ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 扶桑さんって怒らせるときっと怖いよね。

 そして今回短いのでオマケ付き。


警戒態勢。

 ゲシュペンスト提督は一度司令室に戻り、扶桑からゲシュペンスト提督が出撃した後の状況を聞いた。

 

 まず、日本海軍と不戦条約を結んでいる九州南方海域の通称『南方棲戦姫』が正体不明の深海棲艦群に襲われ、長崎佐世保基地に救助を求め、辛くもそれを撃退したという報告。

 

 もう一つは、傷付いた軽巡棲鬼と駆逐棲姫を保護したが、それは今をときめく深海棲艦のアイドル『ジュンちゃん』、そしてその付き人であり、駆け出しアイドルの駆逐棲姫の『ハルちゃん』であり、パラオでの那珂ちゃんとのライブコンサートに来る途中で正体不明の深海棲艦群に襲われたのだという。また、彼女のプロデューサー兼マネージャーであるチ級エリートの『チエリさん』、ボディガードのリ級の『利休』さんも大怪我を負い、現在パラオ泊地内の治療槽で治療中との事である。

 

「南方棲戦姫の事も頭痛いが、『ジュンちゃん』と『ハルちゃん』の件は痛いな」

 

 彼女達深海アイドルと那珂ちゃんの合同ライブコンサートは海軍が『同盟深海棲艦との友好的関係』を国民にアピールするために打ち出した企画である。

 この深海アイドル達はすでにかなりのファン達を獲得しており、それが襲われたとあっては海軍の威信に傷が付くどころの失態ではない。

 

「海軍からの護衛の艦隊は?」

 

「はい、大破艦は出たものの、現在こちらで治療中です。旗艦は足柄、構成は、大淀、霞、朝霜、清霜となっており……」

 

「礼号組か。というか旗艦は霞のはずだが。いや、足柄、か。ふむ。そこは突っ込んでやらないのが礼儀か」

 

 おそらく足柄は霞を庇うために自分が旗艦だったと言い張っているのだろう。

 

 足柄はパラオにもいるが、大抵の足柄は世話焼きであり、そしていつも人のために損な役割を被ったり、自分よりも目下の子達を守ろうとしたりする事がある。

 

 とはいえ、彼女達の司令官が理解あるような人物ならそのような事はしないはずであり、彼女達の今の司令官は、その名の元となった『礼号作戦』の指揮官であった『ヒゲのショーフク』こと木村昌福少将のような人格者では無いようだ。

 

(彼女達も、彼が恋しかろうなぁ)

 

 パラオ所属の足柄が酔ってゲシュペンスト提督に絡んで言うことはいつも同じだ。『あんたもヒゲのショーフク』みたいな名将になんなさい!』。

 

(どうも足柄は俺の姉に性格似てるから、頭上がんねーんだよなぁ)

 

 ゲシュペンスト提督の中の玄一郎は姉はキャリアウーマンで、いつまで経っても嫁に行けないようなタイプだった。まんま言動などが足柄に重なり、やたらと他のところの足柄であっても心配になるのである。

 

 仕方ねぇなぁ、と思いつつ、ゲシュペンスト提督は「助けるかねぇ」とつぶやく。

 

「報告書はまだ出ていないな?では詳細を調べた上で、場合によっては嘆願書を出そう。今回の事態は非常事態だ。いささか酷だしな。で、こちらからの救助には誰が行った?」

 

「高雄四姉妹です」

 

 ゲシュペンストは頭の中に海図を表示し、土方中将達の襲撃とアイドル艦襲撃の位置を確認した。

 

 時間的にアイドル艦襲撃が先にあり、パラオ周辺海域での土方中将達への追撃が後、である。

 

「……おそらく、遊撃、か。こちらの損害は?」

 

「高雄四姉妹全て無傷です。報告によりますとこちらの艦影を見た途端に撤収していったようだ、と」

 

 ゲシュペンスト提督は高速で思考する。

 

 おそらくアイドル艦を襲撃した遊撃隊とパラオ近海で土方中将達を追撃した『マヨイ』の群勢は同じであろう。

 

 おそらくアイドル艦襲撃をしている最中に『摩耶』と『鳥海』の深海棲艦達は救助に駆けつけて来た自分達の姉である愛宕、高雄の二人を発見し、接触するのを避けて逃げ、そして追ってこないのを良いことに、たまたま傷ついた艦隊を見つけて襲ってみたら敗走中の港湾棲姫と北方棲姫だった、というわけなのだろう。

 

 これは推測でしかなく、捕虜として捕らえた二人を尋問して口を割らせて答え合わせをするしかない。

 

 その場合、最も効果的な人員はやはり二人の姉である愛宕と高雄が良いだろう。

 

 だが、口を割るまでまごついているわけにはいかない。遊撃隊の役割は陽動である。必ず本命がいるはずだ。

 

 奴らが今、パラオ泊地をまず襲うことはない。戦力的なリスクが大きいからだ。この一連の流れを観るに最も可能性が高いのは『空母水鬼』の所である。

 

 おそらく拠点を奪ってそこを前線基地としてからパラオ泊地への侵攻を開始するはずである。

 

「空母水鬼が危ない。即刻保護せねばならん」

 

 ゲシュペンスト提督は席から立ち上がった。

 

「扶桑、空母水鬼が現在どこにいるかわかるか?連絡はとれるか?」

 

「え、ええっと、空母水鬼さんなら、もう泊地に来られてます。提督が帰還する頃まで間宮食堂で食事をしている、と言われまして……」

 

「え?」

 

「はい、ですから第四種警戒態勢発動後、空母水鬼さんに連絡を取ったところ、詳細を会って聞きたいと仰れまして。ですが提督がスクランブル発進されて不在でしたので、間宮食堂に……」

 

 がくっ、とゲシュペンスト提督はコケそうになったが、しかし拍子抜けしている場合ではない。

 

「とりあえず、警護とお目付役をつけよう。あいてる奴は誰かいるか?」

 

「はい、那智と赤城、最上、グラーフ、プリンツがちょうどいます」

 

「那智と最上……念のため赤城を付けてくれ。くれぐれも彼女を拠点に帰さないように。俺の読みでは彼女の拠点は現在襲撃されてる。グラーフには空母水鬼の拠点を捜索させてくれ。速やかに頼む」

 

「了解です。では」

 

 扶桑は受話器を取ると、グラーフを呼び出し、そして指令を伝えた。

 

(グラーフがあいててよかった)

 

 グラーフは夜間でも航空機を飛ばせる。もう時間的に夜になりつつある。時刻的に加賀や赤城では不可能では無いものの航空機が目標地点に到着する頃には夜の闇が深くなっている。

 

 空母水鬼の拠点はゲシュペンスト提督の広域レーダーやセンサーの範囲の外にある。これが昔ならばゲシュペンスト提督本人が行って殲滅しに行くところだが、今は限られた機能しか使えない。この機体の本来の持ち主である『相棒』がいない今、無限に武器を出して戦うことが出来ないのである。

 

 格闘戦だけでも確かに強いが、遊撃隊だけでもあの数である。本命はどれだけの戦力がいるかもわからず、さらに『雷のレ級』が裏で動いている。

 

(ならば、おそらくあの『武蔵の深海棲艦』が現れる可能性もある)

 

 『武蔵の深海棲艦』はゲシュペンスト提督、いや、『玄一郎』に執着していた。いつかは再び現れるだろうと思っていた。

 

「扶桑さん。今回の件には『雷のレ級』が関わってるらしい」

 

 扶桑には話しておいた方が良いだろうとゲシュペンスト提督は思った。扶桑には酷な事かも知れないが、包み隠す事はしたくはない。

 

 扶桑は目を開いたが、すぐに目を伏せて軽く首を振った。

 

「たしかに、今回の件はあの時に似ています。あの子がいる予感は……あったのですが」

 

 扶桑は勘が強い。古い艦娘にありがちな事だが人には分かり得ないような事でも感じ取るような事がしばしばよくあった。

 

「港湾棲姫を襲撃して負かすほどの力を持っている。何故そんな力を得るに至ったかわからんが、かなり強力に成長している。また、裏にあの『武蔵の深海棲艦』が絡んでいるようだ。これは今日捕虜にした『摩耶』と『鳥海』が漏らした情報だが」

 

 ぴくり。

 

 扶桑の肩がワナワナ、と震えた。

 

「……あの子、まだあの様なハレンチな女とつるんでいるのですか?というか、アレはまだ玄一郎さんを諦めていないと?」

 

 ワナワナワナワナ。

 

「ま、まて、まだそうと決まったわけじゃないからっ!つか落ち着け!」

 

 扶桑姉妹はかつてその雷をまるで妹のように非常に可愛がっていた。深海棲艦になったとはいえ、どこかやはり気に案じていた節もあったのだ。

 

 逆に『武蔵の深海棲艦』はかなり気に入らないどころか蛇蝎の如く嫌悪しており、『次に会ったなら全弾撃ち込んで形も残さず殲滅』するとさえ笑いながら言うほどに嫌っていた。

 

 なにより、彼女の艦装の中には『対武蔵用特殊徹甲弾(タングステンのテフロンコーティング)』が常に仕込まれている。いつも持ち歩いており、本気で殺る気満々なのである。

 

「あの愛らしい雷をあんな姿にした挙げ句に、玄一郎さんをあんな無残な姿にしてもなお、まだ生きてるのですか……。ふふ、ふふふふふふふふ、あの時は通常弾しかなかったので殺しきれませんでしたが、毎夜毎夜、私の『力』を込めて丹精込めて仕上げた36発の特殊徹甲弾で次は肉片残らず……」

 

(アカン、これアカン扶桑さんや?!)

 

「あの、扶桑さん?おーい、扶桑さん?」

 

「よもや……止めませんわよね?玄一郎さん」

 

「その時が来たら是非やっていただきたいと思う次第ではありますが、とりあえず戻って来てくれ。お願い。俺、いつもの優しい扶桑さんが好き。うん、いつもの扶桑さんに戻って?お願いぷりーず」

 

 ゲシュペンスト提督だってアレを相手にするのはごめん被りたい。変わりに誰かやってくれるなら止めないが、しかし。

 

(おそらく、奴はあの時以上に強くなっているハズだ。如何に扶桑さんが遠距離攻撃の名手とは言え、接近されたならば……)

 

 やはり『相棒』の帰還を願ってしまう。ゲシュペンストが居たからこそあの時はなんとか戦えたのだ。今の『玄一郎』に、弱体化とも言える自分に対抗する事が出来るか?

 

 ゲシュペンスト提督はそれを考えつつ、帰って来ない扶桑を溜め息混じりに眺めていた。

 

「おーい、扶桑さん、マジ帰って来て??!」

 

 

 

 

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 【オマケ①】その頃の高雄さんと愛宕さん。

 

 

 

 愛宕と高雄は変わり果てた妹達を見て唖然とした。

 

 亀甲縛りされてピクピク、ピクピクと痙攣しつつ、お尻を真っ赤にさせて悶えるような妹達など出来れば見たくなかった。

 

 『摩耶』と『鳥海』の二人はとりあえず捕虜として捕らえられ、まぁ、大きな怪我などは無かったのだが、ゲシュペンスト提督にお尻をバシンバシンと歪みねぇ感じで叩かれたために、真っ赤に腫れ上がったそのお尻を大井と北上が手当てしていたわけなのだが、大井がワザと刺激成分が含まれている『メントールクリーム』を思い切り大量に塗りたくった為に悶絶していた。

 

「ひぎぃぃぃぃぃっ、らめぇ、俺、らめぇぇぇっ!」

 

「んほぉぉぉっ、お尻ぃ、私のお尻ぃ、お尻があついれふぅぅぅっ!!」

 

 もはや、拷問である。

 

 何か得体の知れない感じで、もうこの凄惨なところにいたくない、と二人の姉は思ったが、深海棲艦化したとはいえ、何隻もいるとはいえ妹は妹なのである。

 

「……愛宕、なんていうか、こう……見捨ててもいいんじゃないかしら。私達の妹達は、今警戒任務に着いてる良い子達なのだし」

 

「そうね。なんて言ったらいいのかしらぁ。ウチの子に深海棲艦はいないわぁ」

 

 さらりと見捨てる宣言をする愛宕さんと高雄さん。

 

『艦隊の二大おねぇさん』と呼ばれる優しいはずの二人は身内には厳しかった。

 

「ね、ねえ゛ざん、た、たしゅけてぇぇぇ……」

 

「んほぉぉぉっ、痛い、痛いのにぃ、あふん、あふっ、学校の机の角ぉぉっ、放課後ぉぉっ!」

 

 ぬりぬりぺしんぱしん、ぬりぬりぬり。

 

『『ずほぉぉぉーーーっ!!』』

 

 尋問を始めるのは、もう少し後になりそうだった。

 

 

 

……主に大井でせいで。

 

 

 

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【オマケ②】アイオワさん、ウォースパイトさん、ガングートさん。

 

「「「出番まだっ!?」」」

 

 鳴り物入りで出てきた資材大量消費な皆様の出番は……あるのか?!なお、現在この三人についているのは警戒態勢によって休みが無くなった山城さんだったとさ。

 

「不幸だわ……。二日酔い、つらっ!」

 

 




 高雄さんと愛宕さんは、きっと優しいはず。ただ身内には厳しいんじゃないかな。愛故に。

 摩耶はともかく、鳥海は……いったい何を言ってるのか。ワタシワカルマセン。まぁ、思春期にはいろいろあるよね。多分。

 

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