ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 パラオの金剛は世界で初めて発見された、最初の金剛。すなわちファースト金剛おねぇさま。

 なお、婚期逃したババァなどとは言ってはいけない。

 海千山千の古強者ですが、普段は優雅に楽隠居して紅茶ばかり飲んでます。


紅茶楽隠居・昼行灯、金剛。

 パラオ泊地の金剛型の四人は、それぞれ出身が違う。

 

 一番艦の金剛はこの世界で初めて発見された金剛であり、ドロップ現象で入手されたという。

 

 次に二番艦比叡は離島基地という小規模な基地で建造されたとされる。この離島基地は海軍の正式な施設ではなく、日本政府の実験施設であったらしい。

 

 三番艦の榛名は呉鎮守府で建造された。パラオ泊地への移籍は本人の希望によるものらしい。

 

 四番艦の霧島はゲシュペンストがパラオ泊地の提督になった際に建造した艦娘のうちの一人である。

 

 とはいえ艦娘の姉妹の絆は建造された場所が違っても変わることは無い。

 

 他の鎮守府の金剛型であっても姉妹として彼女達は認識するし、たとえ性格がヒネていたとしてもその関係は変わらないのだ。

 

 故に、そう、故に。

 

 

「……霧島を呼んだのに、何故に金剛型全員が来るんだ?」

 

「ヘーイ、ゲッシーぃ、私達四姉妹は一心同体デース!!」

 

金剛型一番艦の金剛が元気よくそう言って提督にピースをかます。この金剛はゲシュペンスト提督を提督とは呼ばず、ゲッシーと呼ぶ。

 

 彼女は年齢で引退した元大将、菅原道雄がドロップ現象で得たという、海軍で最初に確認された金剛型であり、この深海大戦を初期の頃から戦い抜いて生き抜いてきた生き字引的な艦娘である。

 

 彼女にとって提督は引退した菅原元大将ただ一人であると公言しており、土方中将でさえもトッシー、言わんやゲシュペンスト提督さえもゲッシー、つまりはヒヨッコ扱いなのである。

 

 なお、当時の初期の艦娘で生き残った皆さんは大抵はケッコンカッコカリや結婚(ガチ)をして引退しているが、金剛は菅原元大将にフられ、(菅原道雄元大将の妻は高雄である)婚期を逃し、他の鎮守府の提督にも見初められず、女性である土方中将の元から現在ゲシュペンスト提督(ロボット)の指揮下にある。

 

 無論、この金剛はノーマルであり、土方中将にバーニングラヴをかます事も無かったし、ロボットであるゲシュペンスト提督にバーニングラヴをかます事も無い。

 

 彼女はいい縁に恵まれていないのか、それともシングル志向なのか、わからない。ただ、彼女を『ババァ』と言った者には死ぬよりも恐ろしいナニかが待っているのは事実である、とだけ言っておこう。

 

 さらに付け加えておくならば、金剛のいる各鎮守府での金剛のケッコンカッコカリ率は約90%というデータがあるが、この金剛は練度99で止まっている。

 

 

 それはさておき。

 

 基本、金剛型四姉妹は非常に仲が良い。そして元気も良い。四人揃えばかしましいを通り越してフリーダムである。

 

 

「……妹を一人で呼び出して何させるつもりです?気合い入れて!!……撃ちますよ?」

 

 比叡は本来ならばこんな性格では無い。が、過去の経歴によって精神が少し病み気味なのである。とはいえ姉妹思いないい子なのは変わりない。

 

 彼女は艦娘を建造出来るようになり、量産をして逐次投入という物量作戦を敢行していた頃に建造された。

 

 当時は艦娘暗黒期とさえも言われた海軍最悪の時代であり、彼女は地獄の戦いを生き抜いたその後遺症で精神に変調をきたし、パラオ近海が交戦禁止指定地域になった際に、精神療養を目的として転属されてきたのである。

 

 

「あのっ、は、榛名は大丈夫です!」

 

 榛名はまぁ、いつも通りの榛名である。

 

 この榛名は艦娘擁護派と言われる、海軍の実力のある若手将校達によって結成された派閥に所属していた提督の鎮守府で建造された、まだ比較的新しく建造された艦娘である。

 

 金剛が初期とするならば、比叡は中期、榛名は中期よりもさらに後という事になる。

 

 この榛名のいた鎮守府は所謂ホワイト鎮守府と呼ばれる所であったのだが、そこの提督は若手であり、経験が少なく、一度艦隊の指揮をあやまり、榛名を大破させた事がある。

 

 榛名は命からがら無人島に漂着する事ができたが、そこでまだ海軍に協力する前、この世界で元の世界に帰り、人間の姿を取り戻す方法を探していた頃のゲシュペンストと出会い、助けられたという事がある。

 

 この榛名はそのゲシュペンストが提督としてパラオ泊地に着任した時に恩を返すために、と志願して転属してきたのである。

 

 義理堅い子だな、とゲシュペンスト提督は思っているが、乙女の思惑が見え隠れしていたり、なんだり。

 

 なお、ゲシュペンスト提督はまったく気づいてはおらず、義理堅い子だなぁ、と思っているだけだったりする。

 

 

「司令、申し訳ありません。司令室に向かう途中に捕まってしまいまして……」

 

 霧島は頭を下げて恐縮している。この霧島はゲシュペンスト提督が初めて建造した戦艦であり、ある意味思い入れがある艦娘の一人である。なんというか、自分の娘のような、そんな思いすらもあり……ゲシュペンストの中身はまだ30代ぐらいなのだが……彼女には甘くなってしまう。

 

 戦術指南役の長門や五十鈴、そして古強者の金剛から様々な知識を吸収して、今では艦隊の頭脳としてかなりの実力を持っており、ゲシュペンスト提督としては大いに期待をしている。

 

 とは言え、なんというかそんな子にアレの警護をやらせねばいかんというのは、ゲシュペンスト提督としては非常に申し訳ない気分になってしまう。

 

 出来ればやらせたくはないのだが、と考えるが、致し方ない。

 

「いや、霧島、大丈夫だ。そんなに恐縮する事は無いぞ?」

 

 そう言い、安心させようとして突然、ゲシュペンスト提督は向こうの秘書艦デスクの方からゾクリとする何かを感じてビクッとした。

 

 カメラアイを動かして扶桑の方を見るが、何事も無かったように扶桑はカタカタとPCのキーボードを打って書類を作成している。

 

 扶桑はゲシュペンスト提督が金剛型といるときに何故か機嫌がわるくなる。

 

 しかし過去を遡って彼女達が戦艦であった頃から艦娘になった今まで、特に扶桑型と金剛型に何かあったというわけでも無く、ゲシュペンスト提督には全く原因がわからない。

 

 ここの扶桑は初期のドロップ現象で発見された海軍最初の戦艦であると公式記録にはある。つまりはかなりの古強者ではあるが、自分が持つデータには無い何かが過去にあったのかもしれないな、とゲシュペンストは考えている。

 

個人のプライベートな事はあまり介入したくないし、何より今は霧島に任務を与えねばならない。

 

 たった数秒にも満たない思考を切り替え、ゲシュペンストは霧島に向き直る。まぁ、ゲシュペンスト提督の視野は約360度なので実際にはカメラの切り替えだけで、目も頭部も動かしていないのだが。

 

「司令、どうなさいましたか?」

 

 霧島がそんなゲシュペンスト提督の様子を見て首を傾げた。

 

「いや、大丈夫だ。何でもない」

 

 榛名が扶桑の方をジトッとした目で軽く睨んだが、すぐに笑顔を作って提督の方に向き直る。

 

 幸いゲシュペンスト提督はそれを見ていなかった。霧島の方を見ていたからだ。

 

「霧島、いや金剛型四番艦霧島には新しい任務の為、駆逐艦二隻と合流し、それに当たって貰いたい。任務の内容は要人の警護ならびに監視である。……頼めるか?」

 

 それを聞いた金剛が「オーゥ!!」と叫び「トッシーが来るのデースネ!!」と言った。

 

「ヒェーッ?!」

 

 比叡が叫び。

 

「……きゅう」

 

 榛名が変な声を、だして倒れ。

 

 ピシッ!と霧島の眼鏡が割れ、硬直した。

 

「金剛、なんでそれを知ってんだ?つか、俺、明日まで箝口令敷いてたのに?!」

 

「そんなの、トッシーが私に連絡してきたカラねー。『あ、今度遊びにいくよー』ってネー」

 

「ぐあぁぁぁぁっ、あんの変態めっ!!こっちはトラブルとか他の艦娘達への影響とか騒ぎにならんように配慮してんのに、だぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ゲシュペンスト提督は頭を抱えて叫んだ。彼がそんな風に取り乱すのは非常に珍しい事である。比叡や榛名、霧島がそれを見て我にかえるほどであるが、金剛は慣れているのか、さらりと。

 

「ハイハイ、取り乱さナーイ!!ゲッシーはホント、最近チョットは落ち着いて来たカナーって思ったらこれなんダカラァ。ダイジョーブ、知ってるのはワターシだけデース!」

 

「うぐぐぐ、つか、なんで報告してくんないんだよ金剛さん」

 

「そんなの、今朝のメールだったカラネー。それにいつ来るかワカンナイし、ゲッシーもここのところワターシを避けてるからネー仕方無いヨー?」

 

「避けてるんじゃ無く、忙しいんです!!」

 

「ホラホラ、口調が昔に戻ってるヨー?仕事中は提督しなきゃ、ノーなんだからネー?」

 

 ぜーはーせーはー、と肩で息をするゲシュペンスト提督(呼吸は必要無いのだが)とからかうように飄々と笑う金剛。

 

 なんだかんだ言ってもこの金剛は海千山千なのである。まだ若い(中の人の経験的に)ゲシュペンスト提督ではかなうわけはない。

 

「提督。時間が押してます。駆逐艦二名があと数分で来る時間になります」

 

 ひゅおぉぉぉっ、とあたかも北極のブリザードの如き冷たさを含んだような、冷たい声が秘書艦デスクから吹いてきた。普通に話している筈なのに、何でこんなに怖いのか。

 

 そこには扶桑が、静かに怒っておられた。

 

 ゴゴゴゴゴゴ、と効果音すらしてきそうだ。

 

「オーゥ、それは仕方ナイねー」

 

 いかにも外国人が肩をすくめるような仕草でやはりそれを流す金剛。

 

ゲシュペンストはビックウ!!と恐怖すら感じているのにまったく動じていない。比叡や他の金剛型は顔を青ざめさせ、ビシッ!と気をつけの姿勢をとっているのに。

 

 「まぁ、ゲッシー弄るのはコレぐらいにするカネー」

 

 ちらりと横目で扶桑を一瞥してニヤリと笑いつつ。

 

「で、霧島と誰をトッシーにつけるのデースカ?」

 

「仮にも上司なんだから弄るなよ……。夕立と時雨をつけるつもりだ」

 

「あははは、まだまだワタシからしたら、ヒヨッコだヨー?まぁ、かなりの所イッテルけーどネー?ふぅん、あの二人デス力。いいと思うけど、足りないかもネ?」

 

「足りない、か。確かに」

 

 ゲシュペンスト提督が思っていた事をやはり金剛は突いてきた。

 

「オーケー、川内と神通はどうネ?那珂チャン抜きで。特に川内は打って付けだと思うヨー?」

 

 ふむ、とゲシュペンスト提督は検討してみる。とは言え川内型は軽巡であり、海上警備では外れて欲しくない人材ではある。

 

「海上警備のコト考えてるネー?ダイジョーブ、ワターシ達が交代するヨー?最近出番ナイから運動不足解消にチョウドいいネー」

 

「……しかし、最近のハグレ達は、戦艦の速力では追えないとの報告がある。いかに高速戦艦と言え、その辺はどうにかなるのか?」

 

「その辺は長門に聞いたヨー?ダイジョーブネー。オネーサンに任せなサーイ」

 

 むぅ、とゲシュペンスト提督は唸る。

 

 この金剛は戦闘に対して絶対に慢心はしない。また、無理はしない。状況判断の怪物と松平元帥に言わしめた艦娘である。このパラオ泊地では『紅茶御隠居・昼行灯』などと揶揄されることもあるが、パラオ近海を交戦禁止指定地域にするまでの間、何度もゲシュペンスト提督は彼女に助けられている。

 

「では、任せよう」

 

「オーケーねー。じゃあ川内と神通には話つけとくヨー。じゃあ、霧島を置いてくカラ、あとはよろしくデース」

 

 そう言って金剛は霧島をこの場に残して、次女と三女を連れて退室していった。

 

「……疲れる」

 

 ゲシュペンスト提督は一言ボソッと呟くと頭をガクッとうなだれさせた。

 

 金剛と話すといつも精神力をごっそりと持って行かれるような疲労を覚えてしまう。

 

「あの、司令?」

 

 ああ、そうだ。霧島だ。と、気力を振り絞って頭を起こして頭を持ち上げて、霧島のを見る。

 

「とりあえず、土方中将がこのパラオに来る。すまないが護衛と警備の指揮を霧島に頼みたい。もうすぐ、夕立と時雨がここに来る。まぁ、金剛の発案で川内と神通も霧島につけることになる……というかそっちはまだ未定だが」

 

「はぁ、それは……。気が進みませんが、命令とあれば全力で任に当たらせていただきます!」

 

(……ええ子や。多分、金剛型の一番の良心に違いない)

 

 内心ゲシュペンスト提督はそう思うも、秘書艦デスクからの謎のプレッシャーにやはりゾクリとしたものをまた感じ、いや、任務任務と思い直す。

 

 後で扶桑の機嫌をなんとかせねば、と考えるうちに司令室のドアが勢いよく開けられた。

 

 夕立と時雨か?と思ったがそこにいたのは、川内であった。

 

「川内、参上!!」

 

 忍者よろしく、ビシッ!とキメポーズをかまして格好つけて、ドヤァ……。

 

「護衛任務、まーかせて!!夜戦っ!夜戦っ!!」

 

(……絶対、何か勘違いしてるだろ、コイツ)

 

 ゲシュペンスト提督は、そんなアホの子を見ながらため息を吐いた。

 

 




 扶桑は、ゲシュペンスト提督を弄る金剛がイラついたり、ゲシュペンスト提督に敵意を向ける比叡にイラついたり、ゲシュペンスト提督に恋心を向ける榛名にイラついたり、ゲシュペンスト提督が甘やかしてる霧島にイラついたりしてたりするよ?

 多分、扶桑はゲシュペンスト提督が扶桑の気持ちに気づくまではそんな感じだよ?

 なお、扶桑は世界で初めて発見された『戦艦』の艦娘で、金剛よりも出現は数ヶ月早かったという設定。

 史実とは違いますけど。

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