Peace Maker   作:柴猫侍

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№72 プロジェクトY~雄英生たち~

 まだまだ夜も始まったばかりの時間帯、クラスメイトが集う中で、委員長の飯田は高らかに声を上げた。

 

「出店はメイド喫茶と決まった! それでは皆! 次はA組が発表で何を行うのかを決めようかと思う! 何か提案はあるかい?」

 

 クラスの出し物は、メイド喫茶と決まった。

 提案自体は峰田と上鳴が主導となって挙げたものだ。普段なら、女子に突っぱねられて見向きもされないであろう案だが、意外と芦戸や葉隠がこれに賛同し、今に至る。

 

 詳細な内容は兎も角として、次に決めるべきは発表についてだ。

 20分という持ち時間が割り当てられている以上、適当な発表などしてみれば後々恥をかくのは想像に難くない。

 特に、B組のとある生徒がいいネタだと思って、合同授業を始めとした顔が合う機会に揶揄われることになるだろう。それも中々癪に障る。

 

―――ならば、学校中から拍手を贈られるような素晴らしい発表をしてやろうではないか。

 

 各々の熱意に差異はあれど、A組の皆にはやる気が滾っている……爆豪を除いて。

 

「けっ、下らねェ」

「バクゴー、仮免講習大変なの分かるけどさ、メイド喫茶の方やらないなら発表の方に回ってもらうしかないよ?」

「そりゃあ発表の内容次第だろうが」

 

 ドスの利いた声で、芦戸に応える爆豪。

 元々協調性に長けているとは言い難い性格の彼だ。『クラス一丸となって!』などの類のイベントは苦手なのだろう。

 しかし、折角の学園祭。楽しみたいと思う者は多く居る。彼だけが除け者になってしまうような案では、真に文化祭を一緒に楽しむことはできないだろう。

 

「Hey, Everyone! じゃあ、じゃんじゃん発表の案出してこうぜっ!」

 

 そこで、文化祭に当たって最も張り切っていると言っても過言ではない熾念が音頭を取る。

 

「じゃあ一回もう言ったけど、皆でダンス~!」

「合唱とかはどうかしら?」

 

 いち早く反応したのは芦戸。次に案を出したのは蛙吹だ。

 芦戸の案は既に教室でも出ていた為、予想はついていたが、合唱という案を耳にした熾念は『I see』と頷き、爆豪の顔を見遣る。

 

「勝己。今のはどう?」

「なんで俺に聞くんだ、似非バイリンガル……! 俺ァ踊る気も歌う気もねえぞ!」

「ほ~ら~、ま~た我儘言ぅ~」

「そのクソうぜえ喋り方止めろ!」

「じゃあ勝己は何やりたいんだ?」

 

 爆豪の扱い方にも慣れてきた熾念は、『そう言うのであれば』と言わんばかりに、まずは彼に案を出してもらうことにした。ほかならぬ彼に案を出してもらえば、他の者の同意を得られた場合、穏便に事が進むハズだろう。

 

「あ? 俺が主役のなんかだよ」

「出たよ、爆豪節」

「なんか言ったか、耳女っ!」

 

 爆豪の傍若無人且つアバウトな案に、呆れた様子で耳郎が反応した。

 クラスの発表だというのに、特定の一人が主役の発表など中々に難しい話だ。しかし、ないこともない。

 

「あ、じゃあ劇とかどうかな?」

「劇かぁ……」

 

 演劇を提案する麗日に、緑谷を始めとした面々は思案を巡らせる。

 

「おぉ、いいんじゃね!? ヒーロー科っぽく、勧善懲悪なテイストでさ! 主人公のヒーローが、悪役をガツーンと倒す! みたいな」

「もし爆豪を主軸に添えるとなると、勧善懲悪じゃなくて完全超悪になるけどな」

「おい、アホ面。よっぽど爆破されてェみてえだな」

 

 演劇に対して切島は、賛同する様子を見せる。

 一方で、上鳴が青筋立てた爆豪にからまれているが、他の者達は救けを呼ぶ声を華麗にスルーし、話を進めていく。

 

「まぁ、爆豪が主役かどうかは兎も角として、演劇でいいんじゃね?」

「だとすると、問題はなんの演目をやるかだな。既存のモノを流用するか、はたまた俺らでオリジナルの脚本を書くかだが……」

 

 耳郎の言葉にウンウン頷く面々であったが、続いて障子が口にした内容に、またもや首をひねり始める。

 

 無難なのは、既存の脚本や漫画、ドラマ、映画などを20分に収まるよう手直する方法だ。

 だが、一方では自分達オリジナルの脚本を書き、それでいてクオリティの高い演劇を披露し、皆から楽しんでもらえるように頑張りたいというトコロもある。

 

 将来ヒーローになれば、多かれ少なかれ人前に出て、ヒーローとしてのエンターテインメント力を試される時が来るだろう。

 エンデヴァーは缶コーヒーのCMを、ウワバミはヘアスプレーのCMを、あのギャングオルカも水族館からショーのオファーが絶えないというではないか。

 

 勿論、実際に市民を救けてヒーローとしての姿を見せるのが一番なのだろうが、時代の流れと共にヒーローの需要も変わってきた。子供に夢を与える為には、テレビや雑誌、ショーなどのオファーに対し、オールラウンドに対応できるエンターテインメント力が必要なのではなかろうか。

 そういった事情も鑑みると、今回の文化祭の発表も“経験を積める”といった点で合理的なのかもしれない。

 

 閑話休題。

 

 問題になってきたのは、演目の題材だ。

 オリジナルの脚本を書くにしても、誰が書くかが問題である。

 

「う~ん……いざ何の演劇やるかってなると、悩む所だなぁ」

「それでしたならば、私にお任せを!」

「どうしたの、ヤオモモ!? そんな奮い立っちゃって」

 

 砂藤が手作りクッキーを配りながら悩んでいれば、瞳を輝かせる八百万が突然立ち上がった。あまりの勢いに、隣に座っていた芦戸が危機を察知し、触覚をビクンと揺らす程だ。

 それほどまでの気迫を発して奮い立つ八百万は、何か考えがあるらしい。

 一斉に皆の視線が自分に集まったのを確認し、一呼吸置いて彼女は言葉を紡ぐ。

 

「……私の父の知り合いに脚本家がいらっしゃいますので、その方に頼み込んで何とかしてもらいましょう!」

 

(((((出た! お嬢様発言!!)))))

 

「百ちゃん。そのお気持ちは嬉しいけれども、外部の人に頼るのはよくないと思うの」

「そうでしょうか? いや……それもそうですわね。あぁ、副委員長ともあろう者が浅はかな発言を……」

 

 皆が八百万の天然且つセレブな身分であることを知らしめる一言に戦慄する。

 そう、彼女は“超”が付くほどのセレブだ。家には執事が居り、A組が考えているメイド喫茶に居るような人ではない本物のメイドも働いている。

 そんな彼女の家の大黒柱である父ならば、広い人脈に脚本家が居てもおかしくはない。

 

 だが、いくらなんでも外部の人間に頼るのはお門違いというもの。

 こればかりは、A組の為を想ってくれている八百万には悪いが、認めがたい案だった。

 

 蛙吹にやんわりと窘められ、少しばかり落ち込んでしまう八百万。しかし、次の瞬間は既に凛とした顔立ちとなり、再び奮い立った様子で拳を握った。

 

「ならば……私が書きます! 脚本を!」

「八百万くんがかい?」

「ええ。ですが、私は本の知識はあれど、万人に楽しんで頂けるような物語を書くには力不足だと理解しています。ですから、是非ご助力をお願いしたいのですが……」

 

 ここで八百万は皆を一瞥する。

 幾ら博識だからと、脚本を書けるとは言えない。今まで真面目に暮らし、尚且つ勉学に励んできたセレブな彼女のことだ。日曜日の朝に放送されているような子供向けアニメは、それほど嗜んでいないイメージがある。事実、彼女は余り観なかった。

 

 故に、自分より大衆向け作品を知っているであろうクラスの面々に助力を求めたのだ。

 ここでいち早く反応したのは、文化祭へ向けてのモチベーションが最も高い熾念だった。

 

「Hey、百ちゃん! 俺で良かったら手伝うぜ!」

「ならば俺も手伝おう、八百万」

「うーん、男子ばっか手伝っちゃアレだし、ウチも混ぜてよ」

「私も私もー!」

 

 熾念に続き、常闇、耳郎、葉隠が八百万に手を貸そうと名乗り出る。

 その光景に両手で口を押える動作を見せる八百万は、感動するかのようにやや震え、頬を上気させた。

 

 以前に学んだ“友を頼ることの重要さ”。いざ友人を頼ってみれば、皆がこうも身を乗り出す勢いで手を貸してくれるという事実に、彼女は感動したのだ。

 だが、それに伴い一層八百万は自らに圧し掛かる責任を自覚し、気合いを入れ直すかの如く頬を叩いた。乾いた音がリビングに響きわたり、八百万以外の者達も『おぉ』と驚いた様子を見せる。

 

 一瞬静寂に支配される空間。

 少しの衣擦れの音でさえハッキリ聞こえてしまいそうな場で、八百万は高らかに宣言する。

 

「皆さん……ありがとうございます。このご期待に沿えるよう、私は皆さんが主役で在れるような脚本を書いてみせますわ!」

 

―――この言葉を狼煙に、八百万たちの戦いは始まるのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 同日、深夜。

 一つだけ点いた電灯の下では、神妙な面持ちで脚本作製班がテーブルを囲んでいた。

 

「―――とは言ったものの、全員が主役で在れるような脚本なんて書けるのか? 八百万」

 

 暗闇が似合う常闇が言い放つ。あれだけ堂々と言った手前、次の日に『やっぱりダメでした』とは中々言いにくい。言ったところでクラスメイトは責めるような言動はとらないだろうが、それでも落胆する様は目に見えている。

 

「大丈夫ですわ。なにも無策であのような発言をした訳ではありません」

「じゃあ一体どんな案が……?」

 

 されど、ドンとした面構えで応える八百万。

彼女に、期待と困惑に満ちた声色で耳郎が問いかける。

 

「……皆が主役というのは、何も全員が物語の主人公であるという訳ではありません。全員に、その方にしかできないような見せ場を作る。個人の味を出す……いわば各々の“個性”を魅せる事に重点を置いた演出を見せたいのです」

「成程! さすが副委員長!」

 

 八百万が考えていた事―――それは“個性”を魅せる演劇だ。

 最近のテレビ然り映画然り、演じている俳優らが“個性”を使用することは決して珍しくない。文字通り“個性”の出る演技が出来るとあってか、映像に関連する業界では、重宝しているとかしていないとか。

 

 それは兎も角として、ここは雄英高校。そして発表にて演劇を披露するのはヒーロー科。“個性”を用いないのは余りにももったいない。宝の持ち腐れだ。

 だからこそ彼女は“個性”に目を付けたのだった。

 これならば、20分という限られた時間の中でも、それぞれのキャラクターの特徴を観客(生徒と先生しか居ないが)の記憶に焼き付けられることだろう。

 

 感心したように声を上げる葉隠は、鼻息を荒くしながら拍手を送る。

 ある意味存在感のない彼女にとっては、自分をアピールできるいい機会だと思っているのだろう。

 

「相澤先生曰く、発表はしっかり録画して親御さんたちに配るみたいだし、皆アピールできる場があるのは良いなっ!」

「来年はクラス分けがあるかもしれない。1年A組としての学園祭が一生に一度。自らを主張し、尚且つ皆が一緒に楽しむことのできる演劇は俺も賛成だ」

 

 賛同を示す熾念と常闇。前者の言う通り、今回の発表は録画され、DVDなどに焼くなどの加工をした後に各々の家庭に配布される予定である。

 折角の学園祭発表で『ウチの子が活躍していない!?』という反応が出てきてしまっては、些か忍びない。

 

 だからこそ、皆が主役足り得る脚本が必要なのだ。

 

 その後の会議は熾烈を極めた。

 

 どのような世界観にするのか?

 話の大筋は?

 “個性”をどのように魅せるのか?

 

 しかし、各々が様々な案を出し合うことにより、次第に物語の大筋は決まっていく。

 数多く出した案―――“点”と“点”が繋がり、漸く“線”となった辺りで、時計の短針針は“12”を過ぎる。

 日を跨ぎ、慣れてもないコーヒーをがぶ飲みして何とか会議に参加していた熾念も限界に差し掛かった所で、第一回の会議は終了することになった。

 

 彼らが監修した脚本。その内容とは―――

 

 

 

 ☮

 

 

 

 次の日の朝、教室にて。

 

『魔王を倒すファンタジーもの?』

「ええ、そうですわ!」

 

 皆が、八百万の口から発せられた脚本の内容に、不思議がった声を上げる。

 

「王道と言やあ王道だけど……」

「八百万さんの口から言われると、ちょっと意外な感じもするよね」

 

 戸惑いが半分、興奮も半分といった様子の瀬呂に続き、緑谷も苦笑を浮かべて彼の意見に同意する旨を口に出す。

 “魔王を倒す”。それは今までのフィクション作品の歴史上、どれだけ使いまわされた設定なのだろうか。ゲーム然り、漫画然り……若干言い回しが変わっても、強大なラスボスを倒す作品は、それこそ星の数ほど存在する。

 

 無難と言えば無難の設定だ。

 少なくとも、男受けは良いだろう。ここに恋愛テイストを加えることにより、女子生徒も楽しめる演劇になるという案が葉隠から提案されたが、それはまた後々審議される予定である。

 

 しかし、ここで一つ皆が気になる点が浮上してきた。

 

「じゃあよ、勇者は誰やるんだ!?」

「魔王を倒す役は勿論必要だもんな!」

 

 高揚した様子で、“勇者”のキャスティングを尋ねる上鳴と峰田。

 そう、魔王を倒す作品に付属しがちな設定は、強大な悪に対抗し得る“勇者”の存在だ。“救世主”や“英雄”、他にも色々と名称が変わる場合はあるものの、ファンタジーものは大体“勇者”と呼ばれることが多い。

 今回八百万が提案するのがファンタジーものであるならば、“勇者”―――つまり、主人公の存在が不可欠だ。

 

 昨日は声を大にして『皆を主役にする』と謳っていたものの、流石に主人公を決めねば脚本も書き辛いだろうと、予め全員心の中で了承していた部分でもある。

 しかし、尚も八百万は凛然とした面持ちのまま、質問してきた二人に応えた。

 

「いいえ、勇者は必要ありませんわ! 寧ろ、存在して頂かない方がよろしいのです!」

「どうしたのヤオモモ!? そんな中盤になって闇堕ちして、敵に寝返った味方みたいな台詞!」

「言い得て妙な例えだな」

 

 『勇者はいらない』―――そう豪語する副委員長に、芦戸は戸惑い、また彼女の例えに障子が冷静なツッコミを入れた。そういった味方は、大抵序盤の内に闇堕ちの片鱗を見せていたり、敵の親玉の力などに見入っている場面が挟まれるのが常。

 そして結果的に、寝返って敵になった元味方のような言葉を吐いた八百万の狙いとは、

 

「……私、今回の劇にメッセージを込めようと思いまして」

『メッセージ?』

「ええ」

 

 メッセージを込めたいと謳う八百万に、皆が声を揃え、彼女の真意を知る為に次の言葉を待つ。

 

「オールマイトは……“平和の象徴”は、私たちが知り得なかった強大な悪と相対し、見事勝利し、そのヒーロー活動に幕を下ろしました。ですが今も、世間の彼に比肩するヒーローが国内に居ないだろうという不安がなくなった訳ではありませんわ」

 

 唐突に始まったオールマイトの話に、耳を傾けていた者達の顔に影が差す。特に緑谷はそれが顕著だ。

 

 オールマイト引退騒動から一か月経ち、徐々に世間は落ち着いてきている。されど、不安が無くなった訳ではない。敵連合は依然として健在。引退を受けての、敵の動きの活発化。どれも一般市民の不安を煽るには充分過ぎる種である。

 

 無論、不安であるのは一般市民だけではない。

 この世に生を授かってから、ずっとオールマイトが№1であった世代にとって、神格化していたと言っても過言ではない彼の引退は、得も言えぬ喪失感を今も覚えさせる程だ。

 

 しかし、問題はそこではない。

 

「そして、絶対的な正義が存在しない時代に、再び神野の悪夢を引き起こした敵と同等の“悪”が誕生したとしたら……私たちは只指を咥えて勇敢な英雄―――“勇者”の誕生を待つのでしょうか?」

『っ!』

「いいえ! 勇者が居ないのであれば! 絶対的な“一人”が居ないのであれば、“皆”が力を合わせて強大な悪に立ち向かえばいい! 今回の劇に勇者は居ません……要りません! ですが、皆の力を合わせれば強大な敵にも立ち向かえる! それこそが、今回の脚本に込めようと思っているメッセージなのですわッ!!」

『ヤオモモ先生ェッ!!!』

 

 白熱する八百万につられ、耳を傾けていた者達も異様な、ハイテンションで沸き立つ。

 心なしか、熱弁していた八百万の頬から流れる汗が、美しく煌いたような気がする。彼女も大分、A組の空気に毒されてきたようだ。

 一方で、こういった空気に慣れていない面々は、茫然と沸き立つ彼らを眺めるだけである。

 

 ちょうどそんな時だった。

 熱気に満ち始めていた教室に、廊下からやや冷えた空気が流れ込んだ。

 

「予鈴が鳴ったら席に着け」

『おはようございます!』

 

 近年まれに見る八百万に華が咲いた瞬間であったが、担任の鶴の一声によって、花びらは悉く散りいくのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 それからというもの、八百万を筆頭とする脚本作製班は、クラスメイトの意見も逐一取り入れながら僅か三日でプロトタイプの脚本を作り上げた。

 

 友と共に作り上げた血と汗と涙の結晶は、八百万曰く『百点満点のテストより輝いて見えますわ!!』との事。若干天然が入っていて、普通科目不振組の心に突き刺さる台詞だったが、誰も子供のように完成を喜ぶ彼女を咎める者は居なかったと言う。

 

 それからは、約二週間後の学園祭に向けて、放課後に旧校舎を借りて劇の特訓を始めることとなった。

 

「ぼ、ぼぼぼっ、僕と……」

「HAHA! 出久、緊張し過ぎ! 告白じゃないだからさっ!」

 

 飛び交うは、互いを高め合う為の愛の叱責。

 

「キミガウワサノマホウツカイナノカー!!」

「飯田ちゃん。棒読み過ぎてロボットみたいだわ」

 

 一人一人が主役と謳うだけあって、誰一人として手を抜いていい役柄は割り当てられていない。

 

「てめェが魔王って奴かあ゛ァ!! 速攻でぶっ殺してやらぁぁあ゛あ゛あ゛!!!」

「セリフ変えたらアカンよ、爆豪くん!?」

「つーかドス利き過ぎだろ! 完全に味方サイドが発していい声じゃねえ!」

 

 時間を見つけては、八百万とファンタジーに精通している(?)常闇が主導となり、衣装作りに励んだ。

 

「こっち準備オッケーだぜ、耳郎!」

「おしっ……じゃ、いっちょ弾きますか!」

 

 さらには、耳郎が演劇内に用いる曲を作曲・演奏し、それを劇中で流すという気合いの入れようである。

 それだけ、皆が文化祭に込める想いは凄まじいということだ。

 

 文化祭は体育祭とは違い、完全に全員で手を取り合うイベント。

 お互いに救け合い、より良い発表を―――美しい思い出をと、各々の想うベクトルに多少の差異はあれど、一つの目標に向かって奮闘する彼らの流れには、あの爆豪でさえ逆らい難いものがあったようだ。因みに当初は役柄に多少の不満はあったものの、普段自粛している暴言を解禁するという密約の下、彼を納得させるに至ったというのは秘密である。

 

 そして、劇の練習に熱が入れられている一方で、出店の方の準備も淡々となされていた。

 

―――時間が流れるのは早いものだ。

 

 学園祭の準備の傍ら、切島がインターン先で怪我をしてミイラ男になったり、緑谷のインターン先のヒーロー『サー・ナイトアイ』が重傷を負い、尚且つ敵連合と接触したことで、今度こそインターン中止が決定しそうになったり等々……。

 しかし、インターンから帰って来た緑谷が、少しだけ晴れた様子となり、劇の練習に精が出るようになった。

 

 インターン組も、一区切りを迎えたということなのだろう。

 これで一層、文化祭へ向けて全身全霊を込めることができるようになった訳である。

 

 

 

 そして、A組が未だかつてない程に一丸となった頃合いに、その日は来るのであった。

 

 

 

 一生に一度。されど、“一緒”をたくさん詰め込んだ思い出となる日が。

 


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