いえ、表現ぼかしてるから、大丈夫だと思うのですが、いやこれヤベェヨ?と思った方は報告などせずに、そっとじで。オーケー?
なお、今日も提督は童貞です。
更衣室。
女風呂の、更衣室。そう、ぢぉしこぉいしつ。
湿気とともに女の子の匂いが漂う。こんな状況でなければ、玄一郎もどきどきわくわくしただろう。
コーヒー牛乳とかアイスの自動販売機があったり、ロッカーが木の鍵の刺さった古臭いものだったりと、銭湯っぽい感じであり、さらには番台のようなカウンターがあったり、ドラム式洗濯機が並んでたり、いやもうこれ銭湯やがな、である。
玄一郎は今、男には前人未踏の重巡寮の中にある入渠施設の更衣室にいた。
高雄と愛宕に連れてこられたのだが、もうとっくにガラスが刺さったり傷だらけになった身体は自然治癒してしまっているので入渠は必要ないと言っても許してくれないのである。というか、今、彼の最後の砦であるパンツをがっちりと愛宕につかまれており「暴れたりするとぉ、これ、簡単に破けちゃうかもねぇ?」と脅されており、動けない。
「くっ、優しく手当てをしてくれたのに、何故だ。何故入渠させようとするんだ。つかもう傷治ってるしっ!」
「ん~、お風呂は命の洗濯よぉ?あとぉ、サービスサービスぅ?」
いや、そのセリフはあんたのと違うがな。というか何のサービスなのだ。
玄一郎も隙をみて逃げようと思ってはいるものの、愛宕もこちらの考えはお見通しのようで全く隙を見せない。斬艦刀を呼ぼうにもブースターを使いすぎてガス欠になってしまって動かない。ゲシュペンストも全く応答しないし、ハンガーから玄一郎が呼べる装備はあれしかないのだ。
いっそパンツを見捨てて、ゼンラー(全裸+er)な感じで逃げるか?ゼンガー、ゼンラー、ゼンゲスト、などと思ったが、そんなことを考えるたびに愛宕は掴んだ玄一郎のパンツをぐいっと強い力で上に引き上げて阻止するのである。パンツごと身体を持ち上げられるとさすがに脱出出来ない。
というかケツにパンツが食い込んで『はおっ?!』となる。
高雄は風呂にあるカウンターのロッカーから木の立て看板を幾つか出してきて、風呂の入口に立てていた。
その立て看板には『修復材タンク交換中』とか『清掃作業中』とか書かれてある。つまり、他の誰かが入って来るのを阻止するためである。
「これでオーケーよ、愛宕。じゃあ入渠作業に入りましょうか」
「そうねぇ、では、ぱんぱかぱーん!」
ずりっ!
愛宕は玄一郎のパンツを勢いよく摺り下げた。だが、玄一郎は愛宕がパンツを脱がしにかかることをすでに予測していた。狙い通りだったのだ。
とうっ!と下げられたのと同時につま先でジャンプし、そのまま逃走しようとした。
「たった一枚のパンツを捨てて、生まれたままの全裸な身体! 俺が逃げねば誰が逃げるっ!」
「しまった!!」
高雄と愛宕が玄一郎に手を伸ばすが、届かない。玄一郎は脅威的な身体能力で脱衣所の出口の廊下まで飛んでいた。
だが、世の中というのは無情である。
一度あることは二度あるのだ。
そう、間宮食堂の出入り口でばったり遭遇したのは誰であったか。そして脱衣所の出入り口でも、玄一郎は彼女と遭遇した。
ジャンプの着地点スレスレ、至近距離に足柄ねぇさん。
玄一郎は身体を捻ってなんとか着地点をずらそうとしたが、足柄の動きの方が早かった。
足柄の目がキラーン!と光ったかと思うと、足柄も飛んだ。
空中でがしっ!!と玄一郎の身体を肩に担ぎ、そして着地と同時にその落下の衝撃を与える。
「足柄ファイヤーマンズキャリーボムッ!!」
ズドン!!
「ぐえぇぇっ?!」
そして、足柄は続けて倒れ込むようにそのまま頭から床に叩きつけた。
「かーらのぉーっ!!足柄エメラルドフロウジョン!!」
ズダーン!!
それは、プロレスリング・ノアの故三沢光晴の技、変則エメラルドフロウジョンであった。
高雄も足柄も「おおーっ!」と感嘆の声を上げてしまうような程に流れるような連続技である。
「ぐぅぅっ、足柄ねぇさん、シドイ……」
ガッ!!
「やぁっと捕まえたわよ、ゲシュ君?」
立ち上がった足柄は起きあがろうとする玄一郎の腹を足で踏みつけた。
髪を片手でかき上げ、にんまりと笑う。
「で、なんでおねぇさんから逃げたのかしら?」
「いや、なんで追いかけたのかしら?」
「逃げるからよ」
「俺のゴーストが囁いたのさ。逃げろってな」
ぐりっ!足柄が玄一郎を踏みつけた。
「ぐえぇぇっ?!」
「……失礼ね。昔はあんなにねぇさんねぇさんと慕ってくれていたゲシュ君に避けられて逃げられて、おねぇさんとぉっても悲しいわ。ああ、ぐりぐりぐりぐり」
足柄はそういいつつ、靴の踵で玄一郎の腹をぐりぐり踏みつけた。
「ぐぇぇぇっ?!」
確かに足柄は面倒見が良く、後輩や新入りの面倒を率先して見るような性格である。土方にはめられて日本海軍に入らざるを得ない状況に叩き込まれたゲシュペンスト(玄一郎)の面倒も足柄はよく見ていたが、ねぇさんねぇさんと慕ったような覚えは無い。
というか、足柄ねぇさんと呼べと言ったのは足柄であり、さらにもっと言えば、確かに玄一郎は足柄に対してはいろいろと恩もあり親しくはあるが、足柄は玄一郎の実の姉に正確がよく似ており、その辺で玄一郎は足柄を避けていた。
そう、酒に酔っ払って管まく辺りとか。いい男がいないと荒れる辺りとか、その辺で。
「で、風呂で何を……って、あら?高雄に愛宕?」
ようやく足柄は高雄と愛宕に気づいて、ははーん、と何があったのかを理解した。
浴場の入り口の『修復材タンク交換』、『現在清掃作業中』の立て看板。そして脱衣所にいる二人。さらには全裸で逃げようとする玄一郎。
「なかなか、やってくれるわね?高雄型のお二人さん。提督とお風呂って訳?」
「足柄さんはこんな所で何を?お風呂は今は開いてませんよ?」
「というかぁ、提督さんは踏みつけるもんじゃ無いわぁ?」
二対一の重巡三人が睨み合う。
そこへ、玄一郎の襲撃を受けて部屋を壊滅状態にされ、バラスト水を漏らしてしまった青葉を連れて加古と羽黒がやってきた。どうやら二人は青葉を風呂に入れようと連れてきたようだ。
「にやり、勝機!羽黒ーっ!!あんたも手伝いなさいな!!妙高型の力を高雄型に見せつけるのよ!!」
「え?ねぇさん?……え?」
羽黒は自分の姉が踏みつけているものを見た。正確には、踏みつけているもののナニを。
それはナニというにはあまりにも大きすぎた。大きく 分厚く、重く、そして大雑把過ぎた。それは 正に肉の棒だった。
「いっ、いっ、いやぁぁぁぁぁっ!!」
羽黒は叫んだ。
そう、足柄に腹を踏まれたせいで何故か起き上がってしまって、何かとんでもない状態になっていたのである。別にMに目覚めた訳ではない。腹を踏まれて圧迫され、膀胱が刺激されたための反射的な、その、ぞうさんのパオーンな現象であった。
きゅう、ぱたん。
乙女が見るには、いささか酷なシロモノを見たせいで羽黒は気絶して倒れた。
そして、青葉もそれの勇ましさに、きゅうう、と小さく言ってやはり気絶して倒れた。
思えばおそらく今夜一番の不幸な艦娘は青葉かも知れない。自業自得とは言え、部屋をぶち壊されてさらには失……バラスト水を漏らした所を見られ、さらにはアレなナニを目撃してしまったのである。アオバアワレェ。
そして、加古は。
立ちながら寝ていた。いや、気絶したとかではなく、素で。加古にはよくある事である。というか最初から寝ながら歩いていたのである。
「え?」
単艦不利な状況である。しかし何故三人(一人は居眠りだが)が気絶したのか足柄にはわからなかった。
足柄はぶっ倒れた妹が何を見て気絶したの?と、その見ていた所に目を向けた。
「…………」
ぞうさん、ぞうさん、お鼻が長いのね。あと何かしら太い。もっきりぱおぉん。
「おーっほっほ、ほうら、見た?提督は私の女の魅力でこうなったのよ!私の勝利ね!!」
いや、だから膀胱を刺激されたせいです。
「くっ、まさか提督がそんな性癖だったなんて!!」
「いえ、まだよ!提督はおっぱいが好きだものぉっ!!」
いや、確かに好きかも知れないけれど、本人の前で言わないでくれ。というかバレてる?!
「あの、すまんけど、何か着る物を……。というかなんでお前ら皆して俺を襲うんだ?!」
「「「結婚するのに既成事実作りたいから(よぉ?)(です)よっ!!」」」
「けっ、結婚はなぁ、幸せで、幸せで、幸せの絶頂の時にするもんで……」
「じゃあ幸せにしてよ!というか今シろ、すぐシろ、とっととしろっ!!行き遅れとか、嫁に行って欲しい艦娘ナンバーワンとか、オバサン扱いされてもう20年。建造されて仕事に生きて必死に戦って、気がつきゃ、最初の礼号組のみんなは全員結婚して引退、新しい子に入れ替わって二回目、練度は99になって、三人目の大淀から結婚式の招待状が届いて、もう私ダメって礼号組抜けて、他の鎮守府に移籍届出したら女の提督んところ!次に移籍届出してもまた女提督っ!!最後がここで、やっと巡って来たチャンスなのっ!!というか、ロボットじゃなきゃいいのにって思ってたあんたが、人間になったのは神様が私の願いを聞き入れたって事なのよっ!!」
だーーーーーっと足柄は一息でまくしたてた。
ぜーはーぜーはーと肩で息をしている。
高雄と愛宕の目に、同情の眼差しと涙が浮かんでいた。
「わかる、わかるわぁ。私も、そうなのよぉ。近藤大将の所で建造されて、ダブって他の鎮守府に回されて、相手がロリコン提督でぇ……。移籍届出したら次は小さいおっぱいの子しか認めない貧乳好き提督でぇ、ううっ、最後がここよぉ。確かに土方中将はいい提督だったけど、私はノーマルだものぉ……わかる、わかるのよその気持ちぃ」
「……私も愛宕と似たようなものよ。百合な女提督に男性恐怖症の女提督に、ホモな男提督、渡り歩いて最後がここで、諦めてた。土方の次はロボットで、もう実際、退職までちょっと考えてたの」
……パラオ泊地がワケアリ泊地と言われる所以だよなぁ、と玄一郎は他人事のように思いつつ、じゃあなんで前任の明石(アマンダ)みたいに基地に出入りしている業者の男性とか鳳翔みたいに憲兵とかと結婚しようと思わないんだ?とか疑問に思った。
「……戦う為に産まれたんだものっ!!女の身体を得たんだものっ!!ずっと支えたいんだものっ!!」
(支える、というよりは倒されて踏みつけられてんですけど、俺)
足柄の足の重圧が緩んだ。うん、今なら行ける!
玄一郎は足柄の足首を素早く手で持つとそのまま身体を回転させて足柄を転ばせ、そして遠心力で転んだ足柄の上半身、頭を床で打たないようにもう片方の腕で抱え込むようにその肩を支えて立ち上がった。
傍目から見れば、女性を抱きかかえているような体勢になった。
「足柄ねぇさん、大丈夫さ。あんたは美人だしな?優しいのも知ってる。人の為に骨折って損ばかりしてんのも知ってる。でも、それはいい女の証明だぜ?」
「えっ……」
そして、足柄を立たせて、高雄と愛宕に目を向け、
「高雄、愛宕。手当てありがとう。うん、いつも小さい子等をちゃんと見ててくれて助かってる。あと、いつも苦労かけてる。感謝してる。あと、おっぱい大好きだ」
「ええっ?」
「まぁっ!」
「そうこれは愛、だと思うよ。うん。そしてね……」
玄一郎はニッコリとイイ笑顔をして。
「油断したなっ!!そう、逃げりゃああああああああっ!!」
ダッシュでおもきしその場から逃げた。
「わーははははははは!!ふりぃだーーーーむっ!!何人たりとも俺の自由は奪えねぇーーーーーっ!!」
廊下から、寮の住人達の悲鳴があちこちから聞こえてきた。
「キャーーーーーっ!!」
「何?!変態っ?!」
「イヤーーーっ!!来ないでぇっ?!」
「どわーーーっ?!テメッ、なんだ?!」
それもそうだろう。何せ、全裸でぞうさんぶらんぶらんさせた男が笑いながら走って来るのだ。騒ぎにならない方がおかしい。
玄一郎はヤケクソで笑って走った。笑うしかなかった。涙が出た。
「わーははははははは、ぶーらぶらぁっ!!」
もう、提督人生終わったな、とか思った。
全裸提督。
書いてて涙が出た。というか、もうなにがなんだか。
苦労してきた艦娘の最後の楽園、それがパラオ泊地。そして変態もいるよ?(不可抗力)。