ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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パラオの長門は改二。

ナガモンに非ず。

最初の長門に当たる艦娘ですが、自分からは言わない人です。

しかし、策士を策にはめてまたその策士も……。




長門の戦略

 パラオに在籍する長門はゲシュペンスト提督、つまり黒田玄一郎がパラオ泊地の提督となった際に戦略顧問として転属してきた艦娘である。

 

 この長門、元々は山本元前元帥の艦隊の旗艦を勤めていた古参艦娘の一人であり、山本元帥が年齢により引退した後に、引き継ぎの元帥としてたった二年間のみ(この二年で菅原大将は独裁政権を打倒するための勢力を集めたと言われ、その目的が達成した後に依願退職をしている)元帥に就任した菅原大将の艦隊の旗艦をも勤め、さらにその後に元帥位が廃止された後も大本営第一艦隊の旗艦をずっと勤めて来た、筋金入りの大本営艦娘であった。

 

 だが、元帥位が再び復活した後。

 

 どうも長門と松平元帥やその妻である叢雲のとは性格的に合わなかったのである。

 

 確かに叢雲は歴戦の艦娘ではあるが、その行動は軍略家としても名高い長門であっても予想出来ず、さらに要らぬトラブルにも発展することも多々あった。

 

 確かに全て結果的に見れば丸く収まり、そのたびに軍の内部の腐敗やそれにまつわる者達は一掃されていったのだが、それは果たして海軍軍人とその妻としてどうなのか?という方法ばかりだったのである。

 

 さらに、パラオ泊地から栄転してきた土方の艦隊の『ナガモン』。これが彼女の堪忍袋の緒をブチ切れさせた。

 

 いかに忍耐強い彼女と言えど、アレには耐えられなかったのである。そう、彼女の名誉のためにこれだけは言っておこう。

 

 彼女は幼児に対してなんら思うところは無い。確かに子供というものは未来の日本を作る大事な存在であると思うし、そして彼女とても女性なのである。普通に可愛いとは思うし、いつか己の子を抱く時もあろうなどと想像する事もある。

 

 だが、けして『ナガモン』のように病的な感情は持ち合わせてはいないのだ。あくまでも母性的なのだ。

 

 あの『ナガモン』と間違われるのだけは不本意だっ!!

 

 故に、彼女は前線への移籍を決意した。もうこんな大本営なんぞに居られるかっ!!と。

 

 意外にも、すんなりと受理された。妹の分までご丁寧についてきた。

 

 誰からも引き留められはしなかったのは寂しかったが、それは致し方ない。もう海軍も世代が代わっているのだ、とか思っていたらパラオ行きを羨ましがる軍人や艦娘達が多く、かつては前線であるのに何故にそのような反応をみんながするのか、長門には謎だった。

 

 さらに、吹雪とか如月とか睦月とか、潜水艦組とかが長門にゾロゾロついてきた。みんな一様にワクワクしつつにこやかであった。どうやらパラオに就任した提督を彼女達はよく知っているようで、再会するのを楽しみにしているようであった。

 

 道中、その一緒に転属する艦娘達と話をしたが、この転属組、かつては最悪のブラック基地と言われた『小島基地』の出身であったらしく、そんな彼女達が会うのを楽しみにする提督とは如何なる人物か?と長門は非常に気になった。

 

 通常、ブラック鎮守府出身者はなんらかの人間不信になっておりどれだけの名提督、名司令官であれその不信を覆す事は困難なはずなのだ。

 

 しかし、パラオの提督に関しては到着するまで軍事機密扱いとなっており、その人物に関しては着任し、パラオ所属の手続きを終えるまでは話してはならない、と言われた。たが一言。

 

「会えばびっくりしますよぉ?いえ、とってもいい人ですけど」

 

 もしや、パラオの提督は人間ではなく、大和型などの艦娘が兼任しているのではあるまいな?と長門は推測た。それならば人間不信であっても同じ艦娘なのだ。好意的であってもおかしくは無い。

 

 しかし。

 

 会って確かにびっくりした。

 

 いや、人間では無いとは思っていたが、ロボットだとは流石の長門でも思っていなかったのだ。

 

 それ以上に、パラオ泊地に揃っていた艦娘の面々が問題だった。

 

 かつて指名手配され、そして死刑にされたはずの暗殺者『隻眼斬鬼の天龍』と『鮮血の薙刀姫、龍田』が普通に天龍幼稚園やっていたり。

 

 独裁政権を倒した『間宮・オブ・ザ間宮』が普通に食堂を運営していたり。

 

 行く先々の鎮守府が大抵壊滅する、『破滅の扶桑姉妹』、『鎮守府クラッシャー』、『災厄艦娘』と呼ばれた扶桑姉妹が普通に幸せそうにロボ提督に侍っていたり。

 

 艦娘擁護派の父と言われ海軍を立て直した菅原大将の懐刀と呼ばれた『策の金剛』『知の金剛』と呼ばれた金剛が楽隠居していたり。

 

 最初の礼号組の足柄(つまり最古の足柄)が呑み屋で管巻いていたり(もうとっくに引退していたと長門は思っていた)。

 

 普通、ここまでの武勲艦から問題児が揃えば何かしら大きな問題が勃発してもおかしくないが、誰もが大きな対立も反抗もせずに普通に任務に勤しみ、外から見れば普通の艦隊よろしく提督に従って、なんら武名や悪名など有りはしないように、それどころか皆、提督をむしろ盛り立てて働いていた。

 

 長門の目から見ても、パラオ泊地はとんでもない泊地だったのである。 

 

 とはいえ、ある意味。

 

 このパラオは扱いに困った艦娘達の収容所なんではなかろうか?と長門が思ったのは内緒である。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 さて、長門は玄一郎と成り行き上、新入りに手本を示すために演習を行う事になったわけではあるが、ここで長門の砲術について語らねばなるまい。

 

 この長門が得意とするのは『超予測射撃』である。長門と言えば殴り合いなどと言われるが、実際、戦場での砲撃戦でこの長門が負けたことは一度たりと無い。

 

 この長門の砲撃を指して曰わく『砲撃自在』と呼ぶ。また、多彩な砲術を駆使して巧みに戦況を操る長門をして、『詰め将棋の如し』とも言われる。

 

『ただの砲なれど、長門が一度放てば戦の結末は勝利に終わる』とかつての菅原大将が言った言葉である。

 

 例えば、長門の持つ砲術の一つに『置き砲撃』と呼ばれるものがある。

 

 上空に長門が砲を一発無作為に撃ったとしよう。そして敵に副砲で攻撃。副砲は当たらなくとも、その二つの砲撃で必ず敵艦は轟沈する。最初に無作為に撃った砲弾の落下地点に、副砲に追いやられた敵が自ら向かうからである。

 

 つまり、最初の砲撃が将棋やチェスなどでしばしば使うための布石の駒のようなもの、すなわちこの場合『置き砲撃』であり、副砲は単にそこに誘い込む為の罠である。

 

 また、この長門は敵の戦闘機をただの一発の砲弾で十数機撃ち落とした事がある。それを『戦闘機10枚抜き』と長門は言ったが、機銃ではなく砲弾で対空をやってのける。

 

 さらに、特に追い込まなくても普通にぶち当てても直撃出来る程に狙いは正確であり、今まで撃つと定めた目標は全て直撃で沈めている。すっと砲塔動かしてドカン、で直撃大破である。

 

 砲戦自由自在、狙わず撃つとも必ず敵を仕留める追い込み砲撃、無造作に狙っても直撃。いかに素早い敵であっても当てることなど容易い。それが日本海軍の砲術の名手として『砲神の長門』と呼ばれるパラオの長門であった。

 

 その長門の技を持ってすればソースケ・ウルズの繰るキャニス・アルタルフの回避行動など容易に予測でき、ぶち当てるなど造作も無い。回避の動きがパターン化している分、見え透いていたからだ。

 

 とはいえ今、対峙している『提督』は非常に厄介な相手であった。動きを追うのが非常に難しい。ロボットであるのに動きに無駄が無いだけでなく、瞬動や縮地、動いていないのに動いているように見せたり、動いているのに静止しているように見せたり、という武術の体捌きをやってのけるのである。

 

 なお、今までの勝敗は9対11で長門が9である。

 

 とはいえ。

 

 長門にとって今の勝敗は特に関係は無い。長門の意図する勝利はすでに決まっていたのである。

 

 長門の策はすでに終わっており、しかも結果を出していた。提督がこの場に現れた時点でもう勝利していると言っても良い。

 

 長門はニッ、と笑った。

 

 長門の意図する勝利とは、誰よりも愛する者に尽くしてそれをひた隠しに隠して来た菅原艦隊時代の旧友を速やかに嫁がせる事、である。

 

 その策はシンプルかつ提督と金剛の性格を熟知していなければ不可能、かつ単純なものだった。

 

 単に長門は『ムサシ』と相対したならば『扶桑姉妹』は怒り狂い、同盟艦討つやも知れぬ。なんとか穏便に収めてくれ。と金剛に言っただけなのだ。

 

 誰もそれが策などとは思わない。

 

 長門は戦略顧問であり、提督に何かあった場合の艦隊指揮権を与えられた提督代行役でもある。軽々しく彼女が動くわけには行かないと金剛も知っていたし、それに金剛も自分がそういう事に適任であるとわかっている。

 

 ゆえに金剛は動いた。

 

 争い事をするような雰囲気ではないようなセットを使い、扶桑姉妹を押し止め、そして『ムサシ』の一件をむしろ泊地の艦娘達を嫁がせるための材料として使うだろう。

 

 それこそが長門の思うつぼであった。

 

 金剛は自分で自分の婚期を早めたのだ。

 

 そう、提督はストレスが溜まるととんでもなく子供かと思うような思考になるのだ。そこを金剛は計算していない。なにしろあの提督は金剛の前だとアホな態度はしていたが、その手の子供の反撃的な事を一度もしてはいなかったからだ。

 

 だが、今回は違う。

 

 提督は、蚊帳の外のように振る舞う金剛にかなり苛ついているように見えた。他の艦娘を優先的に考えて行動し、それに一歩引いて自分を置く金剛に、だ。

 

 そこを長門は突いたのだ。他でも無い金剛を使って、自分で突くように仕向けた。

 

 ならばその後の提督の腹の内がどうなったかは、もうとっくに長門にはわかった。

 

 金剛の策略、回避出来ず。ならば金剛に一矢でも報いん。

 

 ようするに、

 

 どうせみんなと重婚するなら、そこでそうやって高みの見物してるテメーをまず嫁にしてやらぁ!!番狂わせかまして吠え面かかせてやんよ!!

 

 とヤケになって行動するだろう。

 

 もっとも、金剛はおそらく吠え面はかかないだろう。あれは意外と乙女なのである。幸せの涙は落とすかも知れないが。

 

 故に、長門の作戦は達成している。

 

 間宮への根回しもとうに済み、他の者達にもすでにそれは伝わっている。

 

 金剛には誰もが世話になり、皆、それを恩に感じている。異を唱える者は誰もいなかった。これぞ金剛の人徳であろう。あの第一、第二夫人達ですらも進んで協力してくれたほどなのだ。

 

 そうして提督は勢いのままに金剛へ白羽の矢を持って報いるだろう。なにしろ一度やると腹が決まった提督は、とことんまでやらかすのだ。バカだから。

 

 知略も戦闘力も、行動力もある男ではあるが、基本的にバカなのである。そしてやらかした後でようやく気づき、そして『やっちまった事はしょうがねぇわなぁ』とうそぶく。

 

 長門はその愛すべき、愛しのバカを見てやはり笑うのであった。

 

 




長門さんは知将。

とっくに罠にかかっていた提督。本当の策は、終わってもわからないものさ。

次回、マグナムウェディングでまたあおう!(嘘)

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