ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

67 / 111
ぬいぬい、提督の提督を見る。

指輪のプラチナとダイヤの出所は……。

足柄ねぇさんの指輪は最後に出る。


重婚多重奏曲~プラチナ・サウンド~

 貴賓食堂のクリュグを合計八本消費し、某エキスプレスなブラックカードまで使って支払い、経費で落としたがる昔の官僚とかそういう連中の気持ちが少しわかった玄一郎であったが、わかっても男の意地である。不正イク無い、どーんと払いのどっとはらいなリボ払いである。

 

 テロ事件などでのゲシュペンスト緊急出撃のボーナスが入るのだ、何のこれしきオギノシキ、結婚式は玉姫殿とヤケクソ気味に思いつつ自室に戻った。執務室にゲシュペンストは居ない。現在、頼もしき相棒は工廠裏の倉庫で夜なべで婚約指輪の削りだし作業をしているはずだ。

 

 玄一郎は少し仮眠をとったら後で相棒のところへいこうと誰も居ないベッドにぶっ倒れるように寝転がった。

 

 なお、扶桑姉妹やムサシ、雷のレ級達は土方達とオールナイトカラオケだとスマホに連絡があった。鉄板焼き屋RJの常連の妙高型四姉妹や途中で会った高雄と愛宕、川内、神通もそれに加わったようだ。

 

 その人数で入れるカラオケボックスなど無いので、鉄板焼き屋RJの通信カラオケで盛り上がっているのだろう。

 

 まぁ、それはともかくとして、これからどうすっかねぇ、などと考えつつ目覚ましのアラームを四時に合わせて玄一郎は仮眠についた。

 

 

 

 ふと目が覚めて、夜中の三時。

 

 もそもそとベッドに入ってくる何者かの気配。ああ、これは扶桑姉妹かムサシか誰かなのだろうなぁ、と思ったのだが、それが自分の腹の上に乗ってきていつもの重さではないことに違和感を覚えて目を覚ました。

 

 どう考えても扶桑姉妹の体重ではない。もっと言うとムサシのあの圧倒的な乳の圧もない。

 

 軽い。軽いのが、のっしのっしと上がってくる。

 

「ぬい、ぬい、ぬい、ぬい」

 

 と言いつつ、くんかくんかすりすりうりゅんうりゅん。

 

 これ、あかん奴や(自室に来る艦娘的に)。

 

 玄一郎は目を開けて不知火の襟首掴んで起き上がり、子猫を釣り上げるようにひょいっと持ち上げた。

 

「不知火。何をしている?」

 

「ぬいっ?」

 

 ぶらーんと釣り下げられながら鳴く不知火。まるで猫である。

 

「……テイトクニウムが足りなくて眠れぬいの、兄さん、ぬいぬい」

 

「誰が兄さんだ誰が。つかそんな謎の物質俺からはでないぞ」

 

「フェロモン的?」

 

「出てるかも知らんが、つか勝手に忍び込んで来るな」

 

「そんな、私達兄妹じゃ無いですか兄さん、水臭い」

 

「いや、兄妹じゃないし?」

 

「生き別れの兄さんと告白してくれたあの優しい兄さんはどこへ行ったのでしょう。ああ、兄さん」

 

 不知火はぶら下げている玄一郎の手を振りほどいて再び抱きつき、すりすりうりゅんうりゅん。

 

 どうも不知火は兄妹ネタがお気に入りなようである。とはいえ、言っている不知火本人も玄一郎を兄とは思ってはいない。まぁ、憧れのようなものはあるのかも知れないが。

 

「だからすりすりすんなっつーの」

 

「テイトクニウム補給です、テイトクニウム補給。はっ?!ここから高レベルのテイトクニウム反応がっ!?」

 

 うりうりすりすりしつつ寝間着代わりに着ている作務衣の紐をするりとほどいて股間にくんかくんかすりすり。

 

「ぬいぬいぬいぬい!」

 

 顔を股間にうずめてうりうり!頬摺りすりすり!

 

「やめんかっ!」

 

 ゴチン!玄一郎は不知火の頭に拳骨を降らせた。

 

「あうっ?!」

 

 頭を抑える不知火。『ぬいっ?!』と言わない辺り、それが演技で作ったものと解る。これが夕立ならば『ぽいっ?!』と鳴くだろう。夕立はそれが素なのだが不知火はワザとだ。もっとも、夕立は人の股間の匂いなどかがないし頬ずりしたりしないだろうが。

 

……やらないよね?←若干不安。

 

「ええい、ゲシュペンストは……って、工廠の倉庫だったな。あー不知火、お前、明日も哨戒任務あるん……いや、休みだったか。まぁ、俺はちょっと工廠に行くから部屋に帰れ?」

 

「兄さん、イク時は一緒です!」

 

 ひしっ、とズボンにすがりついてやはり股間にうりうり。

 

「うーわぁぁぁっ?!つか脱がせようとすんな?!」

 

「せめて脱ぎたてパンツの一枚たりとも……っ!」

 

 ズボンをつかんでぐいいいいいっと摺下げようと引っ張りつつ。

 

「だーっ!変態かっ?!」

 

 ゴチン!二度目の鉄拳である。

 

「あうっ!」

 

「ええい、やめんか!つか、昔のおまえはそんな性格じゃなかったのに、なんでこうなったよ?!昔はもっとこう、ストイックで『不知火に何か落ち度でも?』とか言ってガンつけてたじゃねぇか」

 

「主に土方中将が悪い、きっぱり!」

 

 そうなのである。この不知火は土方が前のパラオ泊地の提督だった時代に建造された艦娘の一人であり、土方の能力の影響をかなり受けている艦娘なのである。(なお、不知火が建造された時にはゲシュペンストはすでにパラオにいた。)

 

 土方の能力は艦娘に対して『介入』する能力であり、この『介入』という能力は主に艦娘の精神に作用する。

 

 この『介入』は主に艦娘の制約と呼ばれる所属する基地等の司令官とその艦娘との『制約』と呼ばれる『司令権』を一方的に破棄させたり、力や練度の低い艦娘であれば強制的に自分の支配下に置くことも可能な能力である。ただ、土方はそちら方面の能力を積極的には使いたがらないのだが、本人が気を抜いたり、暴走したときにやたらと垂れ流してしまう事がある。

 

『好意の介入』と本人は言っているが、それは土方の『変態化波動』と言ってもいいものであった。

 

 それにやられると抵抗力の低い艦娘はかなりの影響を受けてしまうのである。

 

 この変態化波動をモロに受けた艦娘の一人がこの不知火であり、土方が提督だった時代に建造されたパラオ泊地の艦娘は一様に何らかの影響を受けている。

 

 つまり、陽炎型は土方時代にコンプリートされているため、全員がちょっと変なのである。

 

「……やっぱり、土方さん本国に帰ってくんねーかなー」

 

 艦娘達の被害や自分が被る被害を考えると、やはりそれを考える玄一郎であった。

 

 今まで緊急事態の連続でその問題は棚上げされ、忘れられていた。だが、厳戒態勢解除された今、再びそれが噴出して来そうであり、憂鬱になる。

 

 くんかくんかすりすり、くんかくんかすりすり、とやらかす不知火のこのフリーダムにして異常な行動。

 

 そう、物語の最初に、土方の影響云々と言っていた一例。それがこの不知火なのであった。

 

 古参の艦娘達は精神的な防御が出来ているので大丈夫です。

 

 ずぼっ。

 

「ごかいちょー」

 

 一瞬の隙を突かれ、パンツごとズボンが摺下ろされた。

 

「……兄さんの、大きい」

 

「……あっ」

 

 ぞうさんぽろり。

 

「くんくんくん。テイトクニウム臭すっごい」

 

「匂いを嗅ぐなぁぁぁぁっ!!」

 

 ごちん!!

 

「あうっ?!」

 

 本気の拳骨制裁、であった。なお、詳しく書けないので何があったのかは行間を読んで下さい(R-15的措置と手抜き。)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 その後、暴走した不知火をシーツで簀巻きにし、駆逐艦寮の玄関に放り込んだ後、玄一郎はすたたたた、とナンバ走りにて軽やかに駆けて工廠裏の倉庫まで来ていた。

 

 そこではチュイーン、チュイーンと精密工作機が軽い音を立てて稼働しており、カチン、カチン、カチン、と金属の輪っかを量産していた。

 

「お疲れ、相棒。しかし大量生産だなぁ、マジで」

 

〔む?明日は休日とはいえ、寝て無くても良いのか?〕

 

「不知火に夜這いされてな。つかまた誰か来たら厄介だから部屋から逃げてきた。扶桑達は夜通しのカラオケだとよ。ま、厳戒態勢解除だから休みにしたけど、明日からの秘書艦誰だっけ?」

 

〔大和が秘書艦だ。また厳戒態勢解除につき秘書艦見習い過程でアイオワが入る〕

 

「ふむ、アイオワかよ。つかそこまでもう教練過程進んだのか?早すぎないか?」

 

〔……現在、アイオワの練度は89。山城と比叡、大和が仕込んだ。新造艦娘の中で最も練度が上がっている。ウォースパイトもガングートも共に練度86だ。三艦とも練度の上昇がとんでもない。有り得ない〕

 

「……どんなしごきしたらこんな短期間でこんな練度上がるんだよ。つか秘書見習い過程はだいたい初期の練度上げも兼ねてやるもんなのに、もうちょいでカンストじゃねぇかよ」

 

〔……む?何者かの反応がドア付近に一人。反応から夕張、か〕

 

「あん?ああ、んなとこで何覗いてんだ?夕張」

 

「んー?夜に提督ん部屋行ったら誰もいなかったから、当てがはずれたなーって仕方なく工廠来たら、こっちからカチャコンカチャコン音がしてたから何だろなーって」

 

(お前もかよ。つか部屋から逃げてきたのは正解だったな)

 

 玄一郎は少しうんざりしつつ、倉庫の天井を見上げた。

 

 夕張は倉庫の中に入って来て、リングを生産している機械を覗いた。

 

「うげっ、精密レーザー3D工作加工機?!これ一台で数千万円のやつじゃん?!」

 

〔……費用はかかっていない。一から組み上げたからな。これは本来は人型汎用戦闘ロボットの応急修理用パーツや武器のパーツを現場で即興で造る為の工作機だ〕

 

 なお、この世界の汎用工作機械はとは違い、このレーザー工作加工機は五軸加工ではなく、超小型テスラドライブでファンネルのように動き、軸にとらわれない加工を可能としている。

 

 つまり、この世界の水準を遥かに越えた加工機であり、数千万円ではすまない価値を持っている。

 

 そんな大それたものでゲシュペンストは婚約指輪なんぞを加工しているのである。これを工作機械の無駄使いと言うのか、それとも世界初の技術を使って素晴らしい婚約指輪を作っているというのか、どちらなのかはさておき。

 

 夕張の目が輝いた。

 

「何これ何これ?!ルーターで削ってるんじゃない、レーザー発振器が飛んでる?!ひいふうみい、六つ?!しかもこの動き、五軸?ううん、そんなもんじゃない、別次元で加工してる?!」

 

 普通の女の子ならば、カシャコンカシャコンと作られた指輪、それも出てくるのはほぼ完成されたプラチナリングの方に目を輝かせるものなのだろうが、やはりそこはそれ、発明オタクの夕張である。機械の方に目が行くのだろう。

 

〔加工精度と速さはこれが一番だからな。さらに溶接、溶着まで可能だ〕

 

 ある意味チートな金属加工機材である。なお、指輪一個を作るのにかかる時間はたったの10秒。ダイヤの埋め込みは次の工程になるのでまだやってはいないが、一つ一つ、対象になる艦娘をイメージした、花や紋様などもすでに掘られており、それらがモニターのチェックリストに映し出されている。

 

 カチャコン、カチャコン、カチャコン。

 

「あれ?」

 

 モニターを見て、夕張は首を傾げた。

 

 チェックリストの艦娘の名前と指輪の模様に気がついたのだ。

 

「……機械に気を取られてたけど、これって婚約指輪?」

 

「ああ。この世界初の工作機械で造る、最高精度のプラチナとダイヤの婚約指輪だ。しかも一人一人、世界にただ一つのデザインの、パラオ泊地産フルオリジナルだ」

 

「……なんかすっごい手間かかることしてるなぁ。ていうか、このプラチナとかダイヤとかどうやって手に入れたのよ?」

 

 倉庫のテーブルの上に置かれた試作品と思わしき二つのリングを見て夕張は言った。その指輪は六連ダイヤの細い指輪で、他の婚約指輪とはデザインが違っていた。

 

 裏返すと『FUSOU』、『YAMASIRO』と彫られており、どんなけ正妻が好きなんだよコイツ、とか夕張は思った。それは試作ではなくガチの結婚指輪だった。

 

「……昔、アフリカで白人の貴金属シンジケートに真っ向から戦いを挑んで命を狙われて殺されそうになってた黒人の男が居てな。そいつの命を助けた事があるんだ。その縁で安く送ってもらった。ちなみにそこの扶桑と山城の結婚指輪はそいつからの祝いの品だ」

 

 あー、なるほど、それでデザインが他と違うのか、と夕張は納得しつつ、しかし怪訝な表情で

 

「……闇ルート?」

 

 と言った。しかし

 

「何を言う。正規ルートだ。今はアフリカ連合国の首相になってる男に頼んだからな」

 

 闇ルートよりももっとたちの悪い答えが帰ってきた。

 

「……一国の首相に何送ってもらってんのよ」

 

 少し間違えれば国際問題である。なにしろアフリカ連合国は近年出来た国ではあるが、深海戦争で最も被害が少なく、さらにアメリカなどの大国の弱体化によって力を増して来ており、その資源の埋蔵量によって今や押しも押されぬ超大国になりつつある国家なのである。そんな国の初代大統領とコネがあるなど、コイツはナニモンだよ、なのである。

 

「安く上げねば俺の蓄えでは流石に無理だからな。なのに見栄は張らねばならんときたからな。ゆえにこの際使えるなら一国の首相でも恩に着せて使う。まぁ、向こうも喜んで送ってくれたぞ?結婚するからプラチナとダイヤくれ、といったらホレ、頼んだ量の100倍以上も送って来やがった」

 

 倉庫の壁に積まれたプラチナインゴットの板数十枚を指して玄一郎は言った。全部で100キロ。時価にして約4億円ほどの価値である。それにダイヤもかなりの等級のダイヤばかりがケースに入れられていた。レッドダイヤ、ホワイトダイヤ、グリーンダイヤ、イエローダイヤ、様々なダイヤの種類が透明なケースに無造作に詰め込まれている。さらに指輪のケースまで積み上げられている。

 

「すでに安く上げる範疇じゃないわよ、これ、ざっとでも十億はかかる計算になるわ……」

 

 流石の夕張も唖然としていた。

 

「……こんだけで俺が払った金はたったの500万だかんな?結婚祝いでついてきたオマケがデカすぎるぜ」

 

〔……まぁ、俺達もいろいろやってきたが、貰えるものはありがたく有効活用しよう〕

 

 カシャン、チン!

 

 最後の指輪が完成し、出てきた。その指輪の紋は、斧が五つ輪になったような模様をしていた。

 

「……芦柄神社の戉紋(まさかりもん)?これ、足柄ねぇさんの?」

 

「出てくる時も最後なのな?指輪も」

 

「渡す時はせめて早く渡したげてね?ああ、私のも出来たらすぐでいいわよ?」

 

「明日の休みで全部仕上げるつもりなんだ。妖精さんも明日手伝ってくれるそうだから、お菓子用意せんとなぁ」

 

 そう、有り得ない精度かつ精密、純プラチナと極上ダイヤの手の込んだ安上がりハンドメイドな指輪の製作は、まだ終わらないのだ。

 




プラチナ一キロ約400万円。

ぬいぬいが変態。R-15の壁は越えてねぇぜ、多分。

次回、地味な作業ほど大切なもん、でまたあおう!(嘘)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。