ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 土方さん、白鳥中佐を吊し上げ。ぶひぃ。

 そして青年は戦場へ。

 なお、今回はバイオレンスな表現が含まれますのでご注意ください。


【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女⑦

 

 海軍に様々な怪談話が伝わっている。

 

 海に沈んだ艦娘が愛しの提督を忘れられずに深海から提督を迎えに来る『深海提督』。あるいは非業のうちに死んだ提督がとらわれて抜け出せないと言われる『バミューダ海域の墓場』。あるいは、とある北の海域の泊地に現れる白い少女の霊『妖怪レップウオイテケ』。あるいは、海域警備の駆逐艦の隊の前に現れ、撃たれても撃たれても反撃する事すらせずに接近し、抱擁して頬ずりしていつの間にか消える黒いル級『深海ナガモン』。

 

 様々な与太話とも真実ともつかぬ、夏にありがちな怪談。

 

 しかし、それらは現実に、海軍上層部によってもみ消された事件が形を変えて伝わったものばかりであったならばどうだろうか。

 

 そして今、新たな海の怪談が、怪異が始まっていた。

 

 後に人は『百鬼夜行』とこの怪異に名前を付ける事になるこの事件。

 

 だが、まだ誰もそれを知らず、そしてこの小島基地に武装高速艇で乗り付けてブッコミをかけて白鳥万智子中佐を追い回している土方歳子少佐もまた、それを知らなかった。

 

 

 ドゴーーーン!!ドカーーーン!!

 

 対深海棲艦用装甲服、通称『剣狼・改』を着込んだ土方歳子が、四連対艦ロケットランチャーを、前を走っている白鳥中佐にぶち込む。

 

「止まりなさーーーい!!止まんなきゃ撃つぞ!!」

 

「ぶぎゃああああっ、止まってたのにいきなり撃ったじゃない!!ていうかそんなもの撃たれたら、しっ、死ぬぅぅぅっ!!」

 

 デベデベデベ、とおおよそ人間が立てる足音ではないような音を立てて、見かけよりも早く走るその物体の顔は醜く、涙と鼻水とよだれでまみれ、厚化粧が崩れてつけまつげもとれかかって非常に醜くかった。

 

 ドゴーーーン!!バゴーーーン!!

 

 ロケットランチャーで撃っても、この白鳥中佐というデブは意外な小回りでよけていく。

 

「ぶぎゃああああっ、ぶぎゃああああっ、ぶぎゃああああっ!!」

 

「ちっ、当たんねーっ!動けるデブはこれだからっ!!」

 

 舌打ちをして土方少佐は弾の無くなったロケットランチャーを捨てる。

 

「最上ぃぃーーっ、もがみんーーーっ!!どこぉ、どこなのぉぉっ!!たっ、助けなさーーい!!賊よぉ、賊が侵入して来たわ、この際誰でもっ、誰か助けなさーーい!!」

 

 白鳥中佐は必死で自分の秘書艦や基地の艦娘を呼ぶ。しかし誰も出て来はしない。

 

 それは別に白鳥中佐が恨まれているからとかそういう事ではない。艦娘は誓約と呼ばれるものによってそれぞれの司令官の命令に縛られている。それは、いかなる命令でも逆らえない制約でもある。

 

 稀に、古くからある艦娘の中にはそれに対して逆らえるような者もいるが、それは例外中の例外であろう。

 

 しかし、ここの艦娘達にかかっている白鳥中佐の誓約はすでに土方少佐によって解除されていた。

 

 土方少佐の能力は『艦娘に対する介入』である。その能力は艦娘の根幹や艦娘達の精神までも影響を及ぼすある意味使い方を誤れば危険な能力でもあるのだが、土方少佐はそれを使って白鳥中佐の誓約を破壊し、そしてこの小島基地より日本の本土に近い、艦娘擁護派の提督のいる中島(なかしま)基地へと秘密裏に逃したのである。

 

 つまりは、この基地に艦娘達は誰一人としていない状態なのである。

 

 つまりは、やりたい放題、白鳥中佐を料理出来る環境を作ったわけである。だからロケットランチャー撃ち放題、マシンガン撃ち放題、というフリーダムな狩りができるわけである。

 

「あーはははは、たーのしーい!!」

 

 もう、どったんばったん大騒ぎである。

 

「ぷぎぃぃぃーーっ!!ぷぎぃぃぃーーっ!!」

 

 ババババババババっ!!

 

 短機関銃を撃ちまくり、土方少佐はようやく袋小路に白鳥中佐を追い詰めた。

 

 壁に張りついて震える様はなんというか、壁に張りついたジャバ……いえ、太ったクリーチャーのようだった。

 

 土方少佐はその醜く太った腹に蹴りをドスッ!!とくれてやると、短機関銃をその鼻先に突きつけた。

 

「おい、豚。今まで好いように豚ってきたんだろ?艦娘泣かせて苦しませて、殺してきたんだろ?無能な豚っ!おい、答えろよ豚っ!」

 

「ぎっ、お前っ、私にこんなごどじで、お、御父様や御爺様が、許しておぐと思うなよぉぉっ!!」

 

 グシャリ……!

 

 土方はその顔に、左拳を打ち付けた。装甲服の籠手についている菱形の金属製ナックルガードがグシャリ、と白鳥中佐の鼻を潰した。

 

「知らねぇよ。つか、その面で『おとぉさま』だぁ?『おじぃさま』だぁ?笑わせるなジャバ○ハット。ゴース○バス○ーズの意地汚ねぇ緑のゴーストより醜い物体の分際で、何を言ってやがるんだクリーチャー」

 

 ババッバン!!

 

 土方は鼻先に突きつけていた短機関銃を白鳥中佐の左足に向けて放った。

 

「ぎゃあああああっ!!」

 

 血は出ない。中身は全てゴムスタン弾である。ただし、白鳥中佐の左足の骨は砕けた。

 

「ぎぃやああああああっ!!」

 

「足の骨が砕けたぐらいでぎゃあぎゃあ抜かすな、豚。お前が艦娘達にしてきた事は、全身の骨が砕けても贖えない。お前の罪は死んでも許されない。安心しろ、お前のおとぉさまもおじぃさまも、みーんな同じ目に遭わせてやるからよぉ?」

 

 土方はそういうと白鳥中佐の無駄に長い髪の毛を掴んだ。

 

「さぁ、行こうか。豚は精肉所に出荷よぉ?」

 

 ズルズルと白鳥中佐を引きずる。

 

「……まぁ、煮ても焼いても食中りするだろけど」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 土方少佐が小島基地で白鳥中佐を基地のクレーンに吊し上げている頃。

 

 玄一郎は扶桑を連れてワタヌシ島へと戻った。

 

 扶桑の様子に山城が心配して駆け寄ると、扶桑は山城に抱きついて号泣し、その泣き様にみんなどうしてよいかわからなかった。

 

「……小島基地はもう、終わりです」

 

 散々泣いて、泣き止んだ扶桑は力無くそう言った。

 

「どういう事なの?!ねぇさま」

 

 扶桑は怪訝そうに、しかし姉である扶桑はそんな事を冗談でも軽々しく言うような人ではないと知るが故に、何かとてつもない事が起こっていると悟りつつ聞いた。

 

「雷が、沈んだあの子が……。あの子がみんなを助けると、沈んだ皆を連れて基地へ帰ろうとしているのです」

 

 それを聞いた山城の顔から血の気が引いていった。

 

「雷は、マヨイになって深海棲艦になった皆を率いて白鳥中佐に復讐をする気なのです。あの子は、マヨイになっても、みんなの事を忘れてない、健気で優しいあの子は、あんな姿になっても……」

 

 ほろり、とまた扶桑の目から涙が落ちた。

 

「でっ、でも、基地にって他の子達が危ないんじゃ……」

 

「……私には、もうどうしていいかわかりません。おそらく白鳥中佐は籠城戦を展開するでしょうが、それは悪手です。あの数のマヨイ相手では1日と持ちこたえられないでしょう。それに、あの雷の力は、おそらくは大和級でも敵わない程の力を持ってます。単艦で小島基地を滅ぼせる程の、すでに『鬼姫級』を超える程の力を秘めています……」

 

「すまん。俺にはよくわからない。その『雷』って子は、艦娘なのか?深海棲艦になったって、それにマヨイってなんだ?説明してくれ」

 

 イムヤが玄一郎にそっと説明した。

 

「マヨイは、怨みを持って海に沈んだ艦娘が死んだ後に深海棲艦になってこの世に迷い出た存在の事よ。怨みや無念が大きければ大きいほど強い力を持つのよ。雷は数年前に、無理な作戦で白鳥中佐に殺された駆逐艦の子で、みんなに可愛がられてたわ」

 

「……し、死んだ艦娘って、つまり幽霊なのか?つか、そんな事が?いや、つか現実にありえるわけが……」

 

 と、玄一郎は言って深海棲艦達の姿を思い出す。あの、船の残骸や機械と人間の死体とそして醜い何か得体の知れないものが混ざったような姿を。

 

〔深海棲艦とは、死んだ艦娘が何らかの原因によって変化したもの、というわけか〕

 

「つまり、深海棲艦というのは怨みを持って死んだ艦娘の、その、ゾンビみたいなものなのか?」

 

「……それを言うならば、私達もそのようなものです。かつての大戦で沈んでいった軍艦の魂が授肉して蘇った存在、それが私達艦娘なのです。私達艦娘と深海棲艦を分かつものは、ただ、国を護り人を救い命を守る思いと念。しかし、それが裏切られ、かつ沈んだならばそれは怨念となり、人に報復しようとマヨイ出る、災いとなるのです」

 

 扶桑は静かにそう言った。

 

「白鳥中佐は多くの艦娘達を自身の自尊心や虚栄心を満たすために、死なせてきました。数百もの怨念達はもう止まらないでしょう。怨念が怨念を呼び、おそらくは今頃、かつて無いほどの数の深海棲艦が小島基地へ向かっているでしょう。そして、小島基地を壊滅させた後はさらに周囲の深海棲艦を集め、周辺施設はおろか本国すら壊滅させるまで止まらないでしょう」

 

 玄一郎はそれを聞いてぞっとした。本国とは日本である。この世界の日本がどのようになっているかはわからないが、自分がいた世界の日本が深海棲艦に破壊され尽くす所を想像し、その身体を震えさせた。

 

 各種センサーや広域レーダーは現在の周辺海域の状況を伝えているが、小島基地へ向かっている深海棲艦を示す光点はレーダーの黒い部分を埋め尽くす勢いで増えている。

 

〔深海棲艦の数、計測不能〕

 

 ゲシュペンストが言わなくてもわかる。ここまで増えては数える事など不可能だ。

 

(……なぁ、ゲシュペンスト。これってどうにか……出来ねぇわなぁ)

 

 玄一郎はダメだよなぁ、と思いつつヤケクソで聞いてみた。

 

〔パーソナルトルーパーでは不可能だ〕

 

 ゲシュペンストはそう答えた。

 

(そうだよなぁ)

 

 玄一郎はガックリとしてうなだれた。ゲシュペンストならなんとか出来るんじゃないかと少しは思っていた故に余計に、である。

 

〔玄一郎。私はパーソナルトルーパーでは無い。特機グルンガストの試作武装を搭載され、グルンガストと同様の高出力のジェネレータを組み込まれ、そしてパーソナルトルーパーを超える重装甲を持つ。かつてスーパーロボットと呼ばれた機体の数々を相手にたった一機で互角に戦った自分が、遅れを取るはずも無い〕

 

(え?それって?)

 

〔自分を見くびるな。特機ゲシュペンストタイプSならば可能だと言っている。玄一郎、やるか、やらないかは君が決めろ〕

 

 玄一郎は機械の手を見た。大きく太い指。マシンの手だ。力が溢れている。

 

 前を見て泣く扶桑を見る。か細く、触れれば折れるような女性だ。彼女はいつも見る度に泣いている気がする。いつも悲しげで、微笑んでいても儚げで。

 

 助けたのは一度。会ったのは二度。知り合ったのはついこの間。バタバタと動き回って気がついたらなんかやたら縁があったのか関わっていた。

 

 おかげで自分の事を考えてる間もなく、悩む間もない。

 

 山城が玄一郎の視線に気がついてこっちを睨んでいる。コイツはやたら怒っているよなぁ。扶桑さんにそっくりなのに。いや、コイツも泣いてたか。

 

 如月、吹雪、イク、ゴーヤ、イムヤ、ハチ。

 

 如月はやたらチョップされてた。

 

 吹雪はなんか田舎娘というか可愛いけど普通の女子中学生っぽい。

 

 イクはおっぱいおっきい、つか、生で見た。

 

 ゴーヤはでちでちうるさい。

 

 イムヤはしっかり者でちょっとお姉さん的。

 

 ハチはドイツ好きで知識が豊富。

 

 よく考えたら、俺、今までこんな可愛い女の子達を見るの初めてだよなぁ。

 

 玄一郎は、ふぅ、と息を吐く。肺も口も無いからスピーカーが変わりにそういう音を出した。

 

「……おっぱい、見ちゃったからなぁ」

 

 いや、そんな事を言いたい訳ではなかったが、何故かスピーカーは思考の一つを勝手に拾って音声として吐き出した。

 

「ああ゛っ?!」

 

 山城がさらに睨んでくる。扶桑さんが顔を赤らめる。

 

 頭の中に二人の大破してたときの、裸同然の映像が流れて、やっぱり二人とも綺麗だよなぁ、とか思いつつ冷静に玄一郎は二人に告げた。

 

「いや、俺達なら、なんとか出来るってコイツが言うからさ」

 

 ガイン!と胸部装甲を拳で打って鳴らす。

 

「んじゃ、ちょいと行ってくる。留守番頼んだぜ?」

 

 玄一郎は、ゲシュペンストタイプSは洞窟の出口に振り向かずに向かっていった。

 

 身体に力がかつて無く漲っていく。

 

〔リミット解除。ズフィルートクリスタル、ウェイクアップ。そうだな、あの数を相手にするには自分の固定武装だけでは面倒だろう。自分の記憶にある他の機体の武装を創り出す。役に立つはずだ。使え〕

 

 ゲシュペンストはそういうと右手に機関銃のような物を作り出した。

 

〔M-970アサルトマシンガンだ。数を相手に格闘だけでは時間がかかりすぎる。遠距離だとミサイルだけでは足りないだろうからな〕

 

「ライフルも有ったんだな、お前」

 

〔必要ならニュートロンライフルでもバルカン砲でも出す。状況次第だが任せておけ〕

 

「ああ。それじゃ、行こうか」

 

 一機のロボットに二つの心を乗せた特機ゲシュペンストタイプSは飛び立つ。

 

 怖いとか死ぬかも、とかは無かった。ただ、やれるという無責任な自信にも似た何かがあった。

 

〔最大加速で行くぞ!!〕

 

「おう!!やってくれ!!」

 

 ズドン!!と空気の壁を突き抜けて黒い亡霊は戦場へと向かっていった。 





 仕事の報酬は前払いのおっぱい。玄一郎君は、若い頃はおっぱい星人だったわけで。

 まぁ、流石に約15年前ぐらいの話ですので、仕方ないね。

 つか、なんかさらりと山城までヒロインになってるような気がしないでもない。

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