ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 ぞろぞろと、パラオ泊地に集う転移者達。

 そしてあの男も……。


来ちゃった(いろいろ)

 

 伊良湖ベーカリーでパンを購入する玄一郎のタブレット端末に舞鶴からのメールが入った。

 

 例のオウカ・ナギサ嬢からのフライトプランと機体の識別信号などの連絡だった。

 

 それは、こんな簡潔かつ丁寧に纏められた連絡なんぞ今まで見たことないぜ、と思うようなほどにわかりやすく、余程慣れているのだろうと玄一郎に思わせた。

 

 ふむ、で、到着はいつだ?と見てみれば本日。さらにあと二時間で着く、とある。

 

 はぁ?と思うも航路を見れば舞鶴からパラオまで一直線に線が引いてあり、さらに機体識別信号のコードを解析すれば『ノイエDC機』という、ゲシュペンストの世界では地球連邦軍からテロリスト認定されていた組織のコードだった。

 

 とはいえ、DCに対するゲシュペンストの見解はやや違ったものだった。

 

 当時の地球連邦軍の中には秘密裏に異星人に全面降伏しようという勢力があり、それらの降伏派に足を引っ張られる事無く、地球防衛に立ち上がった組織であったとゲシュペンストは見ていた。

 

 また、ゲシュペンスト……カーウァイ・ラウの元部下が二人、DC側に参加していた事もありその部下達の性格を思えば一概にDCが悪であるとは断定出来ず、連邦軍の主戦派達(仮)が降伏派(仮)を押さえ込んだ後は対異星人戦争に協力していった事からして、テロリストの汚名を着てまで地球を守りたかったのだ、とも言えた。

 

 とはいえ、ノイエDCにおいてそれが言えるのか、と言えば不明と言わざるを得ない。なにしろゲシュペンストが破壊された後の話だからである。

 

 玄一郎は、『ネオ』とかつくと大抵ろくでもねーんだよなぁ、とか思った。はにゃーん、とか、しゃーとか。

 

(まぁ、近藤さんが養女にするぐらいの子だから大丈夫だろうけど)

 

〔……到着時刻から逆算して音速飛行が可能な機体、かつディバインクルセイダー所属とくればリオンシリーズだろうか?〕

 

 ゲシュペンストはリオンと呼ばれる機体の画像をタブレット端末に送信した。空を飛ぶことに特化したような機体で、確かにこれならば速く飛べそうに見えた。

 

「ふむ、戦闘機とロボットを足して二で割ったような機体だな。確かにこういう機体なら女の子が乗ってても良い感じだな。確か、オウカって子の機体は『ラピエサージュ』って名前だが相棒、知ってるか?」

 

〔『ラピエサージュ』?いや知らない機体だな。リオンシリーズならば○○リオンと名称に必ずリオンがつくのだが。ふむ『ラピエサージュ』『継ぎ接ぎ』か。急造で作られた機体なのかそれとも特殊な実験用機体か〕

 

「調べてみたら手芸とかのキルトとかを接ぐときとかの用語らしいぜ。なんか女の子らしい名前だよな。きっと可愛い感じの機体なんだろうなぁ」

 

 玄一郎は先ほどゲシュペンストに見せられたリオンを女の子っぽい感じにカスタムした機体を想像した。それはフェアリオンにキルトを着せたような感じで、やたら可愛かった。

 

 しかし、玄一郎の想像とはかなりかけ離れた機体がやってくることをこの時の玄一郎には知る由も無かったのである。

 

 なお、フェアリオンはオウカの妹分の娘がその一機に乗ってやたらフリフリとアイドルっぽくなんかやらかしてたりするわけだが、その姉の機体は……。

 

 

 

 どぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!!

 

 

 かなり厳つかった。いや、めっさ悪役ロボット的というかラスボス的というか、なんつーか、めちゃくちゃ強面な黒いカラーリングのゴテゴテと武装だらけな、超破壊兵器といった姿をしていた。

 

 ここはパラオ泊地内のゲシュペンスト用のリニアカタパルトがある滑走路である。時間が経つのは早いものでもう二時間が経過していた(尺の都合ともいう)。

 

 パラオの空軍基地よりはこちらに来てもらうのが早かろうと思い、誘導してもらったわけであるが。

 

 ラピエサージュのその姿は玄一郎の予想の斜め上どころか、突き抜けて銀河の果てまで、という感じであり、こんなのに女の子が乗ってて良いの?とか思うほどだった。

 

 大きさはゲシュペンストよりもやや大きいぐらいだったが、威圧感がパない。

 

 ラピエサージュは降下姿勢を取ると、ずももももももっ!という威圧感を放ちつつ、ゆっくりと静かに降りて来た。どうやら高性能のテスラドライブを搭載している機体のようだ。

 

 着地すると、機体からまるですり抜けて出るように、一人の少女が現れた。光の粒子をキラッキラさせつつ、顕現!という感じで。ハッチなどは開いていない。本当にすっと出てきた。

 

 可愛い女の子的な出現方法であった。

 

 ピッチリパイロットスーツがまたなかなかに良い演出をして、しかも出てくる時に戦闘カットインの乳揺れバリの乳揺れさえかましている。

 

 ラピエサージュが厳ついからこそ、美少女が映える。うん、玄一郎覚えた!

 

 とはいえ、まぁ。

 

「……なぁ、ゲシュペンスト。演出で俺達、負けてね?」

 

〔代々、男キャラはその辺りを叫びとか武器の破壊力のド派手さとかでカバーしてきたのだ〕

 

「お前敵キャラだったじゃねーか。あれ、ヒロイン級の演出よ?」

 

〔……機体はどう見ても悪役ロボだがな〕

 

「……技とか増やさねーとな。ちょうどカルディアの記憶にいろいろあったからな」

 

〔うむ。データリンクで見た。私的には骸骨のマスクの『イグニッション!』というのを推したい〕

 

「ふむ、あれは派手で良いな。あとはお前の派生機の持ってたグランスラッシュリッパーをだな……」

 

〔うむ、まだまだ若いモンには負けてられぬ〕

 

「そう、俺達ゃ主人公なんだ。頑張らねーとな!」

 

 メタな発言をするロートルコンビに苦笑しつつ、この話のメインヒロインな第一秘書艦にこのたび固定された扶桑とその妹かつやはりメインヒロインな山城は、二人を促す。

 

「ほら、二人とも。出迎えに参りましょう」

 

「こっちに歩いて来てるわよ、バカやってないでとっととしなさい!」

 

 扶桑と山城に促され、二人はオウカ・ナギサ嬢の元へ向かった。もちろん、提督モードである。その腰には軍刀拵えのシシオウブレードを佩いている。シシオウブレードは軍刀拵えではあるが、その大きさから差すのではなく太刀のように佩く形になる。

 

「ようこそ、パラオへ。私がこの泊地の司令官をしている黒田玄一郎。こっちがゲシュペンストタイプS、君の言っていた『カーウァイ・ラウ』だ」

 

「オウカ・ナギサです。この度は私の我が儘を聞いていただきありがとうございます。また厳戒態勢下の大変な時に押し掛けてしまい、誠に申し訳ありません」

 

 オウカは礼儀作法の教科書に乗せても良いぐらいの姿勢で頭を下げた。どこに出しても恥ずかしくない立ち居振る舞いである。

 

 見ればまだ16や17の身であるのに、もう完成されているかのような少女のその佇まいに、玄一郎は危うげさすら感じた。

 

(ふむ、近藤さんが養女に迎えようとするわけだ)

 

 彼女はかつて前の世界で、子供ではいられなかった子供なのだと玄一郎は推測した。おそらくは彼女には弟か妹かが居たのだろう。その子達を守るために、彼女は子供のままに大人にならねばならなかったのだろう。

 

 10数年間、ゲシュペンストとこの世界を放浪し、そんな子供達を様々な場所で玄一郎は見てきた。

 

 ゲリラの少年兵。パルチザンの少女。子供ながら領地を守らねばならなくなった貴族の子供。

 

 この子の眼差しは強い。守るものを持って戦った子供の目だ。そしてその金にも見える瞳は澄んだ良い目をしている。

 

「ふむ、近藤さん達の気持ちがよくわかるよ」

 

「え?」

 

「いや、舞鶴じゃなくてウチに来てたら、多分この二人がほっとかなかったろうなぁ、と思ってな?」

 

 扶桑と山城を指して玄一郎は、にっと笑う。

 

「紹介しておこう。ウチの妻の扶桑と山城だ。まだケッコンカッコカリしたばっかだ」

 

「うふふっ、はじめまして。扶桑です」

 

「よろしくね?山城よ」

 

「あ、はい、オウカ・ナギサです!宜しくお願いします」

 

「ま、舞鶴にも高雄さんとか愛宕さんとかいるけど、こっちにもいるから、ちょいと面食らうかもしれねーけどな、その辺は慣れてくれ。あー、そうだなぁ、良く似た親戚のオバサンぐらいに考えるのが良いだろかね」

 

「……オバサン、ねぇ」

 

 山城がジトメで言う。

 

「いや、だって子供にとっては自分のお母さんと同じぐらいの人にゃオバサンじゃねぇか?まぁ、俺はお兄さんで良いぞ?」

 

 玄一郎はしれっと言った。

 

〔では、私はゲシュペンストさんをゲシュ兄さんとお呼びすれば良いのでしょうか?〕

 

 なんかいつの間にかオウカの後ろに来ていたラピエサージュが、なんか内股でもじもじしながら、可愛らしい声でそう言った。

 

「「「し、喋ったぁぁぁっ?!」」」

 

〔いや、私も喋るのだから、彼女も喋っても不思議ではあるまい〕

 

「「「か、彼女って女の子なの?!これっ?!」」」

 

〔はい、その、自我はそうなります……〕

 

 オウカも目を丸くして固まっていた。おそらく、彼女も知らなかったのだろう。

 

〔うむ、好き呼ぶと良いが、私もかれこれ50代ぐらいだからな。おじ様で頼む〕

 

〔はい、ゲシュおじ様!〕

 

 ゴツく黒いどう見ても悪役ロボがもじもじと乙女な仕草をしているのに、パイロットのオウカを含めた四人は固まってしまい、数分の間、ゲシュペンストとラピエサージュのなんとも言えない会話を聞きつつ脳内からスルーという、感じで何がなんだか。

 

〔ゲシュおじ様♪〕

 

〔うむ、なんだね?ラピエサージュ君〕

 

〔うふふっ、呼んでみたかったのです♪〕

 

「あ、あ、あ、私のラピエサージュが、女の子?はは、ははははは」

 

 オウカがゲシュタルトクラッシュ。清楚で可憐な彼女もパラオ泊地ではやはりこうなる。

 

〔そうか。うむ〕

 

〔うふふっ♪〕

 

「……まぁ、そうなるな」

 

 何故か瑞雲の飛行訓練に来た日向がそう言って、スタスタスタスタと通り過ぎていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ちょうどその頃の潜水艦娘達のアジト。

 

「ガツ、ガツ、ガツガツ、ガツガツガツガツ」

 

 潜水艦娘達に給仕されて飯をかっこむ大男が一人。腰になにやら刀を差しているが、上半身は裸同然。履いているズボンもボロボロであり、銀色の髪の毛は長く伸び、不精髭も結構な長さになっている。

 

 まるで無人島に漂着した遭難者のような格好である。

 

 よほど飢えていたのか、一心不乱に飯をかっこむ。

 

「……すごい食欲ね。というかあんたそんなにがっついたら……」

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」

 

「ほら、言わんこっちゃないわ」

 

 イムヤが咳き込んだ男の背中をさする。

 

「でもおっちゃん、飢えてたんでちね」

 

 お代わりのカレー皿を持ってきたゴーヤが男を覗き込む。

 

「うむ、かたじけない。少女達よ」

 

「いいのよ、遭難者の救助も私達の仕事なんだから」

 

 イムヤがその男の古臭い話し方に苦笑する。

 

「いや、それでも助けてもらった事に違いは無い。本当にかたじけない」

 

「で、とりあえず船を呼んだわ。アジトが提督にバレるけど仕方ないわね」

 

 パラオ泊地から救助船をここに呼べばそうなるだろうが、まぁだからといってもあの提督である。

 

「ん~、提督なら目をつむってくれるのぉ。大丈夫なのね」

 

 そう、イクの言うように特に何も言わないか、いつものように心配して『危険な事はしてくれるなよ?安全第一だ』と言ってくるかのどちらかだろう。というかすでに場所は知られているとみて良い。あのゲシュペンスト提督なのである。

 

「というか、とっくにわかってて黙ってくれてるのです」

 

 ハチはあっけらかん、と言った。

 

「ふむ、提督、か。おまえ達は随分とその提督を慕っているのだな」

 

「そうでちね。良い提督なのでち。スケベだけど」

 

「ん~、イク、昔おっぱい見られたのね。でも提督だからいいのね」

 

「……かなりの語弊あるような気がするけど、理解のある人よ。頼れる人だし、優しいし、かっこいいし。バカだけど」

 

 総合するとスケベでバカ、である。とはいえそう言う娘達の顔は笑っている。男はそれを見て、その提督は彼女達に信頼されているのだろうと判断したようだ。

 

「……不埒な感もするが、ふむ」

 

「ゆー、提督大好きです。変な人ですけれど」

 

 提督の評価に変人も加わった。

 

「ところでおっちゃん、名前聞いてなかったでちね。なんて名前でちか?」

 

「……ウォーダン。我はウォーダン・ユミル。メイガス……はこの世界には無いか。まぁ無くて良いものだな。うむ、我はただのウォーダン・ユミルだ」

 

 うむ、とウォーダン・ユミルと名乗った男はかつて昔には浮かべた事のない穏やかな笑みを浮かべて言った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【オマケ】

 

 

 

「なぁ、ワシらこんな所でなにやっとるんだろな?」

 

「知らん。働け?労働だけが生きる糧を作るんや」

 

 重巡女子寮の青葉の部屋の修理に来ている工場業者と思われる、ハゲ頭に変な丸いゴーグルをつけた男二人が何事かぼやいている。

 

「……いや、ワシら、なんでこんな事になっとんのかっちゅー原因をだな?」

 

「うっさいわ。調べるにも何するにも銭稼がんとなんもでけんのや。つか、なんでとか考えても腹の足しにもならん。銭稼いで飯食えたら人間死なへんのや」

 

 モルタルをヘラで塗り塗りとしながらそれでも手を動かす。腕は良いようで、ひと塗りでさっと壁の面に平らにコンクリが揃っていく。

 

「……ワシら、アンドロイド兵だったんだがなぁ。つかなんで人間に……って、おい、B!あれ見てみ!!」

 

「なんや、A、作業中によそ見すんなダアホ……って、あれ、カルディア隊長やないか?!」

 

「おお、つかなんでこないなとこに。あかん、行ってまう、追いかけんなあかん!!」

 

「せやな!A、行くで!!」

 

「合点承知の助や!Bっ!!」

 

 かつてアンドロイド兵だったA、Bは足場を飛び降り、カルディアの後を追った。

 

 

 




 ラピエサージュは乙女ですよ。もじもじ。

 ウォーダン・ユミルが参戦。

 アンドロイド兵(佐官工)登場。

 もう、グダグダ。

 次回、集う悪役!でまたあおう!(嘘)

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