ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 主人公、顕現。

 扶桑さん暴走。

 ゲシュペンストやたら動く。


目覚めれば

 暗い。何もかも暗い。

 

 眠い。いや、目はさえているのか。

 

 玄一郎は何か暖かいものに包まれているような、そんな感触に浸っていた。

 

 いや、何だろこれ?

 

 とか思いながら、何かいい匂いがするのを感じた。

 

 口の中に何かが流し込まれる。少し塩気のあるだが甘味も感じる、とろみがある何か。しかしそれは実に美味しく感じた。

 

 んくっ、とそれを飲み込む。

 

 感触の良い、柔らかな何かが離れて行き、なんとなく残念な感じがして寂しいような悲しいような。

 

 そしてそれが再び口に吸い付いて、そしてまた、美味いものを流し込む。

 

 あ、幸せ。とかまた思う。胃の中に物が入るのは何年ぶりか。

 

 しかしこの離れては付き、離れては付くこれはなんなのだろうと思い、急速に意識が覚醒していくのを感じた。

 

 はて?これはなんじゃろな?

 

 パチッ。

 

 目が開き。目の前に、アップで女性の顔。長く黒いロングの髪を手で書き上げつつ、接吻、というか何かを口移しに流し込んでいる女性。

 

 目の前に目があって目と目が合う瞬間どんじゃらほい。ついた口と口でうちゅーっ。

 

 近過ぎて、最初誰だかわからなかった。

 

 顔が少し離れて、ようやくわかった。

 

 口に流し込まれたものをごくり飲み込み。

 

「……扶桑、さん?」

 

「はい、扶桑です……」

 

 消え入りそうな声で、頬が真っ赤に染まってなにこれ?なにこれ?

 

 なんで扶桑さんがキスしてんの?というかなんでキス?あれ??

 

 口の中には飲み込んだお粥の味が残っている。見れば扶桑はお粥の入ったお椀とレンゲを持ってて、扶桑の口にもお粥の跡が。

 

 なんだこの状況は。一体何が起こった?!

 

 いや、それよりも。

 

 玄一郎は自分の口を触った。次に顔、目は触れない痛いから。耳を引っ張り、そして手を見る。

 

「な、なななな、なんじゃこりゃあ゛ぁぁぁっ!!」

 

 なんで俺に口があるんだ?!というか、お米の匂いまで感じてるということは鼻がある?!いや、それどころか。

 

 俺、生身の人間になってんのか?!

 

 そうパニック状態に陥り、手足をバタバタした、そのとき。

 

〔落ち着け、玄一郎〕

 

 頭の中に、懐かしい相棒の声が聞こえた。

 

 (てめぇっ、ゲシュペンスト、何をしやがった?!つかどうなってんだこれっ?!)

 

〔扶桑に君の世話を頼んだ〕

 

(いや、そうじゃねぇ!)

 

 見れば扶桑は顔を真っ赤にして、何か意を決したかのようにふんすっ!と鼻から息を吐き、そしてお椀のお粥をレンゲで口に含み、そして玄一郎の頭を抱えて、うちゅうううううううっ!!

 

「むぐーっ?!むぐーっ?!」

 

〔君の身体を再生した。再生は完璧だが、残念ながら人体にいる腸内細菌までは作れなかった。それに君の腸の中は現在空っぽの状態だ。故に、点滴と併用して腹に消化の良いものを取らせつつ、誰かの体内にある細菌等を分けてもらわねばならないのだ〕

 

(だからって、つか、お粥だけじゃなく、なんか舌まで入れてないか?!ふもーっ?!ふもふもーっ?!)

 

〔……口腔内に存在するいわゆる腸内共生菌を分けてもらうには、確かに口移しは有効であるが、しかし舌……まぁ、仲良き事は良い事だが〕

 

「うむむむむっ、むーっ、むーっ、ぷはっ?!ふ、ふふふ扶桑さん、やりすぎっ!!」

 

「ううーっ、介護の為ですっ!!」

 

「いや、俺もう目が覚めとるからっ!!」

 

〔後は乳酸菌や納豆菌などを補給すれば良い。オリゴ糖も忘れるな?〕

 

 しれっと冷静にゲシュペンストは言った。

 

(つか、お前どこに居るんだよ?)

 

〔執務室だ。とりあえず、過去のデータログから現在の状況は見た。そうだな、食事は終わったか?〕

 

(うひぃ?!扶桑さんがヨーグルトとバナナも……って、それまで口移しっ?!いや、むひゃあっ、むぐっ、むーっ!むーっ!むーっ!)←無理矢理口移しを敢行する扶桑から逃げられないの図

 

〔……10分後にそちらに行く〕

 

(舌がっ、舌がぁぁぁっ、いや、それベロちゅうやがなーーーっ、嫌じゃないけど、なんでぇぇぇっ!?)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

【10分後】

 

 ゲシュペンストタイプSが医務室の玄一郎のところに着いたとき、玄一郎の顔はやたらめったらとキスマークだらけになっていた。というか、口移しどころの騒ぎではない。

 

〔……元気そうで何よりだ〕

 

「もう、らめぇ……、扶桑さん、らめぇ……」

 

 ベッドの横の見舞い客用の丸椅子に座っている扶桑は顔を赤らめていたが、やたらと上機嫌であった。

 

〔ふむ、血糖値は正常になったな。心拍数……は、まぁ、問題ない。まずは君に説明しよう〕

 

「……というかこの数年間、何をしていたんだ?」

 

〔主に、君の身体の再生を様々な角度から検証していた。『ジュデッカ』ならばもっと早くに出来たかもしれないが、私ではやはり時間がかかった。いかにズフィルートクリスタルをもってしてもな〕

 

「何でも有りかよ、ズフィルートクリスタルってのは」

 

〔君の身体は君の魂の波長にあった姿になっている。顔などは、細部まではわからなかったが、ある程度君の記憶を元にイケメン気味に造った。なお、この再生に使った技術は艦娘の建造と異星人の上級強化戦闘員の製造を参考に、足りない部分はサイボーグ化で補っている。さすがに全てを生体的なものでは作れなかった〕

 

「……サイボーグ?」

 

〔そうだ。どうせならと設計段階でかなりのものをつぎ込んだ。通信機器無しでも自分と連絡がとれただろう?他にも戦闘時のGにも耐えうるだけの耐久力と近接格闘で軽装甲ぐらいなら貫ける打撃力、ズフィルートクリスタルとのリンク、そしてコールゲシュペンストを導入した〕

 

「それ、人間じゃねぇよな?」

 

〔スーパーヒーロー作戦もよろしく!というわけだ〕

 

「わけわかんねぇぇぇっ!!」

 

〔ただの人間だと深海棲艦とは戦えない。私に搭乗してもな。故に、艦娘と同様の製造方法で、かつ大幅にパワーアップさせつつ、なおかつ私と同一化出来る身体が必要だったのだ〕

 

「……それはわかるんだけどな。しかしよぉ、いきなりやんなよな。つか、お前形変わってねぇか?」

 

〔機体構造を変えた。ややサイズを大きくし、君を搭載して戦えるように自己調整を行ったのだ〕 

 

「……俺、パイロットをリストラされたわけじゃねぇんだな?」

 

〔当たり前だ。私は機体だ。パイロットが動かしてこそのロボットなのだ『相棒』〕

 

「てっきり俺が不要になったかと思ったぜ。つか死ぬかと思ったからな。あの痛みは」

 

〔魂の引き剥がしをしたからな。ある意味あの『武蔵』がやったのと同様だ。悪かったと思うが許せ〕

 

「わかった。身体が出来たのは確かに悪くはねぇからな。許す。またよろしくな『相棒』」

 

 玄一郎とゲシュペンストは互いに右手を差し出し、がっちりと握手をした。

 

〔なお、君の体調などが整うまで試算して2日ほどかかると出た。建造されたばかりの艦娘に使用される薬剤で腸内細菌を定着させるものや免疫をつけるものがある。それらを取ることを推奨する〕

 

「……ちょっとまて、つか、そんなもんあるなら、別にさっきのいらなかったんじゃ?」

 

〔ついさっき、そのような物があると検索結果に出たのだ。とはいえ、速やかに君に栄養を取らせねばならなかったのは確かで、特に誰も困るような事も無かったのは幸いだな。今、明石に頼んで持ってきてもらうように言った。扶桑がどうするかはわからないが〕

 

 そう言ってゲシュペンストは、そそくさとこの場を去ろうとした。しかしここでゲシュペンストが行ってしまえば玄一郎は扶桑と二人きりになってしまう。

 

 何かこう、玄一郎のゴーストが囁くのだ。『玄一郎や、女の子と夜に2人っきりになってはだめよ?お前の父ちゃんはね、お前の母ちゃんにね、クリスマスの夜に……。それがお前だよ?』。ゴーストは背後霊の田舎のバァチャンだった。

 

 なんか幻聴聞こえたっ?!

 

「『相棒』。まぁ、久しぶりに話をしようぜ?やっぱり男同士、こう、つもる話もあるわけだし!」

 

 2人っきりになってどうなるかはわからないが、なんかめっさ怖くなって玄一郎は必死になっていた。

 

〔いや、私は今日の業務を片付けておかねば。君も困るだろう〕

 

 ゲシュペンストは何か怖いものから逃げるような感じだった。

 

「いやいやいや、まぁそう言わずに、な?な?」

 

 必死な玄一郎を扶桑はやんわり、しかしなんかその少し赤みがかった瞳はやたらと爛々と光っているようで、安心出来ない感じで玄一郎を押さえた。

 

 がっちり。

 

「まぁまぁ、ほら、玄一郎さん、今日は安静ですよ?」

 

「相棒っ!!おいっ!!」

 

〔……では、また明日だ、『相棒』……強く、生きろよ?〕

 

「てめっ、逃げるなっ!!つか俺をおいてくな!!」

 

 必死でゲシュペンストの方に手を伸ばすが、しかし。

 

 のしっ。

 

 何故か扶桑はベッドの上に乗り、そしてのっしのっしと四つ這いで玄一郎の身体の上にのし掛かり。

 

「玄一郎さん、だから安静です」

 

 覆い被さって、いきなり、むっちゅうううううっ!!

 

「もがーっ!!もがーっ!!もがーっ!!」

 

「身体に必要なものを、私の中から上げますから。いっ、医療的な事ですから、しかたありません。ち、ちょっと恥ずかしいですけれど、負けません。いっ、医療的、ですからっ!」

 

 うっちゅううううううううっ!!

 

「もがーっ!!もがーっ!!もがーっ!!」

 

 危うし!玄一郎。誰か助けろ!←投げやり

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「なんか、昔の近藤見てるみたいだわ、ってか、アンタ中身あったんだ?」

 

「……笑えよ土方さん。笑うが良いさ」

 

「アッハッハッハ!!プークスクス!!」

 

「笑うなっ!!」

 

 あの後、ゲシュペンストからの依頼で点滴やその他の機材などを持って医務室にきた明石に玄一郎は助けられ、なんとかこう、貞操的なものを死守する事ができたわけなのだが。

 

 明石はこの後、約一週間ほど扶桑に根に持たれたという。どうも扶桑絡みで明石はやたらといろいろ厄介な事にあっている気がするが、それもまた別の話である。

 

 というわけで翌日である。

 

 ゲシュペンスト提督に異変有り、と土方と沖田が聞いて駆けつけたわけなのだが、そこには三十路男と、甲斐甲斐しくその世話をしつつ、上機嫌な扶桑がいたわけなのだが。

 

「ゲシュペンスト大佐……というにはドイツ人には見えず、どう見ても日本人。ハーフでもなし……」

 

「ゲシュペンストは機体名です。本名は黒田玄一郎。日本人ですよ」

 

「黒やん、で決定ね、あはははは!」

 

「るせぇわ。元々、ゲシュペンストが艦娘みたいな感じで権限した存在で、俺は奴にパイロットとして取り込まれた死人だったんですよ。『相棒』は自身をパイロットが操縦するロボットだと頑なに言ってましたからね」

 

「死人って、生きてるじゃない」

 

「俺は、核戦争で死んだ人間なんですよ。別の世界でね。死んで、何故かこの世界にたどり着いて。いつの間にか『相棒』の中に居たんです。『相棒』は俺を取り込んだ事に罪悪感を持ってしまってたみたいで。で、俺の身体を再生しちまったってわけです」

 

「……危険、なのではないですか?」

 

「なにが?死んで蘇ったから?放射能とか言わんで下さいよ?」

 

「いえ、例の『武蔵の深海棲艦』がゲシュ……黒田大佐が肉体を得たと知ったら、拉致しに来るのでは?」

 

 その危険は考えて無かった!!

 

「……アイツが来たら、ニゲマス。アイツコワイ」

 

 ガクガクブルブル。

 

「安心してください、玄一郎さん。来たら洩れなく私の特殊撤甲弾が火を噴きますので」

 

 扶桑は玄一郎の寝間着を畳みながらにこやかに、笑っていない目をして言った。というかなんとなく扶桑が『武蔵』と同程度にコワイような気が玄一郎はし始めていた。主に貞操の面で。

 

「……まぁ、それはともかく、アンタの事は松平元帥に伝えといたわよ。後、『礼号組』の足柄がなんかお礼を伝えておいてくれって言ってたわ。あんたなんかしたの?」

 

 玄一郎は彼女達を処罰せぬように大本営に嘆願書を出していたが、無事に聞き入れられたようである。

 

「『危険な状況下で被害を最小限に抑える事が出来たのは偏に礼号組の奮闘あっての事である、礼号組は、げに海軍の誉なり。報あれど罰するいわれなし』と送っただけです」

 

「……確実にアンタ、向こうの無能に怨まれるわね」

 

 どうも土方は礼号組の今の司令官が気にくわないようだ。なんとなく、大本営でなんかあったのかもしれない。

 

「俺が恨まれても一向に構わないですよ。とはいえ良かった」

 

「松平元帥は『早く身体を癒やし、復帰する事を望む。なお、見舞いとして幾ばくかの物品を『南方棲戦姫』と『泊地水鬼』の護衛の艦娘に持たせたので笑って受け取って頂きたい』とさ」

 

「まぁ、『相棒』の話では明日あたりには身体の調整は終わるらしいけど。いやはや、元帥閣下にはご心配をおかけしたようで心苦しいですね」

 

「……このまま何日も医務室に居ると、誰かの童貞を犠牲に、扶桑に新たな命が……」

 

「シャレにならないことを言わんで下さい。ってかそこっ!扶桑さんっ、なんか『私、頑張る』的にぎゅっとしてガッツポーズ取らないっ!!つか、俺まだ病人っ!!」

 

 なんというか、玄一郎が肉体を持ってから、扶桑の性格がかなり変わった気がするのは気のせいではあるまい。

 

(いざとなったらコールゲシュペンストでパイルフォーメーションして逃げよう)

 

 玄一郎はそう決意した。

 

 ガションガションガション。

 

 独特の足音を響かせ、そこへゲシュペンストがやってきた。玄一郎の身体を造ってから、ゲシュペンストはやたらと動き回るようになっている。

 

〔賑やかだな『相棒』。リンクして送っておいたが、確認したか?〕

 

「ああ、OKだ。とりあえず明日の空港警備は沖田少将の所のあきつ丸と、ウチの赤城、対空で摩耶がついてる。あとは俺お前だ。スプリットミサイルは造れてるか?」

 

〔何基でもすぐに造れる。あとは対空にリニアスナイパーライフルも用意した〕

 

「よし、ならいけるな。さすがに輸送機が高高度にある時は奴らも手を出せないが、着陸で高度を下げる時が一番危ないからな」

 

〔襲撃の際のセオリーだな。防衛を徹底しよう。あと、広域監視にステルスドローンを幾つか飛ばしている。網に引っかかれば、空港に来る前に潰せるように艦娘達を配備するつもりだ〕

 

「おう、ステルスドローンも造ったのか!なら『相棒』、ゲリラ狩りん時の手が使えるな!」

 

〔水際ではなく来る前の油断している場所で根絶やし。自分達の得意戦法だ〕

 

「じゃあ、出す部隊には、雲龍をA班に、蒼竜をB班に。グラーフをC班、D班には瑞鶴を入れてくれ」

 

〔ふむ、了解だ。ではプランを開始する〕

 

 ガションガションガションガション、とゲシュペンストはやはり独特の足音を立てて出て行った。

 

「……なんてーか、司令官が二人って感じねぇ」

 

「昔は俺と『相棒』で一人だったんですがね。アイツが戻って来てくれて良かったですよ」

 

 玄一郎は苦笑してそう言いつつ、頭を掻いた。

 

 




 俺のゴーストが囁くのさ。俺の背後で、まだ死んでないばっちゃがな。

 扶桑さんがやたらと積極的なのは、いままでのストレスとか、主人公がやはり艦娘吸引体質だから、ですかね。

 嫁さん100人出来るかな?

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