Peace Maker   作:柴猫侍

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№75 U.A.QUEST ‐そして英雄へ…‐

『聞こえますか、英雄の卵たちよ……』

「こいつ、脳内に直接……!」

 

 響く精霊の声に、エイジロウは困惑した様子だ。

 

『仲間が多く集まりましたね。では、私から魔王を倒すための下準備についてお話ししましょう』

「下準備て、そんな料理番組じゃないんだから……」

 

 精霊が直接語りかけてくる事態に、未だ困惑を隠しきれぬオチャコは、不安そうな表情を浮かべながら、聞こえてくる声に耳を傾ける。

 

『単刀直入に言いましょう。今のあなたたちでは魔王に勝てません。そこで、まずはあなたたたちに四つのオーブを探して欲しいのです』

『四つのオーブ?』

 

 聞いたことの無い単語に首を傾げ、声を揃えるイズクたち。

 

『それはかつて、勇者オールマイトを導いた四人の賢者の魂が形となったもの。それらを集めれば、きっと魔王と戦う際に力となってくれるでしょう』

「えー、それではこちらが集めたオーブとなっておりまーす!」

「もう料理番組や!」

 

 精霊の声に呼応し、懐からオーブを取り出すミナたち。

 どうやら彼女たちは、魔王討伐に際して四賢者のオーブを集めていたようだ。

 

 一つは赤く。

 一つは黄色く。

 一つは青く。

 一つは白く。

 

 各々の色を放つオーブは燦然と輝いており、持っているだけでその玉に込められた力に圧倒されそうになる。

 魔王との決戦でキーとなるアイテムを手に入れたイズクたちは、大事そうにオーブを仕舞い、魔王城を目指して歩む。

 

『―――占い師シネンの予言通り、リューキュウ山脈を目指した一同。言葉通り、キュッと右に曲がれば、禍々しい暗雲が天に立ち込める魔王城が見えました』

 

 体育よろしく、全員揃って右向け右をした一同。

 もう精霊の声は聞こえない。ただ、仲間たちと言葉を交わし、友情を深め合い、来たるべき戦いの時のために備える。

 

 襲い掛かってくる魔獣を蹴散らしながら進む一同は、長い時間をかけて漸く魔王城にたどり着いた。

 おどろおどろしい門。

 

「ほぁ~、おっきい門……なんで偉そうな人って、無駄に門とか大きくしちゃうんだろうね?」

「しっ! それは言っちゃダメ!」

 

 素直な感想を口にするオチャコを窘めるイズク。

 すると、剣の柄に手を掛けるテンヤが先頭に躍り出た。

 神妙な顔つき。どこか感慨深さも感じられるような面持ちに、他の者達も思わず生唾を飲んで、彼の背を見つめる。

 すると、剣を抜いたテンヤが、天を衝かんばかりの声を張り上げた。

 

「長かった! だが、ここまで来れたのは他でもない、みんなのお陰だ! 僕たちみんなが力を合わせれば、きっと姫を救けられるだろう! リーダー顔をする訳じゃないが、ここで一度、みんなに向けて感謝の言葉を―――」

「おいおい、水臭いぜ」

「そうよ。テンヤちゃんだけじゃない、みんなの目的は一緒なの」

「だからよ、感謝の言葉は……とっとけよな」

 

 テンヤの言葉を遮るエイジロウ、ツユ、ハンタの三人。

 そうだ、なにも彼らはテンヤに従わされてここまで来た訳ではないのだ。

 各々の抱く思いに違うはあれど、こうして魔王討伐のために集まった同士なのである。

 

 ならば、感謝を伝えるときは、全員で喜びを分かち合う時―――魔王を倒した瞬間だ。

 

 そう言わんばかりに微笑む面々に、テンヤは『みんなっ……』と感無量に呟く。

 

「そうだぜ。だから今必要なのは……」

「魔王への宣戦布告、だよね」

 

 続くミノルとマシラオの言葉に、テンヤは頷き、他の者達もそんなテンヤに頷き返す。

 

 全員を見渡すように門へ背を向けていたテンヤが、門に手を掛ける。

 

「魔王! これだけは言わせてもらおう!!」

「そうだ、言ってやれー!」

 

 ギィィ、と軋む音を奏でながら開く門を前に、テンヤに続くパーティは声を上げまくる。

 

「―――お邪魔します!!!」

 

 テンヤ以外全員こけた。

 

 仕方ない。彼はおぼっちゃまなのだ。礼儀作法は小さい頃より学んでいるため、自ずと育ちの良さが出てしまう場面はあるだろう。

 そんな決戦直前で育ちの良さを披露したテンヤを先頭に、魔王討伐メンバーは魔王城に足を踏み入れた。

 

 暗い。

 一寸先は闇と言わんばかりに、目の前が見えない。

 

「ちょ、暗いよー!」

「一応昼だからって照明無しとかありえないよねー」

「いたっ! ちょ、今誰か足踏んだろ!?」

 

 余りの暗闇に、愚痴が出たりパニックになったりとわちゃわちゃし始める一同。

 だが、そんな喧騒を切り裂くように、一筋の光がとある場所を照らし出した。

 光で照らされている人物に、全員が『あぁ!?』と声を上げた。

 

『透明人間だァー!』

「いや、あのドレス……まさかトオル姫!?」

 

 シクシクと泣く動作を見せているドレスに、透明人間だと騒ぐ一同であったが、テンヤだけは心当たりのあるドレスにハッとした。

 

「そうだ……私の力で姫の姿を“消した”のだ……!」

「そ、その声は……まさか!」

 

 答え合わせをするように聞こえてくる低い声。

 剣を抜き、切っ先を声が聞こえてきた方向に付き出すテンヤ。

 彼の怒りに満ちた声と、他の者達の焦燥や恐怖の滲んだ声は重なった。

 

『魔王!!』

「そうだ……我こそが、魔王アイザワ……!」

 

 トオル姫に当たっていた光が消え、今度は十字架の描かれた棺桶に光が当たる。

 その棺桶の蓋をゆっくり……ゆっくりと開いたのは、黒く長い包帯をローブのように巻き付けている魔王アイザワだった。

 『どっこいしょ……』と倦怠感丸出しの声色で棺桶から出てくるが、その圧倒的な威圧感に、集った戦士たちの顔は強張っていく。

 

「しかし……できれば一人で来いと言ったハズなんだが、なんだその大人数は?」

「そんなことどうだっていい! 姫の姿を消したとはどういう意味だ!?」

「ふんっ、だが一度にまとめて消せるならば、逆に合理的か……」

「答えろ!」

「答えるも何も、言ったままの意味だが?」

「くっ、埒が明かん! こうなったら……!」

 

 激情に身を任せ、皆の制止の声を振りほどき、剣を構えて相澤に斬りかかろうとする。

 その際、テンヤが俊足の騎士と呼ばれる所以の、ふくらはぎのジェットが火を吹こうとしたが、魔王アイザワの眼光がカッと赤く光ったかと思えば、テンヤはただのダッシュで肉迫することになってしまった。

 ただの接近で魔王の隙を突けるハズもない。

 テンヤは、魔王アイザワの手足でもある黒いロープに身を捕らえられてしまい、仲間たちが居る方へ投げ飛ばされてしまった。

 

「ぐはっ!」

「そんな……テンヤくんの能力が発動しないなんて!」

「これが魔王の力だとでも言うの?」

 

 倒れるテンヤに駆け寄るイズクとツユは、彼の能力が発動しなかったことに対し、焦燥を覚えた。

 

「いや、そんなハズ……!」

「こうなったら全員でかかんぞ!」

『オー!!』

 

 エイジロウの声に続いて、拳や各々の武器を掲げ、魔王アイザワに突撃する面々。

 しかし、誰一人として魔王アイザワに傷をつけることはできない。能力を発動しようとしても、その度に魔王アイザワの眼光が輝き、能力が発動できなくなってしまうのだ。

 どんなに鍛え上げた戦士も、能力を封じられてしまえば、魔王にとっては一般人に等しい。

 黒い包帯で捕らえられ、放られ、中央に佇む魔王アイザワの周りには苦しむ呻く一行が横たわる、死屍累々な光景が広がった。

 

「そ、そんな……!」

「ここまで手が出ないなんて……!」

「次元が……違う!」

 

 倒れて悶えながら語るイズク、オチャコ、メゾウ。

 死屍累々の中央に堂々と佇む魔王アイザワは、転がる一行に包帯を巻き付け、宙に浮かす。

 

「英雄の卵も孵らなければただの卵……潰すのはたやすいな。一思いに、トドメを刺してやろう……!」

 

 髪を逆立て、赤い眼光を放つ魔王アイザワ。

 

 だが、誰もがダメだと思ったその瞬間、檻の中に捕らえられているトオル姫がガシャンと鉄棒を掴んだ。

 

「駄目ぇ―――っ!!」

「なッ、ぐあああ……!!?」

 

 姿を奪われたトオル姫の体から放たれる眩い光に、魔王アイザワの瞼は思わず閉じてしまう。

 すると、宙に浮いてトドメを刺される寸前であった戦士たちが地面に下ろされる。

 九死に一生を得たと、体勢を整えて立ち上がる一行は、一度全員集まった。

 

「トオル姫が僕たちを……!」

「はっ……分かったぞ! 魔王の弱点は光だ! あの眼さえ開かれなければ、能力が使えなくなることもない!」

「成程、そういう理屈だったのか!」

 

 テンヤの言葉にハッとしたイズクが、ここぞとばかりに己の推測を口に出す。

 納得した様子のテンヤに続き、イズクの推測に納得する者達も、次々に声を上げた。

 

「だからこんな真っ暗なとこ住んでるんだ!」

「通りで照明少ない訳だよー!」

「これで弱点も分かった! 形勢逆転だぜ!」

 

 オチャコ、ミナ、リキドウの言葉に頷く面々。

 魔王の弱点が分かった今、そして囚われの身でありながら助力してくれるトオル姫の力があれば、魔王討伐も夢ではない。

 一度は消されかけた闘志も燃え上がり、皆の目に光が宿る。

 

 しかし、

 

「くだらん……ぬぅん!」

『わあああ!!』

 

 魔王アイザワが腕を横に薙げば、その衝撃波で一行は吹き飛ばされてしまう。

 

「弱点が分かった途端攻勢に転じる……実に非合理な戦い方だ。まさか魔王が、露わになった弱点一つでやられるとは思っていまい……? 癪だが、合理的にコトを終わらせたいからな……真の姿を見せてやろう……!」

「な、なんだって……!?」

「はああああ……!」

 

 倒れる一行の目の前で、悍ましい声を上げながら力を解放する魔王アイザワ。

 ロープが宙を舞い、髪が逆立つこと数秒。

 

「かあっ!」

『うわああああ!!!』

 

 ただでさえ暗かった城の中が、完全な闇へと暗転した。

 倒れる一行を辛うじて照らすのは、冷たい青い光。

 まさか、魔王が真の姿になる余波でやられてしまったのか? そうなると、今居るここは死後の世界ということになるが、そう言われても納得できるほどの冷たさが、そこには広がっていた。

 

『……が……か』

「う……うぅん……」

 

 不意に響く声に、まずイズクが立ち上がった。

 

『……らが……いか……』

「誰の声……なんだ?」

『力が……いか……』

「力? 力がなんだって?」

 

 繰り返し聞こえてくる声に、周りに倒れていた者達も次々に起き上がる。

 

『力が……闇の力が欲しいか……?』

「や、闇の力!? ……そうか、これはきっと魔王が見せてる幻に違いない!」

 

 闇の力の有無を問う質問に、声を荒げるイズクは、後から起き上がった者達へ注意を促す。

 

「誰が闇の力なんて手に入れるもんか!」

『力が欲しくないのか?』

「欲しくなんてない! そんな甘言に乗るもんか!」

『割とマジメに、力が欲しくないのか?』

「何回言ったって答えは同じさ!」

『欲しいって言ってくれ』

「頼んできた!? でも、欲しくないものは欲しくない!」

『頼む。一生のお願いだ』

「一生のお願い使ったって無駄さ!」

 

 そう言い切るイズク。

 やがて声は聞こえなくなった。

 

 しかし、どこかから聞こえてくる足音。

 すると、突然暗い闇の中に一筋の光芒が放たれ、一人の烏頭の男を照らし出した。

 

「……来ちゃった♡」

「突然遠路はるばる彼氏んち来た彼女か!」

 

 渋い声で『来ちゃった♡』と告げる烏男に、ミノルの鋭いツッコミが入る。

 

 変になってしまった空気を直すため、一度咳払いする烏男は、その鳥目で上半身だけ起こしている者達を見渡す。

 

「俺の言い方が悪かった……英雄の卵たちよ。貴様らが抱く、四人の聖賢の魂宿りし宝玉を掲げよ。さすれば、深淵より深い魔王の闇を打ち砕く、聖なる力を授けよう」

「聖なる力? でもあなた、さっき闇の力を授けようって……」

「それは、俺の担当する属性が闇だっただけだ。深い意味はない」

「いや、もうちょっと言い方考えてください」

「それについては……済まない」

 

 シュンとする烏頭。

 だが、面と向かって話している状況から、多少は話の信憑性が増したため、一行は藁にも縋る思いで四つのオーブを掲げる。

 すると、オーブはユラユラと宙へ舞い上がり、カッと閃光を放った。

 同時に、辺りが再び暗い闇に包まれるが、先程烏男が来た時のように複数人の足音が響く。

 

「―――英雄の卵たちよ。私たちも手を貸します。どうかこの世界に光あらんことを」

 

 精霊の声がダイレクトに聞こえてきた。

 刹那、五人が光に照らし出された。

 

「あ、あなた達は……!」

 

 露わになった姿に、イズクは震えた声で彼らに呼び掛ける。

 

―――耳たぶの長い女子は、ベースを構える。

 

―――ワイルドな服装の金髪男子は、ドラムの前でスティックを回す。

 

―――黒いローブを羽織り烏男と、稲妻の模様が入った髪型のガンマンはギターを構える。

 

―――露出の多いビキニアーマーを纏った女子は、キーボードの前に立つ。

 

「……You Say Run」

 

 ポツリ、とベースを携える少女が呟けば、彼ら―――精霊と四人の賢者による演奏が始まった。

 魂を鼓舞するような熱いメロディーを響かせる五人。

 冷めきった身体が、沸々と燃え滾るような轟が彼らの音が届く範囲に居る者達全員に届く。

 途中、手の空いたギターを携えるガンマンが手拍子をすれば、どこからともなく揃った拍手が揺るがしていく。

 

―――何を?

 

「魂……震わせていこうぜぇぇえええ!!!!!」

 

 精霊の掛け声が、怒涛の歓声を呼び、傷つき倒れた彼らの鼓動となってこの世に魂を呼び戻す。

 

「負けて……」

 

 未だ暗い闇の中、イズクは立ち上がる。

 そして次々に他の者達も……。

 

『負けてたまるかああああ!!!』

「なん……だと……!!?」

 

 全員が声を重ねて立ち上がれば、覆いつくしていた闇が晴れ、真の姿となった魔王の姿が露わになる。

 鬼か悪魔か。恐ろしい異形の魔王の顔は、余りの大きさに一行には顔しか見えないほどだった。

 

 しかし、一行に恐れる様子は既にない。

 

「力が……勇気が溢れてくるみたいだ!」

「今ならきっとイける! みんなで力を合わせて、魔王を倒すんだ!」

 

 拳を握るイズクに続き、テンヤが剣を掲げて皆を鼓舞する。

 

「愚かなことを……私を! 魔王を倒せるのは勇者―――英雄だけだ!」

 

 奮え立つ一行を今度こそ始末せんと、魔王アイザワの眼が赤く光ろうとした。

 だが、そこで再び眩い閃光が輝き、魔王アイザワの瞼は反射的に閉じてしまう。

 

「おのれ……トオル姫……!」

「みんな! 私が魔王の力を抑えるよ! だから、今の内に!!」

「小癪な……ッ!」

 

 魔王の力を阻止せんと、その身から光を放つトオル姫。

 その間に、一行は一丸となり、拳を天へ突き上げる。

 

「魔王を倒せるのが英雄なんじゃない……」

 

 イズクは言う。

 

「ただ力あるだけでも、英雄とは呼ばない」

 

 テンヤが言う。

 

「怖い時に!」

 

 オチャコが。

 

「苦しい時に……」

 

 ショートが。

 

「諦めそうになった時に」

 

 ツユが。

 

「自分の大切なものを!」

 

 リキドウが。

 

「友達ヲ……」

 

 コウジが。

 

「頑張って頑張って頑張ってェ―――!!」

 

 ミナが。

 

「守り抜くッ!!」

 

 エイジロウが。

 

「英雄だからやれんじゃねえ!」

 

 ハンタが。

 

「なんかやり遂げたから、英雄なんだろうがよおおお!!」

 

 ミノルが。

 

「だから俺たちも成し遂げよう」

 

 メゾウが。

 

「魔王を!」

 

 マシラオが。

 

『皆で倒すんだァ―――!!!!』

 

 全員の突き上げた拳から、なんと眩い光を放つ蒼い炎が昇る。

 そしてそれは次第にV字の逆立った髪を靡かす、いつかの英雄を模した姿へと変貌した。

 

「ば、馬鹿な……なんだこの光は……!」

『行ッけぇえええええええええ!!!!!』

 

 全員が揃って拳を突き出せば、煌めく蒼い炎も拳を突き出し、魔王の鼻っ面に熱い拳を叩き込んだ。

 炸裂する魂の一撃。

 魔王の顔は、断末魔を上げる間もなく消滅する。

 残るのは、蒼い炎の残光―――だけではない。今の今まで暗かった魔王城の中へ、光芒が放たれたではないか!

 

「やった……やったんだ、みんな! 魔王を……魔王を倒したんだよ!」

 

 イズクが感極まった声を上げれば、皆が嬉々とした声を続けて上げ始める。

 魔王を倒した。英雄でもない自分たちが、だ。

 だがしかし、そのようなことは最早どうでもいい。

 

 魔王城に差し込む光芒は、囚われのトオル姫を明るく照らす。余りの光の強さに、トオル姫の姿はうかがえないが、魔王の力もなくなった檻から自力で脱出し、一段、また一段と階段を下りてくる。

 

「魔王をありがとう、みんな! 光を取り戻してくれてありがとう! 私を助けてくれてありがとう!」

 

 姿がはっきりとしないトオル姫は、これまた喜びに満ちる声色で、一行に礼を伝える。

 

「正直、魔王城に攻め込んできたあなたたちを見た時、伝説の英雄様でもないあなたたちが、魔王に勝てるなんてこれっぽっちも思ってなかったの……でも、今なら言い切れるわ」

 

 一行の前に降り立つトオル姫。

 ティアラが浮いているようにしか見えなかった頭には、確かに金糸のような巻かれた髪が生えている。

 どうやら、魔王の抹消する能力も解けたのだろう。

 一行に対しては顔が見える形で佇むトオル姫は、観ている者達に背中を見せつつ、こう言い放った。

 

「英雄だから何かを為すんじゃない。何かを為したから英雄なんだって! あなたたちは、私にとって英雄よ!」

 

 腕を広げるトオル姫。

 途端に、彼女に視線を向けていた面々が『あッ!』と声を上げ、驚いたようにのけぞる。

 

 そして―――幕が下りた。

 

『―――……こうして、魔王を倒した一行は、その功績をたたえられてトアル地方の英雄として、ずっとずっと語り継がれていくのでした……』

 

 マイクを携える精霊―――もとい、耳郎がエピローグを語ると、幕の裏に隠されていた演じていた面子がダッシュして檀上に並ぶ。

 それは演奏していた耳郎たちも同じで、A組全員が揃って壇上に立ち並んだ。

 全員が並んだことを確認する耳郎は、今一度マイクに向かって話す。

 

「配役紹介」

「はいはーい! トオル姫役、葉隠透でした!」

「魔王アイザワ役、相澤消太」

「はい! 騎士・テンヤ役、飯田天哉!」

「む、村人・イズク役、緑谷出久でちたッ!」

「占い師・シネン役、波動熾念! Thank you viewing♪」

「魔法使い・オチャコ役、麗日お茶子です!」

「商人・ツユ役、蛙吹梅雨よ」

「武闘家・リキドウ役、砂藤力道ォ!」

「領主の息子・ショート役……轟焦凍」

「ゴ、ゴーレム・コウジ役……口田甲司でした!」

「はーい! 踊り子・ミナ役、芦戸三奈ぁー!」

「えー、盗賊・マシラオ役、尾白猿夫です」

「忍者・ミノル役! 峰田実!」

「バトルマスター・エイジロウ役、切島鋭児郎っした!! あっしゃーした!!」

「僧侶・メゾウ役、障子目蔵」

「ははっ、旅芸人・ハンタ役、瀬呂範太……でした!」

「四賢者兼ギター演奏……常闇踏陰」

「右に同じ! 上鳴電気ッした!」

「……あ? あー、四賢者とドラム。爆豪勝己」

「同じく四賢者とキーボード担当、八百万百でした」

「最後になりますが、精霊役、ベース担当及びナレーションを務めさせて頂きましたのは、耳郎響香でした! ご覧になった皆様、本当に―――」

『ありがとうございました!!』

 

 一同揃い礼をすると、再度惜しみのない拍手がA組全員に送られる。

 

 

 

 かくして、A組の題目『U.A.QUEST』は大成功に終わるのであった。

 


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