Peace Maker   作:柴猫侍

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№74 U.A.QUEST ‐導かれし卵たち‐

「―――以上、1年C組の発表でした! ありがとうございました!」

『それじゃあ皆、1年C組のみんなへ盛大な拍手を!!』

 

 十人十色な恰好をして一列に並ぶ1年C組の生徒たちが礼をし、進行係のミッドナイトがマイク片手に拍手を促す。

 絢爛なスポットライトが眩い光を放って彼らを照らせば、観ていた教師陣や生徒らから、惜しみのない拍手が送られ、ホール全体を揺るがした。

 

『校長先生。ご感想は!?』

『うんうん。終盤のサソリダンス、とっても迫力があってよかったね! なにより、皆笑顔で踊ってるところがナイスさ! こっちも笑顔で踊りたくなっちゃうよね♪』

『ありがとうございます!』

 

 普段は檀上に居る側である根津は、文化祭ばかりは観覧席の最前列に座っている。

 教師の何人かは、文化祭の発表に合わせて審査員として役割を担っていた。彼ら審査員によって審査され、『良い!』と思われたクラスには、後々クラス全員に(根津曰く)豪華賞品が贈られることとなっている。

 実際に贈られる物は謎に包まれているが、実際に何か手に入れられるとなると、生徒の士気はこれでもかというほどに上がった。

 2・3年生はともかく、実態を知らない1年生はまだ見ぬ豪華賞品を目指し、並々ならぬ気合いを入れて発表に精を出している。

 

 そんな訳で、一日目の1年生の発表は、2年生にも負けぬ迫力を兼ね備えていた。

 どの発表も個性的。サーカスのようなアクションを見せるクラスもあれば、ロボットを持ち込むクラスもある。

 そうだ、これこそ雄英。自由な校風がウりの雄英ならではの文化祭の発表と言える代物ばかりだ。

 

『それでは、今のC組の激熱ダンスも名残惜しいけど、次は文化祭一日目を締めくくる最後の発表よ!!』

 

 高まる熱気を掴み離さんと、ミッドナイトは畳みかけるように声を荒げる。

 ブー、と映画館が上映される直前のようにブザーが鳴り響き、下ろされていた幕がゆっくりと上がっていく。

 

『トリは彼たち、1年A組……題目は『U.A.QUEST』!!』

 

 

 

―――一日目の最後に相応しい、最高のフィナーレが今、刻まれようとしていた。

 

 

 

 ☮

 

 

 

『ここはトアル地方のトアール城。そこには、もうすぐ名高い領主の息子との結婚を控える、トオル姫が住んでいました』

「ああ! 夢にまで見た結婚! 胸が高鳴って、眠ることさえままならない!」

 

 暗闇の中、ドレッサーの前に座るドレス姿のトオル姫だけが、仄かに照らされている。

 よほど結婚が楽しみなのか、ファンデーションを塗るためのスポンジを過剰に頬に叩きつけ、辺りには粉がハラハラと舞っていた。

 

 ポフポフポフ。

 ポフポフポフ。

 ポフポフポフ……。

 

「ふぁぁッくしょんぉらあ゛ィッ!」

 

 凡そ姫らしからぬくしゃみをしてから、一度トオル姫は化粧をすることを止める。

 

「はぁ~あ。でも、お姫様ってつまらない! お勉強にピアノにそれからそれから……あぁ、誰でもいいから、私を連れて行ってくれないかしら」

『ならば、私が連れて行ってやろう……』

「え、え!? 誰なの!?」

 

 暗闇より聞こえる、腹の奥底に響く声。

 ここは城の高層に位置する姫の寝室。廊下には家臣の警備があるため、賊などが入り込める余地などはない場所のハズだ。

 故に、得たいの知れない声におびえ竦むトオル姫。視線を右へ左へ泳がすも、声の主を見つけることは叶わない。

 

 だが、彼女の背後に忍び寄るように垂らされる布が一枚。

 

 次の瞬間、けたたましいガラスが割れる音が轟いたかと思えば、布はトオル姫の身体に巻き付き、彼女の体を暗闇の中へ引きずり込んでいった。

 

「きゃあああ!!」

「何事ですか、姫様! 姫様!? 姫様ァ―――!!」

 

 扉を勢いよく開ける音が鳴り、颯爽と鎧を着こんだ男が登場する。

 

『姫の悲鳴を聞き、駆けつけたのは城随一の俊足の持ち主の騎士、テンヤでした』

 

 何度も姫を呼ぶテンヤであるが、どこにもトオル姫の姿は窺えない。

 だが、代わりに再び暗闇より声が響いてきた。

 

『姫は私が連れ去った……返してほしくば、我が城まで来ることだな』

「くっ、誰だ貴様は!?」

『私は魔王……魔王城で待っているぞ。私は非合理的なことが嫌いでな……できれば、一人で助けに来い』

「魔王の条件など飲まん! いや、ここは素直に聞き入れた方が姫の身の安全が……? いや、しかし!」

 

 ウンウン唸っていたが、最終的にはその場から立ち去るテンヤ。

 

 暗闇が明け、快晴の下で城門のすぐ近くに立てられている看板に、どうやらチラシが貼られていた。

 

『姫を連れ攫われてしまい、城も城下町も大パニック。そこで王様は、姫を助けてくれる勇敢な冒険者を募るべく、国のあちこちへ協力を募るお触れを出しました』

 

 わちゃわちゃと看板の前に集う人々。

 しかし、

 

「魔王なんかに勝てないよねぇ~」

「返り討ちにされるのが関の山だよー」

「ねー、それよりスイーツ食べに行かなーい?」

「うんうん、いいねー! マカロン食べに行かない?」

「マカロニ? サラダで食べると美味しいよねー」

 

 誰もが魔王になど勝てるとは思っていない様子。

 そうこうしている間、城に仕える騎士であるテンヤが壇上に上がり、剣を掲げながら声高々に話を始める。

 

「誰か! 僕と共に魔王を倒そうという者は居りませんか!? どうか! どうか!」

 

 集う者達に顔を向けるテンヤ。

 だが、顔を向けるや否や、集まっていた者達は顔を逸らし、そのままそそくさとその場から去っていってしまう。

 右、左と繰り返して目を遣る度に一足は遠のき、残ったのは頭がボサボサの冴えない少年だ。

 慌てふためく彼に、テンヤは『もしやぁ―――!』と仰々しい声を上げて、彼の目の前に舞い降りる。

 

「一緒に来てくれると言うのかい!?」

「えッ、あ、いや、僕はそのゥ……」

 

 上ずった声で、眼前まで詰め寄るテンヤに応える少年。

 

『俊足の騎士・テンヤが目に着けたのは、偶然城下町に遊びに来ていた村の少年・イズクだった』

 

 依然オドオドとするイズク。

 答えを待つテンヤは、爛々とした瞳を一心に彼へ注ぐ。

 

『そんな時、城に仕える占い師・シネンがやって来ました。』

 

 今にも崩れ落ちそうなほどヨボヨボとした足取りで近づくシネンは、思わず『大丈夫ですか!?』と声をかけてきたイズクを見つめ、こう告げる。

 

「You、良い目してるのう! テンヤと一緒に魔王倒しちゃいなYO!」

「軽い!?」

 

 足取りに似合わず、活気に満ちた声色で魔王を倒すよう告げるシネンに、イズクは混乱状態だ。

 

「いや、せめてそういう重大そうなのは占ってください!」

「占い? OK~……むぅん!」

 

 雑に懐から取り出した丸い水晶に、シネンは手を翳す。

 淡い緑色に発光する水晶。『おおッ!』とイズクとテンヤの二人が驚嘆する中、水晶は辺りをビュンビュン飛び回った後、再びシネンの手に戻る。

 

「そこの道バーッと行って、あそこのリューキュウ山脈を右にキュッと曲がればいいYO!」

「雑!!」

「それでAll OK! So、後は若い世代に託そう……」

「えぇ~!? 倒れた!?」

「そんな、シネン老……シネン老ォ―――ッ!!」

 

 二人に予言を託したシネンは、力を使い果たし、その場に倒れてしまう。

 遺体は城の他の兵士に担架で運搬され、場は再びイズクとテンヤの二人だけになる。

 

「シネン老の遺言だ……僕は君と魔王討伐に赴こう! 一緒に来てくれるかい?」

「ちょッ、もうちょっと考えさせてください!」

『しかし、イズクはまだ決心がつかない様子。果たして、そのあたりに居る一般人代表のような自分が、そのような大それた目的を掲げた旅を無事に終えることができるのだろうか? そんな不安が、イズクの脳裏を過った……』

 

 徐に現れる『はい』と『いいえ』が書かれているメッセージウィンドウ。

 イズクは、両者いずれかを選ぶためのカーソルを『いいえ』に合わせた。

 

「ごめんなさい、『いいえ』で―――」

 

 突然、場に鳴り響く風の音。

 

「……すまない。風の音で答えが聞こえなかった。もう一度聞いてもいいかい? 一緒に来てくれるかい?」

「ええッ!? あ、じゃ……もう一回『いいえ』で」

 

 再度カーソルをメッセージウィンドウの『いいえ』に合わせるが、またもや突風が吹いたような音で、イズクの声が掻き消される。

 

「……すまない。風の音で答えが聞こえなかった。もう一度聞いてもいいかい? 一緒に来てくれるかい?」

「無限ループ!?」

『かくして、イズクは渋々テンヤと共に魔王の旅に出るのだった』

 

 驚くイズクと、そんな彼の手をギュッと握るテンヤ。

 そんな光景を最後に、場は暗転する。

 

 そして、場が移り変わり、二人は草原のような場所に歩み出てきた。

 堂々たる振る舞いのテンヤに対し、イズクは依然としてオドオドと挙動不審の様子。それもそのハズ、昨日まで普通の村の少年だったのに、突然『魔王倒しちゃいなYO!』と言われたら混乱するのは当たり前だ。

 

「僕、この先やっていけるか不安だなぁ……」

「安心するといい、イズクくん! なにも、僕たち二人だけで魔王を倒そうなどという話じゃない! 力強い仲間たちと共に、魔王を倒し、そして姫を倒しに行くんだ!」

 

 そう言うとテンヤは、手を額に垂直に当て、辺りをキョロキョロ見渡す。

 

「この辺りには時折、重力を操る魔法使いが現れると言うが、さてはて……どこかに居ないものか……」

「はぁ~~~……!」

 

 二人の居る向かい側から、立派な魔法の杖をただの杖のように扱い、弱弱しい足取りで道に出てくる大きな帽子を被った少女が現れた。

 深いため息を吐き、辺りを見渡す二人の前にへたり込めば、

 

「なにか、なにか食べ物を恵んでください~! お腹ペコペコで、もう死んじゃうよぉ~!」

「おや、その恰好は。もしかして君が噂の魔法使いか!」

『魔法少女の名はオチャコ。しかし、空腹で今にも倒れそうな様子……食べ物を恵んであげますか?』

「えッ、また僕が選ぶの!?」

 

 再びどこからともなく現れる『はい』と『いいえ』が書かれたメッセージウィンドウ。

 

「どうするんだい、イズクくん? そろそろ食料も尽きそうだが、それでもあげるのかい?」

「うっ……そう言われたら……ごめんなさい、『いいえ』で……」

 

 テンヤの言葉を受け、申し訳なさそうな顔で『いいえ』を選択するイズク。

 だが、

 

「ヴェアアアア!!? お願いします! お腹ペコペコで、もう死んじゃうよぉ~!」

 

 どこから出したのか不思議に思ってしまうような奇声を発すオチャコ。

 思わずビクリと肩を跳ねさせた二人は見つめ合う。

 

「どうするんだい、イズクくん? そろそろ食料も尽きそうだが、それでもあげるのかい?」

「またこの感じ!? じゃあ、もう一回『いいえ』を選ぶと……?」

「ヴェアアアア!!? お願いします! お腹ペコペコで、もう死んじゃうよぉ~!」

「やっぱり! 『はい』しか選択肢が残されてない!!」

 

 再度出現したメッセージウィンドウにて『いいえ』を選んでも、繰り返される輪廻。

 これもまた運命かと悟るイズクは、抱えていたバッグの中からパンと水筒をオチャコに差し出した。

 それらを手に取るオチャコは、『神様仏様英雄(ヒーロー)様~!』と声を上げ、あっという間にパンと水を腹に収める。

 こうして元気百倍になったオチャコ。きゃぴきゃぴとした様子で立ち上がり、固く二人と握手を交わす。

 

『かくして、イズクとテンヤは、奇声系無重力魔法少女・オチャコを仲間に引き入れたのだった。そんな三人が道を進んでいけば、何やら道を塞ぐ大きな岩と、倒れている男性を介抱する少女が……』

「あ、誰か居るよ」

 

 イズクが声を上げ、指さす先には筋骨隆々な男性と、カエル顔の可愛らしい少女が居る。

 そんな二人の背後に佇むのは、道を塞ぐように存在するゴツゴツした丸い岩だ。

 状況は飲めない。しかし、テンヤはその俊足を生かし、二人の下へ駆け寄っていく。

 

「義を見てせざるは勇無きなり! 一体どうしたんですか!?」

「あら。親切な旅の方。実はこの人、この岩を撤去しようと頑張ってたんだけれども、疲れて倒れてしまったの」

「うぅ……甘い物。なにか甘い物を……」

「甘い物が欲しいのかい!?」

 

 甘い物を要求する男性の声に、テンヤは背後に居たイズクとオチャコを見遣る。

 しかし、食料は先程オチャコに渡したもので尽きてしまったのだ。何とも言えぬ空気の中、白々しく口笛を吹く(実際には吹けず、隙間風のような音しか鳴らないが)オチャコ。

 

『出会った少女はツユ。そして倒れている男性はリキドウという名だった』

「ツユちゃんと呼んで」

「畏まった、ツユちゃんくん! では、僕たちに出来ることは一体……」

「近くの領主の土地に、葛餅が生る木が生えているんだけれども……どうにかして頼み込んで、分けて来てもらえないかしら?」

 

 葛餅の生る木とは如何に。

 しかし、『餅!?』とオチャコは既に向かう気満々だ。どうやら彼女は、お餅が好きなようだが、葛餅は普通の餅とは違う食べ物である。

 それは兎も角、リキドウを放っておくわけにもいかず、三人は領主の土地をツユに教えてもらって歩き出す。

 

『そして三人はとある領主が統治する領地へたどり着きました。そこに数多く立ち並んでいたのは、立派な木の実の生る木……そう、それこそが葛餅が生る木でした』

「おお、あんなにあるぅ~! 私も一つ食べていいかな~……」

「いや、まずは領主の許可を得なければ!」

「あ! あそこに人が居るよ!」

 

 イズクが見つけた人影。

 そこへ向かうと、立派な服を身に纏う、赤と白の髪を靡かせる少年が木の傍で休んでいた。

 

『彼は領主の息子・ショート。イズクたちがかくかくしかじか説明すると、葛餅を持っていくことを快く了承してくれました』

「俺の親父が好きで育ててる木だからな……ああ。俺の親父、葛餅が好きだからな」

 

 キリっとした顔で、ショートは言う。

 

「俺の親父、葛餅が好きだからな」

 

 次は右を見て、

 

「俺の親父、葛餅が好きだからな」

「なんで三回も言ったの!?」

 

 なにはともあれ、これでリキドウの下へ葛餅を届けられる。

 そうホッと安堵する三人に、ショートは続いて、自分も同行する旨を申し出た。どうやら、元より領主の息子という堅苦しい身分から逃げ、何処かへ飛び出たいという願望があったようだ。

 

『領主の息子であり、魔法戦士でもあるショートも仲間になり、四人となったパーティ。そして、持ってきた葛餅をリキドウに食べさせれば、たちまち元気に!!』

「うおおお!!」

 

 ダブルバイセップスを決めながら立ち上がるリキドウは、道を塞いでいた岩を持ち上げる。

 しかし、持ち上げた岩はただの岩ではなかった。

 顔も手も足もある。どうやら、そのゴツゴツとした皮膚を岩と見間違っただけで、それは岩ではなかったのだ。

 

「これは、まさか……ゴーレム!?」

 

 驚きながら語るテンヤ。

 『KOUJI(コウジ)』と銘打ってあるその岩は、なんと彼の自律式のストーンゴーレムだったのだ。

 思わず持ち上げたコウジを下ろすリキドウ。目を覚ましたコウジは辺りを見渡し、ショートが手に携えているとある物に目を付けた。

 

「む? どうやら、葛餅を欲しがっているようだ」

「これか? ほらよ」

 

 コウジが葛餅を欲しがっているようだったため、ショートは持ってきた葛餅をコウジの口に入れる。

 咀嚼すること十秒。

 コウジの目から一瞬緑色の閃光が奔り、その後瞳に光が灯る。

 

「美味シイ……ミンナ、友達……」

「おお、どうやらゴーレム……いや、コウジくんが仲間になってくれたようだ!」

 

 ゴーレムのコウジが仲間になった。

 その後、イズクたちの話を聞いた商人のツユと武闘家のリキドウは、『これもなにかの縁』と魔王討伐パーティのメンバーに入る。

 

 当初の二人旅を思えば、かなりパーティが充実してきた。

 これならば、魔王討伐も夢ではなくなってきたのでは!? と、皆の足取りは軽いものとなる。

 だが、なにも魔王討伐を目指して冒険しているのは彼らだけではない。

 

『商人のツユ、武闘家のリキドウ、ゴーレムのコウジを仲間に入れた一行は、なにやら同じく大人数を引き連れているパーティと遭遇した』

「あー! もしかして、私たちと同じ、魔王討伐に向かってる感じの人達!?」

 

 イズクたちの向かい側のパーティの先頭に立っていた、紫色の肌の少女が、元気で溌剌とした声を上げながら歩み寄ってくる。

 彼らもまた、魔王討伐を目指し、別の地方からやって来た面々とのこと。

 

『出会ったのは、踊り子のミナ、盗賊のマシラオ、忍者のミノル、バトルマスターのエイジロウ、僧侶のメゾウ、旅芸人のハンタであった』

「彼らの目的も魔王討伐か! なら、共に戦ってくれれば心強い!」

「そうだね! ほわぁ~、なんか冒険してる感じになってきたぁー!」

「冒険してるんじゃねえのか?」

「ま、まあ……それじゃあ、目的も一緒だから仲間になってくれるかな?」

 

 テンヤ、オチャコ、ショートの言葉に続き、手を差し伸べながらミナたちとの同行を申し出るイズク。

 むむッ……と頬を膨らませるミナ。

 ふくれっ面に何事かと目を見開くイズクであったが、ミナは途端に笑顔になった。

 

「いいよー!」

「ホント!?」

「ただしィ……」

「ただし?」

「ダンスバトルに勝ったらね!!」

『え―――ッ!!?』

 

 挑発するように手招く動作をするミナに、イズクたち一行は驚いた声を上げる。

 すると、場は雲がかかったように暗くなっていき、両者の中央に立つ者に絢爛な光芒(スポットライト)が当たるではないか。

 

 まず中央に立つのはミナだ。

 

「さあさあ! Let`s Dancing♪」

「あれー!? 体が勝手にー!?」

「不思議な気分だわ、ケロッ」

 

 どこからともなく流れる『ミナは さそうおどりを くりだした』というメッセージウィンドウと軽快な音楽に合わせ、スクーボップ、トゥエル、バッククラップと踊るミナに、他全員も合わせて同じ動作を繰り返す。

 

 そして徐にミナが下がれば、軽快なリズムを刻んで前へ歩み出すハンタが、体を横に倒し、そのまま両腕で体全体を支え、脚をそれぞれ前と後ろに開くチェアーと繰り出した。

 立ち上がる際には、肘から飛び出るテープをメゾウに掴ませ、彼がテープを引く勢いで立ち上がる。

 

 ハンタが中央から退場すれば、次に出てきたのはコウジだ。

 出てくるや否や、動きが唐突に、肘や膝などの関節部がボルトなどで留められているかのようにロボット染みたものとなる。

 そう、ロボットダンスだ

 ハンタがチェアーを披露していたのと同じ時間、無機質さを醸し出すロボットダンスを披露したコウジは、再び先程までの軽快なリズムのダンスを踊り、元の位置に戻っていく。

 

 コウジの次に前へ出るのは、僧侶のメゾウ。

 複数の触手とそれらの間の皮膜もあって、元の巨体も合わせてかなりの迫力がある彼のダンス。

 徐に両腕で逆立ちをしたかと思えば、彼はそのまま脚で勢いをつけ、重ねた両手を起点にグルグルと回る―――2000(ツーサウザンド)を繰り出した。

 

 大迫力の2000を決めたメゾウの次に出るのは、大きく飛び跳ねて中央に躍り出たツユだ。

 彼女の強靭な脚力での跳躍だけでも見物だが、彼女はなんと、着地してすぐに片腕で逆立ちし、両脚を大きく開いてマックスをしてみせた。

 ポーズを決めた後に動くと恰好の付かない技であるが、彼女の場合は、カエルのような性質を持つ手足を持つため、あれだけ勢いよく跳躍してからのポージングにも拘わらず、微動だにしない。

 

 ツユが立ち上がり、再び跳躍すれば、その下に目掛けてバトルマスターのエイジロウが滑り込んでくる。

 腕立て伏せのような体勢。しかし、脚は宙に浮かせたままだ。

 それだけで腕が、血管が浮き出るほどの負荷がかかっているハズだが、エイジロウは膝をやや曲げた両脚で勢いをつけ、その場でグルグル回り始める。

 最初は両腕でのクリケット。そして勢いが付いた頃に、片腕だけを起点にして回るジャックハンマーを披露し、彼のターンは終わった。

 

 その鍛え上げられた筋肉に違わぬマッスルなダンスを見せてくれたエイジロウの次には、軽快なリズムを刻んでいるのとは裏腹に、無表情のショートだ。

 前転でもするかのように両腕を地につければ、片足を地に着け、次々と上半身と下半身を交互に捻りながら回るスワイプスを披露する。さらには右半身から冷気、左半身から火の粉を出し、さながら氷と炎がフォークダンスをするかのように宙を舞っていた。

 

 幻想的かつ情熱的なダンスを魅せるショートの後にも、他の者達は続く。

 次に出てきたミノルは、徐にオチャコの杖を借りて地面に立てたかと思えば、何故か急にポールダンスを始める。

 無駄に上手い。

 女性であれば煽情的であろうポーズのまま、ゆっくりと杖の上から下まで落ち、地面にポスンと着いたところで、ミノルのターンが終わり、颯爽とオチャコが前に出る。

 

 支えもなしに自立している杖―――その柄を摘まんだオチャコは、前に出た勢いのまま、重力下とは思えぬほどの滑らかさでムーンサルトを披露した。

 フワリフワリと宙を漂い、足が地に向いた時、オチャコは重力に引かれて着地する。

 

 自由度が高くなってきたダンスバトル。

 オチャコの次に出てきたのはマシラオだ。

 中央に三点倒立するや否や、彼は脚と尻尾でバランスをとり、頭だけを地面につけて凄まじい速度で回り始める。

 怒涛のヘッドスピン。そのバランスは勿論、回転速度もかなりのものだ。

 

 そんなマシラオが立ち退けば、今度はテンヤが腕を組んでしゃがみ、片脚を前に蹴り上げるポーズを左右交互に入れ替える―――所謂、コサックダンスのステップの一つを踏む。

 ガッシャガシャと鎧が鳴る中、重さを一つも感じさせぬステップは圧巻だ。

 

 そして、仕掛けてきた側のトリは、他でもないミナである。

 満面の笑みを浮かべつつ、下半身に勢いをつけるように捻りつつ両手を地に着けたかと思えば、両脚を地面に着けぬまま、手を起点に倒立したまま回り始める。

 ブレイクダンスの中でも難度の高いエアートラックスという名の技。

 洗練された技のキレは並みのものではなく、観る者を引き込みそうな躍動感が、そこには存在していた。

 

 大迫力のエアートラックスの最後にマックスを決め、笑顔で定位置に戻るミナ。

 彼女の次に出てくるのは、イズクとリキドウだ。

 同時に片腕だけで倒立し、脚でバランスを取りながら、脚を空へ突き出す勢いと手の力で何度も跳ねる―――ステッピンで彼らは対抗である。

 時折両腕を使って跳ねるラビットも交えながら、何度も跳ねるその様は、彼らだけ重力が逆さまなのではないかという錯覚さえ覚えてしまいそうだ。

 

 そんな跳躍を見せたイズクとリキドウが列に戻った後、今度は全員に光芒が放たれる。

 すると、全員が同じ方向に向かってムーンウォークで進み始めた。彼らに合わせて動く光芒―――否、光芒に導かれて彼らが歩いているのだろうか?

 どちらにせよ、一糸乱れぬ動きでムーンウォークをする彼らが右へ左へと動き、最後には全員前傾姿勢になって倒れていく。

 普通ならば不可能な角度―――45°。全員がその角度まで倒れ、数秒体勢を維持すれば、これまた一糸乱れぬ動きで全員が元の態勢に戻っていく。そこに無理に体へ力を入れる様子はなく、余りにもしなやかな動きをした全員は、光芒がなくなると同時に動きを止めた。

 

 そして、再び天候は元に戻り、全員が自分の意思で己の体が動くのを確認しようと、各々の動きを見せている。

 

「凄かったな……まるで自分じゃなかったような感覚だ」

 

 感嘆するように呟くテンヤ。

 個人差はあれど、皆が自分自身踊れたことに驚きの感情があったようだ。

 少しの恥じらいこそ見えるものの、目に見えて不快感を表す者は居ない。

 

「いいねーいいねー! 皆凄かったよー!」

 

 そんなイズクたちに、サムズアップするミナはこう言い放つ。

 

「じゃあ、もう勝負とか関係なしに仲間になろぉー!」

「ええ!? 勝負どうでもいいの!?」

 

 驚くイズクを前に『いいよー』と軽く頷くミナ。

 

『こうして、さらに魔王討伐の仲間は増えた。そんな時、イズクたちの頭に響く声が……―――みなさん、聞こえますか?』

「ッ……この声は!?」

 

 急に“壁”を超え、イズクたちの脳内に響く声に、一同は頭を抱えて困惑する。

 

『私は、英雄らを導く精霊。英雄の卵たちよ、どうか私の導きをお聞きなさい……』

 

 仲間が増え、着実に魔王討伐という目標に近づいてきているイズクたちに語り掛ける精霊。

 英雄とは、かつてこの世界を救ったことのある勇者の別の称号。

 彼をかつて導いた者とは一体?

 そして、自分たちが英雄の卵とは一体?

 

 

 

~後半へ続く~

 

 

 

 ☮

 

 

 

 その頃、舞台裏にて。

 

「ぜッ……はぁ……! ダンスパートの“個性”でのサポート、Very hardだったぜ……HAHA……はぁ……!」

「波動、お前裏方なのにめちゃくちゃ大変だな」

「余談はそのくらいにしてください、上鳴さん! もう一度皆さんで確認しますわよ」

「俺の準備はいつでも構わないぞ、八百万」

「準備練習なんざ必要ねえだろ。俺はぶっつけ本番でもいいぜ?」

 

 現在、舞台に出ていない者達以外の惜しみない努力が繰り広げられていることを、観覧席で観ている教師と生徒は知らない。

 


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