狸とグルメ   作:満漢全席

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なんでNARUTOを原作にしたのかというと。
異世界モノで完結してて食性が現代日本に近い。
そんな条件を満たす作品が他に思いつかなかったからです。
というのが建前で本当は書きたかっただけ。



第一話 欧風カレー

 日向ハナビの足取りは弾んでいた。背負ったリュックが背中で跳ねる。

 木ノ葉隠れにある商店街の、とある角を曲がって裏路地へ入る。すると目の前には潰れた一軒の料理屋が現れた。

 しかし店の扉は当然のように閉ざされていて、風化具合からも開かれなくなって久しいことがわかる。だがハナビは迷わず店の裏手へ。

 裏口も同じく閉ざされているが、ハナビは知っているのだ。扉の横にあるしなびた花が植えられた鉢植えの下に、合鍵が入っていることを。

 勝手知ったるとばかりに合鍵を使って裏口から店舗へと侵入。長い廊下を抜けて寝室として使われている一室へと向かう。

 

「サツキ兄様、朝だよ!」

 

 襖を勢いよく開き、こんもりと膨らんだ布団に迷わずダイブ。ぐぇっと潰れたような声が布団の下から漏れた。

 

「……は、ハナビか……おはよう」

「おはよう! サツキ兄様!」

 

 ハナビが圧し掛かっていた布団から飛びのくと、サツキ兄様と呼ばれた少年が億劫そうに布団から這い出してくる。

 金糸のような髪に、透き通るような碧眼。

 パーツはそれなりに整ってはいるのだが、眠気全開でどこまでもやる気のない表情が全てを台無しにしている。もっとシャキッとすればモテるだろうにとハナビは残念に思う次第だ。

 そんなサツキに続くようにして、布団の脇からひょこりと黒い砂で出来たぬいぐるみのような丸い物体が這い出してきた。

 

「んがっ……もう朝……いや昼か?」

 

 不気味さの中に愛嬌を漂わせるそれに、ハナビは元気一杯に抱き着いた。ほんのり酒の匂いがする。また二人で酒盛りでもしていたのだろう。

 

「師匠も、おはよう!」

「ああ、おはようハナビ」

 

 真ん丸で黒い、砂で出来た体。本人は狸だと言い張っているが、どう見てもマリモかボールにしか見えないそれは、砂狸(すなたぬき)の“師匠”だ。

 本人が主張するところによると通称はいちび、本名はしゅかく、とかいう仰々しい名前らしいが、その名前で呼ばれたのを聞いたことがない。何時でも三百六十五日、毎日変わらず砂狸扱いである。

 ハナビには良くわからないが、本当ならその名前はナイショにしなければいけないものらしい。存在していることが知られるだけでやべぇ、というのがサツキ談である。

 そんなわけで大っぴらに本名を呼んではいけないので、ハナビは師匠と呼ぶことにしている。見かけによらず凄く長生きをしているので、色々なことを知っている人生の師匠だ。

 

「……ハナビ、俺は顔を洗ってくるから、暫くその砂狸で遊んでろ」

「はーい、師匠、遊ぼ!」

「ぐえっ……ハナビ、もう少し優しく……ぬおおおお!?」

 

 

 

 抱き締められて変形する砂狸の悲鳴を聞き流しつつ、サツキはふわぁと大きく欠伸を漏らした。今日も朝から騒がしいことだ。

 サツキ兄様こと、サツキは転生者である。よくわかんねぇままこの世界に生まれ、よくわかんねぇ流れで一尾の陰のチャクラとかいう守鶴2Pカラーを押し付けられて暮らして来た。

 露呈すれば明らかにヤバいこの二体目の守鶴を必死に隠しながら生きていく日々であったが、それについに耐えきれなくなったサツキが生まれ故郷を飛び出し、遠い異国である木ノ葉に住み着いたのが数年前のこと。

 今では日銭を稼ぎながら、この潰れた料理屋で悠々自適な食道楽を送る日々だ。自由と平穏はかくも素晴らしい。

 

「それでハナビ、今日はなにを持ってきたんだ?」

「うーんとね、これ!」

 

 旧料理屋の厨房に移動すると、ハナビが背負っていたリュックを調理台の上で引っ繰り返す。

 すると出てくるのは数々の野菜たち。まるで統一性がない。まさに目についたものを適当に放り込んできました、という感じのラインナップ。

 これらは日向宗家の台所から拝借された代物だ。こうして昼前になるとハナビが持ってくる。おかげで家計は大助かりである。

 

「こりゃまた雑多というかなんというか……どーすんだよサツキ、なに作るんだ?」

「そうだなぁ……」

 

 砂狸の問いに、ふぅむと唸る。

 置かれた野菜はニンジン、タマネギ、ジャガイモ。これだけでは何ともしようがないので、厨房の業務用冷蔵庫を覗く。

 

「鶏肉があるな」

 

 このラインナップときたら作る料理はアレしかない。カレーだ。

 それも欧風カレー。どこぞの世界の島国では本家を差し置いて国民食とまで言われるようになった偉大なる料理である。

 

「それじゃ、調理開始といこうか」

 

 早速とばかりにサツキは大きな寸胴鍋を取り出した。元が料理屋だっただけに、厨房設備はとても良いものが揃っている。

 まずは鶏肉だ。バターを一欠けら落とした寸胴鍋で、一口大にカットした鶏モモ肉を焼いていく。

 ポイントは強火で一気に焼くこと。後で具材と一緒に煮込むため、このタイミングで中まで火を通す必要はない。外に軽く焦げ目がつくくらいまで一気に焼き上げる。

 すると鶏の皮から油が出てくるので、それを残して鶏肉を取り出しておく。この鶏肉は暫くお休みである。

 

「よし砂狸、早速だが出番だ」

「おうサツキ、なにをすりゃいいんだ?」

 

 次は鶏の油とバターが薄く残った寸胴鍋に、刻んだタマネギを投入する。まずは強火で、目に染みる蒸気が出てこなくなるまで炒める。

 そして蒸気が出てこなくなったら弱火に切り替えて、タマネギが飴色になるまでジックリと炒める。ここが美味しさのポイントだ、手を抜いてはいけない。

 

「こいつを飴色になるまで炒めろ、焦がすんじゃねぇぞ」

「あいよー」

 

 この辺りは砂狸に任せる。こいつは基本的に疲れ知らずなので、こういう単純な力作業は全て任せてしまって構わない。

 ニンジンとジャガイモは一口大にカット。大きな野菜がゴロゴロと入ったカレーも好きだが、今回はハナビが一緒なので彼女の口に合わせた大きさにする。

 

「サツキ兄様、ニンジンとジャガイモ切れたよ」

「えらいぞハナビ、じゃあそれを鍋に入れようか」

 

 タマネギも丁度良い具合に炒められてきた頃合いだ。横からそっと覗き見れば、タマネギは綺麗な飴色になっていた。炒められることによって甘さが増したタマネギの良い香りがここまで漂ってくる。

 そこにカットしたニンジンとジャガイモを投入。さらによく炒める。飴色になったタマネギは水分が飛んで焦げ付きやすくなっているので、よくかき混ぜるのがコツだ。

 

「そして例の如く、こういう単純作業は砂狸に全て任せる、と」

「毎度思うが……俺様にこんなことをさせる奴は、歴代でもお前だけだぜ……」

 

 黒い砂玉狸がブツブツと文句を言っているが、キッチリと手は動かしているようなので制裁はしないでおいてやろう。何事にも寛容さが必要な時代なのだ。

 さて、野菜を炒めさせている間に、カレーの本命に取りかかるとしよう。味の決め手、すなわちカレールーだ。

 カレーと一口に言っても様々な種類があるのだが、今回作るのは欧風カレー。そういうわけで、最初に使うのはスパイスではなく小麦粉。

 熱したフライパンに小麦粉を入れ、キツネ色になるまで炒っていく。軽く香ばしい匂いがしてきたら、それで大丈夫だ。

 

「おい砂狸、こっち向いて口を開けろ」

「ん? あいよ」

 

 砂狸が大きくあけた口の中に、ズブリと腕を突っ込む。少しだけひんやりとして気持ちいい。

 ごそごそと中をまさぐって目当ての小箱を見つけると、それを一気に引き抜く。

 

「よし、もういいぞ」

「なぁサツキ……我ながら疑問なんだが、俺様の口の中ってどうなってんの?」

「ほぼ食材の保管庫になってんなぁ……いやぁ、封印術って便利だよなぁ」

「天下の守鶴様が保管庫代わりか……情けねぇ……」

「いいじゃねぇか、そのおかげで今日も美味い飯が食えるんだからよ」

 

 小箱の中身は各種スパイス瓶の詰め合わせ。瓶の蓋を取って鼻を寄せれば、かぐわしい異国の香りが鼻腔一杯に広がる。保存状態は完璧だ。やはり食材は封印して保管しておくに限る。

 フライパンが冷めているのを確認してから、小麦粉とスパイスの調合に入る。ちなみにだが絶対に熱いフライパンにスパイスを入れてはならない。スパイスは熱を加えると香りが飛んでしまうのだ。

 

「レシピは色々とあるが……今日はシンプルに行こうかね」

 

 スパイス類は全て粉末にしてから保存してある。本来なら使用前に挽くのが一番なのだが、封印して保存しておけば風味は劣化しないようなのでとても便利である。

 まずはカレーのカレーらしい香りの元となるクミンシード、色付けにターメリック。

 次にスパイシーな味の元になるガラムマサラとコリアンダー。これらを増量するとグッと大人な味付けになるのだが、今日はお子様(ハナビ)が居るので控えめに。子供は苦味やエグ味を感じ易い舌を持っている。

 辛味の元は赤唐辛子なのだが、例の如くお子様が居るので今回は胡椒だけに留めておく。隠し味にクローブとシナモンを少々、あまり入れすぎるとこれもエグ味に変わってしまうので注意だ。

 フライパンに入れて小麦粉と掻き混ぜれば、一気にスパイシーな香りが厨房に広がった。ハナビから歓声が上がる。

 

「わぁ、凄くいい匂いだねサツキ兄様」

「カレー作ってる時はこの瞬間が一番好きだな」

 

 スパイスの調合で感動出来るのは、料理人だけの特権だ。ただし食欲を刺激されるため、とても腹が減る。それだけが問題だ。

 

「砂狸、鍋のほうはどうだ?」

「良い感じに火が通ってきたぜ」

「じゃあ鶏肉を戻すか」

 

 寸胴鍋に先ほど取り出しておいた鶏肉を戻し、よく馴染むまで掻き混ぜる。軽く油が弾ける音がし始めたら、鍋一杯になるまで水を加える。

 本来は邪道だが、ここで鶏ガラスープの素を少しだけ入れておく。水の代わりにスープを入れると仕上がりが一味違うのだが、今回はスープを作る時間がなかったので裏技だ。

 

「ああそうだ、忘れちゃいけないな」

 

 鍋にローレルの葉を加える。今回はとても良い鶏肉だからあまり心配は要らないが、これを入れておくと肉の臭み消しになってくれる。それにこれ自体がスパイスとして香りを出す。

 後はこのまま野菜が柔らかくなるまで煮込む。凡そニ十分から三十分程度だろうか。このタイミングで米を炊き始めれば、カレーが出来上がった頃には炊きたてが食べられる。

 肉を煮込むとどうしてもアクが出るので、煮込んでいる間は丁寧にそれを取る作業だ。例の如く砂狸に任せる、と言いたいところだが、ハナビが退屈しそうなので今回はサツキの番だ。

 

「よしハナビ、そこの砂狸で遊んできていいぞ」

「わぁい! 遊ぼう師匠!」

「おいコラ! お前最近、俺の扱いが酷く……うおおおお!?」

 

 ハナビにまるでボールのようにボヨンボヨンと跳ね上げられた砂狸が、悲鳴を上げながら居間のほうへと飛んで行った。砂狸は犠牲になったのだ。ハナビの暇潰し、その犠牲にな。

 騒がしく暴れる彼等を微笑ましく眺めながら、サツキは雑誌を手に取った。アクを取るだけなので正直に言うと暇なのだ。

 月刊木ノ葉の料理。特集はラーメン一楽。店主のテウチさんがニカリと良い顔で写っている。久しぶりにラーメン作りも良いかもしれないな、とサツキは鍋を掻き混ぜながらそんなことを考えていた。

 

「さて、そろそろいいかな」

 

 数十分後。

 串を使ってニンジンとジャガイモの火の通り具合を見る。良い感じにホクホクになっていた。

 

「それじゃ仕上げといこうか」

 

 早速スパイスを投入、といきたいところだが、スパイスは火を入れると香りが飛んでしまうので最後にする。先に隠し味の類を入れていく。

 まずはコクを出すためにニンニク、スパイシーな後味のために生姜。どちらも摩り下ろしたものだ。あまり入れすぎると味が偏るので、ほんの一欠片にしておくのが良いだろう。

 次は少量のハチミツ。カレーを甘口にする方法はいくつかあるが、自然な甘みが出るので今回はこの方法にする。タマネギの甘味だけで仕上げる方法もあるのだが、今回作るのはお子様仕様の甘口カレーなので迷わず投入である。

 

「……うん、良い感じだな」

 

 軽く熱した後、ついに念願のスパイスを投入する。火を弱火にしてから満遍なく全体になじむよう振りかけていく。

 このタイミングになるともう完全にカレーだ。香りは厨房全体にまで広がって、換気扇を通し周囲一帯に飯テロしているのではないかと錯覚するくらいにかぐわしい。

 おそらくここ一帯の今晩のメニューはカレー一色になるだろう。

 

「やっぱりカレーの匂いは腹にくるな……」

 

 くぅ、と鳴る腹を抑えながら、最後の仕上げに入る。塩での味付けである。

 意外に思われるかもしれないが、実はカレーのスパイス類には殆ど味がない。スパイスはあくまで匂いを作り出すためのものなのだ。

 だからカレーの味の濃さというものは塩で調整されている。カレーが薄いと感じたらスパイスを足すのではなく、塩で調節するのがベターだ。

 出来上がったカレーを小皿に取って味見する。

 

「我ながら素晴らしい出来だ」

 

 言っている間に炊飯器から炊き上がりを知らせるアラームが鳴った。完璧である。

 未だに騒がしく遊んでいるハナビ達を呼ぶ。

 

「おーい、出来たぞ!」

「や、やっとか……おいハナビ、いい加減に離せ!」

「仕方ないなぁ……また後で遊ぼうね」

 

 渋々といった様子で砂狸を離すハナビ。任せておいてアレだが、ここまで憔悴しきった姿を見ると少しだけ可哀そうになってくる。本当に少しだけだが。

 ハナビ、砂狸、サツキの順番で炊飯器からご飯をよそい、その流れで鍋からカレーを皿に流し込む。どこか給食の時間を思い出す。

 居間へと皿を運んで、ちゃぶ台を三人で囲む。最近ではこれが日常風景だったりする。尾獣と一緒にちゃぶ台を囲むとは、中々に世紀末な様相だ。そしてそれを全く恐れていない様子のハナビは実に大物である。

 

「おっと、その前に忘れちゃいけないものがあったな」

「んごっ!?」

 

 断りも入れずにノーモーションで砂狸の口に手を突っ込む。封印保管庫の入り口は仮にも守鶴の口なので、荷物の取り出しは飯の前に済ませておかないと手が大変なことになるのだ。

 取り出したのは漬物の入ったツボ。カレーのお供と言えばこれ、福神漬け。あってもなくても良いが、欧風カレーのトッピングといえばこれなイメージがある。

 

「それじゃ改めて、いただきます」

「いただきまーす!」

「いただくぜ」

 

 サツキの号令で仲良く手を合わせ、一斉にスプーンを手に取る。

 カレーの食べ方には色々と流派がある。米とルーを最初に全部混ぜてしまう人も居るし、直前に食べる分だけ混ぜる人も居る。

 ちなみにだがサツキは混ぜずにそのまま一緒に口に運ぶ派だ。砂狸とハナビは食べる直前に少しだけ混ぜる派らしい。

 口に運ぶとスパイスの香りが一気に広がる。食欲を増進させる蠱惑的な香りだ。

 爆弾のような香りが過ぎ去った後に感じるのはルーに溶けたタマネギとハチミツの自然な甘み。そして最後に残るのは鶏の旨みだ。思わずスプーンが進む出来栄えである。

 具であるニンジンとジャガイモも、これまたホクホクでたまらない。

 

「おいしー!」

 

 カレーを口に運んだハナビが満面の笑みでサムズアップ。サツキも無言でサムズアップを返しておく。

 その一方で砂狸は少しだけ不満そうな表情だ。

 

「確かに美味ぇんだがな、俺様にはちょっと辛さが足りねぇよ」

「そんな砂狸君には……これだ」

 

 懐から取り出した小瓶を砂狸の前に置いてやる。

 

「なんだこれ?」

「特製の唐辛子ペーストだ。入れるだけで激辛になる」

「ほぅ……」

 

 小瓶に興味津々の砂狸。中に入った真っ赤なペーストを、小さな匙を使って砂狸のカレーに放り込む。近頃は激辛にハマっているらしいので、三杯くらい入れておいてやろう。

 見た目に変化はなかったが、カレーから立ち上る湯気がツンと目を焼くような刺激的なものに変わった。明らかに激辛の香りがする。早速とばかりに砂狸がスプーンでそれをすくった。

 

「どれどれ……んんっ! これだ、この辛さだ!」

 

 ヒィヒィ泣きながらカレーを食べ進める砂狸。ハナビが物欲しそうにそれを眺めているが、流石にこの激辛はお子様には早い。

 サツキも一匙だけペーストを追加。口に運べば額から汗が噴き出るような辛さが舌先に残る。

 甘口のカレーも味わい深くて良いが、舌が痺れるような辛口のカレーをヒィヒィと泣きながら食べるのもまたオツなものだ。そして辛いカレーに合わせてこそ福神漬けも輝くというもの。

 

「おいサツキぃ、この福神漬け結構イケるな!」

「そうだろそうだろ、中々の自信作なんだ」

「サツキ兄様、私にもちょうだい!」

「おう、食え、好きなだけ食ってけ」

 

 無心で食べ進める。炊き立てのご飯は粒が立っていて、とてもカレーによく絡む。

 気付けば三人の皿は空になっていた。今日も満足の一品であった。

 

 

 

 

 

 

 稽古があるとかなんとかで日向家に帰るハナビを見送り、二人で縁側に出たサツキと砂狸は、並んで茶を啜っていた。散々に玩具にされていた砂狸さんは疲労困憊のご様子。少し労ってやってもいいかもしれない。

 春の日差しが温かく、なんとも眠たくなってくる。このまま砂狸を枕にして昼寝を始めたら怒られるだろうか。こいつはハナビには今日のカレーのように激甘だが、サツキには割と辛辣だ。

 

「平和だなぁ……」

「ああ、平和だなぁ……」

 

 サツキに同意するように砂狸が呟く。平和だ、本当に平和だ。

 けれどもこの平和がいずれ粉々に崩れ去ることをサツキは知っている。

 

「それでどーすんだサツキぃ……木ノ葉崩しとやらが始まったら“あっちの俺様”も来るんだろ?」

「まだ二年は先の話だけどな……いっそ逃げ出したいんだけども、今の暮らしも捨てがたいんだよなぁ」

「お前も木ノ葉に来てからはだいぶ丸くなったなぁ……」

「縁側で人間と茶を啜るとこまで丸くなった守鶴様には言われたくねぇわ」

 

 砂狸、もとい守鶴は本当に丸くなった。性格的にも、物理的にも。

 こいつ本当は巨大な砂の怪物なんだぜ、信じられるかよ。やろうと思えば一夜で里を壊滅させられるんだぜ。誰も信じてくれないだろうけど。

 

「で、どーすんだ?」

「別にどうもしないさ、これまで通りだよ」

 

 これまで通りだ。美味い物を食って寝る。邪魔する奴は沈める。

 サツキの問いに満足したのか、守鶴は口の端を小さく吊り上げた。

 

 




守鶴さんに出張って頂いたのは、オリ主をそれとなく原作に絡ませるために。
あとこれが最も重要な要素なんですが。
キワモノ系の料理でも臆さず食ってくれそうな気配がしたので採用しました。

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