ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 チョップ。

 山城が最近可愛くて仕方ない。

 ちなみにウチの最初の嫁艦は扶桑ねぇさまですが、二番嫁艦は愛宕さんです。


【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女⑤

 

 さて、ここはワタヌシ島の洞窟。

 

 ちょうど扶桑が基地に帰還し、そして山城が出撃したと聞いて助ける為にまた海へ出撃した頃である。

 

 如月が目を覚ますと、何故か暗い洞窟のような場所で、焚き火を囲む同僚達の笑い声が聞こえて、そしてカレーのいい匂いがふわっとこちらまで香ってきた。

 

 何日も前に基地から出撃して消息不明となり、帰って来なかった潜水艦娘や自分と一緒に出撃して敵と戦っていた山城、吹雪までがここにはいた。

 

 とても賑やかで、明るい笑い声で火を囲んで楽しそうに笑っている。

 

 あの基地に配属されてからは見ることも聞くことも、そして自分も忘れてしまっていた笑顔がそこにあった。

 

 ああ、そうか。私は、私達は死んじゃったんだ。ここはあの世なのか……。

 

 如月はそう思ってまた目を閉じ……かけて、如月が目を覚ました事に気づいたゴーヤにチョップされた。

 

「ゴーヤチョップ!」

 

 べしっ。

 

「あ痛っ?!」

 

「二度寝すんじゃないでち!ほら、ご飯食べるでち!!」

 

 ゴーヤはアルミの容器を如月に差し出す。容器の中には湯気を立てる暖かいお粥と梅干しが入っており、プラスチックのレンゲが刺さっている。

 

「え?え?え?」

 

 状況が掴めず、目をぱちくりしたところに吹雪が「よかったぁ~、如月ちゃん目を覚ましたよ~」と涙目で言って側にやってきた。

 

 気がつけばその場のみんながどれどれと円陣を組むように布団の周りを囲んで、ワイワイと如月の様子を覗き込んできた。

 

「わ、わたし、沈んでない?死んだんじゃ……?」

 

「ブッキーチョーップ!」

 

 ベシッ!

 

「あ痛っ!?」

 

 吹雪が如月を軽くチョップする。

 

「イムヤチョップ!」

 

 ごすっ!

 

「痛っ!」

 

「イクチョップ!」

 

 ガスッ!

 

「痛っ!」

 

「ハチチョップ!」

 

 べしっ!

 

「痛いって!」

 

 さらに山城もチョップする。

 

「山城チョップ!」

 

 ぽふっ。山城だけはかなり手加減しているようだ。

 

「あ、優しい……」

 

 山城がやはり目に涙を溜めて、そして如月を抱きしめた。かなり心配していたようだ。

 

「よかった……よかったぁ……。生きてて、目を覚ましてよかったぁ……」

 

「山城さん……私、生きてるのね」

 

 如月は山城を抱き返しつつ、涙を流した。

 

「……俺の順番は?」

 

 山城の後ろに並んでいた玄一郎はチョップの体勢で止まったまま言ったが、山城に「……却下。というかなんであんたがチョップすんのよ!」と言われた。

 

「ふわっ?!」

 

 山城の後ろのゲシュペンストを見て目をまん丸くして如月は驚いた。それはそうだろう。ふつう二メートル半の大きなロボットが、ぬっと現れたら誰でも驚く。

 

「ああ、怖がらなくていいの。単なる……ええと。バカだから」

 

「いや、今日あったばかりでバカ扱いはひどくないか?」

 

「うるさいバカ。バカゴーホーム!しっしっ!!」

 

 玄一郎は山城に追われて、うなだれながらさっきまで座っていた大きな岩へと戻るのだった。

 

「俺、犬扱いかよ……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ワイワイとみんなで食べるご飯は非常に美味そうだった。そう、玄一郎から見れば。

 

 食欲は確かに無い。無いがやはり人間だった時の感覚で食いたいと思う。あと、なんか楽しそうな輪の中にちょっと入りにくい。

 

 想像してごらん。

 

 女の子の中に男が一人。女の子がワイワイやってる中で、男が何故か一人混ざらされてるこの疎外感。

 

 まだ飯が食えたなら黙々とそれを食うことでなんとか持ちこたえることが出来る。だがロボットだからマシンだから食えない。

 

 故に玄一郎は黙って大きな岩に腰を下ろして座りながら、やることも無いからレーダーや広域センサーで周囲を警戒しつつぼーっとしていた。

 

 なお、周囲には特に異常は無い。

 

「お粥、おかわり……」

 

「はいっ!おかわりっ!!如月ちゃんどんどん食べてね!」

 

 如月という少女はずっと今までまともに食事を与えられなかったらしく、お粥と味噌汁を食べているのだが、結構な量を食べておりそんなに食って大丈夫か?と玄一郎は思ってしまう。

 

 しかし、玄一郎が艦娘達に聞いた話はとても酷いものであり、普通ならば児童虐待どころの騒ぎではない。

 

 幼気な少女達を戦場に出すだけでも異常なのに、それだけではなく、気に入らない艦娘や司令官に対して何か意見をしただけで、まともな食事も補給も与えずに激戦区に出撃させて玉砕覚悟の戦闘を強いるという。

 

 昨日の扶桑の時や今回の山城の時などは彼女達は単に『駆逐艦の子達の待遇改善』をその司令官に頼み出ただけなのである。それだけで彼女達姉妹は、その駆逐艦の中から練度の低い子達と共に、敵の中枢に向かう航路上の深海棲艦の殲滅を言い渡されたのだという。

 

 今回の彼女達の出撃にしても『敵中枢侵攻作戦』などとご立派な名前は付いているが、何のことはない。損害無視で次々と兵力を投入し、敵を疲弊させてその後温存していた主力を投入してガタガタのなった敵を掃討する、というだけの、戦術も戦略もあったものではない、兵士に犠牲を強いるだけの力押しだ。

 

 だがそんな作戦に投入された艦娘達はたまったものではない。

 

 それに潜水艦だという艦娘達の扱いもかなり酷いもので、それこそ敵から物資を盗みにいかせられているのだとイムヤは言った。潜水艦は隠密行動が得意であり、その能力で様々な地点にある物資をかき集めさせているのだ。

 

「……なぁ、山城」

 

「何よ。やっぱりご飯欲しくなったの?」

 

「……まだ疑ってるのかよ。食えるもんなら食いたいけどよ肉体がもうないんだ。つか、ほっぺに飯粒ついてんぞ」

 

「えっ?!嫌だ、はしたない」

 

 山城は慌てて顔についたご飯を指先で取った。顔がやたらと赤い。

 

「……もう付いてないわよね?」

 

「もう取れた」

 

「……アンタ、肉体を失ったって、どういう事?」

 

「そのまんまだ。人間だった俺の身体はもう無い。気がついたらコイツ……ゲシュペンストタイプSになってたって、この説明扶桑さんにもしたっけかな」

 

「ワケがわかんないわね。そもそもそのロボットってどこで造られたのよ。つか、あんたアニメか何かとかでよくあるサイボーグとかそういう物?」

 

「いや、なんというか……って、砲撃音?!生体反応……この音声パターンは、扶桑さん?!」

 

 ゲシュペンストの各種センサーが、扶桑の砲撃音とそして深海棲艦の反応をキャッチした。わりと遠い位置、おそらくは扶桑の所属している基地の付近だ。いかに空が飛べるゲシュペンストタイプSと言えども少し遠い距離で、玄一郎は焦る。

 

「えっ?私、何も聞こえないけど……ねぇさまがこの近くに来てるの?」

 

「その可能性は高い。行ってくる。イムヤ!何個か高速修復剤持ってっていいか?」

 

「良いけど、どうかしたの?」

 

「誰かがこの付近……つってもちょっと遠いが、戦闘してる。それもたった二隻で結構な数の深海棲艦と……って、あれ?さっきまで10はいたのに、減ってる?いや、減っても増えて……。30?40?ってクソっ行ってくる!!」

 

 玄一郎はまた、洞窟を出て救出に向かうことにした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 同時刻。

 

 所は変わって東京は松平朋也大佐の邸宅。

 

 松平朋也大佐はその応接室に後輩の近藤勲中佐を呼んでいた。

 

 松平朋也大佐は大本営若手のまとめ役のような立場にあり、元帥である山本大将に見いだされて参謀本部付きになった男である。

 

「舞鶴から遥々、すまないね」

 

 近藤中佐に松平大佐は言った。

 

 松平大佐に対面して座った近藤が苦笑しつつ

 

「先輩の呼び出しですからね。何があっても駆けつけまさぁ」

 

 と言った。

 

 この二人は同じ士官学校の出であり、先輩と後輩の仲だった。とはいえ松平は主席かつ生徒会長、しかも将来を期待されていたのに対して、近藤はとにかく『問題児』としてその内申は酷かった。それこそよく卒業出来たものだと言われる程である。

 

 というか、近藤の問題行動を先輩である松平が揉み消したりした事も一度や二度ではない。

 

 松平はこの近藤が起こした『問題』がそもそも近藤が原因を作ったのではなく、海軍の『問題』を彼が掘り起こし、そして明るみに出した物だと知っていたからである。

 

 近藤勲という男はとにかく厄介事に首を突っ込む。しかしその厄介事は大抵、悪に泣く誰かの涙を内包しているような軍の暗部、大抵は『犯罪』がらみだった。

 

「今まで私は君の『問題』を処理してきた側だった。だけど、今回は君の助けが必要になった。力を貸してくれないか」

 

 松平はそう言って近藤にレポートらしき物を差し出した。

 

「この場で読んでくれ。すまないがここから持ち出すのは許可できない」

 

 そのレポートの表紙は白紙。題名など書かれてはいない。だが、中身は驚くべきものだった。

 

「……小島基地?というかこれは」

 

「そう、このレポートは君と同期の現在諜報部所属の沖田総美少佐の出したレポートだ。小島基地司令の白鳥万智子中佐を告発する旨書かれているのだが、上層部はこれを揉み消しにかかった。沖田君も今、上層部子飼いの暗殺部隊に追われて逃亡中だ」

 

「沖田が?!」

 

「……彼女は元対深海棲艦特殊部隊のエースだった女だ。そう簡単に狩られはしないだろうが、しかしこの状況が続けば如何に彼女とはいえ持ちこたえられるかわからない。故に、君の力を借りたいんだ」

 

「……なるほど、白鳥財閥絡み、ですか」

 

「今の海軍は悲しいかな、軍というものがいかなるものなのかを忘れている輩が多いと山本元帥閣下も嘆いておられる。誰もが、黒い手を握れば己の手も黒く汚れるということを忘れているのだ」

 

「クソの付いた手を握ればエンガチョ、ですね。しかしなんとも独特の風体のおっさんですな、これ。成人病の塊みたいな……こりゃクソですな」

 

「一応、白鳥万智子中佐は女だ。……これでも」

 

「うへぇ」

 

 イヤなもん見たぜ、と近藤は天井を仰ぎ見る。この近藤はある意味女性に対して尊重するタイプの人間であるがやはり例外というものが存在するらしい。

 

「とにかく、手段は選んでいられない。君の所の土方君に、『ブラック鎮守府ブレイカー』に動いてもらえないだろうか。証拠固めはとうに済んでいる。私の実家のバックアップも体制は整ってるよ」

 

「……こんなオバハンを吊させるんですか?うへぇ、見たくねぇなぁ」

 

「……いや、まだ27歳だという話だぞ?白鳥万智子中佐は」

 

「……先輩、知りたくもない情報ばかりですね、ホント」

 

 正直な所、知りたくもない事実であった。

 

 

 

 

 

 




 三馬鹿の一人、近藤勲中佐(現大将)の登場です。

 沖田総美少佐を追いかけているのは実は後々にパラオに来る龍田だったりするわけですが。

 土方歳子とゲシュペンストの第一次遭遇の時も近い。

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