ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 今宵の斬艦刀は、泣いている。

 アオバのバラスト水漏れ。

 高雄・愛宕組の……。

 なお、エロ?そんなものR15には出ない。


逃げて突っ込んで。

  バカには良い意味のバカと悪い意味のバカがいるのである。

 

 その道一筋に貫き通すバカ。職人バカとか空手バカとかは良い意味で使われる。だが、悪い意味のバカは単なるバカだ。

 

 だが、こいつらは迷惑なバカだ!!

 

 玄一郎はそう思った。

 

 コールゲシュペンストをしても、ゲシュペンストは応じない。おそらく、扶桑姉妹に足止めを食らっているのだろう。もしくは、他の艦娘に脅されているか何かだ。

 

 武器は先ほど掴み取ったクナイのみ。そして川内、神通はかなりの手練れで徒手空拳ではいかに強化人間とはいえかなり苦労するだろう。

 

 というか、倉庫の下から『ハシゴ持って来て、早く!!』という足柄の声がする。あの3人まで参戦して来たらもう勝ち目は無い。

 

 じり、じり、と『五郎入道正宗』を構えつつ摺り足で間合いを詰める神通と、そして昔に『武蔵の深海棲艦』に投げて壊れたスラッシュリッパーの刃を明石が加工した小太刀を構える川内。

 

 くそっ、戦闘能力を上げられるからとやるんじゃ無かった!!と二人の装備している武器を見ながら後悔した。

 

(俺の身体じゃデカすぎるが、アレを呼ぶしかあるまい)

 

「我が魂の剣っ、来たれっ!斬艦刀よっ」

 

 ごぉぉぉぉぉっ!!

 

 空から巨大な剣が、ブースターを噴かして玄一郎のところまでやってきた。

 

 零式斬艦刀である。この零式斬艦刀にはパーソナルトルーパー用のブースターがあちこちに取り付けられており、ハンガーから射出させる事が可能なのである。

 

「おおっ、すごい!!」

 

「本気の提督と戦えるのですね?!」

 

 川内と神通が斬艦刀のその大きさに驚きの声をあげた。

 

 玄一郎は零式斬艦刀を掴み、天にそれを掲げるようにして言った。

 

「斬艦刀っ!!……上に参りまーす」

 

 バシュゴォォォォッ!!

 

 そのまま、斬艦刀を空に向けてブースターを噴かせた。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

 

 玄一郎は天高く斬艦刀のブースターで飛び、その場から逃げた。その様はあたかも宇宙ロケットの打ち上げの如し。

 

「戦略的撤退っ!!」

 

 斬艦刀の製作に携わったリシュウ・トウゴウやゼンガーの大将が見たら嘆くような使い方である。斬艦刀至上、最低で最も情けない使われ方に違いあるまい。

 

「活人剣とは、戦わずして華咲す剣なり!!ふはははははは!!」

 

 ただ逃げるだけでは格好つかないと思ったのかそんな事を即興で言う。活人剣なんぞ今まで一言も言ったことないのに。

 

 その下では川内がやたらと「やーせんーっ!!やーせんーっ!!」と地団駄を踏み、神通が呆然とした感じで「活人剣、華咲かす剣。くっ、完敗です。心の修練が足りませんでした……」と、勘違いをしていた。

 

 キラーン!!

 

 そうして、玄一郎はお空の星となったとさ。笑顔で大空にキメッ!!……いや、そうなると話が続かない。

 

 そう、玄一郎の目指す先は一つである。

 

 玄一郎は空中で斬艦刀の向きを変えると、すぐさま艦娘寮のうち、重巡寮の方へとブースターを噴かして突進して行った。

 

 目指すは、青葉の部屋である。

 

「この騒ぎの元凶に、お仕置きをせんとなぁっ!!」

 

 玄一郎は器用に空中で斬艦刀の上に、サーフィンボードのような感じで乗ると、叫んだ。

 

「パラオ泊地提督指導要綱・第13っ!!『一撃必殺』っ!!」

 

 どごぉーーーーん!!

 

 ブースターを噴かせてそのまま玄一郎は青葉の部屋の窓へと突っ込んだ。

 

 

【青葉の部屋】

 

 

「ふう、今日の号外は大反響でしたねー。まぁ、あれほどのスクープでしたから、それもそのはず!ふふっ、我ながら良い仕事をしたものです!」

 

 青葉はホクホク顔をして缶ビールをクピリ、と一口。

 

 とても良い気分だった。今まで誰もそんなに注目してくれなかった自分の新聞があれほどまでに飛ぶように売れたのだ。いや、稼ぎとか、そんな事ではない。この誰もが読んでくれるという充実感、それが彼女の心を満たしていた。

 

 そして次の新聞の構想を考える。

 

 おそらく次は誰もが考えるだろう、提督とのケッコンカッコカリ、だろう。残念ながらその相手はもうわかりきっている。

 

「んー、扶桑さん、ですかねぇ」

 

 だが、それではつまらなさすぎる。誰もが予想できる事など、スクープでもなんでもない。

 

「そうですねぇ。足柄さんとかをけしかけて……」

 

 青葉がそう考えた時。

 

「パラオ提督戦闘指導要綱第13っ!!『一撃必殺』っ!!」

 

 そう叫びながら、サーフボードに乗るような感じで零式斬艦刀に乗った玄一郎が、部屋に突っ込んできたのである。

 

 お前はどこのバーチャルなロンだよ?!と突っ込む奴はいない。この世界では誰も知らないからだ。それに玄一郎は生身であり、窓から突っ込んだせいで頭やら足やらに割れたガラスの破片が刺さっており、血がそこから出ている。それが青葉の恐怖心を煽った。

 

「ひぃぃぃっ!!」

 

「窓の外からこんばんはっ!提督さんだよ?」

 

 ゴーヤのセリフをパクリつつ。

 

 ゆらりっ。

 

 玄一郎は立ち上がり、斬艦刀をひろった。そしてそれを肩に担ぐと青葉の方へ足を引きずるように向かっていく。

 

 ずるっ、ずるっ、ずるっ。

 

 どうやら生身でのブルースライダー(通称サーフィンラム)はかなり自分にもダメージがあり、それが堪えたようである。さらに刺さったガラス片も痛いようである。

 

 だが、玄一郎はそれでも青葉へと向かう。その様はあたかも青葉から見ればゾンビか何かの怪物のように見えた。

 

 ぺたん、と青葉はそのあまりの恐怖から立っていられなくなり床にへたりこむと、「イヤッ、いーやあああああっ!来ないでぇぇぇ!!」と叫んだ。

 

 ガシッ。

 

「そういうなよ、特ダネがほぉら、君の部屋までやってきたよ?くくくくくく」

 

 玄一郎が青葉の肩を掴んだ。その瞬間、

 

 じょおおおおおおおおおっ……

 

 失禁……いや、バラスト水が青葉の股間から排水された。恐怖のあまり、放出してしまったようだ。

 

「どわっ?!」

 

 思わず手を離してその場を飛び退く。まさか失……いや、バラスト水放出をするなんて思わなかったからだ。

 

「ふぇぇっ、ふえぇぇぇぇん、やだぁ、やだぁっ」

 

 泣きじゃくり、失……バラスト水を漏らした青葉の姿見て、玄一郎の怒りは失せ、しかしその代わりになんというかかなり慌てた。

 

「あ、いや、青葉、あの、すまん、ここまでやるつもりは……」

 

「えぐっ、えぐっ、ふぇぇぇぇ、殺さないでぇぇっ、うぇーーーーん!!」

 

「青葉っ!!一体何があったの?!敵襲?!」

 

 騒ぎの音を聞きつけて、重巡寮の住人、つまり重巡の艦娘達がバタバタバタバタと駆けつけて来た。

 

 加古や鳥海、古鷹、摩耶達が金属バットや釘バット、木刀など、思い思いの獲物を持って玄一郎を取り囲む。

 

 寮長の愛宕が玄一郎を見て言った。

 

「確保ぉぉっ!!」

 

「ガデッサーーーッ!!」

 

 ワラワラワラワラ、と玄一郎に重巡達は群がり、そして確保されてしまったのであった。

 

「いーやぁーーーっ!!」

 

 

 

【高雄の部屋】

 

 

「で、提督さんはぁ、青葉のあの号外に怒って、青葉の部屋に突撃したのねぇ?」

 

 ゆるふわなおねぇさん的な柔らかい口調で愛宕はいう。

 

「あっ、動かないで、ガラス抜くから」

 

 高雄と愛宕は玄一郎を椅子に座らせ、刺さったガラスを抜いたり、重巡達に釘バットなどでボコボコにされた傷を手当てしながら事の経緯を聞いていた。

 

「レイプとか、そう言うんじゃ無かったのね?」

 

 前から足に刺さっているガラス片を抜きつつ、愛宕がいう。

 

「俺を何だと思ってんだよ。いちっ、痛てぇ」

 

 後ろから頭に刺さったガラス片を抜きつつ

 

「こんな大きい破片刺さってるんだもの。傷もこんなに」

 

 高雄が言いつつ「あ、釘も刺さってる」とそれも抜いていく。摩耶が持ってた釘バットのものだろう。というかよく生きてたものである。

 

 

「つか、傷の大半、あいつ等が釘バットやらで殴ったせいだろが」

 

「仕方ないでしょう、あんな非常織な襲撃じみたことやったら、敵と間違えられても仕方なかったところよ。それでなくても厳戒態勢下なのよ?砲撃されないだけましよっと。うーん、やっぱりTシャツ脱がさないとダメだわ。ガラス片だらけだわ。愛宕、そっちはどう?」

 

「そうねぇ。太ももにも刺さってたし、他にもありそう。ズボンもちょっと脱がないと無理ねぇ」

 

 二人は素早く動いた。

 

「愛宕、掃除機持ってきて。ガラスとか吸いながらやるから。そう、こっちにノズル向けて?うん、行くわよ。提督、ほら万歳して。Tシャツ脱がすわよ?」

 

 高雄はそうろっと、Tシャツに手をかけた。愛宕が掃除機の先を向け、ガラス片を吸いながらよいしょっと玄一郎を脱がせた。

 

「あらっ、良い身体してるじゃない。うふふっ」

 

 愛宕がそのまま身体に付着するガラス片を掃除機で吸い「次はズボンねぇ。高雄、掃除機お願いね?」と高雄にノズルを渡した。

 

 刺さっていた大きい破片はズボンの上から取ったのだが、まだいくつか刺さっていたようだ。愛宕が脱がす時にチクチクして玄一郎は痛みで顔をしかめた。

 

「ちょっとお尻上げてねぇ?よいしょっ」

 

 ズルリっ。

 

「わおっ!」

 

 愛宕が歓声を上げた。

 

 ぽろり。

 

 ズボンと共に、パンツまで下ろされてしまった。

 

「どわぁぁぁぁっ?!いや、わおっ!じゃなくてパンツっ!!パンツ戻してっ!!」

 

「ん~、高雄、ちょっとこれ……可愛いわね?」

 

「……あの、愛宕……そ、そう?その……大きいような……こほん。早くしまいなさい!」

 

「はいはい、よいしょっと。んー大丈夫よぉ、問題ないわぁ、うふふふっ」

 

 ナニが問題無いと言うのか。というか愛宕の可愛いと言うのと、高雄の言う大きいというのと、女性から見て自分のはサイズ的にどうなんだろう、とか思うも、しかし初めて女性に見られたことに羞恥心がわく。

 

「ううっ、この身体が出来てから、誰にも見られたこと無いのにっ、うううっ」

 

 さめざめと玄一郎は泣いた。

 

「はいはい、泣かない泣かない。でも意外ね?扶桑さんと、まだシてないの?」

 

「我がパラオ泊地は『ホワイト』をモットーに『清く正しく美しい泊地』をスローガンとし、ブラック鎮守府撲滅運動を展開しております。故に、そのような行為を提督自らやらかす事は出来んのでありますっ!!」

 

 ズビシッ!!

 

 建て前である。

 

 ロボットの身体を十何年も使い続けた結果、人間の身体に戻って嬉しい反面、戸惑いつつ、さらに豹変というのか過激になったというのか、好きな女性が肉食の本能剥き出しにしてきて怖くなった、というのが本音である。

 

 なにしろ、玄一郎は恋愛経験なんて皆無な童貞野郎なのだから、その辺まーったく、どうして良いかわかんないのだ!!と、ぶっちゃけておこう。

 

 そんな野郎がケッコンカッコカリ、とか結婚(ガチ)とかいきなり言われても、段階すっとばして未知の世界、あなたの知らない世界的に怪奇なのであった。

 

「……ん~、愛の行いにホワイトもブラックも無いと思うんだけどなぁ~。あ、まだ刺さってた」

 

「そうね、心が大事だと思うわ。それに、ずっと共に寄り添って生きていくなら、それも大事って『舞鶴鎮守府』の私達も言ってましたわ、っと腕にもこんなのが」

 

「……わかっちゃいるんだけどね」

 

 わからない奴ほどそう言うものである。

 

「ん~、動脈外れてるけど、けっこう深いとこまで刺さってるわぁ。ここだといくつか縫わないといけないかも」

 

「え?そんなに深かった?」

 

「超強化ガラスぶちやぶったら、そうなるわよ。駆逐艦の砲も通さないのよ?寮のガラスって」

 

「知らんかった。つか、応接室のガラスは普通のだったのに?」

 

「寝てる間に建造されたての駆逐艦がね、寝ぼけて撃っちゃう事があったのよ」

 

「さて、全部破片はとれたわ。じゃあ入渠にいくわよぉ?ほら提督」

 

「え?え?俺、人間……」

 

「組織閉鎖を自動的にやる人間なんていないわ。普通の人間なら、ガラス片を引き抜いたら血が吹き出て血みどろよ。この身体は艦娘と同じだわ。入渠で修復可能なはず」

 

「……うーむ、そういや艦娘の建造方法を参考にしたとか相棒が言ってたなぁ」

 

「早く治さないと明日出撃でしょ?お仕事に響くのはよくないわぁ。それに身体も汚れてるから、お風呂入らなきゃ」

 

 がしっ。がしっ、と両腕を高雄と愛宕に掴まれた。

 

「え?え?いや、入渠に行くのは一人で行けるんだけど?あれ?おい……」

 

「ん~?そうかしらぁ。どうかしらぁ?」

 

「まぁ、なにかしら、いろいろかしら?」

 

「いや、答えになってない!つか、離してくれ、っていーやぁーーーっ!!」

 

 ズルズルズルズル。

 

 玄一郎は引きずられ、逃げられないままに重巡寮の入渠施設へと連行されたのだった。

 

 




 アオバの恥ずかしい所を見ちゃった提督。

 高雄さんと愛宕さん、手当てをきっちりする事ですっかり主人公を安心させておいた上での、風呂攻撃。知能犯ですな。

 童貞野郎の貞操の行方はいかに?!(だいたいは予想通り)

 次回、泡のお風呂はバブ○スターでまた合おう!(嘘)
 

 

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