ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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集積地棲姫って、なんかオタクっ娘みたいだよね。

こう、人間だったら積みゲーとかやりそうな、というかゲーム実況とか動画サイトとかでやりそうな感じ。

……ヒキオタニートな感じでなんか親近感が、ね。


集積地棲姫。

「……つか、提督、やり過ぎじゃない?」

 

 夕張が壊滅状態になったイージス艦の艦橋を見て、うげぇ~、と非常に嫌げそうな顔をした。

 

 それはそうだろう。玄一郎だってこんなぐしゃぐしゃになった船を調べろとか言われたならすんげー嫌だ。

 

 明石ももうどこから手を着けていいか、という感じで困惑の表情を浮かべた。

 

 それはそうだろう(以下略)。

 

 二人の護衛役として就いている足柄ねぇさんは魅惑の笑みを何故か浮かべ、愛宕さんは何故かやたらと魅惑のおぱーいを強調する感じの仕草をし、金剛の御隠居に至ってはやたらと今日は控え目かつ大人しく、そして瑞鳳だけがいつもの感じで、きっと君だけが救いに違いないと思うほどに普通に瑞鳳だった。

 

 明石と夕張は嫌げな顔をしているものの、キチンと仕事を始めている。

 

 変なのは彼女達について来たおねぇさま方であり、唯一瑞鳳はいつも通り。

 

(なんかあったかねぇ)

 

 などと思うも、変なのはある意味当たり前なのでとりあえずツッコまずに流す感じで、と行動方針を決定する。理由は疲れるから。

 

 ここは玄一郎が思い切り究極ゲシュペンストキックをかました艦橋である。イージス艦の場合、艦橋と言って良いのかわからないが、操舵室とでも言えというのか、玄一郎にはわからない。大穴が開いて壁が無くなり、後ろの艦載機搭載するカーゴまで風通しよく、海風が吹き抜ける。

 

「ミサイルを止めねばらならかったからな」

 

 仕方なかったと夕張にそう言いつつ、壊れてぶち抜かれた壁をさも何か重要な証拠でも転がっているかのように見つつ、そう玄一郎は厳格そうに、かつそれが真理だとばかりにもっともらしく言った。

 

 夕張の顔は、うわっ、胡散臭さっ!!と言わんばかりだ。

 

「……アメリカが弁償しろと言ってきたらどうします?」

 

 明石が溜め息混じりに怖いことを言う。いかに潤沢な蓄えのあるパラオ泊地でもイージス艦なんぞ弁償などしたくもなかった。懐に痛いのは怖い。ただ、払う謂われは無い。

 

「そう言うときはニッコリ笑ってこう言え。『寝言は寝てから言えア○ホール、てめえらの不始末でこっちは大惨事になるとこだったんだクソヤンキーめ』ってな」

 

 ご丁寧に中指まで立てて実演する。非常にお下品である。

 

 「うわ、下品~!」

 

 と夕張が嫌そうな顔をし、明石も溜め息を吐いた。

 

「くれぐれもアイオワの前でやらないでくださいよ?あとウォースパイトにも」

 

「へいへい、わかってるっての」

 

 玄一郎は軽くそういうと、何故か愛宕がやたらとじーっと自分を見ている事に気がついた。

 

 とは言え、視線はそちらには向けない。ゲシュペンストの全方位カメラで捉えているだけだ。

 

 いや、愛宕だけではない。

 

 金剛も妙に視線を投げかけて来ているし、足柄もあからさまではないがそうだ。

 

 唯一、特に平常運転なのは瑞鳳のみであり、彼女は「たっまごーたっまごーたっまごー、玉子っ焼きー、たーべりゅーたーべりゅーたーべりゅー?」などと自作の『玉子焼きの歌』を歌いつつも哨戒機を飛ばして周囲に異常は無いかを探っている。

 

 ある意味唯一の清涼剤的な感じでほっこりする。おねーさん方の方を見たくない。なんか危険を感じて逃げ出したい。

 

 それぐらい、ものすごくおねぇさん方の熱い視線が降り注いでいるわけなのだが、とりあえず何か危険な予感がするのでほっとこう。とにかく今は仕事なのだ。

 

「明石、とりあえずは航海記録と他のイージス艦とかとの情報リンクのデータ、特にここ数日の位置座標とかリンク数のをぶっこぬいてくれ。夕張は基盤な?ハードディスクその他も全部だ」

 

「うーへー、これ全部ぅ~?」

 

「……無茶言うわねぇ」

 

「とっととしろ。文句言うな。早急に頼む。間宮券とRJのクレープ券つけてやるから!」

 

「あー、私もほしい!」

 

 瑞鳳が舌っ足らずな声で言ってきた。もちろん今哨戒して頑張ってくれているのだ。オーケー、と手でサインを出してやる。

 

「わーい、やったぁ!」

 

 うん、瑞鳳は無邪気だなぁ。いつまでもそんな瑞鳳でいてくれ。少なくともなんか俺に妙な視線を投げかけて来るような大人なおねーさん達のようにはならないでおくれ。提督のお願い。

 

(ってか、マジでなんかあったのか?)

 

 見に覚えが全く無い。

 

 ひょっとして『摩耶と鳥海の深海棲艦』をあんな縛り方で拘束したとか、ここで捕らえた深海棲艦を逆海老反り縛りにしたのに怒ってんのか?などと思うも、さっき怒られたしなぁ、とも思う。

 

 そう、愛宕と足柄にものすごく怒られた。「敵とはいえ、女の子になにしてんのよ!!」と、ダブルで。

 

 しかしどうもそういうわけでも無さそうなのだ。

 

 なお現在、捕虜はイージス艦にあったシーツを巻いてぐるぐる巻き、すなわち簀巻きにし直して床に寝かせている。今は足柄が様子を見ているが、まだ意識は戻ってはいない。

 

 データベースでこの深海棲艦の名称を調べてみたところ、この深海棲艦は『集積地棲姫』であることがわかった。

 

 『集積地棲姫』は海軍のデータにはあまり詳細は出てこない。

 

 まず、敵なのか友好的なのか全くわからない。

 

 陸上型の深海棲艦であり、わかっていることは資材等をとにかく集めるという事ぐらいである。そう、とにかく集めるだけ集め、そして何かに使うでも無くただ集めるだけ。それ以外の何にも興味を示さない。

 

 ただ、資材を盗もうとする敵には容赦なく攻撃を加えるようであり、その戦闘能力は侮れないとされている。

 

 ようするに、手を出さなければ何もしてこないから積極的な接触を避けてきたために海軍もその詳細なデータを持ち合わせていないのだ。

 

 そういう深海棲艦が何故にこのようなテロを行うような連中の一派にいたのか、そして陸上型の常で海に浮けないこの集積地棲姫を何故オスプレイで逃げた連中は置いて行ったのか。全く不明なのである。

 

「なんか、いじめられっこなオタク少女みたいな感じよね……」

 

 足柄が黒縁メガネを見て言った。簀巻きにされているので余計にそう思ってしまうのかも知れない。まぁ、さっきまでは野暮ったい女の子の陵辱系SM的な感じだったが。

 

「……ココハ……?」

 

「あ、目を覚ましたわよ、提督」

 

「……さて、目を覚ました所悪いんだが、お前らは一体なんなんだ?なんのために行動している?」

 

「ワタシが聞タイよ……。ナンカ変な連中ガ、ワタシの島を襲撃シタんダ。戦ッテ、追い返ソウとシタケド、一人デハダメだっタ。見タ事ナイ深海棲艦にヤラレて、ワタシの島、ワタシの物資、ワタシの燃料、ワタシのボーキサイト、ワタシの鋼鉄!ヤツらに奪ワレた!!捕マって、ワタシ、逃ゲラレなイ船の上ニ残サれタ……」

 

 どうも、彼女は被害者のような事を玄一郎に涙目で訴える。

 

 偽証なのか本当なのか、それとも罠なのか。玄一郎にはまだその判断材料が無い。ただ、陸上型の深海棲艦は他の深海棲艦とは違い、船ではなく基地の顕現化した者達である。海の上を単独で移動する事は出来ないし、艤装を展開したならばすぐさま海の底へと沈んでしまう。船の上にいたとしても、その船ごと沈んでしまい、浮かび上がる事すらも二度と出来なくなるのである。

 

 仲間ならばそのような陸上型を船に残して行くとは考えにくい。とはいえ彼女の話を鵜呑みにするのも現時点では危険だ。

 

「……悪いがこちらとしては信用するかどうか判断出来ない。状況的に君は不利だ。敵の艦にいたし、目撃者もいない。さらに弁護人も居なければ、証拠も無い」

 

「信ジテ!!ワタシは島を取り返シタいダけ!!」

 

「……これから君はパラオ泊地に送られる。そこで話をしよう。一応、君は捕虜として扱われる。こちらに協力的ならば、君の島の奪還に協力する事もありうるかも知れない。俺の言うこと、理解出来るか?」

 

 ありうる、と玄一郎は言ったが、もうすでに心は決まっていた。集積地棲姫の拠点に行くのはすでに決定済みであり、おそらくそこに敵は本拠地を作っているはずであり、なにより集積地棲姫に関するデータが正しければ、そこには大量の物資が集められているのだ。

 

 連中がその物資を何に使うかはわからないが、わかるのはろくでもない事に使うのに決まっている、という事である。

 

 それに、鹵獲されたイージス艦の残る二隻もそこにあるかも知れない。

 

「……ワカッタ。ワカル事全部話す。奴らのコトはアマリワカラナイケド、ワカる範囲で協力、スル」

 

「良し、君はかなりの怪我を負っている。パラオに着いたらまず手当て、だな。飯は?」

 

「マトモな食事は食べテ無い。マズい豆バカり食わサレてた。辛くテ、臭イの。吐きソウだッタ」

 

「……豆?まぁ、パラオの飯は美味いぞ。保証する。捕虜の権利は守るつもりだ」

 

「……頼ムよ。タダ、アノ豆はイラナイ。アカイ唐辛子の臭いヤツはイラナイ」

 

 玄一郎は、それがレーションのチリビーンズではないかと推測した。米国のそれはまだ美味いとは聞いていたが、おそらく、香辛料と独特の風味が嫌だったのだろう。味覚も好き嫌いも人によりけりだ。

 

「君が協力的ならそれは出さない。ただ、逃げようとしたり、非協力的かつ、やはりアイツらの仲間だと判明した時は、それをとことん口に詰めてから……」

 

 ジャキッ。

 

「コイツで首を斬って処刑する」

 

 玄一郎はシシオウブレードを抜いて、集積地棲姫に向けた。

 

「ヒィィァッ!!ヤメて、ワタシソンナコトしナイ!辛いノキライ!!臭いノヤダっ!!死ヌのイヤッ!!」

 

 何となく、この集積地棲姫からはいぢめてちゃんオーラを感じてしまい、なんとなくいぢめてしまう。

 

(いかんいかん。まぁ、協力的になってくれるならばいいか)

 

 なんとなく、玄一郎はこの集積地棲姫が敵じゃない気がしていた。まぁ、用心はするに越したことはないが、この深海棲艦にはなんとなく空母水鬼に似通った空気すら感じていた。

 

 

 

 




 米軍のチリビーンズはきらいなのです!

 いえ、私は少なくとも。

 自衛隊のは、いいよね。おいしい。あんしん。高いけど。
 
 今回、なんか長くなったので切りました。

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