Peace Maker   作:柴猫侍

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インターンが来た!
№60 このあと滅茶苦茶


「ケンカして」

「謹慎~~~!?」

 

 朝のハイツアライアンスに響きわたる芦戸と葉隠の声。

 困惑と呆れが窺える声が響けば、制服を身に纏った他のクラスメイトたちもまた、同じような感情を抱いて掃除機をかけている緑谷と爆豪を見遣る。

 

 彼らは体の至る所に絆創膏を張り、場所によっては包帯を巻きつけていた。昨日の仮免試験終了直後では、そのような怪我はなかったハズ。勿論、帰って来てからも怪我をするような行動はなかった。

 それなのにも拘わらず、二人が怪我しているのは、皆が就寝直後に敷地内に出回り、それこそ殴り合いの喧嘩になったからなのだと、緑谷は言いづらそうな顔をして説明する。

 彼らの険悪さは既知のA組だが、試験を終えた直後の晩の蛮行に、友人であるからこその遠慮しない『馬鹿じゃん!!』や『ナンセンス!』といった罵声が飛ぶ。

 

「どうした出久? らしくないぜ。仮免とってHighになっちまったっていうのか? 夜中に二人で出歩いた先でHustleなんて、お前らも仲いいんだなっ」

「いや、誤解を生むような言い方はちょっと……」

 

 そんな罵声の中、呆れている熾念の皮肉たっぷりのアメリカンな煽りには、流石に緑谷も堪えたのか、しょんぼりと落ち込む。

 

「えええ、それ仲直りしたの?」

「仲直り……っていうものでも……うーん……言語化が難い」

「よく謹慎で済んだものだ……!! ではこれからの始業式は君ら欠席だな!」

 

 麗日の心配の声に対し、曖昧な返答をする緑谷。

 一方横では、自分の知らぬ場で問題を起こした友人に対し憤慨する飯田が立っている。規律を重んじる彼だからこそ―――神野の一件で、緑谷たちを止めた彼だからこそ、例え喧嘩であったとしても許せる部分があるのだろう。

 相澤のことだ。怪我が酷ければ最悪退学もあり得たことだろう。そう考えれば、謹慎という処分もかなりの酌量あってこそ。

 

 しかし、謹慎という処分上、寮から出歩くことは基本的に許されない。

 今日から始まる始業式には出られないということだ。自ら出鼻を挫いていくスタイルなど、呆れや驚きはしても、感心はしない。

 

 自業自得だと言わんばかりの視線に二人を晒した後、他の18名は一旦教室に向かう。

 入学式の時は体力測定で潰されてしまった為、今回もまた始業式も同じような理由でなくなるかと思いきや、今回に限っては夏の事件もあることから、ヒーロー科だけ始業式を省いての授業をする訳にもいかないらしい。

 

 と言った流れで、出席番号順に並び、廊下を進んでいる時だった。

 

「聞いたよ―――A組ィィ! 一名!! そちら仮免落ちが一名も出たんだってええ!!?」

「B組物間! 相変わらず気が触れてやがる!」

 

 下駄箱に肘をかけていた物間が、A組を見つけるや否や、嬉々としたゲスイ笑顔で駆け寄って来たではないか。

 彼のA組に対する態度は、既に全員慣れっこだ。

 だが、好き勝手煽られるのも面白くない。『もしや』と顎に手を当てる切島が、林間合宿のことを思い出し、彼だけ落ちたのではないかと予想を口にすれば……

 

「ハッハッハッハッハ」

「いや、どっちだよ」

「こちとら全員合格。水があいたね、A組」

「当人居ない時に言われてもなっ」

 

 どうやら、B組は全員仮免に受かった模様。しかし、当の落ちた本人が居ない場で水をあかされたことを伝えられても、何とも反応しづらい。

 A組の総意を代弁する熾念に、切島や上鳴も腕を組んでウンウンと頷く。

 

 だが、一方的に競っている者は物間のみ。他の者達は林間合宿での経験を経て、夏休みが始まる前よりはA組との接し方も友好的になってきている。

 それを表すかのように、微妙な顔を浮かべて物間を見遣るA組の下へ、立派な二本角を生やす、お目目くりくりの可愛らしい女子が歩み寄って来た。

 

「ブラドティーチャーによるゥと、後期ィはクラストゥゲザージュギョーあるデスミタイ」

「Wow, really? I can’t wait!」

「Yeah! Me too!」

 

 アメリカからやって来た生徒『角取ポニー』が口にしたのは、後期カリキュラムに含まれるクラス合同授業だ。

 前期にはなかった毛色の授業に興味津々な熾念が、普段通り英語を用い、楽しみにしている旨を伝えれば、これまたキレのいい英語で角取が反応してくれる。

 

「うん、メッチャ様になる」

「雰囲気的に、あのままハグしてもイケそうだよな」

「お前らは波動をなんだと思ってんだ?」

 

 陽気な雰囲気を漂わす似非アメリカンと真正アメリカンの談笑に、なんとなしに呟く麗日と峰田であったが、即座に轟のツッコミを受けてしまった。

 

「オーイ、後ろ詰まってんだけど」

 

 だが、廊下でのヒーロー科による戯れも、後に続いてきた普通科―――心操の窘める言葉に伴い、半強制的に終了することになった。

 

「すみません!! さァさァ皆、私語は慎むんだ! 迷惑がかかっているぞ!」

「かっこ悪ィとこ見せてくれるなよ」

 

 幻滅させないでくれ。そう言わんばかりにヒーロー科を見遣る心操の言葉に、ふざけていた者達もすぐさま列に戻り、校庭へ向けて歩き始める。

 それから飯田の先導により、全校生が集まる校庭にたどり着く。

 全校生は660名。それだけの前途ある若者たちが一堂に会する光景は、まさに圧巻と言えよう。

 

「嗚呼、この前後の空虚感」

「波動くんの出席番号、ちょうど喧嘩した二人に挟まれてたもんね」

 

 普段なら前後に居る問題児が居ないことをぼやく熾念に、葉隠が『あー』と納得するような声を上げて応えてくれる。

 この只ならぬ空虚感が、前に居る人物が透明人間であることも理由の一つだが、敢て熾念は口にせず、更に前に佇む常闇の頭部と葉隠の制服の位置を合わせるという下らない遊びを発見し、始業式が始まるまで時間を潰す。

 

 そして漸く始まる始業式。

 天気に恵まれた今日、一番初めに話を始めたのは他でもない。二足歩行のネズミこと、校長の根津だ。

 

「やあ! 皆大好き小型ほ乳類の校長さ!」

 

 冗談なのかそうでないのかは兎も角、フレンドリーな口調での言葉で口火を切り、ペラペラと何故か毛並みについての話をし始める根津。

 長くてどうでもいい話ほど、人のやる気を削ぐものはない。

 だが、今回に限っては生徒が辟易する一歩手前で、真面目な方向へ話の路線を変更する。

 

「生活習慣が乱れたのは皆もご存知の通り、この夏休みに起きた“事件”に起因しているのさ」

 

 思い返せば、USJ襲撃より始まった敵連合との因縁。

 彼らとの接触は、それから職場体験、ショッピングモールに続き、果てには多数の負傷者を出した林間合宿。そして一番新しいのが、『神野の悪夢』だ。

 柱が喪失したことによる影響は、これからを生きる若者にとって大きな影響を与え、時には困難を与えることとなる。

 

「特にヒーロー科の諸君にとっては顕著に現れる。2・3年生の多くが取り組んでいる“校外活動(ヒーローインターン)”も、これまで以上に危機意識を持って考える必要がある」

 

 “校外活動”。聞き慣れぬ単語に、ヒーロー科1年生の間にどよめきが奔る。

 

「ヒーローインターンってなんだろ……?」

「Well……確か、職場体験の本格版みたいな感じだったような」

 

 ヒソヒソと後ろを向いて訊いてくる葉隠に、義姉のねじれも行っている校外活動について、簡潔に説明してみる熾念。

 詳細に話せば、職場体験との違いが明確になるのだが、如何せん曖昧にしか覚えていない熾念では、今口にしたような説明が限界だった。

 

 そんな説明をしている内にも根津の話は最後のまとめに入る。

 

「経営科も普通科もサポート科もヒーロー科も、皆社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ」

 

 『次は君だ』―――ふと、オールマイトの声が聞こえたような気がした熾念は、神妙な面持ちで朝礼台から降りていく根津を見遣った。

 今まで社会を担っていた強大な柱の一つが失われた今、代わりに社会を担っていくのは、次の世代を生きる若者なのだ。

 

 偉大なる英雄の熱に当てられた一人として、この胸の内に宿る火は繋いでいかなければならない。

 

 そう、強く思った瞬間だった。

 

「それでは最後にいくつかの注意事項を―――」

 

 それからは、生活指導担当のハウンドドッグによる注意指導(という名の雄叫び)が続き、大多数が話された内容を理解していないことを鑑みたブラドキングが、彼に代わって端的に注意事項を語った。

 

「Toot。出久と勝己のことだなっ」

「あいつらも有名になったもんだよなぁ」

「悪い意味で、ですわね。はぁ……仮にも体育祭3位同士であるというのに、どうしてこうも……」

 

 熾念、峰田が注意事項の内容が昨晩喧嘩した二人のことを理解した後ろでは、副委員長の八百万が悩まし気な表情でため息を吐いている。

 既にあの二人は、学校公認の問題児。マークされてしまった以上、これからの彼らの行動には細心の注意を払い、凶行を止めていかねばなるまい。

 

 八百万のみならず他のクラスメイトもそう思っている間に始業式は終了し、学生の本分である学業を行うべく、生徒たちは教室へ戻るのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

「じゃあまァ……今日からまた通常通り授業を続けていく。かつてない程色々あったが上手く切り替えて、学生の本分を全うするように。今日は座学のみ。だが後期はより厳しい訓練になっていくからな」

 

 教壇の上で、後期授業について端的に話す相澤。

 前期でもそれなりに厳しかった訓練がさらに厳しいものになると聞き、熾念の後ろに居る峰田は『マジかよ……』と慄く。

 だが、そんな峰田には見向きもせず、聞きたいことがあってウズウズしていた熾念が、相澤の説明が終わるや否や、俊敏な動きで右腕を掲げる。

 

「Yes! Mr.相澤!」

「どうした、波動」

「ヒーローインターンの話はしないんですかっ!?」

「ああ、それについてか。後日やるつもりだったが……そうだな、先に言っておく方が合理的か」

 

 わさわさと髪を掻き毟る相澤。

 

「平たく言うと“校外でのヒーロー活動”。以前行ったプロヒーローの下での職場体験……その本格版だ」

「はあ~、そんな制度あるんか……。……! 体育祭の頑張りはなんだったんですか!!?」

 

 一人ポクポクと頭の中で木魚のリズムに乗っていた麗日は、何かに気が付いたのか、机や椅子の位置がずれる勢いで立ち上がる。

 更には、彼女の質問の意図を汲んだ飯田が、『確かに』と合点がいったように頷く。小さい頃は単純な話でさえ汲めなかった彼であるが、今や高校一年生。成長したのだろう。

 

 それは兎も角、麗らかではない麗日の抗議に対し、表情を変えない相澤が体育祭でのスカウトと、今回の校外活動の関係性について説明を始めた。

 

「校外活動は体育祭で得た指名をコネクションとして使うんだ。これは授業の一環ではなく、生徒の任意で行う活動だ。むしろ体育祭で指名を得て頂けなかった者は、活動自体難しいんだよ」

 

 元々は各事務所が募集する形であったが、雄英生徒―――言わば、ヒーローの金の卵の引き入れの為にいざこざが、過去に多くあったらしい。汚い話、雄英生徒を引き入れたいが為に、生徒を金で誘う……などといった手口もあったりなかったり。

 その為、現在のような形になったとのこと。

 

「仮免を取得したことで、より本格的に・長期的に活動へ加担できる。ただ1年生での仮免取得はあまり例がないこと。敵の活性化も相まって、おまえらの参加は慎重に考えているのが現状だ。まァ、体験談なども含め、後日ちゃんとした説明と今後の方針を話す。こっちも都合があるんでな。じゃ……待たせて悪かった、マイク」

「一限は英語だ―――!!!」

 

 前期の出来事も踏まえ、まだ方針が確定していない以上、無責任に多く語るのは不合理。

 そう言わんばかりに、適度に校外活動について説明し終えた相澤は、廊下で待っていたプレゼント・マイクにA組を任せ、教室を後にする。

 

「久々の登場、俺の檀上。待ったか、ブラ!!! 今日は詰めていくぜ―――!!! アガってけ―――!! イエアア!!」

『はーい』

 

 テンション上げ上げのプレゼント・マイクに対し、生徒は至って冷えた反応だ。

 どこか、夫婦の倦怠期を思わせるような空気。特に、前後の席が空いている熾念は、妙な空虚感を覚え、はっちゃけるプレゼント・マイクをほほえましく見つめるのであった。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 後日、謹慎を終えた緑谷がA組の教室に舞い戻って来た日の朝だ。

 

「じゃ、緑谷も戻ったところで、本格的にインターンの話をしていこう。入っておいで」

「Huh?」

「ん?」

 

 教壇に立つ相澤が廊下へ向けて呼びかければ、スラーっと扉が開き、奥に待機していた三人の生徒が入ってくる。

 数は三人。教室に足を踏み入れる彼らに心当たりがある者も居れば、いない者も勿論居る。熾念はそのうち前者―――バリバリに心当たりがあった。というより、身内だ。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか。直に経験している人間から話してもらう。多忙な中都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名―――ビッグ3の皆だ」

「あ、あの人たちが……って言うか!? あの人、波動くんの……!」

「HAHAHA、身内が来ちゃったなっ。どうしよ」

 

 登場した三人の内、二人に心当たりがある緑谷が、前の席に座る熾念へ声をかける。

 その熾念はというと、目を燦々に輝かせ、じーっと熱い視線を送ってくるねじれから避けるように俯き、机の一点を見つめていた。

 一応笑い声は上げているものの、声は笑っていない。

 気分で言えば、バイトでファミレスのウエイターをしていたら、家族がわざわざ友達を連れてやって来た感じだ。

 

 熾念をそのような気分に追いやる雄英ビッグ3の正体とは、以前熾念と拳藤のデートを尾行したストーカー三人衆のことである。

 

「全裸先輩に、ねえちゃんに、たまちゃん先輩だ!」

「全裸!? たまちゃん!?」

 

 ストーカー三人衆……ではなく、雄英ビッグ3とは、『通形ミリオ』、『波動ねじれ』、『天喰環』の三人を指す呼称だ。

 身内のねじれは兎も角として、男子二人についても熾念は散々聞かされていた過去がある。

 

 “個性”の関係から、ことあるごとに裸になってしまうことが多いらしい通形。

 そして、蚤の心臓と揶揄されるほどに緊張しい男、天喰。

 

 中々“濃い”メンバーが揃う雄英のトップ三人。熾念が慄いている間にも、天喰は『帰りたい……!』と黒板に額を押し付け、ねじれは説明すると思うや否や、気になる格好の生徒の下へ向かっていく始末だ。

 特に、説明を放棄して己の好奇心を満たさんが為に動き回るねじれは、幼稚園児の如し。

 

「弟。取扱説明」

「あったら苦労しないですね、HAHA!」

 

 教師に義姉の取り扱いについて問われるも、長年過ごした経験から、すでに事は不可逆であることを示唆する。その後、お手上げと言わんばかりのポーズをとり、首を横に振った。

 前もって『多忙な中都合を合わせてくれた』と言った手前での惨状に、相澤は噴火寸前である。

 

「合理性に欠くね?」

「イレイザーヘッド、安心してください!! 大トリは俺なんだよね!」

 

 屈強な肉体を持つ、特徴的な瞳の男子生徒・通形。

 彼は威圧感を滲み出す相澤へ向け、自分に任せるよう、仰々しい動きをしながら伝える。

 

 そして、大トリが動いた。

 

「前途―――!!?」

「……マジンガー……?」

「波動くん、ゼットじゃないから。多分違うと思うよ……」

「アニソンの帝……」

「波動くん! 赤いスカーフ靡かせてる方じゃないから……!」

「多難ー! っつってね! よォし、掴みは大失敗だ」

 

 見事に滑った。

 

 芸人の事故現場に居合わせたようないたたまれない空気が、A組の教室に満ちていく。

 ひそひそと近くに居るクラスメイト達からは、『変』や『風格が感じられない』などといった声が聞こえてくる。

 身内を『変』呼ばわりされるのは少し気に障るが、半分納得しまっている自分も居ることが悲しいところだ。

 

 と、熾念が思っている間にも話は、意外な方向へ進んでいく。

 

「君たちまとめて、俺と戦ってみようよ!!」

 

 何故か拳で語り合う嵌めになったようだ。

 

 

 

 ☮

 

 

 

 体操服に着替えて訪れたのは、夏休みに圧縮訓練を行った体育館γだ。

 

「あの……マジすか」

「マジだよね!」

 

 準備運動で体を温めている通形に、不安そうな顔で瀬呂が問いかけた。

 戦うなどという突拍子もない提案は勿論、何より通形の真意が分からない。

 

「果たしてこの戦いに意味はあるのだろうか……」

「ナレーション?」

 

 一人語り口調であった熾念に、これまた緑谷がツッコむ。

 三日間、学校に自分へのツッコミ役が居なかった為、熾念は燥いでいるのだ。ここぞとばかりにツッコミを求め、緑谷がツッコんでくれそうな言葉をチョイスしている。

 そのような熾念の熱い期待に応え、逐一反応してくれる緑谷。

 こいつら、仲良しである。

 

「ミリオ……やめた方がいい。形式的にこういう具合でとても有意義ですと語るだけで十分だ」

「遠」

「皆が皆、上昇志向に満ちている訳じゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

 自らを壁に追いやる、独白のように語る天喰。通形に負け、A組の面々が挫折することを懸念しているようだ。

 

「あ、聞いて。知ってる。昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって、問題起こした子が居たんだよ、知ってた!? 大変だよねぇ、通形。ちゃんと考えないと辛いよ。これは辛いよー」

 

 続けて、芦戸の連動式の角を弄りまわすねじれが言葉を紡ぐ。

 よほど通形の実力を信用している模様。勿論、彼らのことを知らないA組であっても、ビッグ3と謳われるほどの者を軽んじるような脳内構造はしていない。

 だが、幾度となく死線を潜り抜け、不本意ながらも実戦経験も経ている自分たちを軽くみられることには、癪に触ってしまったようだ。

 

「待ってください……我々はハンデありとはいえ、プロとも戦っている。そして敵との戦いも経験しています!」

「そんな心配される程、俺らザコに見えますか……?」

「うん。いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」

 

 常闇と切島の言葉に、あっけらかんとした様子で応える通形は、自分に向かってくる一番槍は誰かと問う。

 

「おれ」

「It’s」

「僕……行きます!」

 

 被せに被せられた。

 切島に被せた熾念であったが、さらに緑谷が被せてきたのだ。三日間の謹慎による遅れを取り戻さんと意気込んでいた緑谷。ここで前に出ていくのも、少しでもクラスの皆とできてしまった差を取り戻さんとする意気故だろう。

 

「問題児!! いいね君。やっぱり元気があるなあ!」

 

 一歩前に出てくる緑谷に、通形は『その意気よし!』と言わんばかりにニコニコと笑顔浮かべている。

 そうしている間にも、A組の面々は臨戦態勢に入っていく。

 

「近接隊は一斉に囲んだろぜ!! よっしゃ先輩、そいじゃあご指導ぉー、よろしくお願いしまーっす!!」

 

 駆ける緑谷。

 続いて、宙を奔る“個性”による遠距離攻撃の数々。熾念の『念動力』もまた、構も盗らずに棒立ちしている通形を拘束せんと、念動波を走らせる。

 1年生の攻撃であっても、19名が一斉に攻める光景は圧巻の一言だ。

 先輩後輩などという上下関係を捨て置いた遠慮なしの攻撃が、通形へ向かう。

 

 

 

 

 

 そして熾念の念動力が捕らえたのは―――体操服だけ。

 

 

 

 

 

「Huh?」

「あ」

『あ』

 

 目をぱちくりとする熾念が目にしたのは、違うことなきマッスル。

 鍛え上げられた筋肉は、程よい火照りを持っているのか、汗でいい具合に照らされてテカっている。

 

 いや、問題はそこではない。

 熾念は、余裕綽々の通形を完全に拘束するために、物理攻撃を主体にする“個性”の者であれば絶大な効果を発揮する『浮かす』という戦法をとった。

 

 しかし、通形の体は捕らえられない。殺到した攻撃のほとんども、彼の体の後ろへをすり抜けていく。

 一方で、彼が着ていた体操服だけが、殺到した攻撃に晒された後も、ふよふよと宙に漂っていた。

 体操服を奪われる展開には、通形も意外だったらしい。

 露わになる自分の一物を隠すべく、そそくさと股間を手で覆った。

 

「ああ、失礼! ちょっと調整が……というより、完璧に盗られちゃったよね!」

「ああ――――っ!!!」

「変態だ―――っ!!!」

 

 女性の黄色い悲鳴が、体育館中に響きわたった。

 

 通形ミリオ:個性『透過』

 “個性”を発動すると、あらゆる物質が体をすり抜けるようになるぞ!! それは無論、彼が着ている服も例外ではない!! いやーん!

 

 

 

 ☮

 

 

 

 

 

 このあと滅茶苦茶腹パンされた。

 




オマケ(ハイツアライアンスにて)

リビングにて

蛙『あら、皆でゲームやってるのかしら?』
熾『Yeah! 皆でスマブラやってるんだけど、梅雨ちゃんもやる?』
蛙『面白そうね。私、こういうゲームあまりやったことがないのよ』
芦『えー、アタシもやるやるー! 混ぜてー!』
切『お、じゃあみんなでやっか! 俺はファルコンだぜ!』
芦『じゃあアタシカービィ! まん丸ピンク!』
熾『俺は……ソニックさっ!』
切『ルカリオじゃねえのかよ。『はどう』繋がりで』
熾『HAHA、なんかシンパシーがあってな! で、梅雨ちゃんは?』
蛙『私はそうねぇ……この子にしましょ』

<ゲッコウガァ……

熾・切・芦(無難に蛙を選んでいった!!)

~五分後~

切『梅雨ちゃんつえぇ!!』
芦『あ~ん! 梅雨ちゃん絶対既プレイでしょ!? 動きがパナイって!』
熾『ソニックだから、水タイプには勝てなかったよ……』
蛙『ケロケロッ♪』

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