と玄一郎は思った。うーむ、優しい。だが顔が真っ赤である。
そして、はたっ、と思い出し。
「あれ?ここは……?」
どう見ても自分の部屋ではない。というか寝かされているベッドは医務室のベッドである。左腕を見れば点滴の針が刺さり、さらにチューブを辿って見てみれば点滴の袋がぶら下がっている。
栄養剤やらビタミンの点滴である。
(……あとで黄色い小便が出るんだこれが)
なんぞとどうでも良いことを思うも、
「あー、ぶっ倒れちまったからなぁ」
と言って頭を右手でぼりぼり。
そう、ここは医務室である。人間の身体になってから二度目の医務室。最初の時は扶桑がいたが、何故か今回はアインスト・カグヤに付き添われている。
扶桑は、と思って壁の時計を見るが、まだ時刻は6時。予定ではまだシロガネの運用試験は終わっておらず、いるはずはない。なんとなく居てほしかったなぁ、とか思うも致し方ない。
「うーむ、しかしなんで君が?」
「私は、慌てて提督さんをここに運び込んでる足柄さんを見かけてお手伝いを。足柄さんは換えの点滴を用意するために行かれました」
「すまんね。そうか。手間をかけさせてしまったようだ。まさかぶっ倒れるとは思っていなかった」
「……魂の緒は繋がったままでしたので亡くなるとは思ってませんでしたが、呼んでも導いてもお戻りになられませんでしたから、おそらくあちらに呼ばれたのは何物かが引き留めているのだと様子を見ていたのです」
「……祖父母と話をしていた。どうも俺の事を心配していたらしい。夢かと思っていたが、ふむ」
「そうでしたか。どおりで。貴方の命運はまだ数百年はあると思ってましたので、少し慌ててしまいましたが」
「……そんなに生きる人間は、って、普通じゃねぇから否定要素が無いからなぁ。俺の場合どうなんだろな?」
うげ、とか思いながらもまだ死にたくは無いので苦笑いしつつ、アインスト・カグヤの方を見つつ。
「うふふふっ、生きてもらわなければ困ります」
「……死ぬ気はねぇよ」
「はい、是非生きて下さいね?」
非常に良いにこにこ顔でそういうカグヤはまるであどけない少女のようであり、天真爛漫裏表無しといった感じだ。玄一郎も釣られて笑ってしまう。
「まるで年取った爺さんに言うみたいに言うなよ」
「えーと、そんなつもりは無かったのですが。ところで提督さんはゲシュペンストさんなのですか?」
「ゲシュペンストは相棒の方だ。俺は異世界同位体って奴。カーウァイ・ラウってのがゲシュペンストの方でな。俺は奴と別の世界に居たんだ。カーウァイ・ラウ曰く、パラレルワールドの同じ存在同士って事でな。お互い別々の世界出身だが、両方ほぼ同じ魂だったから、俺がゲシュペンストに取り込まれてたってわけだな」
「なるほど、合点が行きました」
「ん?なんかあったのか?」
「いえ、他の方ですと機体がよりしろに成っていても魂は一つで、機体にも自我や意志はあるのですがどちらも魂の根は同じなのですが、ゲシュペンストと提督さんには魂が一つずつ、つまり2つの魂が存在していたので不思議に思っていたのです」
「……なるほど。カグヤさんはそういうのを見れる人だったのか。実際、俺達は二人いる。だからゲシュペンストの方とも仲良くしてやってくれよ?」
「ええ、もちろんです。私にも、いえ、私のオリジナルの楠舞神夜も黒いファントム、つまりゲシュペンストとは縁がありまして。黒いゲシュペンストや青いアルトアイゼン、赤いヴァイスリッター、ゲシュペンストの派生の機体達や仲間達と旅をしていたのです。……私は記憶だけですが、何か懐かしいものを感じるのです」
「……そうか。確か君のオリジナルはカルディアと重アンドロイド達とも戦った事があったそうだな」
「はい、そうです。最初に会った時は驚きました。まさかこちらでお会いするとは思いませんでしたもの。それに、ハーケンさんのお母様にも会えるなんて、本当に運命というのはわからないものです」
運命というより奇縁と言うのが正しいような気がしたが、玄一郎もそこは黙っておく。
玄一郎もカルディアとの記憶の共鳴からハーケン・ブロウニングという男やその仲間達の姿などを見て知っていた。さらに、にアクセル・バルマーというレモンの恋人の事も見たので、『レモン・ブロウニング+アクセル・アルマー=ハーケン・ブロウニング』、つまり『変+アホワカメ=変なアホキザ野郎』なのだろうなぁ、などと失礼な事を想像し、いやいや、いかんいかんと頭を振った。
「……アインスト・ハーケンもお母様と逢うことが出来たなら、ああならずにすんだのでしょうか」
ボソッとカグヤが呟いた。
「アインスト・ハーケン?」
「……大丈夫です。もう彼は存在しません」
「いや……」
そういう事じゃなくてな、と玄一郎は言葉を続けようとしたが、しかしアインスト・カグヤの目を見て黙った。
悲しみと諦めを湛えた目、であった。
玄一郎はその目から、途端に全て理解した。
彼女以外のアインストに創造された複製達についてアインスト・カグヤは『私以外のアインストは滅びました』とか『こちらの世界には私だけです』と断言するように言っていた。
玄一郎もアインストには仲間を探知出来るような能力があり、それでこの世界には居ないのだ、と言っているのだろうと思っていたが、そうではなかったのだ。
彼女、アインスト・カグヤがこちらに来ていた他のアインストのコピー達を滅ぼしたのだと玄一郎は悟った。
「……理由は聞かん。解ったからな」
彼女は自らを『悪を断つ剣』と呼ぶ。おそらくはウォーダンのそれとはまた違った覚悟と意志、そして決意を以てそう名乗っているのだ。
ウォーダンの剣とカグヤの剣。どちらも『悪を断つ剣』であるが、剣士の意志はそれぞれやはり違う。信念もまた違う。だがそれはどちらが秀でてどちらが劣るというわけではない。
ウォーダンの剣は未だその姿を変えつつあるものの、『修羅を討つ剣』であるとするならば、カグヤのそれは『破邪の剣』である。
そう、『悪』の定義が違うのだと玄一郎は理解し、カグヤの瞳にそれを見て取った。
アインスト・カグヤは他のアインストをこの世界に害悪を成そうとする『邪悪』だとして滅ぼされたのであると理解した。
だが、カグヤの話をそれ以上聞かないのは理解したからではない。彼女が断った悪は、彼女の仲間であり、同じ素性の存在、そして何よりも彼女の記憶にある友の似姿であったのだ。
自ら手を下したとしても悲しく無いはずはない。悔やまぬはずはない。
それがわかるが故に聞かなかったのだ。
「……胸に納めるのが辛くなったら、いつでも話しに来てくれ。いつでも聞こう。抱え込むのが辛ければいつでも頼ってくれ。孤独は毒だ。心を蝕む。一人では道がわからなくなるものだ」
玄一郎はそうカグヤに諭しつつ言った。
戦場での心の傷はその体験を話合う事で軽減される。これは心理学の研究でも実証されている。
玄一郎も伊達に訳あり泊地の提督をしてはいない。パラオ泊地には多くの訳ありの艦娘達が在籍しており、そういうケアには玄一郎も心を配っているのである。
ブラック鎮守府出身者だけでなく、戦場での恐怖を経験した艦娘や鎮守府が壊滅した生き残りの艦娘、要人暗殺を強要された艦娘、男性恐怖症になってしまって姉妹艦に依存する艦娘、そういう様々な艦娘達が所属し、今もなお半勤務、半療養をしている状態の者もいる。
そのため、玄一郎も特にそういう、何かを抱えているものに対する嗅覚が鋭くなってしまっていたのである。
パラオ泊地は訳あり泊地なのである。そして玄一郎はその訳あり泊地の提督。艦娘のみならず、訳ありの者が一人や二人、何人増えたとしてもパラオ提督にはこれっぽっちも堪えはしない。
そう言って玄一郎は胸を張っていつも虚勢を張るだけ張って笑う。
無理をしても辛くても、笑いあえる明日が来るなら問題無し。そのためのパラオ提督。玄一郎はそういう男であった。
「……ま、いろいろあるけど、独りで抱え込むなよ。って、足柄が戻って来たようだな」
バタバタバタバタと早足で医務室にやってくる足音を聞いて玄一郎はカグヤに苦笑して見せた。「まぁ、話したけりゃまた今度な?」と小声で言ってウィンク。
おそらくは話す声が聞こえたのだろう、バン!と医務室の戸を乱暴に開けて足柄が入って来た。
「あなたっ!!ごめんなさい、ごめんなさい!!無理をさせてしまったのね?!」
いきなり足柄は玄一郎に抱きついて必死で謝ってきた。だが玄一郎はふざけたように
「足柄ねぇさんが気持ち良すぎて逝っちゃいそうになった。責任取ってお婿さんにもらってくれ」
と、半ば笑って足柄にそう言った。
「もうっ!!ふざけないで、心配したんだからっ!!」
「すまんすまん。つか惚れ直した。足柄ねぇさんとなら何度でもケッコンしたいよ。本当だぜ?」
泣きはらしつつ、玄一郎に抱きついた足柄を優しく受け止めつつ、背中をポンポンと軽く叩いてやりつつそう嘯いてやる。足柄が思い詰めないように。
『女性専門・口車の運転手』とかつて玄一郎の祖父は呼ばれていたが、その遺伝子は確かに色濃く玄一郎に受け継がれていた。あの世のバァサンが見たらおそらくは呆れてものが言えないだろう。
だが、その口車もこういう時は有効である。口車の有効利用とも言うべき方便であった。
「……本当のジゴロって、こういうのを言うんですね~」
カグヤがその様子を見てシラーっと言う。ある意味彼女のオリジナルのパートナーとは違うキザさを見て、呆れているようだった。
「大事な事をちゃんと伝えるのは恥ずかしいが、大事だからこそ言葉で伝えなきゃダメだってジッチャが言ってた!(キッパリ!!)」
天井に浮かんでいる玄一郎の亡くなった守護霊の爺さんがピースしているのをカグヤは見て、ああ、この祖父にしてこの提督ありなんですね、と思ったとか思わなかったとか。
終われっ!!
アインスト・カグヤの『悪を断つ剣』とゼンガーの『悪を断つ剣』、そしてウォーダンの『悪を断つ剣』。
剣は生き筋を現しますが、辿る人生が違えばその意味も三者三様でかわるんじゃなかろうかと。
足柄ねぇさんは、きっとね、ケッコンしたらものすごく甘々ベタベタになるんじゃないかと思うんだ。
次回、エロメガネな事務艦はエロパンツでまたあおう!(嘘?)