『それでは、校長先生のお話です』
全校生が一堂に会す中、雄英高校校長である根津が壇上に上がる。
ブラドキングの進行を受け、壇上に上がった根津は、“その時”を今や今やと待ちかねて期待に満ち溢れた顔を浮かべる生徒を見渡す。
『やあ、みんな! 今日は、僕もみんなもおまちかねの文化祭さ!』
やや高まる熱気。
しかし、まだ爆発させるその時でないと理解しているのか、会場は少しだけのざわめきに留まった。
その様子にウンウンと満足げに頷く根津は、スイ~っと自分の髭を撫で、言葉を紡いでいく。
いつものように他愛のない話に、生徒の顔には『またか』と言わんばかりの呆れが漂うが、実際表情に出す者は居ない。
だが、辟易する生徒たちの期待を裏切るように、根津はパンと手を叩いてみせる。
何事かと、連日の文化祭準備で疲れてうつらうつらと船を漕いでいた生徒も、思わず自分が注意されているのかと顔を見上げた。
が、根津は晴れやかな笑みを浮かべているだけ。
それもそれで不気味だと言えば不気味なのだが、単純にニコニコ笑っているだけの根津は、先程の声色よりも一層大きい声を上げる。
『―――と、まあ……焦らすのもこれくらいにして。年に一度の文化祭。だけども、今という一瞬は一期一会だから、是非仲間と一緒に最高の思い出を作ってね! 僕も含めた教員一同、それを切に願っているよ! それじゃあ雄英文化祭、ここに開幕を宣言するよ!!』
勢いよく根津が腕を振り上げれば、それに呼応して生徒から歓声が波のように連なって起こっていく。
花開くように振り上げられる生徒の手。
怒涛の歓声はホール全体を揺らし、彼らの鼓動の興奮を代弁しているかのように、暫く止むことはなかった。
☮
ここで一つ、説明しよう。
各クラス、出店と発表をすることになっているのは既知の事実だ。
しかし、出店を出すのと発表は平行して行われる。すると自然に、発表が行われる際は、出店に出ている者もいくらか発表に赴かなければならない。
クラスによって、発表に出る人数に差異はあるものの、大抵は出店の人員がほとんど発表に割かれてしまい、出店ができなくなる。
それについては、一旦出店を中断するなどの張り紙等貼りだしておけば問題はないのだが、次に問題になってくるのは発表の順番だ。
まず、学年単位での順番は2年から始まり、1年、3年と続く。
2年が文化祭の雰囲気をイメージ作り、1年がそれに続き、3年がトリとして発表するという無難な順番だろう。
そしてクラス単位での順番であるが、これについては事前のくじ引きで決まる。
一学年十一クラスもあることから、2年と3年の間に挟まれている1年は、一日目に六クラス、二日目に五クラス発表することになっていた。
そして、1年A組の順番はいつかと言えば……
「ほぇ~……今日のトリって、すっごい緊張するよォ~!」
脇を締めながら両腕をブンブン振る麗日の顔には、確かな緊張が滲んでいた。
そう、A組の発表は今日の最後だ。
学年で最初というのも中々緊張ものだが、日程の節目とも言うべきタイミングでの発表も、緊張や不安はかなりあると言えよう。
旧校舎にて何度も演劇の練習はしたものの、本番で失敗しないとも限らない。
最初から失敗すると考えるのはよくないと分かっていても、考えてしまう。それもある意味学生らしい思考と言えよう。
「まあ麗日。そんな肩張ってちゃ、できるもんもできないよ」
「響香ちゃん……私、今にも心臓爆発しそうだよぉ……!」
「うんうん、ウチも。プッ、でもさっ……あれ見て、ククッ、肩の力抜こうよ……バフォッ!」
「ん、あれ……? ブハッ!」
耳郎の人差し指を視線で辿った麗日は、突然視界に入った人影に、思わず吹き出してしまった。
黒のスカート。
フリルの付いた白いエプロン。
そして同様に、白いフリルのついたカチューシャ。
その姿はまさしく……。
☮
「ねえねえ、通形! 天喰くん! 折角だし、A組の出店に行こうよ、ね!?」
男子二人を侍らせる……というより、半ば強引に引っ張ってきているねじれは、通形と天喰と共に1年A組へと向かっていた。
3年の発表は明日。加えて三人は、出店のシフトの関係で早速自由時間であったため、どこに行こうかと廊下をブラブラして悩んでいる時に出くわし、今に至っていたのだ。
インターンの案件もあり、A組とは縁ができたビッグ3。
可愛い後輩たちがどのような出店を出しているのか気になるのは、先輩としては気になるところだろう。
そして何より、ねじれにとっては義弟がいるクラス。気にならないハズがない。
そんな訳で足早に1年のクラスが密集しているフロアに向かう。
既に数多くの出店が立ち並んでおり、他のクラスからやって来る生徒に対しての呼び込みの声や、楽しそうな笑い声が響いている。
「おおっ、賑わってるね!」
「ミリオ……もう帰ろう。俺には、この一年生たちのエネルギッシュでフレッシュなオーラに満ちる空間は耐えられない……ッ!」
「まだ出店一つも立ち寄ってないよ、天喰くん。知ってた? ねえ!」
1年生のフロアには、1年生なりの雰囲気がある。
初めての高校の文化祭。更に自由な校風が売りの雄英ともあって、中学校の文化祭よりも行えることは多岐に渡る。
余りの自由さ故、1年生には手探りで空気に馴染もうとする感覚は否めないが、それを補って彼らには有り余る活力があった。
3年のように、進学か就職か悩むことなく、がむしゃらに楽しもうとしている意気は、3年生には無いものと言っていいだろう。
死穢八斎會の案件もあって、深くない傷を負った通形だが、1年生たちのエネルギーを分けてもらおうと、その鍛え上げられた両腕を広げる。
そんな時だった。
「あ、通形先輩!」
「おや!? 緑谷く」
思わず言葉が詰まった。
ユーモアと元気に溢れる通形が言葉を失った光景とは、不意に出てきた緑谷の恰好にある。
黒いワンピースに、白のフリル付きエプロン。
可愛い猫耳を模したカチューシャをつける姿は、秋葉原辺りに立ち並んでいるメイド喫茶で働いて居そうな、“萌え”を感じさせるメイドそのものだったのだ!
「―――……ん! 中々ユーモアあふれる姿だね! それだったら、サーも太鼓判を押してくるんじゃないかな!?」
「あ、あははっ……は」
必死に言葉が詰まったことに対し、挽回を図ろうと褒める通形であったが、緑谷は乾いた笑い声しか出てこない。
筋肉が凄いのだ。
通形ほどではないが、物理攻撃を主体とする緑谷は、かなり体が引き締まっているのである。
その為、露わになっている腕やふくらはぎ部分の筋肉が凄まじいこととなっており、『コレジャナイ』感を醸し出しているのだった。
だが、全てはヒーローになるため。
それも致し方ないと、『触れないでおこう』と心に誓う通形は、未だ漂う何とも言えぬ空気を打破すべく、普段よりも腹に力を入れて声を上げる。
「あれかな!? A組はメイド喫茶なのかな!?」
「ええ、そんな感じです。ただ、見ての通り男がメイドの恰好とかしちゃってますけど……」
「いや、いいと思うよ! そういう出し物は、他の学校とかでも聞くからね!」
「そ、そうですかね……? それは置いといて、先輩方。よかったら寄ってきます? 一応喫茶店っていう体なんで、飲み物とかはありますよ」
「うん、いいね! それじゃあ環、波動さん! 行ってみよー!」
通形が拳を掲げれば、乗り気のねじれは『おー!』と続き、天喰は挙動不審のまま教室の中へ引きずり込まれていく。
途中、これまたメイド服を着た飯田が『オカエリナサイマセ、ゴ主人様ー!』と片言で迎え入れ、彼の向かい側に立つ燕尾服を着た麗日が『ラーメン屋やないんやから!』とツッコミを入れていたりする。
どうやら、男子がメイド役で、女子が執事役ということなのだろう。
飯田もまたムキムキで、メイド服がごつく感じられるが、何故だろうか。ここまでくると清々しさまで感じられる。
期待と不安が、胸の内に込み上がって来た。
気分としては、お化け屋敷に入る感覚である。
何が出てくるのだろう? そんな思考がビッグ3を身構えさせていた。
しかし、部屋の中に入れば、彼らが予想していたよりもしっかりとしている雰囲気に、期待の感情がやや高まる。
飲食店のテーブルと椅子のように、いくつかの仕切りで机と椅子が分けられていた。尚且つ、それらには高級感を出そうという趣向から、色とりどりのランチョンマットやクッションが置かれている。
普段は日光を遮るだけのカーテンも、文化祭だけはシックな雰囲気を出すために黒いカーテンに付け替えられていた。
電灯も、黄色いカラービニールのような物で覆うことにより、室内全体が暖色系の光に包み込まれるよう工夫したり、挙句の果てにはどこから持ってきたのか疑問になる刺繍が施された赤いカーペットが敷かれている。
それらの工夫もあってか、既に客足もあるようで、メイド(男子)と執事(女子)が応対に当たっていた。
「轟ちゃーん! ご指名入ったよー!」
「おう……じゃねえ。かしこまりました」
浮いている燕尾服―――ではなく、葉隠が轟を呼べば、ツートンカラーの髪を靡かせるメイドが教室を闊歩する。
轟を指名した女子生徒は、轟が歩み寄る姿を見て小さく黄色い声を上げた。
現在彼は、他のメイド同様の服を身に纏っているが、どこからか買って来た模様の赤と白のウィッグを付け、それをツインテールに結んでいたのである。
元の顔が整っていることもあり、メイド服から覗く鍛え上げられた肢体を除けば、美人そのものだ。
そんな訳で、中々人気の出ている轟ちゃん。
不愛想な雰囲気は否めないが、逆にクール系メイドということでウけ、女子からの指名が多くなっていた。
「彼、人気みたいだね!」
「みたいですね……轟くん。本人がそんなに乗り気じゃなかったんで、ちょっとだけ出る予定だったんですけど、予想以上に人気が出て、女子のみんなが後押しする感じで……」
『エンデヴァーが見たらどんな反応するんだろう?』と頬を掻く緑谷は、応対に追われている轟に同情の視線を送る。
そんな轟は現在、指名してくれた女子生徒とジャンケンしていた。
因みに、A組のメイド喫茶では緑茶、紅茶、コーヒーなどの飲み物が出る他、ジャンケンをして勝てば砂藤シェフ特製のクッキーが配られる。これも中々好評のようであり、食べてくれた生徒が他の者に広めてくれ、また別の生徒が来てくれるという流れを得る結果になっていた。
しかし、盛況などはどうでもいい。
「ねえねえ、熾念くんどこ!?」
「波動くんですか?」
ねじれは、『もしや』との期待を胸に抱き、緑谷に義弟の居所を尋ねる。
熾念への同情で苦笑を浮かべる緑谷は、ねえねえと顔を近づけてくるねじれに押し切られ、彼を呼ぶ。
「は、波動く~ん! し、指名入ったよ~!」
「
凡そ、ねじれが日常生活では聞いたことがなかった裏声。
こちらに向かってくるメイドの姿に、誰もがこのような感想を覚える姿だった。
―――気合いの入りようが違う、と。
轟同様に身につけているウィッグはかなりの長さ。それだけならばまだ分かる。問題なのは、顔と姿勢だ。
ほんのりとファンデーションを塗った上で、淡い赤色のチークを頬に塗っている。男でも化粧をすれば化けるものだ。濃すぎない自然なメイク(ミッドナイト監修)を施した熾念の顔は、元の顔の彫りが深くないのもあって、端正なものに仕上がっていた。
さらに注目すべきなのは、彼の足だ。男性と女性では、どうにも骨格に差が出てしまう。しかし彼は、メイドを演じる上でしっかりと内股を維持しているではないか。そこがまた憎らしい。
乗り気ではない者とは一線を隔す気の入りように、ビッグ3の誰もが息を飲んだ。
「出久ちゃん! こちらのご主人様、三名のご案内でしょうか?」
「え、あ、うん。通形先輩たちが―――」
「はいはいはい! ねえねえ! 私、熾念くんとワンマンでお相手したいな~! ね、いいでしょ? ねえ!?」
裏声のままビッグ3を案内しようとする熾念であったが、緑谷を遮ってワンマンを申し込んでくるねじれに、一瞬彼の百点満点の笑みが引きつった。
身内だ。
義姉だ。
やりにくいことこの上ないハズだ。
しかし、プロのメイドたる熾念ちゃんは違った。
「Hi! お嬢様、おひとりのご案内で~す」
「ねえ、熾念くん! 私、『お姉さま』って呼ばれたいな~! ねえ、いいでしょ?」
「―――っ。かしこまりました~♪ お姉さまのご案内で~す♡」
そのまま、ウキウキを隠せぬねじれと共に、机と椅子のあるスペースを歩んでいく熾念。
同じ部屋に居たクラスメートたちは、一部凄まじい同情の視線を送り、一部の女子は込み上がってくる笑いを抑え、ひぃひぃ悲鳴を上げていた。
気分としては、バイトなどで勤めた飲食店に、揶揄い目的で家族が来た時のような気分なのだろう。だが、男がメイドの恰好をするという特異な状況の中では、今言った例など比にはならない。
哀れ、熾念。恥と思い出は表裏一体だ。これもまた一つの思い出なのかもしれない。
「……まあ、波動さんは彼に任せて、俺たちもメイドさんたちやらにおもてなししてもらおうかなっ!?」
「あ、はい。わかりました。でも僕、呼び込み担当なんで……」
「え、そうなのかい?」
「はい、ですので……切島く~ん!」
「うぉぉおっす!!!」
緑谷の呼び掛けに、駆け寄る逆立つ赤髪。
そう、我らが烈怒頼雄斗こと切島鋭児郎だ。男気溢れる彼が着るメイド服は、心なしか硬さを感じる。
「先輩! インターンぶりっスね!! 俺が真心こめておもてなしするんで、どうぞっス!!」
「お、元気がいいね!!」
「……メイドらしからぬ暑苦しさ……それ以前に、そもそもメイド喫茶っていう空気に耐えられない……ッ!」
どこぞの舎弟かとツッコみたくなる口調で、通形たちを案内する切島。
最早、凡そ一般人のイメージのメイドを演じるつもりが一切ないように感じられる。
そんな熱血メイドが席に着くや否や、腰に収めていたメニューを、切島が差し出してきた。
「「ん?」」
内容に、思わず首を傾げる二人。
その理由は、メニューに並んでいる品名の不明確さだ。
幾つか例を挙げよう。
・漢の湧き踊る紅き血潮
・焦がれ故の苦汁~そして高みへ~
―――さっぱりだ。
ここまで訳の分からないメニューがあるだろうか。いや、ない。
頼むにしても、これでは埒が明かないと考える通形は、今や今やと待ちかねている切島に面と向かい、『漢の湧き踊る紅き血潮』を指さす。
「これってどういう感じの内容かな!?」
「それっスね! 紅茶っス!」
どうしてこうなった。
咄嗟に通形と天喰は見つめ合う。
「因みに、オレとの腕相撲対決付きっスから、頼むって言うんなら、先輩の胸借ります!!」
何故、腕相撲なのだ。
理解が追い付かない二人はもう一度見つめ合った。
そして結論が出る。
―――深く考えても仕方ないか。
「ようし、切島くん! じゃあ、オレと熱い腕相撲をしようじゃないか!」
「そうっスね! おなしゃーっス!!」
……因みにこの後、通形と切島の腕相撲対決は、数多くのギャラリーの観戦もあって大いに盛り上がり、後に男子生徒の客が切島との対戦を求めてA組に集うのだった。
「ねえねえ! メイド喫茶って言ったらアレないの、ね!? オムライスにケチャップで描いて、『萌え萌えキュン♡』みたいな魔法の言葉掛けるの!」
「申し訳ございません、お姉さま。ウチ、そういうのやってないんですゥ~!」
「え~。じゃ、ねえ! 今度熾念くんの寮行って直接やってもらおうかな。ね!」
「お姉さま、それはちょっと」
「ね」
「お姉さま」
「ねえ!」
「お姉さま!」
「ねえねえ!」
「お姉さまぁー!!」
「ねぇー!!」
(……波動くんも大変だなぁ)
一方で、義姉弟のやり取りも中々終わらなかったという(緑谷談)。
☮
一方その頃、爆豪(+他数名)はと言うと……。
「んで俺が、こんなプラカード首にぶら下げて校舎練り歩かなきゃなんねえんだ……!」
「仕方ねえじゃんよ。爆豪がメイドやりたくねえって駄々捏ねっから……」
「だァれが駄々こねてるだ!」
「他でもない、爆豪ちゃんよ」
「あ゛ぁ!?」
メイド服の上鳴と、燕尾服の蛙吹を連れて、出店の宣伝のために校舎を練り歩いている爆豪。最後の最後までメイド服は着ないと抵抗していたため、A組が用意した彼の役目が、この宣伝のための闊歩だった。もし、無理にでも着せようとしたならば、爆豪に危うく冥途送りにされるところだっただろう。
いい意味でも悪い意味でも目立つ爆豪のことだ。
純粋な好奇心と、恐いもの見たさに訪れようとする層を取り込めるのではないかと、この案を考えた芦戸は画策したのである。
現に、今この口論で廊下を往来する生徒たちの注目を集めていた。
その中には、A組を目の仇とするあの最終兵器の姿も。
「あれれー!? 誰かと思えばA組の爆豪くんじゃあないかぁ!」
「あ゛? 誰だ、この金髪」
「っ……物間だ。君の頭は鳥頭なのかい?」
「悪ィな。雑魚は眼中に入らない性質なんでな!」
「うぐッ、言ってくれるじゃないか……!」
B組の物間が、これまた宣伝用の看板を掲げて廊下を闊歩していたのだ。
色々な意味で面倒な相手に会ってしまったと見つめ合う上鳴と蛙吹の前で、爆豪と物間は火花を散らして言葉を交わす。
「ふ、ふんっ! A組はメイド喫茶なんてものをやっているのかい。しかも、そこの彼を見る限り、男がメイド服を着るなんてどの層に需要があるんだ? 仮にもヒーロー科なら、もっと万人が楽しめるようなエンターテインメント性に富んだ出店を出さないとねェ!?」
「そういうテメェらはなんだ? お化け屋敷だァ!? どうせ、チマチマ作った怖くもなんともねえ作りモンで脅かそうって魂胆なんだろ。しょっぺえ陳腐なB組の考えそうな出店だな」
「言ってくれたねェ……そこまで言うなら、自分たちの出店の方が素晴らしいっていう自負があるんだねぇ!?」
「あ? 知るか」
「いいや、あると見た。なら、競おうじゃないか! 今回の出店は学年ごとに投票で満足度一位が決められる! だったら、B組とA組のどっちの出店が素晴らしいか、勝負しようじゃあないか!」
何やら勝手に話が進んでいる。
だが、口論しているのはただの宣伝役同士。競うのであれば、委員長辺りに一旦話を通さねば……と考える上鳴と蛙吹であったが、最早競争は止められそうにない。
「はん! だったら今すぐにてめェらのお化け屋敷とやらに行って、仕掛け全部鼻で笑ってやんよ!」
「じゃあ僕は、君たちの喫茶店がどの程度か、お手並み拝見させてもうとしようじゃないか! ハハハハハッ!! 文化祭が終わった後、勝負に負けて悔しがる君たちの姿が目に浮かぶようだよ!!」
メンチを切っていた二人は、共に相手の出店の具合を確かめるべく、各々の教室へ足早に向かっていった。
その後、A組のメイド喫茶に顔を出しまくり続けた物間が、救助要請を受けた拳藤に手刀を喰らい気絶して連行されていったのは、言うまでもないだろう。