造田博士の危険な発明品(いろんな意味で)。
造田家の家計の事情。
メインヒロイン、やっとこ出てきたよ?
「……飛行艇というものは初めて乗るが、ふん、海軍は資金が潤沢で良いねぇ。つか、シャンデリアなんぞ、どこの貴人が乗る飛行艇だ?」
軍刀を両手を重ねて杖のように突き、真っ直ぐ正面を向いて誰に語るでも無く、緑色の陸軍軍服に身を包んだ長身の男が飛行艇の真新しく煌びやかな内装を見て悪態を吐いた。
はっきり言って予算の無駄遣いでしかないような飛行艇である。正直言ってこれから作戦地域に向かうのに使う機体ではない。
この飛行艇はとある海軍の上層部の大将が海軍の予算で自分用に勝手に生産させた特別豪華に造らせた飛行艇である。
もちろん、それは海軍の資財の私有化であり、許されるはずもなく、縞傘財閥とは直接関係はない大将ではあったが、今頃、憲兵の厳しい事情聴取を受けている事だろう。
無論、彼は罪に問われ軍を追われることとなるのだがこの機体においては海軍の予算にて造られたものであるから、海軍にて運用することとなり、松平准将がそれを接収し今回の作戦に投入したわけである。
そんな機体を何故今回使うことになったのか、と言えば、その真新しく内装が豪華なこの飛行艇が必要だったから、としか言えない。
だが、この飛行艇は軍の飛行艇としての能力面では豪華な内装の分、無駄が多く通常の飛行艇より劣る。また、どうせ深海棲艦には効かないからと武装もオミットされており、乗り心地の面は向上されているが機動性はその分やはり劣るという代物なのである。
旅客機としては良いかも知れないが、軍用機としてはどうなんだ?と言いたい代物なのである。
こんなもん、誰が使おうと思ったんだよ?と言いたいが、全ては叢雲の計略の為に使おうと思ったと言うほか無い。
シカタナイネ?
まぁ、他の海軍保有の通常の飛行艇であっても結果は変わら無かったりもするが、これをあえて使ったのは叢雲の鳳翔に幸せになって欲しいと思う、家族愛ゆえに、である。
なにしろ鳳翔は造田博士の元で暮らしていた全ての艦娘達にとっては、母代わりの姉のように慕われていた艦娘なのである。
家事や炊事みんなの世話をしたり、造田博士の行きつけの小料理屋で働いて家計を助けたり、と、正直なところ造田博士を含む、『家族』全員、彼女には頭が上がらない。
そんな相手の運命の相手との初めての出会いを、少しでも良くしようと叢雲は思っていた。というよりもワクワクしながら、今も見ていたりするわけである。
もう乙女の好奇心というか、結果はわかっているけどドキドキワクワクしながら見ているのである。
リアルタイムで『ライブ』と出るぐらいな感じで。
まぁ、それはさておき。
だが、その鳳翔の運命の相手の目は死んでいた。
鳳翔の運命の相手であるその男の態度はすんげぇ悪かった。
乙女の理想とか夢とかそんなもの知ったことか、と言わんばかりにやさぐれ、口には短くなった煙草を咥え、目はどんよりどよどよ。まぁ、仕方あるまい。過酷すぎる戦場を駆け抜けて生き抜いてきた男なのだ。
この男の名は『斎藤一夫』。
陸軍の特殊対深海棲艦部隊・第三分隊隊長にして『鬼の斎藤』と呼ばれた男であり、階級は特務大尉。つまりは二階級上の中佐と同等の権限を持っている。
この陸軍特殊対深海棲艦部隊は『陸特・第三分隊』と呼ばれている。
創設時には、陸軍特殊対深海棲艦部隊は15あったがどんどんその隊員数を減らし、生き残った人員は生き残った分隊に組み込まれ、そうして最後まで生き残ったのが第三分隊のみとなった。
深海棲艦と人間が戦う為には、深海棲艦に対して効果がある武装にて攻撃をせねばならない。だが、深海棲艦にはどれほどの貫通能力を持つ砲も爆弾も効かない。
人間が深海棲艦と戦うには、魂の込められたもの、霊力や怨念の宿った武器を用いて戦うしかない。
しかし、飛道具の類でそういった武器はあまり無く、対深海棲艦部隊の兵装は自ずと霊剣、霊刀、妖刀の類などになって行った。
それはまさに自殺行為と言うべきことであった。ただの刀を持った者が軍艦の砲を持つ、言わば怪物と戦うなど、勝てる道理が無い。
だが、当時、それしか無かったのである。
艦娘も居なかった頃、日本を守るには、それしか無かった。故に、多くの陸軍の兵士達が、刀剣を握り、海から押し寄せる深海棲艦に立ち向かって行ったのである。
対深海棲艦部隊は、どんどん兵士の数を減らして行った。いや、対深海棲艦だけではない。陸海空、どの兵士達全体がである。
艦娘が顕れるまでそんな戦いが日本全土で繰り広げられていた。
だが、それも過去の話になってしまった。
今や艦娘に深海棲艦との戦いはとって変わられ、閑職へと追いやられた成れの果て、と斎藤は自分達の事を言い自嘲して笑う。
多くの仲間達を失い、その屍を踏み越え、深海棲艦と戦い、身体に染み付いた血がどちらの血なのかわからぬ泥沼の海で死に物狂いで戦ってきた男ではあるが、斎藤にはそんな戦場に未練は特に無い。
正直な話、血を求めて、とか戦いを求めて、とかそんな事を思うような戦闘狂では無い。
むしろ、無駄飯食いと言われようが役立たずと言われようが、給金もらって毎日のほほんと暮らせればそれでいいと思うようなぐうたらな男であり、二度とあんな戦いは御免だと思っている。
なのに、今回召集が掛かった。
止めてくれよ、とか正直思った。
嫌だと言うのにいきなり黒塗りの高級車に無理矢理乗せられ、着いた先が政界のドンの中倉翁の屋敷で、それでなくても嫌な予感と確信しかしないのに、奇妙な薄い板のようなテレビを見せられ、深海棲艦以上にグロくてキモイ訳の分からん生物の映像を見せられ、お前たち、コイツら始末してこい、である。
しかも、その後に渡されたやたらと上質な白い紙に印刷された鮮明な絵というか写真付きの資料を見れば、その正体不明な訳のわからん生物は、縞傘財閥と旧・左派政権の生き残りのテロリスト達によって造られた生物兵器であり、それは艦娘や深海棲艦に取り付く寄生生物で写真は艦娘を食い破って出てきたものだという。
つまり、艦娘をその生物兵器と交戦させればその生物兵器はどんどん増えていくので、艦娘は使えん。ただし通常兵器は全く効果が無いから、お前らが行って駆除して来い、というわけなのである。
はっきり言おう。いや、もうとっくに帰りの黒塗りの高級車の中で上司にも言った。
『んなもん、無理に決まってるだろ?!』
と。
だが、却下された。
『もうすでに君の部下、第三分隊は海軍の輸送船にて現地前線拠点に出立している。あとは君を送り出すだけだ』
つまり、上司は『おまえら死んでこい』と言ったわけである。
「いつか絶対にあのケツにTNT詰めて月まで飛ばしてやるかんな」
忌々しそうに斎藤はそう言い、苦々しい顔で吸っていた煙草をお気に入りの金属製の円筒携帯灰皿に押し込んだ。
と、外のタラップからカンカンカンという音がした。それは斎藤の聞き慣れた軍靴の音ではない。いや、海軍の連中の靴の音でも無い。雪駄か何かのようなパタパタパタ、という音も同時にする。
はて?と思ってタラップの方を見れば、着物姿の女性、それもまだ若く少女の面影さえ残すような、そんな育ちの良さそうな女性が機内に搭乗してきた。
斎藤は、おそらくは海軍のどこかの上の人間の娘で、父親が出立するのを見送りに来たのか、と思ったが、どうも様子が違う。
何しろ、
「あ、ここ失礼します」
と斎藤の隣にわざわざ来て座ったからだ。
「あ~、君、というかお嬢さん、この機はこれから南方の作戦地域、つまり戦場へと向かう飛行艇だ。乗る機を間違えて無いかね?」
戸惑いつつも斎藤はその女性にそう言ってやる。何しろこんなお嬢様にしか見えないような女性を戦地に連れて行くなどという手違いや間違いはいかんと思ったからである。
それに、あの資料の生物兵器とやらが本当ならば、かなり凄惨な戦いになる。流石にこんな民間人の女性を守りながら戦うなど不可能だ。
「はぁ、この機はUS-2・1088、イットバヤットの近くの島に向かう飛行艇ですよね?」
「ああ、それで間違いは無い。しかしそこは海軍の前線拠点が敷かれている。つまり戦場だ。君のようなお嬢さんが……」
と、言ってふと、斎藤はその女性の顔を見て何か記憶にある顔だと思った。
出張で出向いた先で海軍に行った元部下と偶然ばったり会い、無理矢理連れて行かれた居酒屋の女将がこんな顔では無かったか?と思い出す。
その後、出張先であったこともあり二度と行くことは無かったが、斎藤の好物の出汁巻きが旨かったのを覚えている。
「……あんた、あんときの居酒屋の女将さん、か?」
「はい、居酒屋を営まさせていただいております。たしか一度、沖田少佐と来られましたよね?覚えております。たしか、斎藤さんでしたか?」
「……えっと、その居酒屋の女将さんが、なんでまた戦地に?というか、まさか海軍のどっかの偉いさんのお付きとか?なら止めとけ。詳細は言えないが、あそこは今、とんでもないことになってる。俺達だって生きて帰れるかわからんのだ」
斎藤は席から立ち上がり、その女将さんの手をとって、引き、本気で彼女の事を思って飛行艇から降りるようにと諭し、彼女を立たせようとした。
冗談じゃない、自分の元部下である沖田が世話になっていると言っていた民間人の、居酒屋の女将さんをとんでもない事になっている戦場に巻き込んでたまるか、と思ったのである。
しかし、その女将さんは、微動だにせず、にっこりと笑うと、
「本来、戦地こそが私の赴く場所です。それに、私の所属する艦隊、大本営第一艦隊のみなさんは、もう出立しております」
と言った。
「はぁっ?!それは、どういう…‥?」
ガコン、と降りていたタラップが上がり、飛行艇のドアが閉まる。
「ちょっと待て!おいっ!!」
斎藤は操縦席のパイロットに向かって叫ぶように発進しようとするのを押し留めようとしたが、パイロットは無情にも、
「予定時間です」
と全くこちらの方を見ようともせず、ガルン、ガルンガルン、とエンジンをかけ、まるで止められない内に飛んでしまおうとでも言うように、素早い手順で飛行艇を発進させてしまったのである。
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さて、一方無人島拠点である。
こちらでは『深海扶桑』の探索がようやく終了していたが、予測の遥か上を行くような、異常な事態に玄一郎もゲシュペンストも驚愕していた。
いや、結論から言えば『深海扶桑』は無事であった。いや、寄生生物による感染は無く、彼女の救出作戦の手順もほぼシミュレート出来ている。
しかしながら、それ以外の出来事が問題であった。
何故ならば。
深海扶桑を捕らえている器具、というかその装置が問題だったのである。
〔T-Linkシステム?!いや、細部の部品や構造に相違はあるが、何故これがこの世界に!?〕
深海扶桑はまるで人工冬眠、コールドスリープカプセルのような機材の中に入れられているが、その機材の周りを囲むようにして、特殊な機材が剥き出しでそれぞれ繋げられており、一見、その機材の数々が何の為の物かゲシュペンストも解らなかったが、構造などを一つ一つ分析して、それが『T-Linkシステム』である事を突き止めた。
おそらくは何者か、T-Linkシステムをこの世界で再現使用として様々な機材を継ぎ合わせて造ったのだろうが、そのような芸当が出来るのは、実物のT-Linkシステムの構造を知る者以外に有り得るとは思えなかった。
「ちょっと待てよ、ゲシュペンスト。T-Linkシステムってのはお前の世界のシロモンじゃねぇか!なんでこの世界にそんなモンがあるんだ?!」
〔わからない。だが、辻褄は合う。フィリピン泊地、その島全体を覆うほどの念動フィールド。そして感染者全てに働きかけられるほどに強い念。まさかとは思ったが……。この世界に特脳研の関係者か、もしやエアロゲイターの先兵が来ているのか?!〕
もし、そうならば由々しき出来事である。敵方にかなりの技術力を持つ者が居り、それが手を貸している事になる。
しかし、さっきまで泣いていた龍田が今は上機嫌でパンケーキをパクつきつつ、
「ん~、それってお父様が開発した、霊力計測器じゃない?いろいろおかしな物がくっついてるみたいだけど」
などとモニターを見ながら言った。
「霊力……計測器?」
「そうよぉ?お父様は、深海棲艦には何故、人の兵器が通用せず、艦娘の攻撃ならば通用するのかを調べるためにいろんな物を作ってた事があったのよ。そのうちの一つが、そのカプセルね。何か液体が入ってるけど」
龍田が言うには、その霊力計測器や霊力増幅装置、そして人間の霊力を増幅して深海棲艦に攻撃を通用させる霊力機関といった発明を造田博士は行っていたらしく、その技術的特許は数知れないのだという。
しかし、その技術的特許も左派達は彼から取り上げ、そうして様々な左派におもねる企業に分配し、そしてそれによる利益でそれぞれの企業は大きく成長、そして様々な財閥を生んだのだという。
「腹の立つ話だけどね。お父様の発明は全て三核財閥、白鳥財閥や縞傘財閥、灰場ファーマシー、いろんな連中に取られて行ったのよ」
竜田はそう言って深海扶桑の繋がれている機械の一つ一つを指さし、一つ一つ説明をしていった。
「このカプセルは霊力を測定する装置よ。昔、艦娘の叢雲や扶桑と山城、霊力が高い子達をお父様はよく測定してたわ。その横は分解されているけど、お父様が初期に使ってた霊力放出型のバスターパックね。深海棲艦を退治するのに使ってたわ。これは人の霊力を増幅してエネルギー怪光線を出す武器で…‥」
「ちょっとマテ。いや、突っ込みどころ満載なモンが出てきたんだが。まさか『幽霊禁止』なマークとか付けてなかったか?それ」
「ええっと途中から『イ級禁止』のマークになってたけどぉ?」
「すっげえあっぶねぇ?!いや、マーク変えてて良かった!!」
そう、それはどう考えても、、科学の力で幽霊退治をする、某アメリカ映画のあの背負い型の幽霊捕獲用の武器のパクリだった。
「あっぶねぇ、つか外装が分解されてて良かったぁ?!」
「えっと、まぁ危ない武器だったけどぉ、なに?」
「いや龍田、うん、それにはもう触れるな。ギリギリだ」
「?」
龍田は首を傾げたが、はっきり言って危ないからね?某アメリカ黒ネズミよりかは何とかなりそうだけど、その辺突っ込まないようにね?約束だぞっ!
それぞれの装置の説明を聞き、ゲシュペンストは驚きのあまり信じられない、と言った。
〔つまり、それぞれが全く違った意図で造られた、と?〕
「ええ。そもそもお父様の発明は行き当たりばったりの思いつきで造られたものがほとんどだったものぉ。それに造った時期も違うし?」
「つまり、何物かが造田博士の発明を組み合わせて、目的の効果を生み出す装置を作り上げた、と言うことか」
「言っておくけどぉ、この装置はお父様が組んだわけじゃないわ。何しろお父様なら、こんなに分散して作るわけ無いもの。構造美とかデザインの綺麗さとかに拘るもの。こんなゴミゴミした配線、ありえない」
「……ふーむ、確かにそうか」
玄一郎はかつて龍田と那智を連れて、廃墟になっていた造田博士の研究所の中を調べた事があった。
様々な機械類はおそらく政府や軍に持って行かれていたが、しかし残っていた用途不明の機材を見るに、確かに造田博士の造ったものは、構造や配線など、きっちりと整理され、一種の美意識さえも感じるほどにコンパクトかつ機能美を追求したもので、龍田の言うことは納得出来た。
〔造田博士は、このような機械を発案したことは?〕
「うーん、それはわからない。でも、発案したなら昔に造ったものなんて流用しないし、最初から図面を引いて設計段階ですでにデザインも終わってるもの。それは無いと思う」
「ゲシュペンスト、龍田の言うことは確かにそうだと思う。……まぁ、高速修復剤の容器がバケツとか、そういう妙なセンスって前例もあるけど、それだって使用目的を考えりゃ合理的だ。俺は無いと思う」
〔むぅ。天才科学者が、時折とんでもない者を造ってしまう例はかつて見てきたが……。超電磁ロボや光子力で動くロボット、ゲッター線という謎のエネルギーで動くロボ……。もしや造田博士は、この世界においてそういう立ち位置の人物なのかも知れん。だが……〕
偶然にしては、上手く行きすぎている気がする、とゲシュペンストは言いかけたが、それを遮るように龍田が言った。
「なんなら、扶桑達に聞いてみたら良いと思うわ?何しろお父様の実験に一番付き合ってたもの。うん、パンケーキも食べたし、呼んでくるわねぇ?」
龍田はパンケーキを食べ終わり、満足そうに、ルンルン、と、軽い足取りで厨房から出て行った。
「……どう思うよ、相棒」
〔判断材料に困る。だが龍田は嘘を吐くような娘ではない。念のために計っていたが心拍数その他共、そのような計測結果は出ていない〕
「……疑ってたのかよ」
〔いいや、知らぬ事で対処を間違えたくないのだ、私は〕
二人は龍田が扶桑姉妹を連れて来るまで、ドローンで深海扶桑が入れられているカプセルを入念に調べる。
「……このカプセルの外装だが、確かに『造田霊力研究所』と書いてあるな。『造田式霊力測定機』か。しかし、うーむむむむ。ゲシュペンスト、この『深海扶桑』さん、扶桑さんそっくりだ」
〔……深海山城と言い、こちらの深海扶桑と言い、二人とも良く似ている。……身体データを計測したが、ほぼ同じ身長、体重、体型だ。しかし、今まで他の同一艦達とも接触しているが、これほど同じ数値の者は居なかった。何か関係があるのかも知れん〕
「……ああ、そっくりだ。やっぱ、美人だなぁ、扶桑さん。性格もやっぱり同じなのかな?優しくて大和撫子で、声も綺麗でさ?」
〔それは助け出してから確認すれば良いが、玄一郎〕
「本当、助けてあげなきゃな。深海山城も山城そっくりな性格だったし、やっぱり深海扶桑さんもきっとそうだと思うんだよ。あれだけ深海山城が慕ってんだ、必ず助けて安心させてやろうぜ!しかしここまで似ていると、マジで双子みたいだな……」
〔相棒〕
「だからなんだって。このカプセルの強度は出せるか?突入するにしても……」
〔扶桑と山城が……〕
「ああ、二人一緒にいられるように必ず助けようぜ。山城が悲しむのはたとえ深海側でも見たくない。つか強度の割り出しを頼むってさっきから……」
「あのゲシュペンストさん?その……」
後ろから扶桑の声がした。
「あああ、あんた、なに恥ずかしい事言ってんのよ?!」
山城の声も、だ。
「なんとっ?!」
玄一郎は後ろを振り返り、そこに扶桑と山城がいることに驚いた。
どこから聞いていたのか、扶桑の顔は真っ赤だがどこか嬉しそうであり、山城も何か複雑そうな表情だったがやはりその顔を真っ赤にしていた。
「……あはははは、来てたのに気づかんかった」
「……いえ、すみません、その、あの……」
「いや、うん、まぁ……ええっと、まぁ、あはははは」
「はぁ、本当にあんたねぇ。ったく、恥ずかしいわね!」
扶桑姉妹の反応から、おそらく最初から聞いていたのに違いない。
ようするに、深海側の扶桑や山城の事を言いつつ、艦娘の方にも自分の思いを伝えていたようなもので、玄一郎は非常に恥ずかしい事を言ったような気がした。
いや、気がしたどころでは無く、言っていたのだが。
「うわぁ、ゲシュちゃん恥ずかし~?んふふふ、でもそこがゲシュちゃんの良いところ?」
龍田がプククククと笑いながら茶化す。
「扶桑、優しくて大和撫子ですって。山城も、山城を悲しませたく無いですって~?わあっ、うふふふ」
「ぐぅぅ、龍田、もう止めてくれ。俺、穴に入って埋まりたくなるから」
「あ、あの、龍田、もうその辺にして?その、わたし、は、恥ずかしいわ」
扶桑は顔を両手で覆って隠すが、その耳がかなり赤くなっていた。
「あ、あんたねぇ、その、ああっもうっ!」
山城も顔が真っ赤で、言葉が出てこない。
「あらぁ?声も出ませんかぁ?」
プークスクス、と龍田がニマニマしながら山城をからかう。龍田の性格とすればそんな事は非常に珍しいのだが、おそらく指名手配されていた間は接触すら出来なかった、家族同然の二人になんの気兼ねもなく話す事が出来るようになって、それが嬉しくて、おそらく浮かれているのだろう。
「あはっ、でも本当久しぶりぃ。こうして話をするのって。高雄もいたし金剛もいた。はぁ~っ、なんだか夢みたいだわぁ」
「……ううっ、確かにそうだけど龍田、性格変わってない?というか、ずっと心配してたのよ?江ノ島でもルソンでも、本当、生きていてくれていたのがわかって嬉しかったけど、あの時何にも話してくれなかったから……」
「そうよ。那智もあなたも!私達、本当に心配したんだから!っていうか、あんたなんかこのバカの影響やたら受けてない?ルソンで会ったあと、このバカが暴走して基地ぶっ潰したけど……、まさかコイツと行動を共にしてたとか言わないわよね?」
「「ギクッ!」」
「…………はぁっ、不幸だわ。私達の家族が、こんな暴走バカ一代テロボットと一緒に海軍の基地をぶっ潰してたなんて」
「誰がテロ+ロボットだ。言っておくが、俺は造田博士の救出に手を貸そうとしてたんだぞ?……天龍と川内達の方が先に助けてたけどな」
「……おっそーい!なにそれ?」
「ああ、遅くなってしまったのは俺のせいだと認める。思わぬ事態があったからな。だが俺でなくても助かったのは良かったと思うぜ。だが……なぁ、ゲシュペンスト」
〔ああ。まさか今回で造田博士の造った物で悩む羽目になるとは思ってもみなかったのだ、扶桑、山城〕
「あら、機体の方のゲシュペンストさん、お久しぶりです。ええっと、御父様の造った物、ですか?」
〔うむ、これを見て欲しい。このカプセルの中にいるのが、深海側の扶桑なのだが、問題はこの機械だ〕
「これは、御父様が造った霊力測定器ね、ねえさま。昔、よくこれで霊力とか計られたけれど……なんか色々ごちゃ混ぜになってない?これ」
「というか、何故霊力式自動掃除機の『タンバ』がここに接続されてるのでしょう?それに霊力式人面ロボット犬の『GIVO-AIBO(ギヴォーアイボ)』も……」
「扶桑さん、ストップストップっ!!なんか全部いろんな意味でやべぇっ?!というかなんつうネーミングだよそれっ?!つかなに考えてんなもん作ったんだよ、造田博士はっっ!?」
ツッコミどころしか無い危険な代物ばかりだった。というか若い人にはわからないネタしか無かった。
「まぁ、結局全く売れなかった物ばかりなのよね。思いつきだけで作ってたから。在庫だらけになって、資金繰りが上手く行かなくなって、結局、鳳翔さんが小料理屋で働いたり、ねえさまや私とかが内職やったり、叢雲達が新聞配達のバイトしたり、最上とかも牛乳配達してたっけ?」
「語られる造田家の内情っ?!つか、丹波○郎の顔付きルンバとか、宜○愛子のロボット人面犬とか売れるわけねーだろっ?!」
なお、どちらも故人である。ゆえにかなり不謹慎でもある。というか造田博士(ビアン・ゾルダーク)は一体どんな思いつきでそんなものを作ったのか。
〔……相棒、造田博士が、この『T-Linkシステム』に関わったとは到底思えない。むしろこんなものを流用して大それた代物を作ろうと思った奴の脳みその中身を知りたくなってきたぐらいだ〕
「いや、俺はむしろ、中身の構造云々は良いとして、なんでこんなあかんデザインになったのかが知りたいぞ……。人面自動掃除機に人面ロボット犬……」
なんにせよ、造田博士に対する謎は深まった……ような気がするが、T-Linkシステム云々に関わったとは思えない、と言う結論は出た……ような気がするゲシュペンストと玄一郎であった。
丹波哲○の顔面付きルンバ。宜○愛子の顔面付きロボット犬。なんでそんなネタが出てきたのかわかりません。
そういえば昔、エロゲーで義母愛子、とかいうのがあったような気もしますが、どうもあの宜保○子の顔が浮かんでなんか嫌だった記憶があります。
いえ、酒飲んで酔っ払って書くと、訳が分からない展開になるので気をつけようと思いました。