ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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レモン・ブロウニング登場。

ちょい成熟した色気とエクセレン臭。




レモン・ブロウニング

 まだ会議室。

 

 カルディアにどこからか通信が入った。

 

「む?」

 

 同じ『シャドウミラー』のバンドであり、こんな回線久しぶりに開くぞ、とカルディアは思った。

 

『こちらレモンおねぇさまよん?W-06ちゃん、元気ぃ~?』

 

 創造主からだった。

 

「……何を企んでいる?」

 

 命令プログラムも指令コードも無くなっていおり、かつ尊敬とか服従とかそういうのも全く無くなっていたので、もの凄く直球でカルディアは言った。

 

 はっきり言って『シャドウミラー』の連中のおかげで訳の分からない世界に行かされて、妹はあんな壊れた性格になり、ピート・ペイン(兄とは思いたくない)なんぞというアホのせいで自爆して、ようやく解放されたと思えばこの世界に移転して、さらには元部下(部下とは思いたくない)のマッチョな変態にやたらと懐かれる始末。

 全部コイツのせいだ。

 

「いやーん、おねぇさま悲しいっ!」

 

「誰がおねぇさまだ。誰が。つか私のデータのあんたと性格がかなり違うんだが?」

 

「まぁ、一度死んでるし?素の性格こんなんだし?」

 

 どうやら素の彼女はエクセレン・ブロウニング寄りのようである。

 

 カルディアは念のため、この通信の音声をゲシュペンストやラピエサージュ、ウォーダンに転送した。

 

 ろくでもない目にあいたくない、そんな気持ちでいっぱいだったのだ。幸い、仲間と呼べる……かはわからないが、私は裏切りませんよ、だから助けてプリーズ、変なのから連絡が来ちゃって私困ってるのぉっ!という姿勢を示すためだ。

 

 というかあちら側に行ったら確実にまたコードATAとかつけられて自爆する未来しか見えなかったのだ。はっきり言ってそれは嫌だ。

 

 カルディアは過去の不幸な出来事からまったく創造主を信用出来ていなかったのである。アンドロイドの頃なら命令には絶対服従していただろうが、今の彼女はもうアンドロイドではなく、すでにそういったものから解放されていたのだった。

 

 というか、パラオで保護されていれば天国なのだ。変態なマッチョ(元部下)はまとわりついてくるが、何より飯はうまい。部屋は与えられ、ベッドはふかふか。風呂にもゆっくり入れる。呼び出される事はあるが協力さえしていれば謝礼がもらえる。こんな楽な事は無い。

 

 そう、この天国を守るためならば創造主にも逆らってやる。カルディアはすでにそう決めていた。これが業界で言うところの『フランケンシュタイン・シンドローム』、つまりは『被創造物の反乱症候群』である。

 

『自我を持ったアンドロイドは大抵反乱する』という、SF作品のお約束である。もっともカルディアは人間化しているのでかなり違うような気はするが。

 

「……レモン・ブロウニング?ふむ」

 

 ウォーダンがムッツリと言う。彼にとっても彼女は創造主ではあるが、あまり興味は無かった。

 

『あら?今の声W-15?』

 

「そんな奴は知らん。我はウォーダン・ユミルだ』

 

『あらん、反抗期?お母さん悲しいようで嬉しいわ、まぁあんたは昔からだけど』

 

「……誰が母だ誰が」

 

「……二人とも、誰と話してんだ?」

 

 玄一郎は何となく会話の端々を聞くに、カルディアとウォーダンを造った人間であることはわかる。しかしカルディアの記憶を見た時の『レモン・ブロウニング』はこんな性格だっただろうか?とも思った。

 

『あらっ、今の声はどなたかしら?もしかしてパラオの提督さん?』

 

「御名答。パラオ泊地提督だ。で、あんた誰だ?」

 

『あら~っ、やっぱりそうなのね。ウチのカルディアとウォーダンがお世話になっております、二人の母のレモン・ブロウニングでございます~。うふふっ、ちょっと子供達の様子を見に、そちらに亡命してもよろしいでしょうか?というか、ちょっと助けていただきたいんですのことですのよん?』

 

「授業参観日な気分で亡命してくるんじゃねぇ。つか助け?」

 

「はい~、只今絶賛、裏切り者として追われておりまして。ウチのエキドナちゃんとシロガネちゃんだけでは厄介でして。リオンシリーズがあんなにいるなんて思わなかった!あーびっくり!という状況ですのよ?」

 

「……リオン?そんなのまでこっちに来てんのか?」

 

「量産機の宿命、撃墜された数がなにぶん多かったのが原因でしょうね。パイロット付きのがちらほらいて、攻撃通るのよね~。あと囲まれてちょっと面倒!たーすーけーてーっ!」

 

 どかーん!どかーん!と爆発音が通信から聞こえてくる。どうやら攻撃されているようだ。

 

「うわー、罠くせえ」

 

 とはいえ、やはりこのレモン・ブロウニングという女は胡散臭い。どうも警戒してしまう。

 

『大丈夫、助けてくれたら私も女、女は義理堅く、が信条よ。私達が持つ情報と虎の子のマル秘な艦娘、そちらにお渡しするわ。つかあのアホ共と手を組んだらまた死亡フラグ立っちゃうからね!』

 

 玄一郎はうーむ、と悩んだが罠ならば食い破るだけだ。それよりも敵の勢力を知る者が亡命してくるならば情報が手に入る。それに異世界からそれほど大量の機動兵器が来ているならばかなりの脅威である。

 

 ドカーーーン!!

 

『くっ!!艦橋を狙って来た?!やるわね、左舷弾幕薄いぞっ、何やってんのっ!!』

 

『くっ、彼女もいっぱいいっぱいなんだ、というかこんなにいるなんてっ!!』

 

『あーっ、もうっ!私自ら出るっ!!ヴァイスセイヴァーっ来なさいっ!!クエルボ、彼女の事任せたわよ!!』

 

 艦橋付近に敵の攻撃が着弾したらしい。迷っている暇はないようだった。これはつまり、防空網が破られている事を差している。

 

「行ってやるから座標とっとと送れ!時間が惜しい!」

 

『ここよっ!!私も出るから通信切るわっ!!』

 

 ブツッ、と通信が切れた。

 

 座標を見ればちょうど太平洋のど真ん中、ホノルルを少し西へ行ったぐらいの地点である。

 

〔早く行くぞ、玄一郎。もうカタパルトの準備は済んでいる〕

 

「黒田准将!私も行きます!」

 

 廊下を出て走り出した玄一郎とゲシュペンストの後ろをオウカが追う。ラピエサージュもその後ろについていた。

 

「つか君は民間人だろ。いくら近藤さんの娘でもそいつぁ聞けねぇ!」

 

「クエルボという名前が聞こえました!あの人は私の恩人なんです!!彼を救いたいんです!!」

 

〔それに、レモン・ブロウニングは私の製作者でもありますので〕

 

「俺も行くぞ!玄一郎っ!!」

 

 さらにその後ろからウォーダンも走ってきた。

 

「だーーーっ!!ああっ、もうっ!!お前らっ!!クソッ、カタパルトは一度に一機しか使えねぇからなっ!!順番だかんな?!あと、滅茶苦茶GかかるからGキャンセラーかフィールドで機体おおっとけよ?!目ぇ回しても知らねーかんなっ!!」

 

「はいっ!准将っ!」

 

「問題無いっ!!」

 

 三人はカタパルトに向けて駆けて行った。

 

「……姉御ぉ、ワイらも行かんでもええんでっしゃろか?」

 

「……私達は飛べないからな。というか、アレが来るのか?……逃げたい」

 

「まぁ、気持ちは分かりますけんど、ねぇ」

 

 W-0×台のアンドロイドはエンドレスフロンティアの世界へ送られたせいでレモン・ブロウニングとあまり接触した事が無く、さらにその世界でろくな目にあっていない。救われたのは妹のアシェンぐらいなものであるが、そのアシェンにしても(毒舌ロボット←むかつく)という感じで壊れた性格をしている。

 

「天国が、天国が失われていく……っ!」

 

 まぁ、コードATA二回もぶちかます羽目になったら、ねぇ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 太平洋のど真ん中、位置座標に着いてみれば、こは如何に。

 

 なんか軍艦とおぼしき物がが空に飛んでて、その周りをこまいリオンが飛んでいる。

 

 リオンのサイズはだいたい2、3メートルぐらいなのだが、軍艦のサイズはだいたい200メートルほどで実際の重巡クラスほどのサイズである。何となく形がディフォルメされたようなずんぐりとした感じであり、ミニチュアの戦艦という感じもする。

 

 対空砲火を必死であちこちから撃っているものの、さすがにリオンの速さと小ささにかなり手こずっているようであるが、その周りで戦っている二機の機動ロボットの方へ巧みにリオン達を火線で誘導しているようで、着実に敵はその数を減らして行っている。

 

 とはいえ多勢に無勢感は否めない。

 

 敵は二機の機動ロボットと対空機銃の合間を縫って攻撃を戦艦へと撃ち、その損傷がかなり見られるようになっていた。

 

 ゲシュペンストの速度にオウカのラピエサージュはぴったり着いて来ているが、ウォーダンのスレードゲルミルはやはり特機であり、やや足が遅いく後方にまだいた。

 

「オウカ、狙撃は得意か?」

 

「はい、援護はお任せください!」

 

 突撃する、とも言っていない玄一郎の意図に素早くオウカはそう答える。まぁ、それは当たり前で、ゲシュペンストタイプSは近接戦を得意とする、特機扱いの機体だ。いろいろ武装は持ってきてはいるがこの場合はやはりそうなる。

 

 オウカは、ライフルの銃身を素早く構えた。

 

「んじゃ、頼んだ!」

 

 ゴォッ!!とゲシュペンストはブースターをフルに噴射し、M-950アサルトライフルを構えつつ、艦橋を狙って飛ぶリオンの群れに突っ込んだ。

 

 狙いは付ける必要は無い。塊になってる所を撃てば何機かが落ち、そして攻撃を受けたリオンがバラけ、そこをオウカがライフルのBモードで狙撃して撃ち落とした。

 

 狙い通り、敵の真ん中が完全に開いたのをすかさずそこへ玄一郎はゲシュペンストを突っ込ませ、二丁のリヴォルヴァーカノンで曲芸のように一機一機に狙い外さず撃ち込み撃破していく。

 

 リヴォルヴァーカノンの弾12発を撃ちつくした玄一郎は素早く、ようやく到着したウォーダンのスレードゲルミルと場所を入れ替わる。そしてウォーダンの斬艦刀が残りのリオンをただの一振りで全て切り落とした。

 

 即興の合体マップ攻撃と言うべき連携攻撃だった。

 

「うしっ、後は散らばってる連中をやるぞ?散開して個々に撃滅だ!」

 

「了解!」「応っ!」

 

 三人はまるで長年チームを組んでやってきたような、流れるような動きで敵に当たっていく。

 

 敵に押されていたレモンのヴァイスセイヴァーとエキドナのアンジェルグ・ノワールが、玄一郎達の加勢を得て防戦からようやく攻勢へと転じ、そこへ加わる。

 

 多勢に無勢が一機当千に変わった。こうなればもはや敵はただ単なる狩られる標的に変わり、それこそ残虐行為手当てのボーナスであった。

 

 戦艦が対空砲火で追い詰め、まとまった所を撃てばよい。先ほどまでは手が足りなかったが、今は5機の強力な歴戦の機体が揃っている。ただのリオンなどそれこそものの数ではない。

 

 一隻の戦艦と5機の機体は臨機応変に敵を撃ち、切り裂き、吹き飛ばし、ぶっさし、誰も、何も指示をしなくてもその場その場で追い手、撃ち手と役割を変えながら敵を狩っていった。

 

「ゲシュペンストはゲシュペンストでも、本当に最初のタイプSだったとはね!あなたカーウァイ・ラウ大佐?」

 

 レモンが玄一郎に通信を入れてきた。ラピエサージュに似た雰囲気の機体がビットのような物を飛ばしてリオンタイプFの小隊を追い込んでいく。

 

 そこに玄一郎がガンファミリアと共にM-950アサルトライフルをぶちかます。

 

「カーウァイ・ラウは相棒の方だっての」

 

 リオンタイプFを撃ち落とし、玄一郎は移動しながら次の小隊にスプリットミサイルをぶちかます。そこへエキドナのアンジェルグ・ノワールがフォローに入り、持っている盾から無数の槍のような弾をバラまいて殲滅する。

 

「機体の動きがカーウァイ・ラウ大佐と一致しているが?」

 

 エキドナが言う。

 

「そりゃある意味同一の存在だからな!」

 

 艦橋へと性懲りもなく向かっていくリオンにスラッシュリッパーを投げつつ突っ込み、艦橋を背にして庇うも、落とせなかったリオン二機のリニアレールガンがゲシュペンストごと艦橋へ攻撃する。

 

 そこへウォーダンのスレードゲルミルが割入り、斬艦刀でレールガンの弾を弾きとばし、さらにオウカのラピエサージュがリオンをライフルで叩き落とす。

 

「ありゃ、あれぐらい大丈夫だったのによ?」

 

「ふん、損傷は無い方が良かろう」

 

「そういう事ね」

 

「ありがとよ!さて、もう少しだ。とっとと片付けちまおう!」

 

 また三人は散開し、各々、敵を殲滅して行った。

 

 

 

 リオンタイプの群を殲滅し、ようやく空中を飛ぶ戦艦は領域を離脱した。

 

「はぁ、さすがに今回は読みが甘かったわね。まさかリオンがあんなに顕現化していたなんて……。助かったわ」

 

 甲板に降り立ったヴァイスセイヴァーから出てレモンが言う。甲板はあちこちが破壊され、煙がくすぶっている。

 

 その向かいにゲシュペンストが降り立つ。

 

「罠かと思ったが、マジで襲われてたとはな」

 

「私はホラは吹くけど嘘は吐かないわ。救助ありがとう。私は元『シャドウミラー』のレモン・ブロウニング。このシロガネごと私達はパラオ泊地に亡命を求めます。お願いしてもよろしくて?」

 

「よろしくてよ?と言うしか無いわな。情報源はとにかく欲しい。データによるとあんたは『シャドウミラー』の参謀なんだろ?核心に近いだろうからな」

 

「あらん?私は巻き込まれただけよん?本当にね、これが。まぁ、前が前だから奴らも仲間と思ったようだけどねー?」

 

「……ま、変なことしたらやっちまうだけだがな?」

 

「あら、怖い。まぁ女は義理堅くが信条だもの。助けられた恩はもれなく倍返し。シロガネちゃんはやっぱり提督さんの所が良いって言うし、そちらに嫁入りさせるわよん?」

 

〔南極でグランゾンに破壊されたスペースノア級一番艦シロガネか。しかしこのサイズは……」

 

「この子も艦娘よ?これが艦装で、本体は艦橋にいるわ」

 

「どんだけデカい艦装だよ。つかこれサイズ的にマジモンの重巡ぐらいはあるよな?」

 

「ちゃんと乗れるし、宇宙までいけるわよ?」

 

「……艦娘の概念が壊れるな。つか艦娘、うーむむむ」

 

 玄一郎はゲシュペンストの中で唸った。

 

「……バケツぶっかけたら治るかな?」

 

「多分ね~?やってみたこと無いけど」

 

「…………」

 

 玄一郎はいつも念のために持っている高速修復剤のバケツを背中から取り出した。

 

 甲板にぶちまけてみる。

 

 すると、一瞬で本当に修復されてしまった。

 

「あ、一杯でいいんだ」

 

「リーズナブルよねぇ?」

 

 うーむ、なんなのだこの状況。つかこんなので治っていいのか宇宙戦艦。

 

『周囲に敵反応無し、よ。私達もシロガネの甲板に降りるわ』

 

 周囲を警戒していたオウカがそう言って甲板に降りてきた。続いてスレードゲルミル、アンジェルグ・ノワールが降り立つ。

 

 一同に会してみれば、よくよく考えれば悪役ばかりだなぁ、と玄一郎は思う。

 

 エアロゲイター側のゲシュペンストに、ノイエDCにシャドウミラー。パラオに悪役が集まるようになってんだろか?とか思いつつ。

 

 まぁ、いいか、と玄一郎は思ったのだった。




悪役(中ボスクラス)の集団。

シロガネを出したけど、どんな艦娘になるのか全く考えてなかった。……アルルカン!れざぁましおう!ではない。

しかしこれで追撃が終わるわけはない。

クルエボさん、空気。

次回、超吹雪~姉御とワイら~でまたあおう!(嘘?)

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